窒素中断いつから?幼穂形成期と葉色診断のタイミング

窒素中断はいつから始めるのが正解?幼穂形成期や葉色を目安にした具体的な診断方法を知っていますか?倒伏を防ぎ、最高のお米を作るための最適なタイミングを解説しますか?
この記事の重要ポイント
🌾
幼穂形成期の見極め

出穂前の日数を逆算し、窒素を切る最適な期間(中干し前後)を特定します。

📊
葉色とSPAD値の活用

葉色板やSPADメーター数値を基準に、客観的なデータで肥料切れを判断します。

🍚
食味と倒伏への影響

過剰な窒素を抜くことで、下位節間を硬くし、タンパク質含有量を下げて食味を向上させます。

窒素中断いつから

窒素中断いつから?幼穂形成期の見極め

水稲栽培において「窒素中断(窒素切り)」のタイミングを正確に把握することは、収量と品質を両立させるための最大の分かれ道です。一般的に、窒素中断を開始する最も重要な指標となるのが「幼穂形成期(ようすいけいせいき)」です。この時期は、稲が栄養成長(葉や茎を伸ばす時期)から生殖成長(穂を作る時期)へと切り替わる転換点であり、田植え後の日数や積算温度だけで判断せず、実際の稲の生育ステージを確認する必要があります。

 

  • 基本的なタイミングの目安
    • 出穂の40日~35日前:この時期までに、基肥の窒素効き目が切れ始めるのが理想です。この段階で葉色が濃すぎると、過繁茂(過剰な葉の茂り)になり、後の倒伏リスクが高まります。
    • 幼穂形成始期(出穂25日前頃):茎の中に1mm~2mm程度の幼穂(赤ちゃんの穂)が確認できる時期です。この時点で土壌中の窒素が完全に切れ、稲が「飢餓状態」になっていることが、健全な穂作りには不可欠です。

    多くの農家が失敗する要因は、この「飢餓期間」を作れていないことにあります。窒素が効き続けていると、稲はさらに葉を伸ばそうとし、本来穂に送られるべきエネルギーが浪費されてしまいます。したがって、地域ごとの栽培暦を確認しつつ、自身の圃場の稲を一本抜き取り、カッターで縦に割って幼穂の長さを測る「幼穂長測定」を行うことが、最も確実な「いつから」の決定打となります。

     

    農林水産省:水稲栽培のポイント(幼穂形成期の確認方法について詳述あり)
    参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/gijutsuhasshin/techinfo/attach/pdf/suitou-2.pdf

    窒素中断いつから?葉色板とSPAD値の活用

    「いつから窒素を切るべきか」という問いに対して、視覚的かつ数値的に答えてくれるのが「葉色(ようしょく)」の診断です。人間の目は天候や体調によって色の見え方が変わるため、感覚だけに頼るのは危険です。「葉色板(カラースケール)」や「SPADメーター(葉緑素計)」といった客観的なツールを使用することで、窒素中断の成功率が格段に上がります。

     

    以下は、一般的なコシヒカリ系品種における窒素中断期の葉色目安です(地域や品種により異なります)。

     

    診断時期 理想的な葉色板数値 理想的なSPAD値 状態の解釈
    最高分げつ期 4.0 ~ 4.5 35 ~ 38 茎数を確保するため、ある程度の色が必要。
    窒素中断期 3.5 以下 30 ~ 32 ここが重要。色が「褪める(さめる)」状態を作る。
    穂肥施用期 3.5 ~ 4.0 32 ~ 35 窒素中断後、再び色を上げていく段階。

    窒素中断がうまくいっている圃場では、田んぼ全体が「黄色味を帯びた黄緑色(退色した色)」に変化します。これを「色が抜ける」と表現します。もし、幼穂形成期に入ってもSPAD値が40近い高い数値を維持している場合、窒素過多です。その場合は、中干しを強めに行う、あるいは穂肥の時期を遅らせる・減らすといった対策が必要になります。逆に、色が抜けすぎてSPAD値が25を下回るようであれば、窒素切れが早すぎて籾数(もみすう)が確保できないリスクがあるため、早期の追肥検討が必要です。

     

    千葉県庁:生育『量』を診断して、「コシヒカリ」の穂肥・倒伏軽減剤の要否を判定しましょう
    参考)生育『量』を診断して、「コシヒカリ」の穂肥・倒伏軽減剤の要・…

    窒素中断いつから?倒伏防止と食味への効果

    なぜ「窒素中断」という工程が必要なのでしょうか?それは、窒素を適切な時期に切ることが、物理的な「倒伏防止」と、商品価値に関わる「食味向上」の二重のメリットをもたらすからです。このメカニズムを理解しておくと、窒素中断のモチベーションが大きく変わります。

     

