農業の環境負荷対策を考えるうえで外せないのが、国が掲げる「みどりの食料システム戦略」です。
この戦略では、2050年までに化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減、化学肥料の使用量を30%低減、有機農業の面積を耕地の25%に拡大といった具体的な目標が示されており、今後の政策や補助金もこの方向で組まれていきます。
農家レベルの対策としては、栽培暦を見直し、既に他産地で実証されている環境負荷低減型の技術を導入することが推奨されています。
参考)より持続性の高い農法への転換について:農林水産省
例えば、被覆肥料を見直したり、病害虫が出にくい播種・定植時期へのシフトを検討することで、「同じ収量を、より少ない投入で達成する」方向への転換が求められています。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_follow_up/pdf/003_07_00.pdf
この「みどり」の方針は、単なる環境規制ではなく、燃料・肥料価格の高騰リスクに備える経営戦略でもあり、「先に環境負荷対策を進めておいた農家ほど、中長期のコスト面で有利になる」という見方も広がりつつあります。
参考)https://yatsunou.jp/pdf/academy17.pdf
(「みどりの食料システム戦略」と環境負荷低減の方向性を整理した公式資料です)
より持続性の高い農法への転換について|農林水産省
環境負荷対策の「入り口」として取り組みやすいのが、化学肥料・農薬の削減と土づくりを組み合わせた循環型農業です。
家畜ふん尿や作物残渣を堆肥化して畑に戻す、緑肥・カバークロップを導入して土壌の有機物や炭素を増やすといった取り組みは、土壌の保水性や団粒構造を改善し、肥料の流亡や土壌浸食も抑える効果があります。
意外なポイントとして、循環型農業は「輸送による環境負荷の削減」にもつながります。
参考)Re+ │ 地域と楽しむ、挑戦する。新しい農業のカタチをつく…
地域で出た有機資源を地域内で循環させることで、遠方からの肥料・飼料輸送に伴うCO2排出を減らしつつ、資材費の外部流出を防ぎ、地域経済の循環を強める効果があると指摘されています。
参考)農業による環境問題とは?持続可能な農業を目指す循環型農業を紹…
また、緑肥・カバークロップは、土壌中の炭素を固定し、亜酸化窒素排出を抑える技術としても国際的に評価されています。
例えば、主作物の列間や休閑期にカバークロップを植えることで、雑草抑制や土壌流亡防止と同時に、温室効果ガス削減にも寄与できるため、「環境負荷対策」と「収量安定・コスト削減」を両立しやすい手段になっています。
循環型農業のメリットや事例、導入時の注意点が整理された解説記事です(堆肥・緑肥・地域循環のイメージづくりに有用)。
農業の温室効果ガス排出は、世界全体の排出量の1〜2割を占めるとされ、水田からのメタンや施肥に伴う亜酸化窒素、家畜からのメタンなどが大きな要因です。
日本国内でも、クリーン農業やIPM、適正施肥の徹底により、秋まき小麦で46%減、てん菜で90%減という温室効果ガス削減効果が報告されており、「肥料を減らす=収量が落ちる」という従来のイメージを覆すデータが出ています。
具体的な対策として、以下のような技術が注目されています。
参考)農業の脱炭素化とは?温室効果ガスの種類や具体的な取り組みにつ…
特にバイオ炭は、「農業廃棄物の処理」と「環境負荷低減」と「収益機会」を同時に実現できる技術として、J-クレジット制度などでも取り上げられています。
参考)https://www.env.go.jp/content/000209418.pdf
一定の要件を満たしたバイオ炭施用は、温室効果ガス削減量としてクレジット化できる可能性があり、今後は「炭を畑に入れること自体が新たな収入源になる」ケースも増えると見込まれています。
農業分野の温室効果ガス削減策と、カーボンファーミング・バイオ炭など脱炭素化技術を整理した解説(基礎知識と最新動向の参考)。
環境負荷というと温室効果ガスが注目されがちですが、肥料・農薬の流出やプラスチック資材も大きなテーマです。
特に被覆肥料のプラスチック殻は、土壌中に残留し、水路や海洋への流出が課題となっており、JA全農や肥料メーカーは、生分解性樹脂や減プラ肥料、ペースト肥料など、環境配慮型肥料への切替を進めています。
現場レベルでできる対策としては、次のようなポイントがあります。
参考)環境問題など社会的課題への対応
意外な点として、肥料袋そのものの原料を再生樹脂に置き換えるなど、「包装材の環境負荷」を減らす取り組みも進んでおり、資材選びの段階で環境負荷の小さい商品を選ぶことが、農家の新たな「選択眼」として問われつつあります。
また、環境保全型農業の一環として石灰窒素などを活用し、雑草防除・土壌病害対策と化学農薬低減を両立させる技術も整理されており、「どの資材をどの場面で使うか」の引き出しを増やすことが重要です。
参考)環境にやさしい農業資材を知ろう 持続可能な農業のために生産者…
環境保全型農業の考え方と、化学肥料・化学農薬の低減技術の整理に役立つ技術情報です(土づくり・低投入技術の参考リンク)。
ここ数年で大きく変わりつつあるのが、「環境負荷低減の見える化」と「ネイチャーベースの解決策」を組み合わせる流れです。
農林水産省の「農産物の環境負荷低減に関する評価・表示ガイドライン」に基づき、化学肥料・化学農薬・化石燃料の使用低減、バイオ炭施用、冬期湛水などの取組をポイント化し、星マークなどで表示する仕組みが整備されつつあります。
この「見える化」に参加すると、単に環境に良いことをして終わりではなく、次のような経営的メリットが期待できます。
参考)環境負荷低減の「見える化」(みえるらべる)に取り組んでみませ…
さらに、ネイチャーベースソリューション(自然を活用した解決策)という視点では、単にCO2削減だけでなく、生物多様性や景観保全も含めた「多面的機能」をどう高めるかが重視されています。
参考)農業における環境負荷低減の手法とネイチャーベースの可能性 :…
例えば、カバークロップや在来種を活かした生け垣の導入は、土壌保全・炭素固定・天敵保護・景観向上を同時に実現できる可能性があり、「一本の木や一本の草に、どれだけ多くの機能を持たせられるか」という発想が、今後の農業デザインのキーワードになりつつあります。
見える化の仕組みや、農業分野での環境負荷低減とJ-クレジットとの関係を整理した環境省の資料です(評価項目・ポイント制の理解に有用)。
農産物の環境負荷低減の見える化と農業分野のJ-クレジット制度
環境負荷低減の見える化(みえるらべる)の概要と、地域での導入事例を紹介する県の情報ページです(現場導入のイメージづくりの参考)。
環境負荷低減の「見える化」(みえるらべる)に取り組んでみませんか|いばらき農業アカデミー