硝酸アンモニウム肥料 基本特徴 使い方 注意点

硝酸アンモニウム肥料の速効性や土壌との相性、安全な保管方法までを整理しつつ、現場でどう活かすかをもう一度見直してみませんか?

硝酸アンモニウム肥料 基本と使い方

硝酸アンモニウム肥料の概要
🌱
速効性と作物の反応

硝酸態窒素とアンモニア態窒素を半々に含むことで、施用2日後から効き始める速効性があり、葉物野菜や畑作物の追肥に向きます。

🧪
土壌との相性と施肥設計

通気性のよい砂質土や壌土で効果を発揮し、長期施用しても土壌酸性化が進みにくい中性肥料として扱える一方、一度に多量施肥すると濃度障害のリスクがあります。

⚠️
爆発性と保管リスク

爆発事故の事例もある危険物であり、不純物混入や高温密閉条件を避け、可燃物から隔離した屋外または換気のよい場所での保管が重要です。

硝酸アンモニウム肥料 成分と速効性の仕組み


硝酸アンモニウム肥料は化学式NH4NO3を持ち、窒素含有量はおおよそ32〜35%と高く、アンモニア態窒素と硝酸態窒素を半分ずつ含む窒素肥料です。 無臭の白色結晶で水への溶解度が高く、20℃で水100mlあたり190gが溶けるほど水に馴染みやすい性質を持っています。 この高い溶解性により土壌中で素早くイオン化し、作物が吸収しやすい形の窒素源として働くため、いわゆる「効きの早い」追肥として評価されています。
畑作物の場合、硝酸態窒素は施用後すぐにそのまま根から吸収され、アンモニア態窒素は土壌中で硝化作用を受けて硝酸態へと変化しながら吸収されていきます。 この二段階の供給により、施用後およそ2日で肥効が現れ、その後20〜30日程度は効果が続くと報告されており、尿素や硫安などよりもやや短いが、追肥としては扱いやすい期間です。 冬季の低温条件でも肥効発現が天候に左右されにくい点は、寒い時期の葉菜類やハウス栽培でのメリットになります。


参考)硝安(商品名:防結性粒状硝酸アンモニア)をキャベツの追肥


一方で、硝酸態窒素は土壌コロイドに吸着されにくく、水とともに動きやすい性質を持つため、基肥として土壌深部に多量に入れてしまうと降雨や灌漑による流亡が増え、肥料利用率の低下や地下水汚染につながる可能性があります。 そのため、畑での局所施肥や追肥として、作物の根圏近くに必要量を小分けに与える使い方が理にかなっています。 また、完全水溶性で他成分と反応しにくいことから、養液栽培養液土耕での窒素源としても重宝されており、均一な濃度管理を行いたい生産者にとって扱いやすい資材です。


参考)硝安(硝酸アンモニア)の基本と特徴、効果的な使い方と注意点


硝酸アンモニウム肥料は、残留する酸性根や塩素を持たず、窒素成分がそのまま作物に吸収されるため、化学的にも生理的にも中性肥料と位置づけられています。 硫安や塩安のように長期施用で土壌酸性化が進み石灰施用が必須になるケースが少ない点は、土壌改良コストを抑えたい現場にとって見逃せないポイントです。 ただし、肥効が短い分だけ回数を増やして細かく追肥設計を組む必要があり、他の窒素肥料との役割分担を考えた施肥設計が求められます。


参考)https://bsikagaku.jp/f-knowledge/knowledge80.pdf


硝酸アンモニウム肥料 土壌中の挙動と作物への影響

硝酸アンモニウム肥料が土壌中で溶解すると、アンモニウムイオン(NH4+)と硝酸イオン(NO3-)に分かれますが、アンモニウムイオンは陽イオンとして土壌コロイドに吸着されやすく、移動性が低い一方、硝酸イオンは陰イオンで吸着されにくく、水とともに移動しやすい性質を持っています。 このため、通気性のよい砂質土壌や壌土では、硝酸態窒素が根の分布域に向かってスムーズに移動し、効率よく吸収されやすくなります。 一方で、重粘土で排水性の悪い土壌では嫌気的環境になりやすく、硝酸態窒素が微生物による脱窒で窒素ガスに還元され、大気中へ逃げてしまうため、肥料利用率が低下する恐れがあります。
硝安施用後は、土壌中の他物質と反応して難溶化することがほとんどなく、他の窒素肥料に比べて土壌ECと浸透圧を急速に高める特性があります。 その結果、一度に多量の硝安を表層に施用すると、種子の発芽阻害や幼苗の生育抑制、さらには「肥料やけ」と呼ばれる濃度障害が発生しやすくなるため、特に直播きや定植直後の株元では施用量と位置に細心の注意が必要です。 実際の圃場では、播種溝や植え穴から離した位置に条施・側条施肥を行い、根が伸びてきたタイミングで肥料帯に触れるように設計することでリスクを抑えることができます。