    • 倒伏防止のメカニズム

      窒素が効きすぎていると、稲は背丈を伸ばすことに注力してしまいます。特に、下位節間(地面に近い茎の節)がひょろ長く伸びてしまい、風雨に弱くなります。適切な時期(出穂40~20日前)に窒素を中断することで、この下位節間の伸長を抑制し、ガッシリとした太く短い茎を作ることができます。これにより、台風シーズンでも倒れにくい強靭な稲体となります。

       

    • 食味向上のメカニズム

      近年の米作りでは「低タンパク米」が高評価を得る傾向にあります。玄米中のタンパク質含有量が低いほど、炊飯時に水を含みやすく、ふっくらとして粘りのある美味しいご飯になります。窒素はタンパク質の主成分です。登熟期まで窒素がダラダラと効いていると、米粒の中にタンパク質が多く蓄積され、食味が低下(硬く、粘りが少ない)してしまいます。窒素中断を徹底し、必要な時期(穂肥)にだけ最小限の窒素を与えることで、低タンパク・良食味米を実現できるのです。

       

    特に「特A」ランクを狙うような栽培では、この窒素中断の徹底が必須条件とされています。単に肥料を減らすのではなく、「切るべき時に確実に切る」メリハリがプロの技術です。

     

    AGRI SWITCH:水稲の食味を向上させる肥料とは?(窒素と食味の関係性)
    参考)水稲の食味を向上させる肥料とは?おすすめ資材と施肥管理のコツ…

    窒素中断いつから?天候不順時の追肥調整

    窒素中断の計画は、その年の気象条件によって柔軟に変更する必要があります。マニュアル通りに「〇月〇日から中断」と決めていても、冷夏や酷暑の年では稲の窒素吸収パターンが全く異なるからです。ここでは、天候パターン別の調整術を解説します。

     

    • 猛暑・日照り続きの場合
      • 現象:地温が上昇すると、土壌中の有機物が分解され、天然の窒素(地力窒素)が大量に湧き出してきます。これにより、施肥した窒素が切れているはずなのに、いつまでも葉色が濃いままという現象が起きます。
      • 対策:予定よりも「中干し」を強く、長く行います。土壌に酸素を供給して根腐れを防ぐとともに、余分な窒素吸収を物理的に遮断します。穂肥のタイミングも、葉色が下がるまで待ち、場合によっては1回目を省略する勇気が必要です。
    • 冷夏・長雨・日照不足の場合
      • 現象:光合成が十分に行われないため、稲体内の炭水化物蓄積が遅れます。この状態で窒素が効いていると、軟弱徒長(もやしのように弱々しく伸びる)し、いもち病などの病害リスクが激増します。
      • 対策:窒素中断を早めます。通常より早めに落水して田面を固め、窒素の吸収を抑えます。光合成不足を補うため、ケイ酸資材などを活用して茎葉を硬くすることも有効です。

      天候不順時こそ、「いつから」の判断をカレンダーではなく、稲の姿(葉色・草丈・茎数)と相談して決める観察眼が問われます。

       

      新潟県:SPAD値と葉色板による診断基準(気象変動時の対応参考)
      参考)https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/414015.pdf

      窒素中断いつから?下位節間の伸長抑制と根

      検索上位の記事ではあまり触れられていませんが、窒素中断には「根の垂直分布を深める」という極めて重要な生理学的効果があります。これは単なる肥料切れの話ではなく、稲のサバイバル能力を引き出すプロセスです。

       

      通常、窒素が豊富な環境では、稲の根は地表近くの浅い部分に広く分布します(浅根)。養分がすぐ近くにあるため、わざわざ深く根を伸ばす必要がないからです。しかし、幼穂形成期前に窒素中断を行い、さらに中干しで土壌水分を制限すると、稲は水分と養分を求めて、根を土壌深層へと急速に伸ばし始めます。

       

      • 第4節間・第5節間の硬化

        この時期の窒素制限は、稲の地上部において「第4節間」「第5節間」と呼ばれる、株元の最も重要な支柱部分の徒長を強力に抑えます。ここが短く硬く固まることで、上部に重い穂が実っても耐えられる構造が完成します。

         

      • 根の酸化力維持

        窒素過多の田んぼは還元状態(酸素不足)になりやすく、根腐れの原因となる硫化水素が発生しやすくなります。窒素中断によって土壌中の窒素レベルを下げることは、この還元害を回避し、収穫直前まで根の活力を維持する「秋落ち防止」に直結します。

         

      つまり、「窒素中断いつから?」という問いへの究極の答えは、「下位節間が伸びようとする直前(出穂約35~40日前)」から開始し、根を地中深くへ誘導する準備期間と捉えることです。この視点を持つことで、単なる倒伏防止以上の、登熟期間後半までバテない強い稲作りが可能になります。