豆科の雑草を語る上で外せないのが、根に形成される「根粒」と、その内部に棲む根粒菌による窒素固定です。
根粒菌は大気中の窒素ガスをアンモニアに変換し、宿主である豆科植物に供給することで、窒素肥料に頼らずとも植物が必要な窒素を得られるようにしています。
この仕組みは、やせ地や長年化学肥料に依存してきた圃場でも、少しずつ有機的な窒素循環を回復させる力を持っています。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fsufs.2021.767998/pdf
豆科の雑草であっても、根粒を持つ種類なら、地表部を刈り取ってすき込むことで土壌中に窒素と有機物を戻し、団粒構造の発達や微生物相の多様化に寄与します。
参考)https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/ryokuhi_manual08_carc20200420.pdf
ただし、窒素固定量は種や生育量、土壌条件によって大きく変動し、常に大量の窒素が供給されるわけではありません。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9133800/
過剰な窒素供給は一部の雑草や病害の発生を助長する可能性もあるため、「肥料いらず」と過信せず、土壌診断や作物の状態を見ながら施肥量を調整することが重要です。
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現場でよく目にする豆科の雑草として、クローバー類、カラスノエンドウ、クズなどが挙げられます。
クローバーは地表を這うように広がる多年草で、緻密なグランドカバーを形成し、他の雑草の侵入を抑えつつ、土壌の乾燥と表土流亡を防ぐ効果があります。
一方、カラスノエンドウはつる性の越年草で、春先に紫色の花を咲かせ、豆形の種子をつけるのが特徴です。
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茎が他の植物に絡みつき、麦や果樹の枝に巻き付いて光を遮るため、密生すると収穫作業の妨げや倒伏の誘因になりかねません。
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クズは多年生のつる性植物で、放置すると木本や高木にまで巻き付き、広い範囲を覆い尽くしてしまう強害雑草として知られています。
根は深く太く、地上部を刈り取っても地下部から再生するため、長期的な管理計画が必要になりますが、その旺盛な生育と窒素固定力を逆手にとり、法面の被覆や土壌流亡防止に利用されるケースもあります。
果樹園や多年作物の圃場では、下草を残した「草生栽培」が徐々に広まりつつあり、その下草として豆科の雑草や豆科緑肥を活用する例が増えています。
クローバーを果樹園のグランドカバーとして導入すると、他の雑草の発生をある程度抑えつつ、地表の水分保持や高温からの土壌保護に役立つという報告があります。
ヘアリーベッチのようなマメ科緑肥は、窒素固定により10aあたり15~25kg程度の窒素を土壌に蓄積し、C/N比が低いため、すき込み後の分解が早く窒素肥料の削減に寄与します。
また、ヘアリーベッチを地表に残したままにすると、雑草抑制や乾燥防止、ミツバチや天敵昆虫の生息場所の提供といった多面的な効果が得られる点も注目されています。
ただし、草生栽培では草刈り頻度が少なすぎると、多年生やつる性の雑草が優占しやすくなり、果樹の樹勢低下につながるため注意が必要です。
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豆科だけでなくイネ科との混播により、窒素固定と地上部バイオマスの両方を確保しつつ、倒伏や病害虫リスクを分散させる工夫も有効です。
豆科の雑草を完全に排除するのではなく、「どの段階まで許容し、どこから抑えるか」を決めることが、圃場管理の実務上は重要です。
例えばカラスノエンドウは、開花前~莢が固まる前に刈り取れば、地上部の窒素を残しつつ、種子の散布を抑えることができます。
クローバーの場合、果樹園の樹列間ではある程度残してグランドカバーとして利用し、樹の株元だけはこまめに草刈りやマルチで抑えるといった「ゾーニング管理」が現実的です。
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クズのような強害雑草は、地上部だけでなく地下茎・根の反復的な切断と、場合によっては選択性除草剤の併用を検討せざるを得ませんが、その際は果樹や作物への薬害に十分配慮する必要があります。
非選択性除草剤は一度に広い範囲を処理できる反面、豆科の雑草以外の植生も一掃してしまうため、裸地化による表土流亡や次の雑草フラッシュを招きやすいというリスクがあります。
そのため、豆科の雑草を部分的に残しつつ、作物列や作業動線だけを重点的に管理する「部分除草」や、刈払い機・フレールモアとの組み合わせが、中長期的には作業性と環境保全のバランスが取りやすい方法になります。
あまり語られませんが、豆科の雑草は在来草本の一部として、圃場周辺の生物多様性を支える存在にもなっています。
カラスノエンドウやクローバーの花は、ミツバチやマルハナバチなど多様な送粉者を引き寄せ、果樹やマメ科作物の受粉を間接的に助けることがあります。
また、ヘアリーベッチなどの豆科植物が作る密な草丈と茎葉は、テントウムシやクモといった天敵昆虫の隠れ家になり、アブラムシ類の抑制に寄与するという報告も出ています。
在来の豆科雑草を完全に除去して外来の被覆植物だけを導入すると、一時的には管理がしやすく見えても、地域の昆虫相や土壌微生物の構成に影響が出る可能性があります。
参考)https://www.mdpi.com/2223-7747/9/1/97/pdf
圃場内外の一部エリアを「生物多様性ゾーン」として位置づけ、豆科の雑草を含む在来草本群落をあえて残すことで、天敵温存と送粉者の確保を図るという考え方も、環境配慮型農業の一つの方向です。
このように、豆科の雑草を「害草」か「資源」かの二択で捉えるのではなく、場所や時期、作物との関係性を踏まえて、役割ごとに使い分ける視点が、今後ますます求められていくでしょう。
参考)空気中の窒素を栄養にできるマメ科植物 - 株式会社バイオーム
豆科植物と窒素固定の基礎解説や環境負荷低減の意義について詳しく知りたい場合は、以下の資料が参考になります。
植物と窒素固定細菌との共生の進化(生物学的窒素固定の仕組みと農業への応用に関する解説)