育成者権の期間と延長や終了後の自家増殖

種苗法改正で注目される育成者権の存続期間は何年かご存知ですか?果樹や一般作物の登録品種における権利期間の違いや計算方法、期限切れ後の扱いについて、農業者の視点で分かりやすく解説します。

育成者権の期間

育成者権の期間とポイント
📅
基本期間

登録日から25年、果樹などは30年

📝
権利の開始

出願日ではなく「登録日」から計算

🆓
期間終了後

権利が消尽し、許諾なしで利用可能に

育成者権の期間と種苗法改正による延長の年数

育成者権の期間は、2020年(令和2年)の種苗法改正に関連した議論の中でも特に注目されたポイントの一つです。現在、一般的な作物(草本性植物)の存続期間は登録日から25年果樹や林木などの永年性植物(木本性植物)は登録日から30年と定められています。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/hinshu/act/etc/seido_pamph_R4.pdf

かつては一般的な植物で20年、永年性植物で25年でしたが、品種改良にかかる長い年月とコストを回収し、開発者の権利をより強固に保護するために延長されました。農業者のみなさんにとって重要なのは、栽培している品種が「いつ登録されたか」によって、この期間が変わる可能性がある点です。

 

参考)月報 野菜情報−農林水産省から−2005年10月

  • 一般的な作物(野菜・花など): 原則25年
  • 永年性植物(果樹・庭木など): 原則30年
  • 注意点: 法改正前に登録された古い品種の場合、旧法での期間(20年や25年)が適用されるケースがあります。

    参考)育成者権とは

この期間内は、育成者権者の許諾なしに増殖や譲渡を行うことができません。違反した場合、損害賠償請求や刑事罰の対象となる可能性があるため、栽培計画を立てる際には必ず確認が必要です。

 

育成者権の期間の計算方法と登録日の重要性

「あと何年この品種は保護されるのか?」を知るための計算方法は、「登録日」を起点にするというのが鉄則です。よくある勘違いとして「出願した日」から数えてしまうケースがありますが、出願から登録までには審査期間(通常2〜3年)がかかるため、出願日基準ではありません。

 

参考)品種登録における育成者権の存続期間とは?取り消されるケースも…

起点となる日 期間(一般) 期間(永年性) 備考
品種登録日 25年 30年 ここから権利が発生しカウント開始
出願公表日 - - 「仮保護」の期間。権利期間には含まれない

審査期間中は「仮保護」という扱いになり、登録後に遡って補償金を請求できる権利などはありますが、正規の25年・30年のカウントはあくまで登録日がスタートです。

ご自身の栽培品種の登録日を正確に知るには、農林水産省の「品種登録データ検索」を利用するのが確実です。ここでは、品種名を入力するだけで登録日や育成者権の消滅日を簡単に調べることができます。農業経営において、主力品種の権利期間を正確に把握しておくことは、将来の種苗コストの予測や改植計画に直結します。

 

参考)https://www.hinshu2.maff.go.jp/vips/cmm/apCMM110.aspx?MOSS=1

育成者権の期間が終了した後の自家増殖と許諾

育成者権の期間が満了した場合、その権利は「消尽(しょうじん)」します。つまり、権利切れとなった品種は「パテント切れ」の状態となり、誰でも自由に栽培・増殖が可能になります

 

参考)「ビジネスに関わる行政法的事案」第31回:2020年種苗法改…

期間終了後の主な変化は以下の通りです。

 

  • 自家増殖の自由化: 育成者への許諾申請や許諾料の支払いが不要になります。
  • 種苗販売の自由化: 自身で増殖した苗を近隣の農家に譲渡・販売することも原則自由になります(種苗業の届け出など、別の法規制は遵守する必要があります)。
  • ロイヤリティの消滅: 苗の購入価格に含まれていた開発費等の上乗せ分がなくなり、コストが下がることが期待されます。

ただし、注意しなければならないのは「商標権」との違いです。品種そのものの権利(育成者権)が切れていても、そのブランド名(例:特定のブランド果実名など)が商標登録されている場合、その名前を使って販売するには引き続き商標権者の許可が必要になることがあります。品種名そのものは普通名称化して誰でも使えますが、ブランドロゴや特定の流通名は別物として扱う必要があります。

 

参考)品種の名称と商標 – 栄国際特許事務所

育成者権の期間中の登録料納付と取り消しのリスク

「25年あるいは30年」という期間は、あくまで育成者が毎年「登録料」を納付し続けた場合の最大期間です。実は、期間の途中であっても育成者権が消滅してしまうケースが意外と多く存在します。

 

参考)https://www.ipaj.org/bulletin/pdfs/JIPAJ18-1PDF/18-1_p046-057.pdf

育成者権を維持するための登録料は、年数が経つにつれて高額になる「段階的料金設定」になっています。

 

  • 1〜9年目: 比較的安価(数千円〜)
  • 10年目以降: 大幅に増額(数万円〜)​

このため、普及が進まなかった品種や、採算が合わなくなった品種については、育成者がコスト削減のために登録料の納付を止め、権利を放棄する(期間途中で終了させる)ことがよくあります。

農業者側から見れば、まだ25年経っていない新しい品種でも、実はすでに権利が消滅していて自由に増殖できるようになっている「掘り出し物」が存在する可能性があるということです。

 

逆に、自身が許諾を受けて栽培している品種の権利が、育成者の都合で突然消滅した場合、契約内容によってはロイヤリティの支払いが不要になる可能性もあります。定期的に登録状況をチェックすることをお勧めします。

 

育成者権の期間とパテント切れ品種の活用メリット

最後に、検索上位にはあまり出てこない、農業現場視点での「期間終了品種(パテント切れ品種)の積極活用」について触れたいと思います。

 

最新の登録品種は確かに病気に強く収量も多い傾向にありますが、種苗費が高額で、自家増殖にも制限がかかります。一方で、育成者権の期間が終了した品種には、経営上の大きなメリットがあります。

 

  1. コスト削減: 自家増殖が可能になれば、毎年の苗購入費をゼロに近づけることができます。
  2. 栽培の自由度: 許諾契約の縛りがないため、独自の栽培方法を試したり、自由に直売所へ出荷したりすることが容易です。
  3. 地域の味の継承: 権利が切れた古い品種の中には、現代の流通向け品種にはない独特の食味や風味を持つものがあります。「昔ながらの味」として差別化販売する戦略が取れます。

例えば、イチゴの有名品種「あまおう」も2025年に登録期間の満了を迎えるなど、ビッグネームの品種が順次パテント切れの時期に差し掛かっています。

 

参考)福岡県あまおうの品種登録の期限が2025年1月に切れる問題【…

最新品種を追いかけるだけでなく、「育成者権の期間が終了した、実力ある品種」を再評価し、低コスト・高利益な農業経営に組み込むのも、賢い戦略の一つと言えるでしょう。農林水産省のデータベースで「育成者権の消滅日」を確認し、使える品種リストを作ってみてはいかがでしょうか。

 

参考)http://jv-ikubyou.com/13osirase/20210326-1_osirase.pdf