不耕起栽培を始める最初のステップは、土作りです。既存の草を取り除いた後、土の表面に堆肥や腐葉土を厚さ5~10cm程度敷き詰めます。この有機物の層が土壌を覆うバリアとなり、雑草の発生を抑制しながら土中の微生物に栄養を供給します。
培養土を使用する場合は、畝の高さを20~30cmの高畝にすることが推奨されます。通路側の土を畝側に盛り上げながら、腐葉土や牛糞堆肥、もみ殻燻炭などを投入していきます。この一度きりの畝立て作業で、以後は基本的に耕す必要がなくなります。
参考)家庭菜園の不耕起栽培 by太田プレゼン
土壌改良を行う際は、排水性の良い場所を選ぶことが重要です。粘土質土壌や排水性の低い圃場では湿害が発生しやすいため、不耕起栽培に適さない可能性があります。土壌が固くならないよう、定期的に表面を軽くならす程度の管理を行いましょう。
種まきや定植では、土をできるだけかき乱さないことが不耕起栽培の原則です。種まきの場合は表層の草を刈り払うだけにとどめ、定植の場合は苗を埋める穴だけを開けるようにします。
具体的な手順として、まず移植ゴテなどで必要最小限の穴を掘ります。YouTubeの実践例では、掘った土をそのまま埋め戻して植え付けが完了する非常にシンプルな方法が紹介されています。このとき、土中に根っこがたくさん残っていることが確認でき、これが土壌の団粒構造維持に役立ちます。
播種の深度管理も重要です。不耕起乾田直播栽培では、安定した苗立ちを目指して深度2~3cmに播種機を調整することが推奨されています。適切な時期に種蒔きを行うことも成功の要因となるため、計画的な栽培スケジュールを立てましょう。
マルチングは不耕起栽培において最も重要な要素の一つです。畑に生えた雑草を小さなうちに根元から刈り取り、畝の上に厚さ3cm以上重ねて敷きます。これにより地面に日光が当たらなくなり、雑草の発芽が大幅に抑制されます。
わらや草を敷く際は、3段程度重ねることで完全に日光を遮断できます。イネ科の雑草であるススキ、カヤ、ヨシ、イヌムギ、ネズミムギなどがマルチ材として特に適しています。イネ科の緑肥作物を畑の周辺に植え、地上部を繰り返し刈り取って活用する方法もあります。
参考)藁(わら)を畦に移動しました。不耕起栽培における草マルチの考…
ライムギを利用した敷きわらマルチも効果的です。ライムギを11月上旬に播種し、翌年5月頃の乳熟期にトラクタのバケットやローラークリンパーで押し倒すと、厚さ5cm以上のマルチになります。この方法では約2カ月経過後も雑草抑制効果が持続します。木酢液をわらにかけると数日程度酸性になり、菌寄生菌が繁殖して土壌病原菌を抑える効果も期待できます。
参考)万能マルチ!敷きわらの使い方|病原菌を減らす方法・野菜別の利…
雑草マルチの注意点とイネ科雑草の活用方法について詳しく解説しています(カクイチ農業情報サイト)
不耕起栽培の最大のメリットは、労力や人件費、燃料費を大幅に削減できることです。従来の耕作方法では耕起作業に多くの時間と労力が必要でしたが、不耕起栽培では耕す手間が完全に省けます。
70代の農家の実践例では、「古希だから、ラクラク不耕起栽培へ」と移行した結果、畝やアーチパイプをそのまま使える利便性が高く評価されています。通路に有機物を入れていけば、野菜は養分のあるほうに根を自動的に伸ばしてくれます。
参考)【耕さない農業】もう古希だから、ラクラク不耕起栽培へ - 現…
耕起しないため地表の地耐力が高く、降雨による影響を受けにくいという作業性の向上も見逃せません。すばやく播種を実施できるほか、耕起した土地よりも安定性があるため収穫機などの農機具の操作性が向上します。さらに稲や麦が倒れてしまう倒伏が起きにくく、土壌流出も抑制できます。
不耕起栽培における最大の課題は雑草対策です。マルチングや混植である程度は抑えられても、完全にゼロにすることは難しいのが現実です。草マルチをしても土に日が当たらなくなり少しずつ雑草が生えにくくなりますが、それでもある程度は生えてきます。
