家畜の餌に米飼料用米利用メリット自給率環境ブランド

家畜の餌として米や飼料用米を使うときの栄養価や給与量、経営や環境への影響を整理し、自分の農場ではどう活かすかを考える記事にしてみませんか?

家畜の餌に米を活用するポイント

家畜の餌に米を使う全体像
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飼料用米の栄養と品種

飼料用米の栄養価やトウモロコシとの違い、多収品種の特徴を押さえます。

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牛豚鶏への安全な給与方法

牛・豚・鶏ごとの給与量の目安と、粉砕や圧ぺんなど加工の基本を整理します。

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経営と環境のメリット

自給率向上、ブランド化、耕畜連携やSDGsへの貢献まで、米利用の付加価値を考えます。

家畜の餌 米飼料用米の栄養価と基本特性

 

家畜の餌として使う米には、主食用米だけでなく「飼料用米」と呼ばれる専用品種があり、デンプンを中心としたエネルギー価はトウモロコシとほぼ同程度と評価されています。 飼料用米は多収・倒伏に強いよう育種されており、10aあたり1tを超える収量が期待できる品種もあるため、限られた水田から多くの飼料エネルギーを引き出せる点が特徴です。
玄米の形態で用いる飼料用米は、可溶性無窒素物(デンプン・糖類)や粗タンパク質の含量が輸入トウモロコシと近く、エネルギー源として代替しやすい一方で、繊維分やミネラルのバランスは他の飼料で補う必要があります。 モミ米のまま与える場合は籾殻分が多くなるためエネルギー濃度がやや下がりますが、サイレージ化して粗飼料的に利用できるなど、同じ「米」でも形態によって位置づけが変わる点が現場では意外と重要です。

 

参考)丑年に、牛とお米のお話(飼料用米編)株式会社ケツト科学研究所

また、飼料用米の多くはアミロース含量が高く、人間が食べるとパサついて食味が劣る一方で、家畜にとっては高エネルギーでむしろ好ましいという「人にはおいしくないが牛にはおいしい米」という逆転現象も起きています。 最近では、玄米や籾米に加えて、米ぬかやくず米、酒造副産物の酒粕など米由来副産物を組み合わせて家畜のエネルギー源・タンパク源とする試験も進められ、原料コストと栄養バランスの両立を狙った配合が模索されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10898942/

栄養面でもう一つ見逃せないのが、米はトウモロコシに比べ非デンプン性多糖類(NSP)が少なく、特に豚では腸内ガスの発生や消化障害のリスクが低いとされる点です。 最新の研究では、タンパク制限飼料においてトウモロコシの一部を籾付きのままの稲(paddy rice)に置き換えても、15%程度までであれば増体成績を損なわず、25%置換ではむしろ成績が向上した報告もあり、米の消化性の高さが裏づけられています。

 

参考)https://www.mdpi.com/2076-2615/14/3/391/pdf?version=1706176058

項目 飼料用玄米 輸入トウモロコシ
主な成分 デンプン主体で粗タンパクも同程度。 デンプン主体でエネルギー源として標準的。
エネルギー価 代謝エネルギーはおおむね同水準と評価。 家畜用配合飼料の基準となるエネルギー源。
自給のしやすさ 水田で生産でき、国内自給が容易。 ほぼ全量輸入に依存する。
家畜の嗜好性 牛などで良好という報告が多い。 安定して利用され嗜好性も高い。

 

家畜の餌 米牛豚鶏の給与量と加工方法

家畜の餌として米を使う際、最も実務に直結するのが「どのくらいまで配合できるか」という給与割合の目安です。 農林水産省や各県のマニュアルでは、配合飼料中に占める飼料用米(玄米・籾米)の割合として、乳牛で10%前後、肉牛で数%、豚で15%程度、採卵鶏で20%前後、ブロイラーでは最大50%といった上限の目安が示されています。
一方で、同じ「米」でも生籾、乾燥籾、玄米、破砕米など形態によって消化率が変わるため、牛や豚に与える場合は必ず粉砕や圧ぺんなどの前処理を行うよう強調されています。 とくに籾付きのままの米は殻が硬く、そのままでは消化されにくいとされるため、反芻牛でも粉砕して配合することで飼料効率を高めることが推奨されています。

