粗孔隙と団粒構造が鍵!排水性と土壌物理性を改善し根腐れを防ぐ方法

作物の生育を左右する「粗孔隙」を深く理解していますか?排水性や通気性の要となるこの空間が、なぜ単なる耕うんだけでは維持できないのか。団粒構造との関係や、意外な「目詰まり」リスクまで徹底解説します。
粗孔隙と排水性・団粒構造のポイント
💧
重力水の「排水路」

粗孔隙は重力に従って水を排出し、その負圧で新鮮な酸素を土中に引き込むポンプの役割を果たします。

🧱
団粒構造の「外側」

団粒内部の微細孔隙が水を保持するのに対し、団粒同士の隙間である粗孔隙は通気性を担保します。

⚠️
物理性の「目詰まり」

単粒化した土壌では、降雨時に微細粒子が移動して粗孔隙を埋める「サフィージョン」が発生しやすくなります。

粗孔隙

排水性を決定づける重力排水とガス交換のメカニズム

 

農業現場において「水はけが良い」という状態は感覚的に語られがちですが、土壌物理学の視点では、これを明確に「粗孔隙(そこうげき)」の量と機能で説明することができます 。粗孔隙とは、土壌中の隙間(孔隙)のうち、比較的直径が大きなもの(一般的に直径0.1mm以上、あるいはpF値1.5〜1.8以下で水分を保持できない隙間)を指します 。このサイズの孔隙に入った水は、土の吸着力(毛管力)よりも重力の影響を強く受けるため、降雨後速やかに下層へと排除されます 。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/ntuti4.pdf

重要なのは、この水が抜けるプロセスそのものが、作物の根にとって極めて重要な「ガス交換」の機能を果たしているという点です。水が重力によって粗孔隙から抜け落ちる際、その体積分の空間が真空になるわけではなく、大気圧によって地上の新鮮な空気が土中深くまで引き込まれます 。つまり、粗孔隙は単なる排水ドレンではなく、土壌呼吸を促進するための「呼吸器」としての役割を担っています。

 

参考)団粒構造とは? 植物が良く育つ土壌に必要な要素と土の作り方 …

逆に、この粗孔隙が不足し、毛管孔隙(微細孔隙)ばかりが卓越する土壌では、水がいつまでも土壌粒子間に保持され続けます 。これが「保水性が高すぎる」状態であり、気相(空気の通り道)が閉塞されることで根は酸素欠乏に陥り、根腐れや生育不良を引き起こす直接的な原因となります 。特に酸素要求量の高い野菜や花き類においては、単に土を耕して柔らかくするだけでなく、この「水が抜け、空気が入る」サイクルを物理的に保証する粗孔隙の確保が、収量と品質を決定づける最重要因子となります 。

また、粗孔隙の存在は、土壌の熱伝導や地温の上昇にも寄与します。水分は空気よりも比熱が大きいため、過剰な水分を含んだ土壌は地温が上がりにくい傾向にあります。粗孔隙が十分に確保され、適度な排水が行われる土壌は、春先の地温上昇がスムーズであり、初期生育の促進にも繋がります。排水性は単に水を捨てる能力ではなく、根圏環境の酸素濃度と温度環境を最適化するための総合的な物理機能であると再定義する必要があります。

 

団粒構造が形成する「二重の孔隙」と理想的なバランス

理想的な土壌構造として頻繁に語られる「団粒構造」ですが、その本質的な価値は、異なるサイズの孔隙を同時に存在させることができる点にあります 。団粒構造とは、土壌粒子が有機物や微生物の働きによって集合し、小さな塊(団粒)を形成している状態です。この構造において、粗孔隙は「団粒と団粒の間」に形成される大きな隙間として存在します 。

 

参考)https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F8387909amp;contentNo=8

一方、団粒の「内部」には、微細な毛管孔隙(ミクロポア)が無数に存在しており、ここでは強い毛管力によって水分が保持されます 。つまり、団粒構造が発達した土壌では、団粒間の粗孔隙が「排水と通気」を担い、団粒内部の微細孔隙が「保水」を担うという、相反する機能を両立させることが可能になるのです 。これを単粒構造(粒子がバラバラの状態)の土壌と比較すると、単粒構造では隙間のサイズが均一になりやすく、排水性が良ければ保水性が悪く、保水性が良ければ排水性が悪いというトレードオフが発生しがちです 。

 

