防除の読み方と意味は?駆除との違いや農業のIPMと4つの防除

「防除」の読み方は「ぼうじょ」です。駆除との決定的な違いや、農業で必須のIPM(総合的病害虫管理)について解説します。物理的・化学的・生物的・耕種的な4つのアプローチを正しく理解していますか?

防除の読み方と基本

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防除(ぼうじょ)の基礎知識
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正しい読み方

「ぼうじょ」と読みます。「防ぐ(ふせぐ)」と「除く(のぞく)」を合わせた言葉です。

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駆除との違い

駆除は「殺して除く」こと。防除は「予防」+「駆除」の広い意味を持ちます。

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IPMの重要性

環境に配慮し、複数の方法を組み合わせる「総合的病害虫管理」が主流です。

農業に携わる方であれば、必ず耳にする言葉が「防除」です。しかし、新規就農者や家庭菜園を始めたばかりの方の中には、正確な読み方や「駆除」との厳密な違いについて曖昧なまま作業をしている方も少なくありません。この記事では、防除の読み方から始まり、現代農業においてスタンダードとなっているIPM(総合的病害虫・雑草管理)の考え方、そして具体的な4つの手法について深掘りしていきます。単なる言葉の定義だけでなく、歴史的背景や現場で役立つ実践的な知識も網羅していますので、日々の農作業の質を高めるための参考にしてください。


防除と駆除の違いと目的


「防除」という漢字は、「防(ふせ)ぐ」と「除(のぞ)く」という2つの文字から成り立っています。読み方は「ぼうじょ」であり、その文字通り、「被害を未然に防ぐ(予防)」ことと、「発生した害虫や病気を排除する(駆除)」ことの両方を含んだ概念です 。


参考)害虫駆除キクノヨ ブログ: 駆除と防除の違い

一方でよく似た言葉である「駆除(くじょ)」は、すでに発生してしまった害虫や害獣を、薬剤などを使って殺したり追い払ったりする行為そのものを指します。つまり、駆除は防除という大きな枠組みの中に含まれる「事後対策」の一つに過ぎません。農業の現場において、害虫が発生してから慌てて農薬を撒くのは「駆除」ですが、発生しにくい環境を整えつつ、発生した場合に適切処置するのは「防除」となります。


この違いを理解することは、農作物の収益を守る上で極めて重要です。なぜなら、害虫や病気が蔓延してからの「駆除」では、すでに作物にダメージが入っていることが多く、商品価値が下がってしまうからです。「防除」の目的は、単に虫を殺すことではなく、農作物の被害を経済的に許容できるレベル以下に抑え込む(管理する)ことにあります。これを「経済的被害許容水準」と呼びますが、完全にゼロにすることを目指すのではなく、コストと労力のバランスを見ながらコントロールしていく姿勢が求められます。


以下の表に、防除、駆除、予防の違いを整理しました。


用語 読み方 意味と特徴 実施タイミング
防除 ぼうじょ 予防と駆除を包括した管理行為。被害を抑えるための総合的な対策。 通年(計画的)
駆除 くじょ 有害生物を殺滅・排除すること。直接的な攻撃。 発生後(対症療法)
予防 よぼう 被害が出る前に侵入や発生を防ぐ措置。 発生前

シロアリ対策などでも同様の使い分けがされており、「防除施工」といえば、今いるシロアリを倒すだけでなく、今後数年間にわたって寄せ付けないための土壌処理や木部処理までを含みます 。農業においても、「防除暦(ぼうじょごよみ)」という言葉がある通り、年間のスケジュールとして計画的に組み込むことが成功の鍵となります。


参考)駆除方法の知識01(駆除と予防の違い)

シロアリ防除における「予防」と「駆除」の定義について解説されています。


参考リンク:シロアリの「防除」とは? 駆除・予防との違いや作業の流れを解説

防除における農業のIPMと重要性

現代の農業現場で、防除を語る上で避けて通れないのがIPM(Integrated Pest Management:総合的病害虫・雑草管理)という考え方です 。かつては、害虫が出たら強力な化学農薬を散布して全滅させるという手法が一般的でしたが、これには多くの弊害がありました。


参考)IPM防除(総合的病害虫・雑草管理)とは? 農薬だけに頼らな…

  • 害虫が薬剤に対する抵抗性(耐性)を持ってしまい、薬が効かなくなる。
  • 天敵となる益虫(クモやテントウムシなど)まで殺してしまい、かえって害虫が増える(リサージェンス)。
  • 環境汚染や作業者の健康被害、残留農薬への懸念。

