日照時間今日の天気と気象庁アメダス過去平均ランキング

土壌肥沃度を数値で正しく理解できていますか?pHやEC、CECといった基礎項目から、最新の生物性評価SOFIXまで、数値を読み解き収量アップとコスト削減につなげる方法を徹底解説します。

日照時間と今日

日照時間と今日の農業活用
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正確な把握

気象庁アメダスや推計気象分布を活用し、圃場の正確な日照時間を特定する。

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生育への影響

光合成量は「日照時間」だけでなく「日射量」も重要。作物の光飽和点を理解する。

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データ活用

過去平均との比較やスマート農業機器によるリアルタイム計測で栽培管理を最適化。

日照時間今日の確認方法と気象庁アメダス

農業の現場において、「今日の日照時間」を正確に把握することは、翌日の潅水管理やハウスの換気設定を決める上で非常に重要です。多くの生産者が天気予報のマーク(晴れや曇り)だけで判断しがちですが、実際の作物が必要とする光の量は、数値で管理する必要があります。

 

最も信頼性の高い確認方法は、気象庁のアメダス(地域気象観測システム)のデータを利用することです。

 

  • アメダス(点データ): 全国約840か所で観測されており、1時間ごとの正確な日照時間を閲覧できます。
  • 推計気象分布(面データ): アメダスとアメダスの間の地域でも、気象衛星などのデータを組み合わせて1kmメッシュごとの日照時間を推計しています。

地域気象観測システム(アメダス)の解説とデータ取得方法 - 気象庁
気象庁の公式サイトでは、最新の観測データだけでなく、過去のデータも検索可能です。

 

✅ 正しいデータの見方

データ項目 解説 農業での活用
日照時間 直達日射量が0.12kW/m²以上あった時間 日長の把握、季節性の判断
日射量 地表に届く太陽エネルギーの総量 光合成量の推定、潅水量の決定

注意点として、「日照時間」が長くても「日射量」が弱い場合(薄曇りなど)があります。植物の光合成はエネルギー量(日射量)に依存するため、日照時間だけでなく全天日射量も併せて確認する習慣をつけると、より精密な栽培管理が可能になります。

 

日照時間今日と農作物の光合成への影響

「今日の日照時間がどれくらいあったか」は、その日1日の作物の光合成量に直結します。光合成で作られた炭水化物は、夜間に呼吸によって消費されつつ、植物体への転流に使われます。つまり、今日の日照データに基づいて夜間の温度管理を変えることが、収量アップの鍵となります。

 

🌱 光合成と転流のバランス

  • 日照が多かった日: 光合成産物が豊富。夜温をやや高く保ち、転流を促進させることで果実肥大を狙う。
  • 日照が少なかった日: 光合成産物が少ない。夜温を下げて呼吸消耗を抑え、徒長(ひょろ長く育つこと)を防ぐ。

また、作物にはそれぞれ「光飽和点」があります。これ以上の強い光を当てても光合成速度が上がらない限界点のことです。

 

  • 陽性植物(トマト、スイカなど): 高い光飽和点を持ち、強い日差しを好む。日照時間不足が致命的になりやすい。
  • 陰性植物(ミツバ、シソなど): 低い光飽和点を持ち、日照時間が短くても育ちやすい。

日照不足による生育不良や冷害のメカニズムと対策 - クボタ
日照不足が続くと、作物は茎を細く長く伸ばして光を求めようとする「徒長」を起こします。これは病害虫に対する抵抗力を弱める原因にもなるため、毎日の日照データを確認し、早めに管理方針を修正することが重要です。

 

日照時間今日の不足と生育不良への対策

梅雨時期や秋の長雨など、「今日の日照時間」が極端に少ない日が続いた場合、どのような対策が打てるでしょうか。物理的な環境制御と、植物生理に基づいた栄養管理の両面からアプローチします。

 

🛠 物理的な対策

  1. 反射シートの敷設: マルチや通路に白い反射シート(タイベックなど)を敷き、乱反射を利用して株元や葉の裏側まで光を届ける。
  2. 葉かき・整枝: 不要な下葉を取り除き、遮光を減らして有効な葉に光を当てる。
  3. 補光(LEDなど): 施設園芸であれば、日没後に数時間の補光を行い、DLI(日積算光量)を確保する。

🧪 栄養・生理面での対策
日照不足時は、根からの養分吸収力(特に窒素やミネラル)が低下します。この状態で通常通りの施肥を行うと、土壌中の肥料濃度(EC)が高まりすぎて根を傷めるリスクがあります。

 

  • 葉面散布の活用: 根が弱っているときは、葉から直接栄養を補給します。特に、光合成で生成されるはずの「糖(グルコース)」や、タンパク質の元となる「アミノ酸」を含む資材を散布することで、エネルギー不足を補います。
  • 酢(酢酸)の利用: 薄めた酢を葉面散布することで、植物の代謝経路を活性化させ、乾燥や日照不足のストレス耐性を高める効果が期待されています。