冬場の低温条件下では、土壌微生物の活動が弱まり、尿素や硫安のように一度アンモニア態から硝酸態への変換を必要とする肥料は肥効の立ち上がりが遅れがちです。 これに対し、硝酸アンモニウム肥料は初めから硝酸態窒素を含んでいるため、冬季でも施用後2日前後で視覚的な肥効が確認できるとされ、ハウス冬作野菜や露地越冬野菜の「ここ一番」の追肥として有効です。 ただし、肥効持続期間が20〜30日と短いことから、長期栽培では他の肥料や有機物との組み合わせでベースの地力を支え、硝安は収穫前後の品質調整や色づきの仕上げなど、ポイント施用に限定する考え方も有効です。


参考)窒素肥料の効果と働きは?種類・注意点・上手な使い方など徹底解…


環境面では、硝酸態窒素の流亡や脱窒による窒素損失が、水質汚濁や温室効果ガス(N2O)排出の要因となることが懸念されています。 施用量を作物の吸収能に合わせて適正化し、施用直後の過度な灌漑や大雨直前の散布を避けることは、単に肥料代の節約だけでなく、圃場周辺の環境を守るうえでも重要な技術です。 近年は、硝安をベースにしたコーティング肥料や、添加剤入りの「バリュー添加肥料」の研究も進んでおり、揮散や流亡を抑えながら窒素利用効率を高める工夫が提案されています。


参考)https://www.mdpi.com/2071-1050/15/3/2021/pdf?version=1674217105


硝酸アンモニウム肥料 他の窒素肥料との比較と使い分け

実際の施肥設計では、硝酸アンモニウム肥料だけでなく、硫安、尿素、硝酸カルシウムなど複数の窒素肥料をどう組み合わせるかが重要になります。 硫安(硫酸アンモニウム)は安価で持続性があり、施用後約1か月効きますが、硫酸根により長期多用すると土壌を酸性化させるため、石灰等でpH調整を行う必要があります。 尿素は窒素含量が高く価格も比較的安い上に化学的・生理的に中性で扱いやすい一方、土壌中でアンモニア態を経由し、硝酸態になるまでに時間を要するため、低温期の速効性は硝安に劣ります。
硝酸アンモニウム肥料は硝酸態とアンモニア態を同量含むことで、速効性と一定期間の持続性を両立しつつ、長期的な土壌酸性化を起こしにくい中性肥料として位置づけられます。 特に畑作物や葉菜類の追肥で、「すぐに葉色を戻したい」「収穫前に品質を一段引き上げたい」といった場面では、硝安の即効性が他肥料より有利に働きます。 一方、水田では硝酸態窒素の流亡が大きく利用率が低いため、基本的には基肥・中間追肥には向かず、根活性が落ちた後期に浅水条件で穂肥として限定的に使うなど、ピンポイントでの利用にとどめるのが妥当です。


施肥設計の一例として、基肥には有機質肥料や緩効性窒素肥料を用いて土壌中の窒素供給を安定させ、栄養成長期の分げつ確保や葉面積拡大には尿素や硫安などコストパフォーマンスに優れた肥料を使用し、仕上げのタイミングで硝安を少量ずつ追肥するという組み立て方があります。 こうすることで、硝安の欠点である肥効の短さと価格の高さを補いながら、必要な時期にだけ速効性を活かすことができます。 また、硝酸カルシウムアンモニウム肥料(CAN)のように、硝酸アンモニウムに石灰分を加えた資材を活用すれば、土壌酸性を抑えつつ窒素とカルシウムを同時補給できるため、根傷みを避けたい果樹や施設園芸にも応用できます。


参考)窒素肥料の効果と働きは?種類・注意点・上手な使い方など解説|…


興味深い点として、近年の研究ではアンモニア態と硝酸態を適度に組み合わせることが、イネなどの作物で窒素利用効率や収量を高める可能性が示されています。 例えば、アンモニア態:硝酸態を75:25にした処理で根量や分げつ数、光合成能力が向上し、収量増加につながった報告があり、硝安を含む配合肥料のブレンド比率を見直すヒントにもなります。 単なる「効きの早い肥料」としてではなく、他の肥料とのバランスの中で、作物や土壌に合った形で窒素形態を設計する視点が、今後ますます重要になっていくでしょう。


参考)https://www.mdpi.com/2223-7747/14/4/611


硝酸アンモニウム肥料 安全な保管と取り扱いのポイント

硝酸アンモニウム肥料は、窒素肥料として有用である一方、爆発性を持つ危険物として法規制の対象にもなっており、過去には世界各地で港湾倉庫などに保管された硝酸アンモニウムが大規模爆発事故を引き起こした事例が多数報告されています。 純粋な硝酸アンモニウムは通常条件では比較的安定ですが、高温にさらされた密閉空間や強い衝撃、摩擦、不純物の混入により爆発感度が高まり、起爆につながる危険があります。 肥料用途では爆発性を下げる目的で炭酸カルシウムや硝酸カルシウム、硝酸マグネシウムなどの無機塩を添加し、造粒して販売されるのが一般的ですが、それでも適切な保管と取扱いは不可欠です。
保管時には、まず不純物の混入を避けることが最優先事項となります。特に燃料油などの有機物との接触は厳禁であり、潤滑油や木材粉じん、穀物粉じんなどとも混在させないよう、容器や周辺環境を清潔に保つ必要があります。 理想的には袋や容器に密閉した状態で保管し、山積みやむき出しの状態は避けることで、異物の混入リスクを減らせます。 また、高い吸湿性と潮解性を持つため、湿度の高い環境下では固結して硬い塊になりやすく、砕いた際に粉じんが発生しやすくなる点にも注意が必要です。


