レンコン腐敗病と原因から防除対策

レンコン腐敗病は収量や品質に大きな影響を及ぼす深刻な病害です。病原菌の種類や感染経路、効果的な防除方法まで、栽培管理に必要な情報を詳しく解説します。あなたの圃場は大丈夫ですか?

レンコン腐敗病の原因と症状

夏場の落水は腐敗病を助長します。


この記事の3つのポイント
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病原菌の正体

フザリウム菌とピシウム菌が主な病原菌で、地下茎から感染して褐色または黒色の腐敗を引き起こします

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湛水管理が重要

常時湛水状態を保つことでフザリウム菌による腐敗病の発生を防止できます

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収量への深刻な影響

徳島県では腐敗病により1973年比で生産量が約30%にまで減少しています


レンコン腐敗病の病原菌と発生メカニズム



レンコン腐敗病は、地下茎から病原菌が感染することで発症する土壌病害です。病原菌は主に土壌中に生息するフザリウム属菌とピシウム属菌の2種類があります。山口県の研究によると、レンコン腐敗病の主要な病原菌はフザリウム・コミューン(Fusarium commune)であることが明らかになっています。この菌は地下茎の吸収根の先端から侵入し、維管束を通って全体に広がっていきます。


病原菌の感染は種レンコンからだけでなく、生育期にも起こることが確認されています。感染後は維管束の一部が閉塞し、葉にくさび形の病斑を形成します。


つまり生育中の感染です。


地下部のレンコンは褐色または黒色に腐敗し、商品価値が失われるだけでなく、収穫後も圃場に残った病原菌が翌年以降の感染源となります。


病原菌の種類によって腐敗の症状は異なります。フザリウム菌による腐敗病では、淡褐色から褐色の腐敗が地下茎の節間部から広がっていきます。一方、ピシウム菌による腐敗病では、レンコンの傷口から侵入し、表層部から紫黒色または黒色の腐敗が広がります。どちらも商品として出荷できなくなるため、農家の経済的損失は深刻です。


土壌中に残った被害レンコンや罹病した種バスが主な伝染源となります。これらの残さ中で病原菌は越冬し、翌年の栽培時に再び感染を引き起こすという悪循環に陥ります。


レンコン腐敗病の地上部症状と早期発見

腐敗病の初期症状は、地上部の葉に現れます。最初は葉の縁がしおれて色あせていき、やがて灰色に変色します。発生した枯死は次第に中心部へと広がり、まもなく葉全体が黄色に変色して枯死してしまいます。


このとき葉が垂れ下がることが特徴的です。


葉の中心から外縁にかけて一部がくさび状に黄化する症状も観察されます。


山口県の研究では、ドローンによる空中撮影を活用した早期発見技術の開発が進められています。7月中旬以降、圃場内にスポット状あるいは連続して発生する異常な葉の症状を、ドローンで撮影した画像から検出できることが確認されました。これは圃場に入ることなく病害の発生状況を把握できる画期的な方法です。


これらの症状が見られた葉につながる地下茎を掘り上げると、「芯とおし症」と呼ばれる穴の変形や中心部の褐変症状が確認されます。芯とおし症はレンコンの商品価値を著しく低下させます。穴が変形したレンコンは見た目が悪く、市場での評価が下がります。


地下茎から分離された病原菌の種類は、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)が45%、フザリウム・コミューンが42%、フザリウム・フジクロイ(Fusarium fujikuroi)が13%という割合で、いずれも腐敗性を持っています。


レンコン腐敗病による収量と品質への影響

レンコン腐敗病は収量に深刻な影響を及ぼします。茨城県の研究によると、病原菌を接種した栽培試験では、無接種区の株当たり平均収量が約1,800gだったのに対し、フザリウム・コミューンを接種した区では約680gと、約62%もの減収が確認されました。これは1反あたりに換算すると数百キロ単位の損失となります。


全国的な生産量の減少も深刻です。徳島県では腐敗病の影響により、1973年に対する2015年のレンコン収穫量が約31%にまで減少しています。愛知県でも約31%、佐賀県でも約40%、山口県でも約31%と、茨城県以外の主要産地では生産量が大幅に落ち込んでいます。茨城県は全国第1位のレンコン産地として生産量を維持していますが、他の産地は腐敗病などの要因により収量が減少傾向にあります。


品質への影響も看過できません。腐敗病が発生すると、収穫時の地下茎の腐敗による収量低下だけでなく、地下茎横断時の穴の変形、いわゆる「芯とおし症」による品質低下が発生します。変形したレンコンは商品価値が低く、市場での評価が下がり、販売価格も低下します。


ある地域の試算では、レンコンネモグリセンチュウとの複合被害も含めた損失額は年間約5,700万円と算出されています。腐敗病の被害が大きい圃場では、農家が栽培を諦めて耕作放棄地になるケースも増えています。