こうした問題に対応するために生まれたのがIPMです。IPMとは、利用可能なすべての防除技術を経済性を考慮しつつ適切に組み合わせ、病害虫・雑草の密度を経済的な被害が生じるレベル以下に制御するという管理システムです 。


参考)鹿児島県/IPM(総合的病害虫・雑草管理)とは

IPMの最大のポイントは、「農薬を全く使わない」わけではないという点です。化学農薬も有力な選択肢の一つとして保持しつつ、まずは品種改良された病気に強い苗を使ったり(耕種的防除)、防虫ネットを張ったり(物理的防除)といった、環境への負荷が低い方法を優先的に採用します。それでも被害が許容範囲を超えそうな場合にのみ、適切なタイミングで必要最小限の農薬を使用します。


農林水産省もこのIPMを強く推進しており、導入することで以下のようなメリットが生まれます。


  1. 防除効果の安定化: 複数の手段を組み合わせるため、特定の方法が効かない場合のリスク分散になります。
  2. コスト削減: 無駄な農薬散布が減ることで、資材費や労力を削減できる可能性があります。
  3. 環境保全と安全安心: 環境負荷を低減し、消費者に対して減農薬栽培などの付加価値をアピールできます。

IPMは難しい理論ではなく、「観察」が基本です。毎日畑を観察し、害虫の発生状況(予察)を把握することからすべてが始まります。


IPMの定義と具体的な実践例について、農林水産省の指針に基づいた解説があります。


参考リンク:農林水産省 - 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針

防除の種類と物理的・化学的アプローチ

IPMを実践するためには、どのような「手札」があるかを知る必要があります。防除技術は大きく分けて以下の4つの種類に分類されます 。これらをパズルのように組み合わせることが、プロの農業従事者の腕の見せ所です。


参考)https://hesodim.or.jp/north/11/

  • 耕種的防除(こうしゅてきぼうじょ)

    農業の日常作業の中で行う防除です。最も基礎的で重要な部分です。


    • 抵抗性品種の利用: 病気に強い品種を選ぶこと。
    • 輪作(りんさく): 同じ科の野菜を連作せず、異なる作物を順番に植えることで、土壌中の特定の病原菌や害虫の増殖を防ぎます。
    • 土作り: 排水性を良くしたり、適切な施肥で健康な作物を育てることで、病害虫に対する抵抗力を高めます。
    • 残渣(ざんさ)処理: 病気にかかった葉や実を畑の外に持ち出して処分し、感染源を断ちます。
  • 物理的防除(ぶつりてきぼうじょ)

    物理的な力や資材を使って、害虫の侵入を防いだり駆除したりする方法です 。


    参考)物理的防除法とは/茨城県

    • 防虫ネット・マルチ: 物理的に遮断して、虫が作物に触れないようにします。
    • 光(色)の利用: アブラムシが嫌うシルバーマルチを使ったり、黄色い粘着板で誘引して捕獲したりします。
    • 熱利用: 太陽熱消毒や温湯消毒で、種子や土壌中の病原菌を死滅させます。
    • 手取り: 原始的ですが、見つけた芋虫を手で捕殺するのも確実な物理的防除です。
  • 生物的防除(せいぶつてきぼうじょ)

    生態系の力を借りて害虫を制御する方法です。


  • 化学的防除(かがくてきぼうじょ)

    化学合成された農薬(殺虫剤殺菌剤除草剤)を使用する方法です 。


    参考)農薬の歴史:農薬はいつから、どのように使われてきたのか - …

    • 速効性が高く、広範囲に効果を発揮するため、大発生時のレスキューとして非常に強力です。
    • IPMの観点からは、選択性(特定の害虫にだけ効き、天敵には影響が少ない薬剤)のある農薬を選んだり、スポット散布にとどめるなどの工夫が求められます。

    これらの特徴を理解し、例えば「予防として耕種的・物理的防除を行い、発生初期には生物的防除で対応し、爆発的に増えそうなら化学的防除で叩く」といった戦略を立てることが大切です。


    防除の歴史から見る害虫対策の変遷

    防除の技術は、人類が農業を始めたときから続く「害虫との戦いの歴史」そのものです。この歴史を知ることは、なぜ今IPMが必要とされているのか、その本質を理解する助けとなります。