参考)農業技術事典NAROPEDIA

農業生産において目指すべき数値目標として、土壌の全孔隙率は55%〜70%程度が望ましいとされていますが、その内訳として粗孔隙率(気相率)はpF1.5において10%以上、理想的には20〜25%程度確保されていることが推奨されます 。特に果樹園深根性の作物においては、表層だけでなく深層土壌(主要根群域)においても10%以上の粗孔隙を維持することが、健全な樹勢維持に不可欠です 。

 

参考)2−2.普通畑の土壌改良目標値 : こう…

しかし、過度な耕うんや重機による踏圧は、この精緻な団粒構造を破壊し、粗孔隙を圧壊させてしまいます 。一度破壊された団粒構造が自然回復するには長い時間を要するため、トラクターの走行回数を減らす、適期に作業を行うなどの配慮が必要です。また、粗孔隙が多すぎても(例えば砂質土壌のように)、保水力が低下し干ばつの影響を受けやすくなるため、粘土鉱物や腐植による団粒化促進を通じて、孔隙径の分布(ポアサイズ・ディストリビューション)を最適化することが土づくりの核心となります 。

 

参考)https://www.mdpi.com/2073-4395/14/6/1339/pdf?version=1718899869

根腐れリスクを可視化する現場での土壌物理性診断法

粗孔隙の状態を目視で直接確認することは困難ですが、いくつかの現場的な兆候や簡易的な診断によって、その不足や根腐れリスクを察知することは可能です。最も分かりやすい兆候は、降雨後や灌水後の水引きの遅さですが、より注意深く観察すべきは「地表面の変化」です。降雨後に地表面がのっぺりと平滑になり、乾燥するとカチカチに固まる(クラスト形成)現象が見られる場合、それは表層の団粒構造が崩壊し、粗孔隙が消失している危険なサインです 。

より定量的な診断として、簡易的な「透水試験」を圃場で行うことが推奨されます。底を抜いた缶などを土壌に一定の深さまで差し込み、水を満たしてその減水時間を計測する方法です。もし水がなかなか減らない場合、作土層あるいはその下の耕盤層において粗孔隙が著しく不足している可能性があります。また、作物の根系観察も有力な診断材料です。直根が横に曲がっている、あるいは根が特定の深さで止まり横に広がっている場合、その深さに緻密な層(ハードパン)が存在し、縦方向の粗孔隙が遮断されていることを示唆しています 。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10415892/

土壌の「三相分布固相・液相・気相)」を意識することも重要です。一般的に理想とされる比率は、固相40%・液相30%・気相30%と言われています 。気相が極端に少ない土壌は、まさに粗孔隙が不足している状態です。手で土を握った際の感触でも簡易判断が可能です。適度な粗孔隙を持つ団粒構造の土は、強く握っても固まりきらず、指で押すとほろりと崩れる「膨軟性」を持っています。逆に、粘土細工のように固まってしまう土は、微細孔隙が優勢で粗孔隙が不足しており、根腐れリスクが高い土壌と言えます。

 

参考)アグリシステム株式会社

さらに、土壌の色も参考になります。常に過湿で酸素不足の状態(還元状態)にある土壌は、鉄分が還元されて青灰色(グライ化)を呈することがあります。作土層の下層にこのような色が見られる場合、粗孔隙を通じた縦方向の排水と通気が完全に阻害されており、暗渠排水の施工やサブソイラによる破砕など、物理的な改善措置が急務となります 。

参考リンク:高知県庁農業振興部 - 普通畑の土壌改良目標値と物理性の診断基準についての詳細データ
上記のリンク先には、作土の厚さや孔隙率の具体的な数値目標が記載されており、自圃場の土壌診断を行う際の基準値として非常に有用です。

 

土壌物理性の盲点?微細粒子移動による「サフィージョン」現象

粗孔隙の確保において、多くの農業従事者が見落としがちなのが、物理的な圧密(踏圧)以外の要因による孔隙の閉塞です。その一つが、土木工学や土壌物理学で「サフィージョン(Suffusion)」あるいは内部侵食と呼ばれる現象です 。これは、土壌中の微細な粒子が水の流れに乗って移動し、粗孔隙の「喉元」に詰まってしまう現象を指します。

 

参考)https://www.mdpi.com/2673-7094/4/1/18/pdf?version=1711016050

耕うん直後は土がフカフカになり、一見すると粗孔隙が十分に確保されたように見えます。しかし、団粒化が進んでいない単粒構造の土壌や、有機物が不足して構造的安定性が低い土壌では、降雨による浸透水が発生した瞬間に、土壌粒子(シルトや粘土)が分散し、水とともに粗孔隙の中を移動し始めます 。これら微細粒子が、より下層の粗孔隙の狭くなった部分に集積して目詰まりを起こすと、表面上は耕されているにもかかわらず、内部で排水不良が発生するという不可解な現象が起きます。

