非農地証明と地目変更は司法書士?行政書士との違いや費用相場

非農地証明を取得して地目変更する際、司法書士と行政書士どちらに頼むべき?費用の相場や手続きの流れ、20年の時効ルールまで徹底解説。地目変更で税金が上がるリスクとは?
非農地証明と地目変更の手続きガイド
⚖️
専門家の役割分担

証明書取得は行政書士、変更登記は司法書士(または土地家屋調査士)が担当。

💰
費用の目安

全依頼で約10〜15万円。自分で手続きすれば実費数千円で済む場合も。

🏚️
20年ルールの活用

農地以外の利用が20年以上続けば、違反転用でも証明書が出る可能性がある。

非農地証明と地目変更を司法書士に依頼

長期間、農地として使われていない土地や、すでに家が建っているのに登記簿上は「畑」や「田」のままになっている土地はありませんか?こうした土地を売却したり、担保に入れたり、あるいは相続したりする際には、現状に合わせて地目を変更する必要があります。そのために必要な重要書類が「非農地証明(非農地証明書)」です。

 

多くの人が「登記のことだから司法書士に頼めばすべて解決する」と考えがちですが、実はここには大きな落とし穴があります。非農地証明の取得と地目変更登記は、関わる法律や管轄が異なるため、一つの専門家だけでは完結しないケースがほとんどなのです。この記事では、複雑な権利関係と手続きの流れ、そして意外と知られていない「税金のリスク」について、専門用語を噛み砕いて解説します。

 

非農地証明の取得は行政書士?司法書士との業務範囲の違い

「非農地証明をとって地目を変えたい」と思い立ったとき、最初に誰に相談すべきでしょうか。検索すると「司法書士」「行政書士」「土地家屋調査士」といった資格名が出てきて混乱するはずです。それぞれの役割を明確に理解しておかないと、たらい回しにされたり、余計な仲介手数料を払うことになりかねません。

 

まず、手続きは大きく以下の2段階に分かれます。

 

  1. 農業委員会から「非農地証明書」をもらう
  2. 法務局で「地目変更登記」をする

この2つのステップでは、法律により取り扱える専門家が厳密に区分されています。

 

  • 行政書士の領域

    ステップ1の「農業委員会への申請」は、主に行政書士の独占業務です。非農地証明願(願い出書)の作成や、過去の航空写真などの証拠集め、農業委員会との折衝を行います。司法書士は、原則としてこの書類作成代理を行うことはできません(本人が作成した書類を提出代行することは例外的に認められる場合がありますが、複雑な案件では行政書士が必要です)。

     

  • 土地家屋調査士の領域

    ステップ2の「地目変更登記」において、土地の物理的現況(本当に畑ではなくなっているか)を調査し、法務局へ登記申請を行うのは、土地家屋調査士の専門分野です。実は、地目変更登記に関しては、司法書士ではなく土地家屋調査士がメインの担当となります。

     

  • 司法書士の領域

    では司法書士は何をするのでしょうか?司法書士は「権利に関する登記」の専門家です。例えば、地目変更と同時に土地の売買を行う(所有権移転登記)場合や、相続が発生している(相続登記)場合、あるいは抵当権を抹消する場合などに登場します。地目変更そのもの(表示に関する登記)は、司法書士の業務範囲外となることが一般的です。

     

つまり、「親の代から放置していた元農地を、地目変更して売却したい」というよくあるケースでは、「行政書士(証明書取得)」→「土地家屋調査士(地目変更)」→「司法書士(売却の登記)」という3者の連携が必要になるのです。これをワンストップで引き受けてくれる事務所もありますが、内部で提携している専門家に再委託しているのが実情です。

 

参考リンク:日本行政書士会連合会 - 行政書士の業務内容や農地転用・事実証明に関する解説が掲載されています。

非農地証明から地目変更登記までの具体的な手順と必要書類

非農地証明を取得し、登記を完了させるまでの道のりは、単なる書類提出だけでは終わりません。特に重要なのは「客観的な証拠」の積み上げです。ここでは標準的な手続きの流れと、求められる書類について深掘りします。