日照不足時のアミノ酸葉面散布の効果と農家の実践例 - ルーラル電子図書館
こちらのリンクでは、実際に日照不足の年にアミノ酸資材を活用して品質を維持した農家の事例が紹介されています。

 

日照時間今日のデータとスマート農業の活用

(独自視点:日照時間ではなく「DLI」と「IoT」で管理する)
検索上位の一般的な気象情報サイトでは「地域ごとの日照時間」しか分かりませんが、最先端のスマート農業では、より解像度の高いデータ活用が進んでいます。ここで注目すべきは、気象庁のデータではなく「自分の圃場のリアルタイムデータ」です。

 

アメダスの観測地点は数km〜数十km離れていることが多く、山間部や局地的な天候変化が多い地域では、「アメダスでは晴れ」なのに「自分の畑は曇り」というズレが頻繁に起こります。

 

📱 スマート農業におけるデータの進化

  • 圃場設置型センサー: 自分の畑に安価な環境センサーを設置し、スマホで「今日、自分の畑にどれだけ光が当たったか」を確認する。
  • 積算日射量による収穫予測:

    単なる「時間」ではなく、DLI(Daily Light Integral:日積算光量)という指標を用います。これは1日に植物が受け取った光の総光子量を示し、植物の成長速度とより強い相関があります。「積算温度」で桜の開花を予想するように、「積算DLI」でトマトやイチゴの収穫日をピンポイントで予測する技術が実用化されています。

     

農業向け日射量予測アプリの活用とメリット - Green Offshore
日射量を予測することで、翌日の作業人員の配置や、潅水システムの自動制御(日射比例潅水)が可能になり、無駄な水や肥料を削減できます。

 

📊 アメダスデータとIoTデータの比較

特徴 気象庁アメダス 圃場IoTセンサー
範囲 市町村単位(広域) ピンポイント(1m単位)
コスト 無料 初期投資が必要
精度 公式値として信頼性が高い 設置場所の環境に依存
活用 過去の傾向分析、平均値との比較 リアルタイム制御、自動潅水

「今日の日照時間」を記録し続けることは、将来的な「自分の畑だけのビッグデータ」を作ることと同義です。

 

日照時間今日の過去平均と季節の推移

最後に、今日の日照時間を「過去の平均」と比較する視点を持ちましょう。気象庁のデータには「平年値(過去30年の平均)」があり、これと今年のデータを重ね合わせることで、長期的な栽培計画の修正が可能になります。

 

📅 季節ごとの日照時間の傾向(太平洋側の場合)

  • 春(3-5月): 日照時間が急増し、作物の成長が加速する時期。水不足に注意。
  • 梅雨(6-7月): 日照時間が激減。この時期の「過去平均」との乖離をチェックし、病気のリスクを管理する。
  • 夏(8月): ピーク。遮光ネットなどで「強すぎる日照」への対策が必要。
  • 冬(12-2月): 日長が短くなる。施設栽培では、暖房機だけでなくカーテンの開閉時間を調整し、貴重な自然光を1分でも長く取り込む工夫が必要。

過去の日照時間データの取得方法と平年値との比較 - カクチョウ
過去のデータと今年のデータをグラフ化して比較することで、「今年は平年より日照が10%少ないから、収穫が1週間遅れるかもしれない」といった予測が立ちます。これにより、出荷契約の調整や資材の準備を先回りして行うことができ、経営の安定化につながります。

 

農業において「天気任せ」にするのではなく、「データを味方につける」姿勢が、異常気象の多い現代において最も強力な武器となります。今日からさっそく、アメダスやセンサーで「今日の日照時間」をチェックしてみましょう。

 

タイトル:土壌肥沃度の数値と基準値|CECや腐植で診断し改善へ

 

 

土壌肥沃度 数値の活用ガイド
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数値で見る土の健康

pH、EC、CECなどの指標を正しく理解し、土壌の「体調」を診断します。

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生物性の見える化

最新の指標「SOFIX」などで、目に見えない微生物の働きを数値化して評価。

💰
無駄な施肥をカット

残存養分を計算に入れることで、肥料代を削減しつつ収量を維持・向上させます。

土壌肥沃度と数値

土壌肥沃度とは、作物が健全に育つための土壌の総合的な能力を指しますが、これを感覚ではなく「数値」として客観的に把握することは、現代農業において不可欠な技術となっています。多くの生産者が長年の経験や勘に頼って土づくりを行っていますが、毎年の気象条件の変化や連作による土壌環境の変容を正確に捉えるには、土壌診断による数値データの活用が最も確実な近道です。

 