 

参考)https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/62172.pdf

豚は単胃で人と似た消化器構造を持つことから、玄米を給与する場合は細かい粉砕が必要であり、籾米の場合はさらに徹底した粉砕でエネルギー利用性を確保するようマニュアルで注意喚起されています。 一方、鶏は筋胃(砂嚢)を持ち、自ら穀粒をすりつぶす機能があるため、籾のままでも利用しやすいとされ、ブロイラー向けの給与基準では籾米を玄米の1.25倍に換算して配合割合を設定する工夫も見られます。

 

参考)https://www.pref.tochigi.lg.jp/g06/gyoseijyoho/documents/esamaikyuyomanyual_1.pdf

牛については、乳牛と肉牛で使い方がやや異なり、乳牛では主にTMR中の一部でエネルギー源としてトウモロコシの代替に用い、肉牛では肥育後期に配合飼料の一部を飼料用米に置き換えて肉質改善を狙うケースが紹介されています。 こうした配合の変更により、既存の粗飼料や大豆粕とのバランスを見ながら、粗タンパク質不足を補う形で飼料設計を行うのがポイントです。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/tikusan/bukai/h2104/pdf/data3.pdf

実務上のイメージをつかみやすくするために、代表的な上限目安をざっくり箇条書きにすると、次のようになります(あくまでマニュアル上の一例)。

 

参考)https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/201299.pdf

  • 🐄 乳牛:配合飼料中に飼料用米を10%前後まで配合し、残りをトウモロコシ等で補う。
  • 🐂 肉牛:配合飼料中の一部(数%)を飼料用米に置換し、仕上げ期の肉質改善に活用する。
  • 🐖 豚:配合飼料の15%程度まで飼料用米を配合し、粉砕を徹底することで消化性を確保する。
  • 🐓 採卵鶏:20%前後までを目安に、卵質や産卵成績を見ながら徐々に増やす。
  • 🍗 ブロイラー:肥育期に最大50%程度まで飼料用米を高配合しつつ、増体や肉質をモニタリングする。

 

また、近年の研究では、玄米や酒粕を組み合わせた飼料配合がブロイラーの増体成績や肉色に影響することが示されており、地域の酒造副産物と連携した「米+酒粕」型の設計はまだ一般的ではないものの、潜在性の高い使い方として注目されています。 豚でも、籾付きの稲を一定割合まで配合しても増体や飼料効率を維持・改善できるという報告が出ており、従来は「せいぜい少量」と考えられていた米の利用幅が、加工技術と設計次第で広がりつつあるのは意外なポイントかもしれません。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8204006/

家畜の餌 米利用のメリットデメリットと経営への影響

家畜の餌として米や飼料用米を利用する最大のメリットは、国内でほぼ完全に自給できる穀物を活かすことで、輸入トウモロコシへの依存を減らし、飼料自給率を高められる点です。 減反や水田の遊休化が問題となるなかで、水田に適した「水稲」という作物を活かしつつ畜産に直結する飼料を生産できるため、転作作物としても位置づけやすいという政策的な利点もあります。
経営面では、国の交付金制度により飼料用米の作付に対して一定の支援が行われており、主食用米価格が下落傾向にある中で、飼料用米は安定した収益源として期待されていることが各種解説で紹介されています。 畜産側から見ると、トウモロコシ国際価格の変動リスクを一部ヘッジできるうえ、「地元の米で育てた○○」というストーリーを付加価値として打ち出しやすく、ブランド化・差別化に結びつけている事例も報告されています。

 

参考)飼料用米活用畜産物のブランド化関連情報:農林水産省

一方でデメリットや留意点もあり、第一に挙げられるのが、粉砕・圧ぺん・サイレージ調製など加工コストや設備投資が必要になるケースがあることです。 また、飼料用米は多収を重視するため倒伏しにくい反面、収穫・乾燥・保管の手間が増える場合もあり、水田作と畜産の作業ピークが重なる地域では人手のやり繰りが課題になることも指摘されています。

