実は、発病株を抜き取る「タイミング」を1日でも誤ると、次作から3年以上にわたって畑が汚染されたままになります。
菌核とは、糸状菌(カビの一種)が植物組織の中で菌糸を密集させて形成する、黒く硬い塊のことです。 スクレロティニア・スクレロティオラムやリゾクトニア菌などが代表的な菌核形成菌で、キャベツ・レタス・トマト・イチゴ・大豆など30科100種以上の作物に感染する多犯性の病原菌です。boujo+1
菌核の最大の特徴は、その圧倒的な「生存力」にあります。土壌中では乾燥にも高温にも耐えながら、種類によっては4〜6年もの間生き延びることができます。 これはちょうど、農家が輪作で「3年で土が変わった」と感じる年数よりも長い。
参考)菌核病
菌核が形成される流れは次のとおりです。
菌核が「土中に落ちた後」が本当の始まりです。 発病株を取り除いても、すでに菌核が地面に落下していれば翌年・翌々年の伝染源として残ります。
これが原則です。
菌核形成の恐ろしさは、見えないところで何年もの間「次の感染」を準備し続ける点にあります。 発病が起きてから対処しようとすると、すでに土壌汚染が始まっている状態です。早期発見・早期除去が唯一の正攻法だと覚えておけばOKです。
参考)https://www.shuminoengei.jp/?m=pcamp;a=page_s_sickbug_detail22
参考:菌核病の症状・発生原因・防除方法(YMMファーム)
https://ymmfarm.com/cultivation/pest/sclerotium/
菌核病の発生には、はっきりとした「好条件」があります。気温15〜20℃、かつ多湿という低温多湿の環境が揃ったとき、最も感染リスクが高まります。 これは日本の春(3〜5月)と秋(10〜12月)の気候にほぼ一致します。ja-aichi.or+1
三重県の調査では、秋冬の巡回調査でキャベツほ場の50%に菌核病の発生が確認されており、イチゴほ場では36%という結果が出ています。
この数字をどう見るか。
約2圃場に1つは感染している計算になります。
参考)https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000758762.pdf
意外と知られていないのが「花弁」の役割です。開花後に茎葉に落下した花弁がカビの足がかりになり、そこから周辺組織へ感染が広がる経路が確認されています。 花弁が落ちるたびに感染リスクが上がるということですね。
参考)【植物の病害あれこれ】菌核病について。菌核病の原因や菌核病に…
発生しやすい条件を整理すると。
傷口からの侵入は特に注意が必要です。 農薬散布や摘芯などの作業中に傷がつくと、そこが感染の入り口になります。
作業後の圃場管理が条件です。
参考:菌核病の発生原因・条件(yuime.jp)
菌核病の発生原因や条件は?
化学農薬だけに頼った防除は限界があります。菌核形成が土壌中で長期間継続することを考えると、土壌環境そのものを変える耕種的防除が長期的なコスト削減につながります。
参考)菌核病(きんかくびょう)
最も効果が高い方法の一つが「湛水処理」です。夏場に土に水を張って土壌中の酸素を遮断することで、嫌気状態を作り出して菌核を死滅させられます。 大豆圃場の菌核病対策として、水田との輪作が有効とされているのも同じ原理です。pref.saga+1
耕種的防除の具体的な手順をまとめると。
天地返しは手間がかかるように感じますが、農薬コストを抑えつつ翌年以降の発生を減らす効果があります。
これは使えそうです。
なお、土壌消毒を計画する際は、クロルピクリン剤のような土壌くん蒸剤を作付け前に使う方法も有効です。
参考:菌核病の対策・耕種的防除(菜園ラボ)
https://saienlabo.com/cultivation/kinnkaku/
農薬防除で最も重要なのは「タイミング」です。菌核病は発病後の薬剤散布では効果が大幅に低下します。
予防散布が基本原則です。
三重県病害虫防除所のデータでは、発病後散布の効果は低いと明記されており、感染前の散布が推奨されています。 つまり、「菌が来る前に待ち構える」発想が必要です。
主な登録農薬と特徴。
| 農薬名 | 特徴 | 適用 |
|---|---|---|
| GFベンレート水和剤 | 予防・治療効果を兼ね備え、広範囲のカビ性病害に対応 | 多数の作物 |
| トップジンM水和剤 | 速攻性と残効性を持つベンゾイミダゾール系殺菌剤。定期予防・激発時のまん延防止に有効 | 広範囲の作物 |
| シグナムWDG | 作用機作の異なる2成分配合。炭疽病・うどんこ病にも対応 | 野菜類 |
| カンタスドライフロアブル | 植物体への浸達性が高く、既感染菌への治療効果も持つ。収穫前日まで使用可能 | 多数の作物 |
農薬を使う上での注意点があります。同じ薬剤を連続使用すると耐性菌が出現するリスクがあるため、作用機作(FRAC番号)の異なる薬剤をローテーション散布することが必須です。 耐性ができると、それまで効いていた薬が突然効かなくなります。
厳しいところですね。
薬剤ローテーションの管理が煩雑に感じる場合は、JAや農薬メーカーが提供する「防除体系表」を参考にすると、散布タイミングと薬剤の組み合わせを一覧で確認できます。たとえばJA京都市が公開している営農タイムリーには菌核病の防除体系例が具体的に記載されています。
参考)https://ja-kyotocity.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/03/2025_einou_timely_1.pdf
参考:菌核病の農薬と防除(農家web)
https://www.noukaweb.com/kinkaku-pesticide/
ここからは、一般的な防除ガイドではあまり触れられない視点を紹介します。菌核の「生存期間」を正確に知っているかどうかで、輪作設計の精度が大きく変わります。
菌核の土壌内生存期間は作物・菌の種類によって異なります。
参考)菌核病について|植物を腐敗・枯死させる菌核の生態と防除方法
「3年輪作すれば安全」という農家の常識は、菌核が2〜3年生存するという前提に基づいています。しかし4〜6年生存するタイプの菌核形成菌が土壌に混在していた場合、3年輪作は十分ではない可能性があります。
意外ですね。
実際には前作の病害記録を残し、「どの病原菌が出たか」を特定して輪作年数を設定するのが理想的です。土壌診断サービス(農協や農業試験場が提供)を活用すれば、土壌中の病原菌密度を数値で把握できます。
土壌診断の活用が条件です。
また、水稲との輪作は最強の菌核対策のひとつです。湛水環境は嫌気状態を作り、菌核の酸欠死滅を促します。 野菜単作から水稲を組み込んだ複合輪作体系に切り替えることで、農薬使用量を削減しながら土壌を健全に保てる可能性があります。
コスト面でも中長期的には有利です。
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菌核形成の仕組みを理解し、発生条件を圃場レベルで制御できる農家とそうでない農家では、中長期的な収量・品質に大きな差が生まれます。 菌核を「出てから対処する問題」ではなく「出ないように設計する問題」として捉えることが、現代の農業経営において重要な視点です。
参考:農業害虫・病害防除ハンドブック(boujo.net)
https://boujo.net/handbook/newhandbook14/