土壌肥沃度を示す数値は多岐にわたりますが、大きく分けて「化学性」「物理性」「生物性」の3つの側面から評価されます。化学性はpHや肥料成分の残存量、物理性は水はけや保水性、そして生物性は微生物の多様性や活性度を示します。これらを総合的に高いレベルで維持することが、安定多収と高品質化、ひいては農業経営の利益最大化に直結します。特に近年では、肥料価格の高騰を背景に、土壌に残っている養分(残肥)を数値で把握し、過剰な施肥を抑える「減肥技術」の重要性が高まっています。ここでは、土壌診断書に記載される専門用語と数値を、現場で使える実践的な知識として深掘りしていきます。

 

土壌肥沃度を読み解く基本:pHとECの基準値

土壌診断の入り口であり、最も基本的かつ重要な数値が「pH(水素イオン濃度)」と「EC(電気伝導度)」です。この2つの数値を見るだけで、その土壌が作物にとって快適な環境か、あるいはストレスフルな環境かが大まかに判断できます。

 

pH(土壌酸度)の適正値とその意味
日本の土壌は雨が多いため、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ分が流亡しやすく、放っておくと自然に酸性に傾く性質があります。

 

  • 一般的な適正範囲: 多くの作物ではpH 6.0〜6.5が理想とされています。
  • 酸性土壌(pH 5.5以下)のリスク:
    • 根が傷む:強酸性条件下では土壌中のアルミニウムが溶け出し、根の生育を阻害します。
    • 養分欠乏:リン酸がアルミニウムや鉄と結合して不可給化(植物が吸えない状態)しやすくなり、リン酸欠乏を引き起こします。
    • 微量要素過剰:マンガンなどが過剰に溶け出し、過剰症を引き起こすことがあります。
  • アルカリ性土壌(pH 7.5以上)のリスク:
    • 微量要素欠乏:鉄、マンガン、亜鉛などが不溶化し、欠乏症(葉の色抜けなど)が発生しやすくなります。
    • 土壌病害の助長:ジャガイモのそうか病などはアルカリ側で発生しやすくなります。

    によると、pHが高いほど塩基飽和度も高い傾向にあり、相関関係にあります。pH調整は単に石灰を撒けばよいというものではなく、後述するカルシウムとマグネシウムのバランスを考慮しながら行う必要があります。

     

    参考)https://www.yanmar.com/jp/agri/agri_plus/soil/articles/05.html

    EC(電気伝導度)で知る肥料濃度
    ECは、土壌中に溶けているイオンの総量を示し、残っている肥料成分(主に窒素やカリ)の目安となります。人間で言えば「血圧」や「血糖値」のようなもので、高すぎても低すぎても良くありません。

     

    • 一般的な適正範囲: 0.3〜0.8 mS/cm(作付け前)。
      • ※施設栽培(ハウス)では雨で流れないため集積しやすく、露地栽培とは基準が異なります。
    • ECが高すぎる場合(1.0 mS/cm以上):
      • 「濃度障害」のリスクがあります。土壌の浸透圧が高くなり、根が水分を吸えなくなる(肥料焼け)現象が起きます。
      • 対策:除塩を行うか、吸肥力の強いクリーニングクロップ(ソルゴーやトウモロコシ)を作付けして養分を吸わせる必要があります。
    • ECが低すぎる場合(0.2 mS/cm以下):
      • 肥料不足(肥切れ)の可能性が高い状態です。
      • 対策:元肥をしっかり施用する必要があります。

      pHとECの組み合わせ診断
      この2つの数値を組み合わせることで、土壌の状態をより詳しく推測できます。

       

      1. pH低・EC高: 施設栽培でよく見られる「硝酸集積」型。肥料が多すぎて土壌が酸性化しています。石灰施用よりも、まずは除塩や減肥が必要です。
      2. pH高・EC高: 塩基類(カルシウム、マグネシウム、カリ)が過剰に残っています。肥料投入をストップすべき状態です。
      3. pH低・EC低: 養分が流亡しきった痩せた土壌(野山に近い状態)。有機物と肥料の両方を補給し、基礎から土作りをする必要があります。

      参考:土壌診断と対策(青森県) - CECとpH、保肥力の関係についての詳細解説

      土壌肥沃度の容量を知る:CECと腐植の目標数値

      pHやECが土壌の「現在の体調」を示すなら、CEC(塩基置換容量)と腐植含量は、土壌が本来持っている「基礎体力」や「胃袋の大きさ」を示す数値です。この数値が高いほど、土壌肥沃度が高いと言えます。

       

      CEC(塩基置換容量):土の胃袋の大きさ
      CEC(Cation Exchange Capacity)は、土壌がプラスイオン(アンモニア、カリ、カルシウム、マグネシウムなど)を吸着・保持できるキャパシティを表します。単位は meq/100g(または cmol(+)/kg)で表されます。