参考)耕さない農業「不耕起栽培」とは?メリット・デメリットを解説
そのため定期的に畑に行って雑草を刈り、草マルチを増やしていく作業に追われることになります。夏の暑い時期に草刈機を使って草刈りをすると、最低でも1時間程度かかり汗だくになるため、物理的な負担も無視できません。
参考)自然農法による草マルチの作り方とメリット・デメリットとは? …
初期生育の遅れや減収などの短所も指摘されています。排水性の低い圃場では湿害が発生しやすくなり、粘土質土壌では土壌孔隙率が低下して土壌物理性が悪化する可能性があります。不耕起栽培が適している地域や田んぼの条件をしっかり見極めることが、失敗を避けるための重要なポイントです。
参考)不耕起栽培のメリット・デメリット。不耕起栽培を始める前に知っ…
不耕起栽培に適した作物の選定は成功の鍵です。トマトは乾燥に強く肥料が少なくても育つため、不耕起栽培に最適です。特にミニトマトは初心者向けで、収穫期間が長く少しのスペースでも栽培可能です。
参考)自然栽培に適した作物と育て方:初心者におすすめの野菜リスト【…
根菜類やマメ科の植物は比較的少ない栄養でも育つため、初心者向きです。大根は深く根を張るため土壌改良にも役立ち、さつまいも、ジャガイモ、落花生なども推奨されます。秋冬には白菜、ほうれん草、小松菜、ニンジンなどが寒さに強く育てやすい野菜として挙げられます。
年間を通して育てられる野菜も魅力的です。ネギは植えっぱなしで育ち害虫がつきにくく、ニラは多年草なので一度植えれば何年も収穫できます。ショウガは夏場に成長し秋に収穫でき、ジャガイモは比較的どんな土壌でも育ちやすいという特徴があります。不耕起栽培では「コシヒカリ」「ハツシモ」などの倒伏しやすい品種も、耐倒伏性が高まるため導入できるようになります。
自然栽培に適した作物と育て方の詳細リストが掲載されています(三河農場ブログ)
長期的に不耕起栽培を続けると、土壌の排水性が大きく改善されます。長野県松本市の耕起法比較実験では、2004年10月の台風23号による豪雨時に、耕起処理に比べて不耕起処理で排水性が良好で、有機物の集積層では冠水しなかったことが報告されています。
参考)不耕起栽培畑では、集中豪雨時に土壌の排水性を保持|藤田 正雄
この排水性の違いが生まれる理由は複数あります。不耕起栽培では作土層や耕盤層の緊密化が根の伸長を抑制するほど進まず、太い根が下層まで伸長しやすくなります。土壌有機物の増加は土壌団粒構造の改善にも寄与します。
さらに、毎年蓄積されるミミズ類などの土壌動物があけた孔道や根穴由来の孔隙も排水性に関係しています。表層の有機物集積層が土壌動物相を豊かにし団粒構造を保持できること、動植物由来の孔隙を破壊しないことが排水性の改善につながります。緑肥間作の導入によっても土壌の排水性がさらに改善されるため、主作物を優先させながら計画的に取り入れることが推奨されます。
不耕起栽培畑における集中豪雨時の排水性保持に関する研究データが掲載されています(いのち育むnote)
不耕起栽培を始める際、初心者が陥りやすい失敗例を知っておくことが重要です。最も多い失敗は土作りをせずに始めてしまうことです。土壌の準備が不十分なまま栽培を開始すると、作物の生育が著しく悪化します。
参考)自然栽培の失敗例と対策|初心者が陥りがちなミスと解決策 - …
収穫時期や間引きを誤ることも失敗の原因となります。適切な作物を選ばないまま栽培すると、不耕起栽培の環境に適応できず失敗につながります。条件が整っていない田んぼや畑で不耕起栽培を強行すると、期待した結果が得られません。
参考)不耕起栽培について語らせてくれ|Yuki/農ときどき旅
肥料や農薬を完全に避けすぎることも問題です。自然栽培と混同して極端な無施肥にすると、土壌の栄養不足で作物が育たなくなります。畝に生えた雑草は小さなうちに抜いて重ね、晴れの日に薄く重ねて干からびさせ、作物より雑草の丈を低く抑えるという3つのコツを実践することが成功への近道です。日々の観察を怠らない姿勢が求められます。