病原性微生物の例と種類を農業で知る

農業に深刻な被害をもたらす病原性微生物にはどんな種類があるのか。糸状菌・細菌・ウイルス・ファイトプラズマなど具体的な例と特徴、農作物への感染経路や効果的な防除対策まで詳しく解説します。病原性微生物から作物を守るために知っておくべきことは?

病原性微生物の例と種類

農業における主な病原性微生物
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糸状菌(カビ)

植物病害の約75~80%を占め、うどんこ病・灰色かび病・べと病などを引き起こす最も多い病原体

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細菌・ファイトプラズマ

軟腐病や萎凋病、葉化病などを発症させ、感染スピードが速く被害が広がりやすい

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ウイルス・ウイロイド

モザイク病や萎縮病などを引き起こし、昆虫媒介で伝染するため防除が困難

病原性微生物の例と糸状菌の具体的な病害


農業において最も多く発生する病原性微生物は糸状菌で、日本の植物病害の約75~80%を占めています。糸状菌は菌糸と呼ばれる管状の細胞から構成される「カビ」のことで、胞子によって増殖します。代表的な糸状菌による病害には、イネいもち病、ムギ赤かび病、リンゴの黒星病、キュウリのべと病、メロンのべと病、野菜や花の灰色かび病などがあります。


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糸状菌は高温多湿の環境を好み、特にジメジメと蒸し暑い梅雨の時期や秋の長雨の時期に繁殖しやすくなります。感染は主に胞子によって行われ、風や雨によって飛ばされた胞子が健康な植物に付着し、そこで発芽して植物の体内に菌糸を侵入させます。体内で増殖した菌糸はやがて植物の表面に現れ、新たな胞子を大量に作り、再び風雨によって飛散して感染を広げていきます。


参考)病害虫の5大分類|タイプごとの特徴と基本対策

日本では菌類による病害は808種類・変種・分化型で7,025株が確認されており、中でもBotrytis cinereaやSclerotium rolfsiiなどは200種類以上の植物を侵す多犯性の病原として知られています。トマト斑点病も糸状菌が原因の代表的な病害例です。


参考)https://www.jsmrs.jp/journal/No29_2/No29_2_79.pdf

病原性微生物の例と細菌性病害の特徴

細菌(バクテリア)は1個の細胞からなる単細胞微生物で、感染スピードが速く被害が広がりやすいのが特徴です。細菌による植物病害は日本で189種・亜種・pathovarが確認されており、全体の約3.5%を占めます。農作物の萎凋、軟腐などの症状を引き起こし、特に軟腐病は野菜類で深刻な被害をもたらします。


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軟腐病はアブラナ科のハクサイやダイコン、ユリ科のタマネギ、ナス科のジャガイモ、セリ科のニンジンなど60種類以上の作物で発生します。Pseudomonas syringaeは植物病原細菌の代表例で、60以上のpathovarを持ち、トマトの斑点病、豆類のハロー・ブライトなどを引き起こします。細菌性病害の防除には抗生物質が使用されることもありますが、農業分野では人間や動物に比べて使用量が少なく、大部分がすぐに洗い流されて環境への影響が懸念されています。


参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11054394/

細菌・放線菌による病害では91種・亜種・pathovarで4,033株が確認されています。細菌は細胞壁を持ち、ファイトプラズマとは構造的に異なる特徴があります。


参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010870738.pdf

病原性微生物の例とファイトプラズマによる葉化病

ファイトプラズマは細胞壁を持たないマイコプラズマ様微生物で、植物に萎縮病や葉化病などを引き起こす病原体です。大きさは約0.1~0.2µmと非常に小さく、イネなどの作物を萎縮させ枯らすほか、1,000種類以上の植物に病気を引き起こし、収穫を皆無にするなど農業に甚大な被害を与えます。


参考)https://www.mc-croplifesolutions.com/suitozai/assets/pdf/oryze/dr-iwata/chapter_01_02.pdf

ファイトプラズマによる葉化病は、がく・花弁・雄しべが葉に、雌しべが茎に置き換わってしまう特徴的な症状を示します。この病気は「ファイロジェン」と呼ばれる病原性因子が植物のMADS転写因子を分解することで発症します。興味深いことに、ファイトプラズマが感染して花が緑色になったアジサイは、病気だと判明する以前は貴重な園芸品種として流通していた歴史があります。


