農地法と宅建の覚え方は?許可制度や3条・4条・5条の違いを解説

宅建試験で頻出の農地法。3条、4条、5条の違いや許可権者が複雑で覚えられないと悩んでいませんか?この記事では、語呂合わせや比較表を使って、効率的に農地法の重要ポイントをマスターするための暗記テクニックを紹介します。合格への近道を歩みませんか?

農地法と宅建の覚え方

農地法攻略の3つのポイント
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3条・4条・5条の区別

権利移動か転用か、その組み合わせかを明確に整理する

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許可権者の暗記

原則は知事、3条は農業委員会という例外をセットで覚える

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例外規定の把握

国や都道府県が関与する場合の特例ルールを押さえる

農地法と宅建の覚え方:3条・4条・5条の違いを比較表で整理

 

宅建試験における農地法の問題は、毎年必ずと言っていいほど出題される重要な得点源です。しかし、多くの受験生が「3条、4条、5条の違いがごちゃ混ぜになる」という悩みを抱えています。これらを丸暗記しようとすると膨大な労力がかかりますが、それぞれの条文が「誰が」「何を」「何のために」行うものなのかを構造的に理解すれば、記憶の定着率は格段に上がります。

 

まず、基本的な定義を明確にしましょう。農地法は、日本の限られた農地を守り、食料自給率を維持するために存在します。そのため、勝手に農地を売ったり、駐車場に変えたりすることを規制しています。

 

  • 3条(権利移動):農地を農地のまま、耕作する人を変更する場合(例:農家Aが農家Bに畑を売る)。
  • 4条(転用):所有者は変わらず、農地を農地以外にする場合(例:農家Aが自分の畑に家を建てる)。
  • 5条(転用目的権利移動):所有者を変えて、かつ農地以外にする場合(例:農家Aが不動産屋Bに畑を売り、Bがそこにマンションを建てる)。

この3つのパターンを頭に入れた上で、以下の比較表を使って整理するのが最も効率的な覚え方です。特に「許可権者」と「対象となる土地」の違いに着目してください。

 

項目 3条(権利移動) 4条(転用) 5条(転用目的権利移動)
目的 耕作者の変更 農地の用途変更 耕作者変更 + 用途変更
対象 農地・採草放牧地 農地のみ 農地・採草放牧地
許可権者 農業委員会 都道府県知事 都道府県知事
市街化区域 特例なし(許可必要) 届出でOK 届出でOK

この表の中で特に間違えやすいのが「採草放牧地」の扱いです。4条(転用)では、採草放牧地を転用しても許可は不要です。これは意外と知られていない盲点ですが、試験では「採草放牧地に家を建てる場合、4条許可が必要か?」というひっかけ問題として頻出します。正解は「不要」です。採草放牧地は農地に比べて規制が緩いというイメージを持つと良いでしょう。

 

また、市街化区域内の特例も重要です。市街化区域は「街を活性化させるエリア」なので、農地を残すよりも宅地化を推奨します。そのため、あらかじめ農業委員会に「届出」をすれば、知事の許可は不要になります。ここで注意すべきは、3条にはこの特例がないことです。市街化区域内であっても、単に耕作者を変える(3条)場合は、農業委員会の許可が必要です。これは、耕作能力のない人が投機目的で農地を取得するのを防ぐためです。

 

さらに深掘りすると、許可後の手続きにも違いがあります。3条許可を受けて農地を取得した場合、その後の登記には許可証の添付が必要です。これは法務局が「本当に農業委員会の許可を得たのか」を確認するためです。

 

農林水産省のWebサイトでは、これらの許可制度の概要や統計データが公開されています。

 

農地法に基づく許可制度について(農林水産省)
これは公的な定義を確認する上で非常に有用な一次情報です。

 

農地法と宅建の覚え方:許可権者と例外規定の語呂合わせ

農地法の学習で次に壁となるのが「許可権者」と「例外規定」の暗記です。「原則は都道府県知事だけど、3条は農業委員会で、でも国がやる場合は協議で…」と混乱しがちです。ここでは、記憶に残りやすい語呂合わせと、イメージを使った覚え方を紹介します。

