イチゴ栽培において「苗半作(なえはんさく)」という言葉がある通り、育苗期間の出来栄えが収穫量の大部分を決定づけます。この期間に健全な無病苗を確保できるかが、翌年の春までの収益を左右するため、年間スケジュールを正確に把握し、適切な時期に適切な処置を行うことが求められます 。特に親株の管理は、すべてのスタート地点となる重要なプロセスです。
参考)イチゴの育苗方法について-育苗の手順、育苗の種類や苗の増やし…
親株の定植は、一般的に3月中に行うのが基本とされています。これは、ランナーの発生を促すために十分な気温と日照時間を確保するためです。遅くとも4月上旬までには定植を完了させないと、必要な子苗の確保数が不足するリスクが高まります 。親株には、ウイルス病のリスクを避けるために「ウイルスフリー苗」を使用することが推奨されます。これにより、親から子へと病気が伝染する垂直感染のリスクを最小限に抑えることができます。また、親株の定植後は、初期に発生する細くて弱いランナー(通称:赤ランナー)は早めに摘み取ることが重要です。初期の弱いランナーに栄養を使わせず、株の勢いを温存することで、その後に発生する太くて丈夫なランナーを揃えることができるからです 。
参考)https://ibseikaken.amebaownd.com/posts/15848323/
スケジュールの全体像としては、5月から6月にかけてランナーを発生させ、6月から7月に子苗をポット受け(または挿し木)し、8月の高温期を乗り越えて、9月の定植へとつなげます。この期間中、親株が肥料切れや水切れを起こすと、ランナーの発生が止まってしまうため、追肥と灌水の管理は欠かせません。特にプランター栽培などで培土の量が限られている場合、根詰まりや肥料切れが起きやすいので注意が必要です 。
また、育苗期間中は、定期的な「葉かき」も重要な作業の一つです。古い葉や病気の兆候がある葉を取り除くことで、株元の風通しを良くし、病害虫の発生を抑制する効果があります。ただし、葉をかきすぎると光合成能力が低下し、株の生育が遅れるため、常に展開葉を確保しながらバランスよく管理することがプロの技術と言えます 。
参考)https://ibseikaken.amebaownd.com/posts/4580826/
親株の管理において見落としがちなのが、定植床の準備です。土壌病害を防ぐため、新しい培土を使用するか、前作の土壌を使用する場合は徹底的な太陽熱消毒や土壌還元消毒を行う必要があります。親株が病気に感染していると、そこから増殖される数百株すべてが廃棄対象となる大損害につながりかねません。最初の1株の健康状態に全精力を注ぐことが、成功への近道となります 。
参考)イチゴ栽培における「炭疽病」対策 - ゼロアグリ
参考リンク:イチゴの親株管理と育苗スケジュールの詳細(奈良県公式)
https://www.pref.nara.jp/item/279927.htm
イチゴの育苗において最も恐れられているのが「炭疽病(たんそびょう)」です。この病気は高温多湿を好み、梅雨時期から夏の育苗期にかけて爆発的に蔓延します。一度発病すると治療が極めて困難であり、感染力が強いため、育苗ハウス全体が全滅するケースも珍しくありません 。したがって、対策の基本は「治療」ではなく「予防」と「持ち込まないこと」に尽きます。
炭疽病の感染経路の大部分は、雨水や灌水による「泥はね」です。病原菌は水滴とともに飛散し、隣接する健康な株へと感染を広げます。このため、露地での育苗はリスクが非常に高く、雨よけハウス内での育苗が必須条件となります 。さらに、頭上からの散水(シャワー灌水)は、水滴が葉に当たって跳ね返る際に菌を拡散させる原因となるため、可能な限り避けるべきです。プロの農家では、ポットの底面から水を吸わせる「底面給水」や、株元に点滴チューブを配置して水を与える方法を採用し、葉やクラウン部分を濡らさない工夫を徹底しています 。
参考)イチゴ炭疽病の対策に最適『ベリーマース』|リーフプロジェクト
薬剤防除に関しては、同一系統の殺菌剤を連用すると耐性菌が発生しやすくなるため、作用機序(RACコード)の異なる薬剤をローテーションで散布することが重要です 。例えば、QoI剤(ストロビルリン系)やDMI剤などを交互に使用し、予防効果を高めます。特に、雨が降る前や、葉かきなどの管理作業を行った直後は、傷口から菌が侵入しやすいため、タイミングを逃さずに予防散布を行うことが鉄則です 。
参考)https://www.pref.nagasaki.jp/e-nourin/nougi/theme/result/H22seika-jouhou/shidou/S-22-22.pdf
