ウイルスフリー苗を使うと2年目から効果が半減します。
ウイルスフリー苗(メリクロン苗)は、サツマイモの生長点先端0.3~0.5mm部分の組織を無菌状態の試験管で培養して作られる、ウイルスに感染していない苗のことです。
つまり茎頂培養です。
サツマイモは種子がほとんど取れないため、つるを挿して増殖する栄養繁殖を長年続けてきました。この栽培方法では、アブラムシなどの害虫がウイルスを媒介し、世代を経るごとにウイルス感染が蓄積されていきます。その結果、帯状粗皮病や退色症といった品質劣化が進み、収量も低下してしまうのです。
茎頂培養では、植物体がウイルスに感染していても茎頂部分だけはウイルス粒子が侵入していないという特性を利用します。これは外部から感染したウイルスが細胞間連絡で広がる速度よりも、茎頂分裂組織での細胞分裂速度のほうが速いためです。
培養された無菌の苗は、専用の培養室(25℃、16時間日長)で増殖され、培地の栄養素を吸収して生長します。その後、外部と隔離された網室で順化・鉢上げなどの作業を経て、農家に販売される商品苗として大量増殖されます。
結論は茎頂培養技術による無病苗です。
この技術は1950年代にフランスのモレルらがダリアで成功させ、日本では1957~1969年に農事試験場のグループがサツマイモ、ジャガイモ、イチゴなどで実用技術を確立しました。現在では種苗メーカーが優良系統を選抜し、安定した品質のウイルスフリー苗を提供しています。
タキイ種苗の公式サイトでは、サツマイモの茎頂培養とウイルスフリー苗の作り方について詳しく解説されています
ウイルスフリー苗を使用すると、サツマイモの収量が20~30%増加することが各種試験で確認されています。例えば茨城県の試験では、10aあたりの収量が通常苗の236本に対してウイルスフリー苗では採苗数が大幅に増加し、全調査期間で2.84倍の差が出ました。
品質面での改善効果も顕著です。
📊 品質向上の具体的効果
- 帯状粗皮病(イモに帯状の退色したしわが入る症状)の発生がほとんどなくなります
- 退色症が消失し、表皮の紅色が濃く鮮やかになります
- イモの曲がりが少なく、形状が安定してA品率が向上します
- イモが短めになり、規格内商品の比率が高まります
- 貯蔵性が良くなり、長期保存時の腐敗が減少します
これらの効果は、サツマイモ斑紋モザイクウイルス(SPFMV)の強毒系統による帯状粗皮病を防げるためです。ウイルス感染株では葉にモザイク症状や萎縮が発生し、光合成能力が低下して収量減少につながっていました。ウイルスフリー化により、作物本来の能力が発揮されるということですね。
千葉県のサツマイモ産地では、出荷品の約8割がウイルスフリー苗から得た作物となっており、市場評価の向上に貢献しています。肥沃な圃場でウイルスフリー苗を利用した場合、つる重や上いも重が大幅に増加することが実証されています。
ただし多収年には塊根肥大が旺盛すぎて、商品性の劣る大いもや丸いもが増加する場合もあります。
栽培管理での注意が必要です。
カネコ種苗の商品ページでは、ウイルスフリー苗の具体的な収量増加データと品質向上効果が紹介されています
ウイルスフリー苗の最大の弱点は、栽培地でのウイルス再感染です。圃場で栽培すると1作終了時にはほとんどの株がウイルスに再汚染されてしまいます。
研究報告によると、露地栽培1作後にはほぼ全ての株がウイルスに再感染すると推察されています。再感染後1作目には症状は認められませんが、2作目以降に帯状粗皮病の症状が現れ始めます。
つまり2作目が転換点です。
ウイルスフリー苗の使用年限は約2年とされており、効果は経年的に減少していきます。作物や品種により効果の差はありますが、年を経るごとにその効果は確実に薄れていくのです。
再感染の主な原因は、アブラムシ等のウイルス媒介害虫です。特にモモアカアブラムシがウイルスを保毒し、苗や植物を吸汁することで感染が広がります。農薬による防除を徹底しても、一般圃場でのウイルス感染防止は困難なのが現実です。
このため、利用が進んでいるサツマイモ産地では毎年または2年に1回ウイルスフリー苗に更新しているところが多くなっています。毎年更新がベストですが、コスト面を考慮して2年サイクルとする農家もあります。どういうことでしょうか?
