フードマイレージ日本の現状!輸送CO2と環境負荷の世界比較

日本のフードマイレージが世界トップクラスである理由とは?輸送に伴うCO2排出量や環境負荷の現状、そして物流2024年問題が農業に与える影響について、私たちに何ができるのかを深掘りしませんか?

フードマイレージの日本の現状

記事の要約
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世界トップの数値

日本のフードマイレージは他国の追随を許さないほど高く、韓国や米国の約3倍、フランスの約9倍に達しています。

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物流2024年問題

ドライバー不足と法規制により長距離輸送が困難になり、従来の供給網が維持できなくなるリスクが高まっています。

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地産地消の価値

輸送コスト削減と環境負荷低減に加え、消費者の「顔が見える安心感」への需要が農業経営の追い風になります。

フードマイレージの日本の現状と輸入依存による高い食料自給率の課題

 

フードマイレージ(Food Mileage)とは、食料の輸送量(トン)に輸送距離(キロメートル)を掛け合わせた指標であり、食料が生産地から消費者の食卓に届くまでにどれだけの距離を移動したかを数値化したものです 。この概念は、1994年にイギリスの消費者運動家ティム・ラング氏によって提唱され、「なるべく近くで生産されたものを食べる」という地産地消や環境保護の観点から世界中で注目されています 。

 

参考)フードマイレージとは?日本が高い理由・減らすための取り組み事…

日本の現状において、この数値が極めて高い水準にある最大の要因は、食料自給率の低さと、遠方の国々からの輸入に大きく依存している構造にあります。日本の食料自給率は、カロリーベースで約38%(令和4年度)と、先進国の中でも最低水準で推移しています 。

 

参考)フードマイレージとは 日本の現状と改善のために私たちができる…

特に以下の点が、日本の数値を押し上げる主要因となっています。

 

農業従事者の皆様にとって、この現状は単なる環境問題のデータではなく、「国産農産物の価値」を再定義する重要な指標となります。輸入農産物が長い距離を経て鮮度や栄養価のリスクを抱えながら届くのに対し、国内生産物は圧倒的に低いマイレージで消費者に届くという事実は、強力な差別化ポイントになり得ます。

 

また、昨今の国際情勢の不安定化により、長距離輸送のリスク(コスト増大や遅延)は高まる一方です。輸入に頼る構造の脆弱性が露呈している今こそ、国内生産への回帰と、それを支える地域農業の重要性がかつてないほど高まっています。

 

有用な情報が含まれている参考リンク。
農林水産省:令和6年度 食料・農業・農村の動向(食料自給率や輸入リスクに関する最新の公式見解とデータが網羅されています)

フードマイレージの日本の現状を示す数値と世界ランキングの比較

日本のフードマイレージが世界的に見てどの程度異常な数値であるか、客観的なデータを用いて比較します。農林水産省などの試算によると、日本の総フードマイレージは約9,000億トン・キロメートル(t・km)に達するとされています 。

 

参考)フードマイレージとは?減らすには?日本のランキングや計算方法…

この数値がどれほど突出しているか、主要国との比較を以下の表にまとめました。

 

順位 国名 フードマイレージ(百万t・km) 日本との比較(概算) 主な要因
1位 日本 約 900,208 - 大量の穀物輸入、島国による長距離輸送
2位 韓国 約 317,169 約 3分の1 日本と同様の輸入構造だが人口規模が小さい
3位 アメリカ 約 295,821 約 3分の1 国土は早いが自給率が高く、国内輸送がメイン
4位 イギリス 約 187,986 約 5分の1 欧州内での近距離貿易が盛ん
5位 ドイツ 約 171,362 約 5分の1 地続きの輸入が多く輸送距離が短い
6位 フランス 約 104,407 約 9分の1 食料自給率が高く(100%超)、地産地消が進む

※データは2001年の試算をベースとした比較ですが、構造的な変化は少なく、現在も同様の傾向が続いています 。

この表から読み取れる重要なポイントは以下の通りです。

 