 

手順1:事前相談と資料収集
まず、管轄の農業委員会事務局へ行き、「この土地について非農地証明が欲しい」と相談します。ここで「いつから農地以外だったのか」「なぜ農地法の手続きをしなかったのか」を厳しく問われます。

 

手順2:非農地証明願の提出
以下の書類を揃えて提出します。

 

  • 非農地証明願:所定の様式(すべての共有者の署名が必要な場合が多い)。
  • 位置図・公図:法務局で取得。
  • 現況写真:東西南北からの写真。農地として機能していないこと(家が建っている、山林化している等)を証明します。
  • 登記事項証明書:土地の権利関係を確認するため。
  • 客観的な証明資料:これが最難関です。「20年以上前から農地ではなかった」ことを証明する場合、「過去の航空写真」「建物の課税証明書(建築時期がわかるもの)」、近隣住民や地元精通者による「申述書(証明書)」が求められます。

手順3:現地確認(現地調査)
農業委員会の担当委員が実際に現地を見に来ます。書類では「非農地」となっていても、現地に耕作の痕跡があったり、家庭菜園として使われていたりすると、「これは農地です」と判断され、証明書が出ないことがあります。「耕作放棄地(荒れた農地)」と「非農地(物理的に耕作不能な土地)」の境界線は非常にシビアです。

 

手順4:農業委員会総会での決定・交付
月一回開催される総会で承認されれば、数日後に「非農地証明書」が交付されます。

 

手順5:法務局への地目変更登記申請
交付された非農地証明書を添付し、法務局へ地目変更登記を申請します。ここでも登記官による実地調査が行われる場合がありますが、農業委員会の証明書があればスムーズに進むことがほとんどです。

 

参考リンク:法務省 - 不動産登記申請手続について、地目変更登記の申請書様式や記載例がダウンロードできます。

非農地証明と地目変更にかかる費用相場と自分で行う注意点

専門家に依頼する場合、それなりのコストがかかりますが、自分で行うことで大幅に節約することも可能です。ここでは「お金」と「労力」のバランスを見ていきます。

 

専門家に依頼する場合の費用相場

  • 行政書士(非農地証明取得):約5万円〜10万円

    難易度(過去の証明資料の収集が必要かどうか)によって変動します。20年以上の時効取得を主張するようなケースでは、調査費用が加算されることがあります。

     

  • 土地家屋調査士(地目変更登記):約4万円〜5万円

    測量が不要で、単に地目を変えるだけならこの程度です。分筆(土地を分ける)などが絡むと数十万円に跳ね上がります。

     

  • トータル:約10万円〜15万円

    すべて丸投げする場合の目安です。

     

自分で行う場合の費用とリスク
自分で行う場合、かかる費用は「実費のみ」です。

 

  • 実費:数千円程度(登記事項証明書代、公図代、写真代、交通費など)。
  • 登録免許税:実は、地目変更登記には登録免許税がかかりません(無料)。これは意外と知られていないメリットです。

自分で行う際のリスクと注意点

  1. 平日の稼働が必要:農業委員会や法務局は平日の日中しか開いていません。何度も訂正に通うことになれば、会社を休む損失の方が大きくなるかもしれません。
  2. 証明責任のハードル:特に「いつから非農地だったか」を証明する際、古い航空写真を国土地理院から取り寄せたり、近隣住民にハンコをもらいに行く交渉力が必要です。行政書士等のプロは、こうした証拠収集のノウハウを持っていますが、素人が行うと「証拠不十分」で突き返されるリスクが高まります。
  3. 法務局の厳格さ:登記申請書は一文字のミスも許されません。修正のために何度も呼び出される精神的ストレスを考慮する必要があります。

「単純に家が建っていて、登記も自分名義」というシンプルな案件なら自分でのトライもおすすめですが、「相続が絡んでいる」「隣地との境界が不明確」といった事情がある場合は、迷わず専門家に依頼するのが安全です。

 