 

まず、許可権者の基本ルールを覚えるための語呂合わせです。

 

  • 「サン・ニ・イ(3・2・1)」の法則
    • 3条は、業委員会(「の」の字が3に似ている、あるいは農業委員会の「委(イ)」)
    • 4条・5条は、知事(より上位の権限が必要=数字が大きい)

    これだけでは弱いので、もう少しストーリー性を持たせましょう。「ちゃん(3条)は業が好き。
    郎(4・5条)は事になりたい」と覚えます。これで、3条=農業委員会、4条・5条=知事という原則が固まります。指定市町村の場合は、知事の代わりに指定市町村の長が許可権者になりますが、試験対策としては「知事等」としてセットで覚えておけば問題ありません。

     

    次に、重要な例外規定である「国または都道府県等」が関与する場合です。国や自治体が道路を作ったり、学校を建てたりするために農地を転用する場合、いちいち許可を取るのは行政の効率が悪くなります。そこで「許可」ではなく「協議」という形がとられます。

     

    • 例外の覚え方:「国との話し合いは協議で決着」
      • 国・都道府県が当事者の場合 → 許可不要だが、許可権者との協議が必要。
      • 協議が整えば、許可があったものとみなされる。

      ただし、ここにもさらに例外(例外の例外)があり、試験で狙われるポイントです。それが「学校法人や医療法人」などの場合です。これらは公共性が高いものの、「国等」には含まれません。したがって、大学がキャンパスを拡張するために農地を転用する場合は、原則通り知事の許可が必要です。「国公立は協議、私立は許可」と区別しておくと分かりやすいでしょう。

       

      また、4ヘクタールを超える広大な農地の転用については、以前は農林水産大臣の許可が必要でしたが、地方分権改革により、現在は都道府県知事(または指定市町村長)の許可に一本化されています。古い参考書を使っているとここが間違っている場合があるので注意してください。大臣許可は不要になり、代わりに国との協議が必要なケースがある、という程度に認識をアップデートしておきましょう。

       

      意外と知られていない情報として、農地の「競売」における許可の取り扱いがあります。借金のカタに農地が競売にかけられた場合、落札者がその農地を取得するにはどうすればよいでしょうか?実は、競売であっても農地法の許可(または届出)が必要です。裁判所が関与する公的な手続きだからといって、農地法が免除されるわけではありません。落札者は、入札前に農業委員会から「買受適格証明書」を発行してもらう必要があります。これは実務的にも非常に重要な知識であり、宅建試験でも「競売なら許可不要」という誤りの選択肢として出題されることがあります。

       

      以下のリンクは、農地転用の具体的な手続きの流れを図解しています。

       

      農地転用許可制度の手続きスキーム(農林水産省)
      視覚的に手続きの流れを把握することで、文字だけの暗記よりも理解が深まります。

       

      農地法と宅建の覚え方:市街化区域の特例と届出の実務

      先ほど少し触れた「市街化区域の特例」ですが、ここは宅建試験で最も狙われやすいポイントの一つであり、実務でも非常に頻繁に使われる制度です。深く理解しておくことで、応用問題にも対応できるようになります。

       

      市街化区域とは、都市計画法で定められた「すでに市街地を形成している区域」または「概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」のことです。つまり、行政としては「ここはどんどん建物を建てて発展させてほしいエリア」なのです。そのため、農地を農地以外にする(4条・5条)ハードルが極端に下げられています。

       

      通常、農地転用には厳しい審査基準(立地基準と一般基準)があり、許可が下りるまでに1〜2ヶ月かかることもザラです。しかし、市街化区域内の農地であれば、農業委員会への届出だけで済みます。「許可」と「届出」の最大の違いは、行政側に裁量権があるかどうかです。「許可」はダメと言われる可能性がありますが、「届出」は形式さえ整っていれば受理され、効力が発生します。

       

      覚え方のポイントは以下の通りです。

       