参考)硝酸アンモニウムの保管方法


建物や配置の観点では、人の生活エリアや作業場所から十分に隔離し、可能であれば屋外の専用保管庫や、耐火性・不燃性の建築内で適切な換気システムを備えた場所に保管することが推奨されています。 可燃物や他の化学品から距離を置き、万一熱源が発生しても延焼や連鎖反応が起こりにくいレイアウトを取ることが、リスク低減の基本です。 また、規格外品や品質基準を満たしていない硝酸アンモニウムを大量に保管することは避け、製造者に回収・再処理してもらうことが望ましいとされています。


参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/6484-52-2.html


農家レベルでの扱いでも、倉庫内のストーブ・溶接機・電気配線不良など、思わぬ発火源が潜んでいることがあります。袋が破れてこぼれた肥料がトラクターのオイルやグリースと混ざったり、木製パレットに染み込んだりするとリスクが高まるため、こぼれた肥料は速やかに回収し、清掃を徹底することが重要です。 また、アルカリ性肥料と混合するとアンモニアガスを発生して窒素損失が増えるだけでなく、密閉容器内では圧力上昇と発熱を招く可能性があるため、混合散布は避け、施用タイミングをずらすなどの工夫が必要です。


硝酸アンモニウムの保管方法とリスク低減策の詳細は、損害保険会社などが公開している技術資料が参考になります。 これらでは、不純物管理・保管環境・建物構造の3つの観点から具体的な対策が整理されており、大規模施設だけでなく、中小規模の農業倉庫にも応用できるポイントが多く含まれています。

硝酸アンモニウムの保管リスクと対策をより詳しく整理した技術資料です(安全な保管と取扱いに関する部分の参考リンク)。


硝酸アンモニウムの保管方法|Swiss Re

硝酸アンモニウム肥料 持続可能な活用と次世代技術の可能性

硝酸アンモニウム肥料は、世界的には依然として尿素に次ぐ重要な窒素肥料として位置づけられており、特に小麦ジャガイモなど畑作面積の広い地域では消費量が多い一方、アジアでは爆薬原料としての利用が増え、肥料用途は減少傾向にあるという報告もあります。 この背景には、安全性への懸念や取扱い規制の強化だけでなく、尿素や複合肥料の普及と価格競争力の問題も影響しています。 しかし、環境負荷低減や窒素利用効率向上の観点から、硝酸アンモニウムを含む新しいタイプの肥料への期待はむしろ高まっています。
近年の研究では、硝酸アンモニウムを低温・低圧のプラズマ技術で土壌中に生成させ、ラディッシュトマトの生育を向上させる「グリーン合成」の試みなど、従来の工業生産とは異なるアプローチも検討されています。 また、硝安をベースとした液体肥料や、天然由来のハイドロアブソーベント(保水材)を組み合わせ、アンモニア揮散や窒素流亡を抑えながら乾燥条件下でのトウモロコシ生育を改善する技術も報告されており、従来は弱点とされてきた「流亡しやすさ」を逆手に取った設計が進んでいます。


参考)https://www.mdpi.com/2223-7747/12/4/728/pdf?version=1675749362


一方で、硝酸態窒素の地下水汚染や、脱窒による一酸化二窒素(N2O)排出といった環境問題は、欧州を中心に強く意識されており、施肥量や施肥時期を精密に管理する「プレシジョン農業」との組み合わせが今後の鍵になると考えられます。 ドローンやセンサーを用いて圃場内の窒素状態をリアルタイムに把握し、必要な場所・必要なタイミングにだけ硝安ベースの肥料を可変施肥することで、収量と品質を落とさずに投入量を削減する事例も出始めています。


日本の現場レベルでは、硝酸アンモニウム肥料を単体で大量に使うよりも、硝安系の化成肥料や養液栽培用配合肥料を通じて少量をうまく活かす方向が現実的かもしれません。 特に、冬季の葉菜類や施設園芸で「あと一歩、色と締まりを良くしたい」ときに、短期集中で使うことで、環境負荷を抑えつつ収益性を高める余地があります。 今後、爆発リスクをさらに抑えた新規製剤や、微量要素・生理活性物質を組み合わせた高機能硝安肥料が登場すれば、硝酸アンモニウム肥料の位置づけは再び変わっていく可能性があります。


硝酸アンモニウムを含む窒素肥料の環境影響と、土壌・作物の健康を両立させる使い方について詳しく解説した総説です(施肥設計と環境負荷低減に関する部分の参考リンク)。


Harnessing nitrate over ammonium to sustain soil health during monocropping




共立理化学研究所 パックテスト アンモニウム/アンモニウム態窒素 WAK-NH4-4 50回