  • 圧倒的な格差:日本は2位の韓国と比較しても約3倍という驚異的な数値です。これは、日本がいかに「遠くの国から大量に」食料を運んでいるかを示しています 。​
  • 欧州との違い:フランスやドイツなどの欧州諸国は、フードマイレージが日本の数分の一に留まっています。これは食料自給率の高さに加え、輸入する際も近隣のEU諸国からの調達が主であるため、輸送距離が短く済むことが要因です。
  • アメリカの特殊性:アメリカは国土が広く、食料を長距離輸送しているイメージがありますが、国内自給率が高いため、国境を越える輸入に伴うフードマイレージは日本よりもはるかに低く抑えられています。

このように、日本の食卓は「世界中の輸送燃料」を使って成立していると言っても過言ではありません。農業経営の視点で見れば、これは「日本の農業には、輸入食材に比べて圧倒的な環境アドバンテージがある」ということを意味します。消費者がSDGsや環境負荷に関心を持つようになった現在、この数値の差は、国産品を選ぶ論理的な理由付けとして非常に強力な武器となります。

 

有用な情報が含まれている参考リンク。
COCOCOLOR EARTH:フードマイレージの世界ランキングと計算方法(国ごとの詳細な数値比較と背景が分かりやすく解説されています)

フードマイレージの日本の現状が及ぼす輸送CO2排出量と環境負荷

フードマイレージが高いということは、それだけ輸送にエネルギーを使い、二酸化炭素(CO2)を排出しているということを意味します。環境省や専門機関の研究によれば、輸送部門からのCO2排出量は決して無視できるものではありません。

 

具体的に、輸送手段ごとのCO2排出量の違い(1トンを1km運ぶ際に排出されるCO2量)を見てみましょう。

 

  • 飛行機:圧倒的に排出量が多く、緊急性の高い生鮮食品などに使われますが、環境負荷は最大です。
  • トラック:国内輸送の主力ですが、船舶や鉄道に比べると排出量は高くなります。
  • 船舶:一度に大量に運べるため単位あたりの排出量は少ないですが、日本の場合、移動距離が数千〜1万キロ単位になるため、総量としての負荷は蓄積されます。
  • 鉄道:環境負荷が最も低い部類の輸送手段ですが、農産物の輸送におけるシェアはまだ限定的です。

日本は、海外からの長距離輸送(船舶・飛行機)に加え、国内での産地から消費地へのトラック輸送も活発です。これが「地球温暖化」に直結しています。「遠くの安い食材」を買うことは、財布には優しくても、地球環境(ひいては農業に適した気候)には高いコストを支払っていることになります 。

 

参考)https://losszero.jp/blogs/column/col_146

農業現場における「気候変動」の実感
農業従事者の皆様は、近年の猛暑、豪雨、台風の大型化など、気候変動の影響を誰よりも肌で感じているはずです。フードマイレージの問題は、遠い国の話ではなく、将来の日本の農作物の生育環境を守れるかどうかという問題と表裏一体です。

 

フードマイレージを減らすことは、輸送に伴うCO2を削減し、異常気象のリスクを少しでも減らすための具体的なアクションです。消費者が「環境に優しいから」という理由で地元の農産物を選ぶトレンドは、一過性のブームではなく、気候危機に対する切実な対応として定着しつつあります。

 

「この野菜は移動距離が短いので、CO2排出量が輸入物の10分の1です」といった具体的なポップや表示は、環境意識の高い層(特に若い世代や子育て世代)に対して、価格以上の価値を訴求するフックになります。

 

有用な情報が含まれている参考リンク。
Green Note:フードマイレージとCO2排出量の関係(輸送手段ごとの環境負荷の違いや、具体的な削減効果について詳しく書かれています)

フードマイレージの日本の現状を改善する地産地消と農業のメリット

フードマイレージの高い現状を打破する最も効果的な解決策が、「地産地消(Local Production for Local Consumption)」です。これは単なるスローガンではなく、農業経営において実利を伴う戦略となります。

 

地産地消を推進することで、農業従事者には以下のような具体的なメリットが生まれます。

 

  1. 輸送コストの削減と利益率の向上
    • 遠くの大都市の市場へ出荷する場合、運賃や梱包資材費、手数料などが売上から引かれます。しかし、地元の直売所や契約スーパー、学校給食への納入であれば、輸送距離は最短で済み、中間マージンも圧縮できます 。結果として、手取り収入の増加につながります。