      • 「街(市街化区域)では届けるだけでOK」
      • ただし、対象は4条と5条のみ。
      • 3条(農地のまま売買)は、街中でも許可が必要。

      なぜ3条は特例対象外なのか、もう少し深掘りしてみましょう。市街化区域内の農地であっても、それを「農地として使い続ける」のであれば、それは都市的土地利用ではありません。したがって、農業の担い手を守るという3条の趣旨がそのまま適用され、農業委員会が「この人はちゃんと耕作できるのか?」を審査する必要があるのです。ここを混同しないことが、得点アップの鍵です。

       

      さらに、実務的な視点からの「意外な情報」ですが、生産緑地地区に指定されている農地の扱いです。市街化区域内にある農地でも、「生産緑地」の看板が立っている農地は、扱いが全く別物になります。生産緑地は「市街化区域内だけど、保全して緑地として残すべき農地」という指定を受けており、30年間は転用が原則禁止されます。つまり、生産緑地については「市街化区域の届出特例」は使えません。これを解除(買い取り申し出)して初めて転用が可能になります。試験問題で「市街化区域内の農地はすべて届出で転用できる」とあれば、それは×(誤り)です。生産緑地という例外が存在するからです。

       

      また、届出の実務的なタイミングについても触れておきましょう。届出は「あらかじめ」行う必要があります。工事を始めてから「あっと、忘れてた」と届け出ても認められません。これは無断転用となり、工事の中止命令や原状回復命令の対象となります。さらに、農地法違反には厳しい罰則(最大で3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人は1億円以下の罰金)があり、これは不動産取引においても重要事項説明の重大な要素です。

       

      各自治体の農業委員会のサイトでは、実際の届出様式がダウンロードできます。これを見るのも勉強になります。

       

      全国農業会議所 農業委員会ネットワーク
      実際の書類を見ることで、「誰に」「何を」申請するのかがイメージしやすくなります。

       

      農地法と宅建の覚え方:賃貸借の解約制限と対抗要件

      農地法には、所有権の移転や転用だけでなく、「借りている農家」を守るための強力なルールが存在します。これが賃貸借の解約制限と対抗要件の話です。地主が「土地を返してくれ」と言ったときに、借りている農家が簡単に追い出されてしまうと、作物が育てられず、日本の食糧生産が不安定になるからです。

       

      まず、農地の賃貸借の対抗要件についてです。民法では、不動産の賃借権を第三者に対抗(「ここは俺が借りている!」と主張)するには、賃借権の登記が必要です。しかし、地主が賃借権の登記に協力してくれるケースは稀です。そこで農地法では、特別なルールを定めています。

       

      • 引き渡しがあれば対抗できる
        • 登記がなくても、農地の引き渡しを受けていれば、新しい所有者に対しても賃借権を主張できます。

        これは借地借家法の「建物の所有を目的とする土地の賃貸借」に似ていますが、農地の場合は建物がなくても、単に農地として引き渡しを受けていればOKというのがポイントです。覚え方は「農地は引渡しで勝ち」です。

         

        次に、解約等の制限です。地主が農地の賃貸借契約を解除したり、更新を拒絶したりするには、原則として知事の許可が必要です(3条の許可権者は農業委員会ですが、解約の許可権者は知事である点に注意!)。

         

        「辞めさせるのはオオゴト(知事案件)」と覚えましょう。

         

        ただし、ここにも重要な例外があります。許可なしで解約できるケースです。

         

        1. 合意解約で、6ヶ月以内に引き渡しが行われる場合
          • 書面による合意解約を行い、その後すぐに土地を返すなら、知事の許可は不要です(ただし、農業委員会への通知は必要)。
        2. 10年以上の定期借地契約が満了した場合
          • 最初から期間を決めていた更新のない契約なら、終了時に許可は不要です。
        3. 農事調停による場合
          • 裁判所での話し合いで決まったことなら、行政の許可は不要です。

