食料自給率が日本で低い理由とカロリーベースや飼料の影響

日本の食料自給率がなぜ38%という低い水準にあるのか、ご存じですか?多くの農業従事者が見過ごしがちな「カロリーベース」という計算方法の特性や、畜産に不可欠な「飼料」の輸入依存、さらには肥料や種子といった生産資材のリスクまで、数字の裏に隠された真実を深く掘り下げます。この現状をどう捉え、未来の農業に繋げていくべきでしょうか?

食料自給率 日本 低い 理由

日本の食料自給率が低い理由のポイント
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計算方法のカラクリ

海外では主流の「生産額ベース」ではなく、日本独自の「カロリーベース」で計算するため、数値が低く算出されがちです。

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食生活の欧米化

米の消費が減り、輸入に頼る小麦(パン)や畜産物、油脂類の消費が増えたことが大きな要因です。

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隠れた輸入依存

家畜の餌となる飼料や、作物の生育に欠かせない化学肥料の多くを輸入に頼っており、見えないリスクを抱えています。

食料自給率の計算方法とカロリーベースの真実

 

日本の食料自給率が低いと言われる最大の理由は、国際的に主流ではない「カロリーベース」という指標で計算されている点にあります 。カロリーベースの食料自給率とは、国民一人一日当たりの国産供給熱量を、全体の供給熱量で割って算出するものです。2022年度の日本の食料自給率は、このカロリーベースで38%でした 。
この計算方法では、野菜や果物のように重量はあってもカロリーが低い品目の貢献度が小さくなります 。一方で、米のように自給率が高い品目の消費が減ると、全体の自給率が大きく低下する特性があります 。事実、1965年には73%だった日本の食料自給率は、米の消費減少と密接に関連して低下してきました 。
一方、もう一つの指標である「生産額ベース」で見ると、日本の食料自給率は58%(2022年度)となります 。これは、食料の価額に着目した計算方法で、単価の高い野菜や果物、畜産物などが正当に評価されるため、カロリーベースよりも高い数値が出ます。多くの先進国がこの生産額ベースや重量ベースの指標を用いており、カロリーベースを主要指標としているのは日本特有の状況です 。
なぜ日本はカロリーベースにこだわるのでしょうか。それは、国民の生命維持に最低限必要な「熱量(カロリー)」を国内でどれだけ賄えるか、という食料安全保障上の危機管理を重視しているためです。しかし、この指標だけを見ていると、国内農業の実態を過小評価してしまう可能性があることも、農業従事者として知っておくべき重要な視点です。
食料自給率の各種データや計算方法について、農林水産省が詳細な資料を公開しています。

 

食料自給率・食料自給力について:農林水産省

食料自給率低下の背景にある食生活の変化と輸入

日本の食料自給率が長期的に低下している背景には、戦後の急速な食生活の欧米化があります 。具体的には、主食であった米の消費量が大幅に減少し、代わりに小麦を原料とするパンや麺類、そして肉類や油脂類の消費が大きく増加しました 。
農林水産省のデータによれば、1960年代には年間一人当たり110kg以上消費されていた米が、現在ではその半分以下の約50kgまで落ち込んでいます。一方で、国内での生産が少なく輸入に大きく依存している小麦、大豆、そして畜産物のための飼料穀物の需要が急増しました。例えば、小麦の自給率は17%、大豆は7%(いずれも令和4年度)と極めて低い水準です 。
この構造的な変化が、食料自給率を押し下げる大きな要因となっています。自給率がほぼ100%の米の消費が減り 、輸入に頼らざるを得ない品目の消費が増えれば、カロリーベースの自給率が低下するのは必然と言えます。政府の政策も、戦後の食糧難解消のため、安価な輸入小麦を安定的に供給することを重視した経緯があり、結果として国内の麦作は長く停滞しました 。
以下に、主要な品目の自給率(令和4年度カロリーベース)と、食生活の変化による影響をまとめます。

品目 自給率(%) 概要と食生活変化の影響
99% 🍚 主食としての消費が半減。自給率へのプラス寄与が減少。
小麦 17% 🍞 パンや麺類の普及で需要増。ほとんどを輸入に依存。
肉類 9% 🍖 食の欧米化で消費が急増。しかし、飼料の多くを輸入しているため自給率は低い。
油脂類 3% 🍳 食用油の消費が増加。原料となる菜種や大豆の多くを輸入。
野菜 75% 🥦 比較的高い自給率を維持。しかし低カロリーのため全体の自給率向上への貢献は限定的。