 

参考)https://www.naro.affrc.go.jp/archive/nilgs/kenkyukai/files/shiryoine2012_kyuyo04.pdf

栄養面でも、米を多く配合すると粗タンパク質が不足しがちになるため、大豆粕などを追加してバランスをとる必要があり、トウモロコシ主体の設計とは微妙に違うノウハウが求められます。 また、反芻家畜で高でんぷん飼料を急に増やすと第一胃内のpH低下などを招きやすく、トウモロコシ同様、給与量の段階的な増加と粗飼料とのバランス維持が欠かせません。

 

参考)https://www.pref.nagano.lg.jp/nogyokankei/letter/documents/ntk451_ani1.pdf

それでも、飼料用米給与が家畜の育成に与える影響についての調査では「ほとんど影響がない」「むしろ育成にメリットがある」とする回答が多く、肉牛では脂肪の質や色が変化したことでブランド化につながった例も報告されています。 消費者向けには「お米で育った牛肉・豚肉・鶏肉」といった分かりやすいメッセージが打ち出しやすく、フードマイレージの低減や国産飼料の利用拡大をアピールできるため、単なるコスト対比だけでなくマーケティング戦略の一部として位置づける価値があります。

家畜の餌 米と耕畜連携SDGs視点の環境効果

家畜の餌として米を利用する動きは、「水田で飼料を作り、家畜に与え、そのふん尿を堆肥として水田に戻す」という耕畜連携の循環モデルを構築しやすい点で、SDGsや環境保全の文脈でも注目されています。 飼料用米を生産することで水田の維持管理が進み、雑草や病害虫の抑制、水源涵養など水田が持つ多面的機能を保つことにつながるとされ、これも家畜の餌としての米利用が持つ「見えにくいメリット」の一つです。
輸入穀物中心の飼料体系では、海外での土地利用や輸送にともなう温室効果ガス排出が避けられませんが、地域の水田から出る飼料用米に切り替えることで輸送距離を短縮し、フードマイレージの削減やCO2排出削減に貢献できる可能性が指摘されています。 また、飼料用米と同じ水田からWCS用稲など粗飼料を生産する取り組みもあり、粗飼料自給率の向上とあわせて、耕作放棄地の再生や草地の管理といった地域資源の有効活用にもつながっています。

 

参考)https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3050457_po_0716.pdf?contentNo=1

さらに、最近では「飼料用米×放牧」「飼料用米×有機畜産」といった組み合わせで、単に穀物を代替するだけでなく、土づくりや生物多様性保全を含めた地域ぐるみのプロジェクトとして位置づける事例も出てきています。 こうした取り組みは、まだ検索上位の記事ではあまり詳しく取り上げられていませんが、水田・草地・家畜・人の暮らしを一体で考える「地域循環型システム」として、今後の家畜の餌に米を使う議論を一歩先へ進める独自の視点になるでしょう。

 

参考)http://www.pref.fukushima.lg.jp/download/1/shinkouhukyuu.af02_Vol48-2.pdf

飼料用米の定義や国の施策の概要は農林水産省のQ&Aが分かりやすくまとまっています。家畜の餌として米を検討するときの全体像確認に便利です。

 

参考)飼料用米の利用に関するQ&A:農林水産省

農林水産省「飼料用米の利用に関するQ&A」
牛・豚・鶏ごとの給与基準や配合割合の具体的な数字を確認したい場合は、県が公表している給与マニュアルが実務的な参考になります。

 

参考)https://souchi.lin.gr.jp/skill/pdf/guidebook_201903-01.pdf

福島県「飼料用米給与マニュアル」
飼料用米の栽培から給与までを体系的に学びたい場合は、農研機構が公開する技術マニュアルが詳細で、導入前の検討資料として有用です。

 

参考)東北農業研究センター:家畜のエサにする飼料用イネ

農研機構「飼料用米の生産・給与 技術マニュアル」

 

 


自己家畜化する日本人 (祥伝社新書 688)