熊本県の研究では、ウイルスフリー後2作目で初作を遠隔地で行うと帯状粗皮病の発症がなく良質で収量性も高く、隔離効果が確認されました。しかしウイルスフリー後3作目以降は効果が明らかに低下します。
これが原則です。
e-種やのサイトでは、ウイルスフリー苗の再感染メカニズムと効果減少について専門的に解説されています
ウイルスフリー苗の購入は予約制が一般的です。10~11月に翌年の苗の本数と納入時期を決めて予約します。北海道では4月中下旬に切り苗を購入し、苗注文は早めに行う必要があります。
価格は通常苗の数倍程度で、100本束で1万円前後、20本束で1,500円~2,000円程度が相場です。ウイルスフリー苗は品種によって価格が異なり、登録品種(PVP)は育成者権が設定されているため、やや高めになります。
増殖方法には二段階の工程があります。
🌿 増殖の流れ
- 一次増殖:購入したポット苗を親株床に植え付けます(2月頃に準備)
- 二次増殖:親株から採苗し、増殖床で育苗します
- 採苗タイミング:苗が30cm以上に伸びたら数節を残してカット
- 挿苗方法:2節ずつにカットし、1節を土に植え込みます
千葉県の推奨方法では、ウイルスフリーポット苗から増殖床の栽植密度を調整することで、採苗数および苗質を最適化できます。1ポットから7~8本のつるが取れるため、計画的に増殖すれば必要な苗数を確保できます。
ただし2022年4月1日からの種苗法改正により、登録品種の種苗から自家用栽培向けに増殖する場合は育成者権者の許諾が必要です。サツマイモでは種芋、ポット苗、採苗したつる苗が対象となるため、登録品種の場合は許諾手続きを確認してください。
増殖時の注意点として、病害虫のいない苗床を使用し、暖かく保温して十分に潅水することが重要です。採苗時は地面から5cm以上離れた位置で行い、地際部からの基腐病感染を防ぎます。
これは必須です。
北海道立総合研究機構のさつまいも栽培マニュアルでは、ウイルスフリー苗の増殖方法が詳しく解説されています(PDF)
ウイルスフリー苗を最大限に活用するには、適切な栽培管理が不可欠です。苗の活着には土壌水分が必要なので、畝が乾いている場合は植え付け後に水やりをします。
条件が良ければ3~5日で活着します。
植え付け方法は地域や目的により異なります。
🔧 植え付け方法の選択
- 水平植え・改良水平植え:苗の各節に子芋をつけて収量確保する方法で、暖地の露地育苗で大苗確保が可能な場合に採用
- 釣針植え:苗の先端を地上に出し、中間部を土中に埋める方法で、寒冷地や苗が小さい場合に適しています
- 植え付け深さ:10cm程度の穴を掘り、つるの3節ほどが埋まるように30cm間隔で植えます
苗は長く持たないため、植え付け日の直前に購入することを推奨します。購入後は蒸れを防ぐため箱から出し、薄暗い場所へ立てて置いてビニールで被います。1週間程度は保管可能ですが、葉が黄ばんで落葉すると収量が極端に少なくなります。
ウイルス再感染を遅らせるための対策も重要です。アブラムシなどの害虫防除を定期的に行い、ウイルス媒介昆虫の密度を低く保ちます。採苗時にはウイルスフリー苗と種いも苗で使用するハサミを分け、交差汚染を防ぎます。
肥沃圃場ではウイルスフリー苗の生育が旺盛になりすぎる場合があります。その場合は肥料を控えめにし、つる返し作業を実施して余分なつるの発根を防ぎます。
当店ではつる返しを推奨していますね。
サツマイモ基腐病対策として、茎頂培養苗(バイオ苗)を導入して更新する際も、病原菌感染の可能性は皆無ではないため、必ず苗消毒を行ってから健全な苗床に挿苗してください。苗全体を消毒液(ベンレート水和剤500倍希釈など)で30分間浸漬する処理が効果的です。
千葉県のサツマイモ栽培技術指針では、ウイルスフリー苗の管理方法と再汚染対策が詳細に記載されています(PDF)
ウイルスフリー苗の導入には初期投資が必要ですが、収量増と品質向上により投資回収が可能です。収量が20~30%増加することから、10aあたりの増収分を計算すると経済効果が明確になります。
全国の10a当たり平均収量は2,240kgですが、ウイルスフリー苗では2,800kg前後まで向上する計算になります。増収分560kgに市場価格を掛けると、苗代の差額を十分にカバーできます。さらにA品率が向上すれば、単価の高い規格品の比率が増えて収益性が高まります。
千葉県は全国3位の作付面積4,040ha、産出額177億円で全国2位を誇るサツマイモ産地です。県内では出荷品の約8割がウイルスフリー苗から生産されており、市場での高評価を得ています。種いもを経ないため短期間で供給できるメリットもあります。
茨城県や鹿児島県などの主産地でも、ウイルスフリー苗の利用が一般化しています。主産地の農家の経営面積は2~3haで、サツマイモの作付け割合は60~80%ですが、ウイルスフリー苗の定期更新により安定生産を実現しています。
産地での導入形態は様々です。
💡 産地での活用パターン
- 毎年更新型:コストはかかるが常に最高の効果を維持できる方式
- 2年更新型:コスト削減と効果のバランスを取った現実的な方式
- 遠隔地採種:初作を病害虫の少ない遠隔地で行い、隔離効果を高める方式
でん粉工場では「こないしん」や「みちしずく」のウイルスフリー苗の育苗や健全種いもを生産し、生産者へ提供する体制を整えています。公的機関が苗供給体制を支援することで、産地全体の品質向上に貢献しています。
家庭菜園でも毎年ウイルスフリー苗を購入することがベストです。コスト面では割高に感じるかもしれませんが、出来たものの品質の良さを実感できるでしょう。近年は種苗メーカーの増殖技術も向上し、以前と比べて価格も手頃になってきました。
意外ですね。
農林水産省のかんしょをめぐる状況資料では、ウイルスフリー苗の供給体制と産地での活用状況が紹介されています(PDF)