また、早期発見と早期除去も被害拡大を防ぐ鍵となります。毎日の見回りで、葉に黒い斑点がないか、葉柄の一部が黒く変色して折れ曲がっていないか(通称:あご枯れ症状)を厳しくチェックします 。疑わしい株を見つけたら、その株だけでなく、隣接する株も含めて直ちに圃場外へ持ち出し、焼却または適切に処分します。この際、除去した株をハウスの近くに放置すると、そこから再び菌が飛散するため、厳重な注意が必要です 。
参考)〈炭疽病で痛い目に遭わない イチゴの育苗&定植〉夏に余裕がで…
最近の知見では、潜在感染(見た目は健康だが菌を持っている状態)をあぶり出すための「エタノール簡易診断法」なども普及し始めています。定植前に苗の一部を検査し、無病であることを確認してから本圃に持ち込むことで、栽培期間中の発病リスクを大幅に低減できます。炭疽病対策は、「菌を入れない、増やさない、広げない」の三原則を徹底することが、安定した収穫への唯一の道です 。
参考)【羽生農場】育苗期の炭疽病対策について(イチゴ)|モデル農場…
参考リンク:イチゴ炭疽病の発生生態と防除対策のポイント(栃木県)
https://www.pref.tochigi.lg.jp/g59/boujo/documents/point21.pdf
育苗期間中の水やりと肥料管理は、苗の生育だけでなく、その後の花芽分化にも直結するデリケートな作業です。多くの失敗事例は、「水のやりすぎによる根腐れ」か「肥料過多による花芽分化の遅れ」に起因しています 。
参考)https://uete.jp/blogs/magazine/ichigo-failure_-and_avoidance
まず水やりについてですが、基本は「朝たっぷりと与え、夕方にはポットの表面が乾いている状態」を作ることです。夕方まで土が湿っていると、夜間に徒長(ひょろひょろと伸びること)を助長し、軟弱な苗になってしまいます。また、常に土が湿った状態では根が酸素欠乏を起こし、根腐れの原因となります。メリハリのある水管理を行うことで、根は水を求めて強く伸びようとし、がっしりとした強い苗が育ちます 。夏場の高温期には、ポットの温度上昇を防ぐために日中に水をやりたくなりますが、お湯になった水が根を傷めることがあるため、涼しい早朝の時間帯に済ませることが推奨されます 。
肥料管理において最も重要なのが、「窒素中断(窒素切り)」のタイミングです。イチゴは体内の窒素濃度が高い状態では栄養成長(葉や茎を伸ばす成長)を続け、生殖成長(花や実を作る成長)に切り替わりません 。一般的に、9月中旬の定植に向けて、8月下旬頃からは追肥を控え、体内の窒素レベルを下げていく必要があります。この窒素レベルの低下は、葉の色で判断します。暗い濃緑色から、やや淡い黄緑色(明緑色)へと変化してきたら、窒素が抜けて花芽分化の準備が整いつつあるサインです 。
参考)イチゴの栽培 – 農業専門の中小企業診断士 秀農…
しかし、極端に肥料を切りすぎると、今度は苗が老化し、定植後の活着や初期生育が悪くなる「老化苗」になってしまいます。逆に、肥料が効きすぎていると花芽分化が遅れ、12月の収穫開始が遅れる原因となります 。この絶妙なバランスを見極めるために、プロの農家は葉色をカラーチャートで数値化したり、定期的に葉柄中の硝酸イオン濃度を測定したりして、客観的なデータに基づいた施肥管理を行っています。
参考)ワンポイントアドバイス|農地の土壌分析・診断なら「みらい蔵」…
失敗しないコツとして、育苗後半の追肥には、窒素成分が少なく、発根を促すリン酸やカリウム主体の液肥を使用することが挙げられます 。これにより、窒素過多を防ぎながら、定植後の活着に必要な根の活力を維持することができます。また、近年注目されている微量要素(マグネシウムや鉄など)や、ケイ酸資材の葉面散布も、葉を厚く丈夫にし、病害虫への抵抗性を高める効果が期待できます 。
参考)イチゴ_栽培管理ポイント_定植時から開花期まで
参考リンク:イチゴの定植から開花期までの栽培管理ポイント(PsEco)
イチゴ_栽培管理ポイント_定植時から開花期まで
イチゴ栽培の収益性を最大化するためには、クリスマス需要のある12月に収穫を開始することが不可欠です。そのためには、9月の定植時点で確実に「花芽分化(かがぶんか)」が起きている必要があります。花芽分化とは、成長点が葉を作ることをやめ、花を作る組織へと変化することです 。このスイッチが入る条件は、主に「低温」「短日(日が短くなること)」「低窒素」の3つです。
育苗の後半、8月下旬から9月上旬にかけては、この花芽分化をいかにスムーズに誘導させるかが勝負となります。自然条件では気温が下がるのを待つしかありませんが、プロの現場では「夜冷育苗(やれいいくびょう)」や「株冷」といった技術を使い、人工的に低温環境を作り出して花芽分化を早めることがあります 。また、前述の通り、窒素肥料をコントロールして体内の窒素濃度を下げることも、花芽分化を誘発する強力な要因となります。