レンコン腐敗病の発生を助長する栽培条件

レンコン腐敗病の発生には、栽培環境が大きく影響します。特に水管理は病原菌の活動に直接関わる重要な要素です。夏季の落水は土壌を酸化的にし、腐敗病の発生を助長することが研究で明らかになっています。落水期間が長びくほど、この傾向は顕著になります。フザリウム属菌は好気性菌であるため、土壌が乾燥すると活動が活発化するのです。


水温の上昇も病原菌の活動を促進します。水温が30℃以上になると、腐敗病が発生しやすくなることが知られています。夏季の高温期には、水温を30℃以下に保つ管理が推奨されています。


水温管理を怠ると病原菌の増殖が加速します。


イネネクイハムシの食害も腐敗病の発生を助長する重要な要因です。イネネクイハムシ幼虫がレンコンの茎や地下茎に穴をあけて食害すると、その傷口からピシウム菌が侵入しやすくなります。成虫は金属光沢のある黒褐色で体長6mm程度の細長い羽虫です。畦畔やレンコン田などの土中で越冬した幼虫が、5月下旬頃から食害を開始し、その後蛹化、羽化した成虫が6月下旬頃から産卵、孵化し土中に潜った幼虫が再び食害を始めるというサイクルを繰り返します。


砂質土のほ場は発病しやすい傾向があります。砂質土は水はけがよく、土壌が乾燥しやすいため、フザリウム菌による腐敗病のリスクが高まります。


こうした圃場では特に注意が必要です。


レンコン腐敗病の耕種的防除方法

レンコン腐敗病の防除において、最も基本的で重要なのが耕種的防除です。まず種バスは無病のものを厳選して使用することが大前提となります。罹病した種バスを使用すると、植え付け時点で病原菌を圃場に持ち込むことになり、初期から感染リスクが高まります。


健全な種バスの選定が防除の第一歩です。


フザリウム属菌による腐敗病の発生防止では、レンコン田を常時湛水状態で管理し、できるかぎり土壌を乾燥させないことが効果的です。フザリウム菌は好気性菌であるため、嫌気的な環境下では活動が抑制されます。湛水管理は病原菌の増殖を物理的に抑える有効な手段です。冬期も水を切らさず、長期間湛水を維持することが推奨されています。


一方、ピシウム属菌による腐敗病については、イネネクイハムシ幼虫の防除が重要です。イネネクイハムシの適期防除を行い、同虫の密度低減を図ることで、レンコンの傷口からの病原菌侵入を防ぐことができます。6月下旬から7月中旬が防除適期とされています。被害残渣を適切に処分し、翌年の発生源を減らすことも大切です。


収穫後の残さ処理も防除において重要な役割を果たします。収穫後に圃場に廃棄される茎、葉、根、屑レンコンなどは、病原菌の越冬場所となります。これらの残さを圃場外に持ち出すか、適切に処理することで、次作での感染リスクを低減できます。フレールモアで粉砕してからすき込む方法も検討されています。


栽培中は水を切らさず、水温・地温をあまり上げない管理を心がけます。浮草の発生は水温の上昇を妨げるため取り除く必要がありますが、適度な遮光も検討に値します。


レンコン腐敗病の土壌還元消毒による防除

土壌還元消毒は、レンコン腐敗病の防除において近年注目されている手法です。この方法は、土壌に有機物を投入して土壌中の微生物を活性化させ、酸素を消費させることで土壌を還元状態にし、病原菌を死滅させる技術です。化学農薬を使用しないため、環境にやさしい防除方法として期待されています。


山口県の研究では、酒粕を用いた土壌還元消毒が高い効果を示すことが確認されています。代かきを行った田に10a当たり200kgから800kgの酒粕を散布し、水に溶いてから軽く代かきを行い、地表面を難透過性フィルムまたは湛水(水封)で被覆します。処理温度は25℃以上、処理期間は3週間程度が目安です。気温が上昇し晴天の続く雨明けから8月中旬ころまでが適期とされています。


酒粕以外にも、フスマ小麦ふすま)、きくらげ廃菌床、オレンジジュース残さなど、様々な未利用有機資源が土壌還元消毒に利用可能です。効果が高い資材は、非繊維性炭水化物を多く含むものです。


酒粕やフスマはこの条件を満たしています。


資材の選定は、入手のしやすさやコストも考慮して決定します。


被覆方法は、難透過性フィルムを使用するのが最も効果的ですが、継続湛水(水封)でも実用的な効果が得られることが確認されています。水封の場合、フィルム被覆と比較してやや効果は劣りますが、作業が簡便で低コストというメリットがあります。