参考)病原性因子の標的選択性を決める新たな仕組みを発見 ——葉化病…

ファイトプラズマはヨコバイやウンカなどの昆虫によって媒介されるため、防除には媒介昆虫の管理が重要です。RpoDという遺伝子がハウスキーピングな遺伝子に加えて、病原性や宿主相互作用に関わる様々な遺伝子の発現を制御していることが明らかになっています。


参考)ファイトプラズマ|東京大学 植物病理学研究室

ファイトプラズマの病原性因子と遺伝子制御メカニズムについての詳細(東京大学植物病理学研究室)

病原性微生物の例とウイルス性病害の伝染経路

植物ウイルスは日本で330種が確認されており、全体の約6.1%を占めます。ウイルスは形態が球状や紐状など様々で、例えばキュウリモザイクウイルスは直径約30nmの大きさです。ウイルス性病害の約90%は一本鎖RNAで構成されており、モザイク病や萎縮病などを引き起こします。


参考)歴史に残る植物の病気3 - 公益財団法人 園芸植物育種研究所

ウイルスの主な伝染経路は昆虫媒介で、アブラムシやウンカなどが植物に吸汁する際に他の植物へと伝染します。防除対策としては、媒介者である昆虫の除去が第一で、ウンカやアブラムシをしっかり防除して作物への吸汁行動が起こらないようにすることが重要です。ハウス栽培であれば、防虫網を張って害虫の侵入を阻止することも有効な対策となります。


参考)農作物を病気から守るために。伝染性の病原体に植物が感染するメ…

土壌伝染性ウイルス病も存在し、施設栽培において常時発生する病害として問題となっています。ウイルス性病害は一度感染すると植物体内のウイルスを完全に除去することが困難なため、予防的な対策が特に重要です。種子を介して伝染する種子伝染も重要な伝染経路の一つで、種子生産圃での病害防除の徹底や、育苗前の塩水選による健全種子の選別、種子消毒が必須条件となります。


参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9785281/

土壌伝染性ウイルス病対策技術についての研究(農研機構)

病原性微生物の例と土壌病害の防除対策

土壌病害の防除には、化学的防除(農薬による土壌消毒)、物理的防除(太陽熱消毒)、耕種的防除(残渣の撤去、耐病性品種や接ぎ木の導入)など複数の対策を組み合わせることが重要です。特に効果的な耕種的防除として輪作があり、病原菌にかからない異なる種類の作物を毎年替えて栽培することで病原菌の密度を低下させ発病を防ぎます。


参考)土壌病害の効果的な防除法~栽培管理や微生物を利用した防除~|…

コムギ立枯病では、コムギ以外の作物を3年間栽培した後にコムギを栽培すれば発病が抑えられます。カボチャ立枯病やジャガイモそうか病の発病抑制には、トウモロコシやヘアリーベッチを導入した輪作が効果的です。土壌還元消毒や太陽熱消毒と併用することで、防除効果をさらに高めることができます。

アブラナ科根こぶ病やキュウリのホモプシス根腐病の発病圃場では、植え付け前に石灰資材を用いて土壌pHを7.5付近にすることで発病を抑制できます。また、土壌燻蒸消毒後にハウス側面の畝肩にネギやニラを10cm間隔で植えることで、萎凋病の発生が抑制される事例も報告されています。耐病性品種や抵抗性台木を利用することも有効で、トマト、ナス、キュウリ、スイカ、メロンなどでは接木苗を用いる方法が一般的です。

発病抑止土壌という特殊な土壌も注目されており、病原菌が存在するにもかかわらず発病が抑制される自然の生物的防除システムです。これには①病原菌が定着できない土壌、②病原菌は定着するが発病が起きない土壌、③病原菌が定着し初めは激しい発病を見るが宿主作物の連作に伴って発病が激減する土壌の3つのタイプがあります。豚ぷん堆肥には多くの種類の微生物が生息し、その拮抗作用で病原性菌の活動が抑制される効果も確認されています。


参考)https://www.yanmar.com/jp/agri/agri_plus/soil/articles/02.html

土壌病害の栽培管理や微生物を利用した効果的な防除法について(iPLANT)

病原体の種類 大きさ 主な病害例 伝染経路
糸状菌 菌糸を形成 うどんこ病、灰色かび病、べと病 胞子による風雨媒介
細菌 単細胞微生物 軟腐病、斑点病 水媒伝染、昆虫媒介
ファイトプラズマ 0.1~0.2µm 萎縮病、葉化病 昆虫媒介(ヨコバイ等)
ウイルス 約30nm程度 モザイク病、萎縮病 昆虫媒介、種子伝染




植物病原性微生物研究法 遺伝子操作を含む基礎と応用