この時期に行う「葉かき」も、花芽分化に影響を与える重要な作業です。葉を適度にかき取ることで、株への窒素の供給を制限し、植物体にストレスを与える(C/N比を高める)ことで花芽形成を促す効果があります 。しかし、やりすぎは禁物です。定植時には、展開葉が3~4枚程度残っている状態が理想的とされています 。葉数が少なすぎると、定植後の光合成量が不足し、花や果実を育てるエネルギーが枯渇してしまいます。
花芽分化が実際に起きているかどうかは、肉眼では確認できません。そのため、顕微鏡を使って成長点を観察する「花芽検鏡(かがけんきょう)」が必須となります 。地域の農業普及センターやJAの指導員に依頼するか、自身で検鏡技術を習得して確認します。「未分化」の状態で定植してしまうと、ハウス内の温かい環境で再び栄養成長に戻ってしまい(いわゆる「ボケ」)、最初の収穫が春先まで遅れてしまう致命的な失敗につながります 。
参考)https://ibseikaken.amebaownd.com/posts/6691119/
逆に、花芽分化が進みすぎた状態で定植すると、株が小さいうちに花が咲いてしまい、「早期出蕾(そうきしゅつらい)」となって株疲れを引き起こします。このため、検鏡で分化のステージ(肥厚期〜形成期)を正確に把握し、最適なタイミング(分化確認後すぐ、または数日以内)で定植することが、年内収量を確保するための絶対条件です 。
参考リンク:花芽検鏡の重要性と定植判断の基準(農研機構マニュアル)
https://www.naro.go.jp/PUBLICITY_REPORT/publication/files/Large-scale_facility_gardening_manual_Strawberry.pdf
最後に、多くのマニュアルではあまり詳しく触れられていない、しかしプロの栽培家が非常に気を使う「独自視点」のポイントを紹介します。それはポット内での「根のルーピング(根巻き)」問題と、根圏への「酸素供給」です。
一般的な黒色のポリポットで長期間育苗を行うと、伸びた根がポットの内壁にぶつかり、逃げ場を失ってぐるぐると底面でとぐろを巻く現象が起きます。これが「ルーピング」です 。一見、根量が多く見えて良い苗のように思えますが、ルーピングした根は老化が進んだ「茶色い根」であることが多く、定植後に新しい土壌へと伸びていく活力が失われています。定植後の活着が遅れる原因の多くは、このルーピングした根が新しい環境に適応できず、吸水能力を発揮できないことにあります 。
参考)https://www.sakanaka.co.jp/syouhinnsyoukai/nyu_potto/index.html
この問題を解決するために、一部の先進的な農家では「スリット鉢」や「エアープルーニングポット(不織布ポットやメッシュポット)」を導入しています 。これらの資材は、ポットの側面や底面に隙間があり、根が空気に触れる構造になっています。根は空気に触れると伸長を停止する性質(エアープルーニング)があるため、ポット壁面で根が止まり、代わりに株元から新しい細根(側根)が次々と発生します。結果として、ルーピングのない、白くて若い細根がびっしりと詰まった理想的な根鉢が形成されます 。
参考)空中ポットレストレー (写真は9cm15穴)
また、イチゴの根は非常に酸素要求量が高いことでも知られています。育苗培土の物理性が悪く、水はけが悪い土を使うと、ポット内が酸欠状態になり、根の細胞が壊死します。特に夏場の高温時にポット内の水分がお湯のようになると、溶存酸素濃度が低下し、根へのダメージが加速します 。対策として、培土にパーライトやもみ殻くん炭などを混ぜて通気性を確保すること、そしてポットを地面に直接置かず、網状のトレイやベンチの上に置いて底面の通気性を確保する「空中育苗」を行うことが有効です 。
定植直前の苗を確認してみてください。ポットから抜いたとき、底に茶色い根が固まっている苗と、側面全体に白い根が張り巡らされている苗では、定植1ヶ月後の生育に雲泥の差が出ます。「地上部の葉の色や枚数だけでなく、見えない根の形と色を管理する」。これこそが、他と差をつけるプロの育苗テクニックであり、意外な失敗を防ぐための盲点といえるでしょう 。
参考)https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/5689.pdf
参考リンク:根巻き防止と健全苗育成のための資材活用(熊本県)
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/5689.pdf

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