継続湛水なら実践しやすいですね。


効果発現のメカニズムは、土壌中のクロストリジウムなどの絶対嫌気性細菌が増加し、フザリウム菌の細胞壁を破壊することによると考えられています。


現地ほ場での実証試験では、酒粕800kg/10aを散布して3週間湛水した区において、収量および品質の向上が確認されています。栽培者からも「腐敗が明らかに減少した」との評価を得ています。


レンコン腐敗病に対する石灰窒素と化学的防除

石灰窒素を用いた土壌消毒は、レンコン腐敗病の防除において古くから実施されてきた方法です。石灰窒素には殺菌効果があり、腐敗病の病原菌密度を低下させる作用があります。施用方法は、植え付けの1ヶ月以前に、できるだけ浅水にして10a当たり80kgから200kgを全面散布し、散布したら速やかにすき込むことがポイントです。


石灰窒素と太陽熱を組み合わせた消毒方法も開発されています。夏季の高温期に石灰窒素を散布した後、圃場をポリフィルムで被覆することで、太陽熱による加温効果と石灰窒素の殺菌効果、さらに土壌還元効果が相乗的に働きます。徳島県では、この方法が腐敗病対策の主力となっています。代かきを行った田に10a当たり200kgの石灰窒素を散布し、軽く代かきを行い、地表面を0.5mm厚のポリフィルムで覆う処理が推奨されています。


ただし、石灰窒素による防除効果は必ずしも安定しないという報告もあります。気温や土壌条件によって効果にばらつきが出ることがあるため、他の防除方法と組み合わせることが重要です。石灰窒素は肥料効果もあるため、施用後の追肥量を調整する必要があります。


化学農薬による防除については、現在レンコン腐敗病に対して登録されている薬剤は限られています。発病の多い場合、植付前にオーソサイド水和剤などの土壌消毒剤が使用されることがありますが、効果や使用時期については地域の指導機関に確認することが必要です。グランドオンコル粒剤を湛水散布後全面土壌混和する方法も検討されています。


農薬使用に頼らない総合的な防除体系の構築が、持続可能なレンコン栽培には不可欠です。耕種的防除を基本とし、必要に応じて物理的・化学的防除を組み合わせることで、腐敗病の発生を抑制できます。


レンコン腐敗病対策における品種選択と今後の展望

レンコンの品種によって腐敗病に対する抵抗性には差があります。徳島県で主に栽培されている「備中」は収量が多く形状も美しい品種ですが、腐敗病に弱いという欠点があります。そのため、近年は腐敗病に比較的強い品種への転換が進められています。早生品種は一般的に晩生品種よりも腐敗病が出にくいと言われています。


佐賀県で育成された「さが白祥」は、「金澄8号」と同程度の腐敗病抵抗性を持つ品種です。多肥による生育遅延が起こりにくいという特性も持っています。徳島県で育成された「阿波白秀」も、腐敗病への抵抗性が「備中」と同程度とされていますが、他の特性と組み合わせて栽培されています。


完全な抵抗性品種はありません。


抵抗性品種の開発は今後の重要な研究課題です。しかし、品種の転換には市場での評価や食味、収量性など、多くの要因を考慮する必要があります。「備中」は市場評価が高いため、腐敗病に強い品種に変更しても、価格面で不利になる可能性があります。


このジレンマが品種転換を難しくしています。


徳島県が公開している「れんこんのグリーンな栽培体系マニュアル」には、環境負荷を低減した総合的な栽培管理技術が詳しく記載されています。腐敗病対策を含む総合的な栽培技術を学ぶ上で有用な資料です。


ドローンやAI技術を活用した早期診断技術の開発も進んでいます。山口県と山口大学では、ドローンで撮影した画像を利用したレンコン腐敗病の早期診断技術を開発し、発病程度に応じた効率的な防除体系の確立を目指しています。圃場に入らずに病害の発生状況を把握できることで、適期防除が可能になり、農薬使用量の削減にもつながります。


土壌微生物相の解析技術の進歩により、腐敗病が発生しやすい圃場と発生しにくい圃場の土壌微生物の違いが明らかになりつつあります。有用微生物を活用した生物的防除の研究も進められており、将来的には微生物資材による予防的防除が実用化される可能性があります。


茨城県が公開している「レンコンの耕種的防除法」では、環境にやさしい防除技術が体系的にまとめられています。化学農薬に頼らない防除方法を実践する際の参考になります。


レンコン生産を持続可能にするためには、腐敗病対策の技術開発と普及が不可欠です。研究機関、行政、JA、生産者が連携して、総合的な防除体系を構築していくことが求められています。徳島県では2025年7月に「徳島れんこん栽培活性化協議会」が設立され、病害対策や労働力不足の解消に向けた取り組みが始まっています。こうした連携の動きが全国に広がることが期待されます。




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