        ここで注意すべき「意外な情報」は、信託に関するルールです。農地を信託財産として信託会社に預けることは、原則としてできません。しかし、この解約制限の文脈でたまに出題されるのが、「農地を貸している地主が、その貸付地を第三者に売る場合」です。この場合、借り手(小作人)の同意は必要でしょうか?正解は「不要」です。オーナーチェンジがあっても、前述の対抗要件(引き渡し)さえあれば、借り手は使い続けられるので、地主が土地を売ること自体に借り手の承諾はいらないのです。この論点は民法の知識と絡めて出題されることがあります。

         

        以下のリンクは、農地の貸し借りに関する詳細なルールを説明しています。

         

        農地中間管理機構を通じた農地の貸借(農林水産省)
        近年は個人の貸し借りよりも、機構を通じた貸借が推奨されており、これに関する制度改正も試験のトレンドです。

         

        農地法と宅建の覚え方:違反転用への罰則と原状回復命令

        最後に、もし農地法に違反してしまったらどうなるのか、という「罰則」と「監督処分」について解説します。ここは試験での出題頻度はやや落ちますが、出たときに差がつくポイントであり、かつ実務では最も恐ろしい部分です。

         

        まず、許可を受けずに勝手に農地を転用した場合(無断転用)、または許可の内容と違うことをした場合(事業計画違反)のペナルティです。

         

        • 原状回復命令
          • 誰が出すか? → 都道府県知事
          • 誰に出すか? → 転用した人だけでなく、工事を請け負った業者や、事情を知って承継した人にも出せます。

          ここでのポイントは、違反者本人以外も対象になるということです。例えば、農家Aが無断で駐車場を作ろうとして、建設会社Bに工事を依頼したとします。この場合、知事は建設会社Bに対しても「工事を止めろ」「元の畑に戻せ」と命令できます。「施主に頼まれただけです」という言い訳は通用しません。

           

          次に、罰則の厳しさです。

           

          • 個人:3年以下の懲役 または 300万円以下の罰金
          • 法人:1億円以下の罰金(両罰規定)

          この「法人1億円」というのは、産業廃棄物処理法などと並んで非常に重い罰則です。これは、法人が組織的に広大な農地を無断開発することを防ぐための抑止力となっています。覚え方としては、「無断転用はサンサン(3年300万)、会社は億超え」という語呂が有効です。

           

          そして、ここからが検索上位にはあまり載っていない独自視点の情報です。それは「時効がない」という考え方です。

           

          厳密には刑事訴訟法上の時効はありますが、行政処分としての「原状回復命令」には、時効のような期間制限がありません。つまり、「無断転用してから20年経ったから、もう時効で許されるだろう」ということはないのです。行政は、違反状態が継続している限り、いつでも原状回復命令を出すことができます。

           

          これは、中古住宅の売買(宅建実務)で非常に重要になります。もし、取り扱う物件の敷地の一部が、登記上「農地」のままで、現況が「駐車場」になっていた場合、それは過去の無断転用である可能性が高いです。これをそのまま重要事項説明でスルーして売買させると、後から買主に原状回復命令(駐車場を壊して畑に戻せ)が届くという大トラブルになりかねません。宅建士としては、現況と登記簿が違う場合、必ず農業委員会に確認する必要があります。これを「非農地証明」の実務と言います。20年以上無断転用状態であっても、簡単に宅地への変更が認められるわけではなく、始末書や複雑な手続きが必要になることが多いのです。

           

          農地パトロール(利用状況調査)についての資料です。

           

          農地の利用状況調査(農地パトロール)の実施(農林水産省)
          農業委員会は毎年1回、管内の農地を見て回り、違反転用や耕作放棄地がないかチェックしています。「バレないだろう」は甘い考えです。

           

          以上の5つのセクション(3・4・5条の定義、許可権者、市街化区域の特例、賃貸借、違反への対処)を構造的に理解し、それぞれの語呂合わせを活用することで、宅建試験の農地法分野は満点を狙える得意分野になります。丸暗記ではなく「なぜそうなっているのか(農地を守るため)」という法の趣旨(リーガルマインド)を持って学習を進めてください。

           

           


          農地・生産緑地に関する実務と事例ー登記、税務、転用、相続、売買