非農地証明にまつわる「20年の時効」と農地法の例外規定

通常、農地を農地以外のものにする(転用する)には、事前に都道府県知事や農業委員会の「許可」が必要です。無許可で勝手に家を建てたり駐車場にしたりすると、それは「違反転用」となり、原則として現状回復(農地に戻すこと)を命じられます。しかし、現実には何十年も前に無許可で転用され、今さら農地に戻すのが不可能な土地が日本中に存在します。

 

ここで登場するのが「20年ルール(時効取得の法理の応用)」です。

 

20年ルールの概要
農地法では、違反転用であっても、その状態が長期間継続し、かつ平穏公然と占有されてきた場合、事実状態を追認する運用がなされることがあります。具体的には、「農地以外の状態になってから20年以上が経過している」ことが証明できれば、農業委員会は「非農地証明書」を発行するケースが多いです。

 

なぜ20年なのか?
これは民法の「取得時効」の考え方を援用しています。他人の土地であっても20年間、所有の意思を持って平穏に占有すれば所有権を取得できるのと同様に、行政処分においても、20年以上経過した違反状態を是正させるのは法的安定性を害する、という考え方です(※自治体によって運用基準は異なりますが、昭和40年代以前などの古い転用については柔軟に対応される傾向があります)。

 

証明のポイント
この「20年」を証明するために、以下のような証拠が決定打となります。

 

  • 閉鎖登記簿:建物がいつ登記されたか。
  • 固定資産税評価証明書:いつから「宅地」並み課税がされているか。
  • 航空写真:国土地理院のアーカイブで、20年以上前の写真に建物や駐車場が写っているか。

このルールを知らずに、「違反転用だから農地に戻さないといけない」と諦めている方は多いですが、司法書士や行政書士を通じて過去の経緯を紐解くことで、合法的に地目を変更できる可能性は十分にあります。

 

参考リンク:農林水産省 - 農地転用許可制度の概要。違反転用への厳格な対応と、例外的な取り扱いについての基礎知識が得られます。

非農地証明で地目変更すると固定資産税が激増する意外な落とし穴

最後に、多くの専門家があまり強調しない、しかしお財布に直結する重大な「独自視点」のリスクをお伝えします。それは、「地目変更によって固定資産税が跳ね上がる可能性がある」という点です。

 

「現状が宅地なら、もう宅地並みの税金を払っているのでは?」と思うかもしれません。しかし、自治体の課税課の判断と、登記所の地目は必ずしも連動していません。

 

課税の仕組みと地目のギャップ
固定資産税は「現況主義」です。登記が「畑」であっても、現況が「宅地」なら、原則は宅地として課税されます。しかし、地方の広大な土地や、課税課の調査が及んでいない土地では、「現況は資材置き場(雑種地)だが、課税は農地扱いのまま(極めて安い)」というラッキーな状態が続いているケースが珍しくありません。

 

地目変更がトリガーになる
ここで真面目に非農地証明を取得し、法務局で地目を「農地」から「雑種地」や「宅地」に変更登記をしたとします。すると、法務局から市町村へ「地目が変わりましたよ」という通知(登記済通知)が送られます。これをきっかけに、市町村の課税課は「お、ここは農地じゃなくなったのか。では来年から評価額を見直そう」と動き出します。

 

その結果、これまで年間数千円だった固定資産税が、翌年から数万円〜数十万円に激増するという事態が起こり得ます。これを「寝た子を起こす」と言ったりします。

 

タイミングの戦略
もちろん、売却するためには地目変更が必須条件となることが多いため、避けては通れません。しかし、「当面売る予定はないが、なんとなく登記を綺麗にしておきたい」という動機だけで地目変更を行うと、ランニングコストだけが増える結果になりかねません。

 

一方で、相続税対策としては、評価額の低い「農地」のまま相続した方が有利に見えますが、非農地であることが税務署にバレると、遡って宅地として評価されるリスクもあります。

 

結論としての対策
非農地証明を取得して地目変更を行う際は、必ず事前に「地目変更後の固定資産税見込み額」を市町村の資産税課で試算してもらいましょう。その上で、売却益や活用のメリットが、増税分を上回るかどうかを冷静に判断することが、賢い土地オーナーの戦略です。