この「内部からの目詰まり」は、単に土を物理的に破砕するだけでは解決しません。むしろ、過度なロータリー耕は土壌粒子を細かくしすぎ、サフィージョンを助長するリスクすらあります 。ロータリーの爪による練り込みが、土壌孔隙の連続性を断ち切り、形成された微細粒子が降雨のたびに粗孔隙を埋めていく悪循環に陥るのです。

これを防ぐためには、土壌粒子の「耐水性団粒化」が不可欠です。水に濡れても崩れない強い団粒を作ることで、微細粒子の遊離・移動を防ぎ、粗孔隙の構造を維持することができます 。また、異なる粒径の土壌粒子が混在する「ギャップグレード(粒度分布の欠損)」な土壌でサフィージョンが起きやすいという研究もあり 、客土や土壌改良資材を投入する際には、単一の資材だけでなく、粒径のバランスを考慮することも、長期的な物理性維持の観点からは重要で意外な視点と言えます。

 

参考)https://js-soilphysics.com/downloads/pdf000/051000.pdf

有機物と生物性を活用した「持続可能な孔隙」の形成術

機械的な耕うんによって作られた粗孔隙は、降雨や自重によって比較的短期間で再圧密され、消失しやすいという弱点があります。これに対し、植物の根や土壌動物によって形成された「生物的粗孔隙(バイオポア)」は、内壁が有機物でコーティングされていたり、圧密に対する抵抗力が高かったりと、機能の持続性に優れています 。したがって、持続可能な排水性を確保するためには、機械耕と生物耕を組み合わせたアプローチが必須となります。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9491155/

具体的には、緑肥作物の導入が極めて有効です。特にイネ科の緑肥(エンバクやソルゴーなど)は、強力なひげ根を大量に発生させ、土壌を細かく団粒化させるとともに、腐朽した後に無数の微細な通気孔を残します 。一方、マメ科の緑肥(クロタラリアなど)や直根性の作物(大根など)は、硬盤層を突き抜ける縦方向の太い粗孔隙(縦孔)を形成し、排水の「幹線道路」を作ります 。これら特性の異なる緑肥を輪作体系に組み込むことで、土壌中に多様なサイズの孔隙ネットワークを構築できます。

 

参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdfdirect/10.1111/pce.14213

また、有機物の投入は、単なる肥料分としてだけでなく、粗孔隙を維持する「接着剤」の補給という意味で重要です。堆肥に含まれる腐植酸や、土壌中の糸状菌(カビの仲間)が産生するグロマリンというタンパク質は、土粒子同士を強力に結びつけ、耐水性団粒を形成します 。特に、木質系の粗大有機物(バーク堆肥や剪定枝チップなど)の投入は、それ自体が物理的なスペーサーとして機能し、即効的な粗孔隙の確保に役立つと同時に、分解過程で微生物の住処となり、長期的な団粒形成を促進します 。

 

参考)https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/nourin/noen/files/kaitei_gijyutumanyuaru02.pdf

さらに、不耕起栽培や省耕起栽培(ミニマム・ティレッジ)も、粗孔隙維持の有力な選択肢です。前作の根穴やミミズのトンネルを破壊せずに次作に利用することで、形成に時間のかかる縦方向の連結した粗孔隙を有効活用できます 。ただし、これには地表面の被覆(マルチング)などによる土壌保護が前提となります。機械力で強引に隙間を作るのではなく、生物の活動や有機物の機能を最大限に引き出し、「壊れにくい隙間」を育てることが、プロの農家が目指すべき真の土づくりと言えるでしょう。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4779449/

参考リンク:農林水産省 - 土壌の物理性改善と有機物施用の効果
農林水産省による資料で、有機物の投入がどのように粗孔隙量を増加させ、排水性や通気性を改善するかについてのメカニズムと具体的な効果が解説されています。

 

 


b21-ar INAX用 (リクシル) TOSTEM用 互換性あり バスタブ ポップアップ排水栓 密閉栓 パッキン 。浴槽のお湯がぬける。 プッシュワンウェイ排水栓 ゴム 。 B21-SVLAR2、B21-SVLAR2(W)などに対応。[ B21-AR ]