    江戸時代、日本の防除は主に「祈祷」や「物理的・耕種的な工夫」に頼っていました。「虫送り」などの行事は、害虫を追い払うための呪術的な意味合いが強いものでしたが、一方で非常に理にかなった技術も生まれていました。その代表例が「注油(ちゅうゆ)法」です。これは、水田に鯨油(げいゆ)などを注いで油膜を作り、ウンカなどの害虫を払い落として油で窒息させるという方法です 。これは現代でいう物理的防除の一種であり、当時の農民の知恵の結晶でした。


    参考)日本農薬のあゆみ|日本農薬設立90周年記念サイト

    明治時代に入ると、政府主導で近代的な防除体制が敷かれ始めます。特筆すべきは1896年(明治29年)に制定された「害虫駆除予防法」です。この法律は非常に強力で、「害虫が発生する恐れがある場合、行政が農民に強制的に防除(当時は主に駆除作業)を命じることができる」という内容でした 。命令に従わない農民には罰則さえ設けられていました。これは、当時の日本がいかに農業生産の安定を国家の至上命題としていたかを物語っています。この時代、「防除」は個人の選択ではなく、国民の義務だったのです。


    参考)https://www.kuboderafarm.com/post/%E5%AE%B3%E8%99%AB%E3%81%AE%E8%AA%95%E7%94%9F%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2

    戦後になると、DDTやBHCといった有機塩素系の強力な化学農薬が登場し、劇的な効果を上げました。一時は「これで人類は害虫に勝利した」とさえ思われましたが、1960年代の沈黙の春』(レイチェル・カーソン著)による告発などを経て、環境汚染や生態系破壊への懸念が高まりました。害虫を「根絶(Eradication)」しようとすればするほど、より強い薬剤が必要になり、環境への負荷が増すというジレンマに直面したのです 。


    参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2622975/

    この反省から、害虫を完全にゼロにするのではなく、「共存しつつ管理する(Control)」という現代のIPMの思想へとシフトしてきました。かつての「徹底的な駆除」から、生態系のバランスを利用した「賢い防除」へ。防除の歴史は、人間が自然を力でねじ伏せようとした時代から、自然の仕組みを理解し調和しようとする時代への精神的変化のプロセスでもあります。


    防除の効果を高める時期と予防ポイント

    防除の効果を最大化するためには、「いつやるか(適期防除)」が最も重要です。どんなに優れた防除方法でも、タイミングを逃せば効果は半減どころか無意味になってしまいます。


    まず、「発生予察(はっせいよさつ)」情報の活用が不可欠です。都道府県の病害虫防除所などが発表する予察情報は、その年の気候や過去のデータに基づき、どの時期にどんな病害虫が発生しやすいかを予測したものです。これをチェックすることで、「もうすぐアブラムシが増える時期だから、今のうちに粘着板を設置しよう」といった先手の対策(予防)が可能になります。


    また、害虫のライフサイクルに合わせた防除も重要です。


    例えば、多くの害虫は「卵」や「蛹(サナギ)」の状態では薬剤が効きにくい傾向があります。幼虫が孵化した直後の、薬剤抵抗性が低く弱い時期を狙って防除を行うのが鉄則です。これを逃して成虫になってしまうと、硬い殻に守られたり飛翔能力を持ったりして、防除が格段に難しくなります。


    具体的な予防のポイントとしては、以下の3つを意識してください。


    1. 初期発見・初期防除:

      畑の見回りを日課にし、葉の裏などをこまめにチェックします。「1匹いたら100匹いると思え」という言葉があるように、最初に見つけた数匹を確実に処理(テデトール=手で取るなど)することで、その後の爆発的な増殖を抑えられます。


    2. 環境のクリーンアップ:

      畑の周りの雑草は害虫の隠れ家になります。適切な除草や、収穫後の残渣をすぐに片付けることは、次作への感染源を断つ最もコストのかからない防除です。


    3. 適切な栽培密度:

      「もったいないから」と密植しすぎると、風通しが悪くなり湿度が上がります。これはカビ系の病気や害虫にとって天国のような環境です。適切な株間を確保することは、立派な耕種的防除です。


    防除は、何か特別な資材を買ってくることだけではありません。日々の観察と、作物が健康に育つ環境を整えてあげることこそが、最強の防除と言えるでしょう。


    病害虫の発生時期を予測する「発生予察」の仕組みと、地域の防除所情報の活用について詳しく書かれています。


    参考リンク:農林水産省 - 病害虫発生予察情報




    だれでもできる果樹の病害虫防除: ラクして減農薬