このように、私たちの食卓の変化が、国の食料安全保障の形を大きく変えてきたのです。

食料自給率の盲点となる飼料自給率と畜産の関係

畜産業は日本の農業生産額の大きな割合を占めますが、その根幹を支える「飼料」の自給率は極めて低いのが現状です。これが食料自給率全体を押し下げる「盲点」となっています。農林水産省によると、家畜の餌となる飼料全体の自給率は約25%に過ぎません 。特に、トウモロコシなどを主原料とする濃厚飼料に限れば、その自給率はわずか10%程度です 。
重要なのは、食料自給率の計算ルールです。たとえ日本国内で育てた牛や豚であっても、その家畜が輸入した飼料を食べて育った場合、その分の畜産物は「国産」とは見なされません。つまり、「飼料が海外産なら、その肉も海外産」として計算されるのです。このため、肉類のカロリーベース自給率は9%という非常に低い値になってしまいます。
この「飼料自給率」の問題は、食料安全保障上の大きなリスク要因です。飼料の多くを米国やブラジルなど特定の国からの輸入に依存しているため 、国際情勢の変動、不作、輸送コストの高騰などが起きた場合、国内の畜産業は直接的な打撃を受けます。これは、生産者自身の経営だけでなく、国内の食肉供給全体を不安定にさせる深刻な問題です。
近年、政府は飼料用米やエコフィード(食品残渣を利用した飼料)の活用を推進していますが、需要を満たすには至っていません。農業従事者としては、自身の生産活動が、こうした輸入飼料という土台の上にあるという現実を認識しておく必要があります。
飼料自給率の現状や課題については、以下の農林水産省のページで詳しく解説されています。

 

飼料:農林水産省

食料自給率が反映しない肥料や種の海外依存リスク

カロリーベースの食料自給率38%という数字には、さらに見過ごされがちなリスクが隠されています。それは、農業生産に不可欠な「肥料」と「種子」の海外依存度の高さです 。たとえ国内で食料を生産していても、その生産資材が海外からの供給に頼り切っている場合、それは真の自給とは言えません。

肥料の輸入依存という脆弱性

作物の生育に必須の三大要素(窒素・リン・カリウム)のうち、日本はリン鉱石や塩化カリウムといった原料のほぼ100%を輸入に頼っています 。特に、リンは中国、カリウムはカナダなど、供給国が偏在しているのが実情です。もしこれらの国々が輸出を制限すれば、日本の農業は肥料価格の高騰はもちろん、入手困難という事態に直面し、生産量そのものが大きく減少する可能性があります 。

種子の9割が海外採種という事実

野菜の自給率は約80%と高いですが、その作物を育てるための「種」に目を向けると、驚くべき事実があります。現在、国内で流通する野菜の種の約9割は、海外で生産されたものです(海外採種) 。日本の種苗会社が品種改良した優れた種子であっても、それを実際に採種し、製品化するプロセスを人件費の安い海外に委託しています。コロナ禍で物流が混乱した際には、この海外採種のリスクが現実のものとして認識されました。これもまた、食料自給率の数字には表れない、日本の農業が抱える構造的な脆弱性と言えるでしょう 。

     

  • 肥料原料: リン鉱石、塩化カリウムはほぼ全量を輸入に依存
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  • 種子: 野菜の種の約9割が海外での採種に依存

このように、食料そのものだけでなく、生産の入り口である資材の多くを海外に頼る構造は、将来にわたって大きなリスクであり、農業の持続可能性を考える上で避けては通れない課題です。

食料自給率向上に向けた農林水産省の対策と課題

深刻な食料自給率の低迷に対し、農林水産省は「食料・農業・農村基本計画」の中で、2030年度までにカロリーベース自給率を45%、生産額ベース自給率を75%に引き上げる目標を掲げています。この目標達成のため、多角的な対策が進められています。

     

  1. 主要穀物の生産拡大

    需要があるにもかかわらず自給率が低い小麦や大豆、飼料作物の生産を増やすための支援が強化されています。具体的には、水田を畑地化してこれらの作物を生産する「畑地化促進事業」や、戦略的な作付転換を促す補助金などが挙げられます。
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  3. 飼料自給率の向上

    畜産分野の弱点である飼料の国産化も急務です。水田を活用した飼料用米(WCS用稲など)や、子実用トウモロコシの生産を全国的に推進しています。また、食品ロス削減にもつながるエコフィードの利用拡大も重要な柱です。
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  5. スマート農業の推進

    ICTやロボット技術を活用した「スマート農業」は、生産者の高齢化や人手不足といった課題を解決し、生産効率を飛躍的に向上させる切り札として期待されています。ドローンによる農薬散布や自動操舵トラクター圃場センサーによる水管理など、省力化と高品質生産を両立する技術の導入支援が進んでいます。
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  7. 米の新たな需要開拓

    消費が減少する一方の米については、新たな需要を創出する取り組みが重要です。特に、米を粉にした「米粉」は、パンや麺類、お菓子など、小麦の代替として幅広い活用が可能です。グルテンフリー需要の高まりも追い風となっており、米粉用の米の生産拡大や、加工技術の開発が進められています。

しかし、これらの対策には課題も山積しています。例えば、作付転換には多大なコストと労力がかかり、生産者の高齢化が進む中で簡単には進まないのが現状です。また、スマート農業技術は導入コストが高く、中小規模の農家にとってはハードルが高い側面もあります。目標達成には、こうした現場の実情に即した、より実効性の高い支援策が求められています。

 

 


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