      参考)https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/04/240420_doyonokai_kokai.pdf

  2. 鮮度という絶対的な品質保証
    • 輸入野菜や、数日かけてトラック輸送される遠方の商品に対し、地場産品は「朝採れ」などの圧倒的な鮮度を提供できます。栄養価も、収穫後時間が経つにつれて減少するビタミン類(特にビタミンCなど)を高い状態で維持できます 。これは消費者にとって、価格差を埋める十分な購入動機になります。​
  3. 「顔が見える」信頼関係の構築
    • 近くに住む消費者が顧客になることで、生産者の顔が見える安心感が生まれます。これは、食の安全に対する意識が高まる中で最大のブランド力です。何かあった時の対応も迅速に行えるため、リピーター獲得に直結します。
  4. 規格外品の有効活用
    • 長距離輸送では、箱詰めのために規格が厳格に決まっており、少しでも形が悪いと出荷できない(廃棄ロス)ことがあります。しかし、地元の直売所や加工用であれば、形が不揃いでも「味は同じ」として販売・活用が可能です。これはフードロスの削減と同時に、農家の収入源の多様化にも寄与します。

実践のポイント:ストーリーを売る
地産地消を進める際は、「近いから良い」だけでなく、「誰が、どんな思いで作ったか」というストーリーを付加することが重要です。フードマイレージの低さを、「移動にエネルギーを使っていない分、栽培の手間ひまにエネルギーを使いました」というメッセージに変換して伝えてみてはいかがでしょうか。

 

有用な情報が含まれている参考リンク。
エネルギーマーケット:地産地消のメリットとSDGs(生産者側の経営安定化や、旬産旬消によるエネルギー削減効果について解説されています)

フードマイレージの日本の現状と物流2024年問題が迫る供給網の危機

最後に、検索上位の記事ではあまり深く触れられていないものの、農業従事者にとって今最も切実な問題である「物流2024年問題」とフードマイレージの関係について解説します。

 

2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働規制が強化されました。これにより、以下のような事態が農業物流の現場で進行しています。

 

  • 長距離輸送の困難化:これまで「翌日配送」が可能だった距離でも、労働時間の制限により「翌々日配送」になったり、中継輸送が必要になったりしています。特に鮮度が命である葉物野菜や果物にとって、リードタイムの延長は商品価値の毀損に直結します 。

    参考)https://www.nomuraholdings.com/jp/sustainability/sustainable/services/fabc/report/report20240705103096/main/0/link/File30977194.pdf

  • 運賃の高騰:ドライバー不足と労働環境改善のコスト転嫁により、輸送費が確実に上昇しています。これは肥料や飼料の高騰と相まって、農業経営を圧迫する大きな要因です。
  • 「運べない」リスク:最悪の場合、農産物が収穫できても、それを運ぶトラックが確保できないという事態さえ懸念されています。

この「物流危機」は、従来の「遠くの産地から大量に運ぶ」という高フードマイレージ型の流通モデルが、物理的・経済的に維持できなくなりつつあることを示唆しています。

 

逆転の発想:近距離流通の優位性
しかし、この状況は「地産地消」や「近距離流通」を主体とする農業にとっては追い風とも言えます。長距離輸送のコストとリスクが高まるほど、「地域内で生産し、地域内で消費する」モデルの経済合理性が高まるからです。

 

今まで「東京の市場に出すこと」を第一義に考えていた産地でも、今後は。

  • 近隣の県や地方都市圏をターゲットにした販路開拓
  • 輸送負荷の少ない加工品への転換
  • 物流業者と連携した、積み合わせ(共同配送)による効率化

といった戦略転換が求められます。フードマイレージを減らすことは、単なる環境活動ではなく、「物流が止まっても生き残れる農業」へのリスクヘッジそのものなのです。

 

「輸入や遠距離輸送が難しくなる時代」を見据え、地域の消費者をガッチリと掴んでおくこと。それが、これからの日本の農業経営における最強の防衛策となるでしょう。

 

有用な情報が含まれている参考リンク。
野村ホールディングス:食農分野における物流2024年問題への対応策(PDF資料。農産物輸送の具体的なリスクと、共同配送などの対策が詳細にまとめられています)

 

 


フード マイレージ 新版