       

      • 数値の目安:
        • 砂土: 3〜5(保肥力が低い。肥料がすぐ流れる)
        • 一般の畑土: 10〜15(標準的)
        • 黒ボク土・粘土質: 20以上(保肥力が高い)
      • CECが低い場合(10未満)の対策:
        • 一度に大量の肥料を撒くと、土が保持しきれずに地下水へ流亡してしまいます。また、濃度障害も起きやすくなります。
        • 「分施(追肥重点)」が基本戦略となります。少しずつ回数を分けて肥料を与えることで、利用効率を高めます。
        • ゼオライトやバーミキュライトなどの土壌改良資材を投入して、CECを物理的に引き上げることも有効です。
      • CECが高い場合(20以上)の特徴:
        • 一度に多量の肥料を撒いても土が緩衝してくれるため、栽培が安定しやすいです。
        • 逆に、一度バランスが崩れると(pHが極端に下がるなど)、回復させるために大量の資材が必要になる「重い土」でもあります。

        腐植(有機物):CECを高める源
        腐植は、土壌有機物が微生物によって分解・再合成された黒褐色の物質です。腐植自体が高いCECを持っており(粘土鉱物よりも遥かに高いCECを持ちます)、土壌の団粒構造を形成する接着剤の役割も果たします。

         

        • 数値の目安: 多くの作物で3.0〜5.0%が目標とされます。
          • のデータによると、腐植が1%増えるとCECは約2 meq/100g 上昇するとされています。これは非常に大きな効果です。​
          • 腐植が2%以下の土壌は「地力がない」と判断され、干ばつに弱く、肥料の効きも悪くなります。
        • 腐植を増やすには:
          • 完熟堆肥の継続的な投入が基本です。
          • 緑肥(ソルゴー、ヘアリーベッチなど)を栽培し、すき込むことも有効です。生の有機物をすき込むことで、微生物の餌となり、時間をかけて腐植へと変化します。
          • 注意点:未熟な有機物を大量に入れると、分解過程で窒素飢餓やガス障害を起こすため、C/N比(炭素率)を考慮した投入が必要です。

          CECと腐植の数値は、一朝一夕には変わりません。しかし、ここを改善することが「土壌肥沃度」を高める本質的な取り組みとなります。毎年堆肥を入れ続けることで、5年後、10年後の数値が確実に変化し、減肥しても収量が落ちない強い土へと変わっていきます。

           

          参考:ヤンマー アグリプラス 肥沃な土壌とは(CECと塩基飽和度) - 腐植とCECの相関関係グラフ

          土壌肥沃度の質を高める:塩基バランスと微量要素

          土壌の胃袋(CEC)の中に、どのような栄養素がどのような割合で入っているかを見るのが「塩基バランス(塩基飽和度)」です。CECが大きくても、中身が空っぽ(酸性)だったり、特定の成分ばかりが入っていては、作物は健全に育ちません。

           

          塩基飽和度:土の満腹度
          CEC全体に対して、塩基類(カルシウム、マグネシウム、カリ)が何%満たされているかを示す数値です。

           

          • 適正範囲: 80%程度が理想的とされています。
            • 100%を超えている場合:肥料過多です。これ以上の施肥は無駄になるだけでなく、塩類集積害を引き起こします。
            • 60%以下の場合:酸性に傾いている可能性が高く、養分不足です。

            塩基バランス(Ca:Mg:K):黄金比率
            塩基類はお互いに拮抗作用(片方が多すぎるともう片方の吸収を邪魔する作用)を持っています。そのため、絶対量だけでなく、3要素のバランスが非常に重要です。一般的な黄金比率は以下の通りです。

             

            • 石灰(Ca):苦土(Mg):カリ(K) = 5 : 2 : 1 (当量比)
              • この比率を目指して施肥設計を行うのが、高品質・多収への近道です。

              バランス崩壊のパターンと対策

              1. カリ過剰(Kが高い):
                • 家畜糞堆肥(特に牛糞や鶏糞)を多用している畑でよく見られます。
                • 症状:カリが多すぎると、マグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)の吸収を阻害します。結果として、マグネシウム欠乏症(葉の黄化)やカルシウム欠乏症(トマトの尻腐れ病、ハクサイの芯腐れ病)が発生します。
                • 対策:カリ肥料を減らし、場合によっては数作抜きます。堆肥の種類をカリの少ないバーク堆肥などに切り替えます。
              2. マグネシウム過剰(Mgが高い):
                • 苦土石灰の撒きすぎなどで起こります。
                • 症状:カルシウムやカリの吸収を阻害します。また、土が硬く締まりやすくなるとも言われています。
                • 対策:マグネシウムを含まない資材(炭酸カルシウムなど)でpH調整を行います。

              リン酸肥沃度と微量要素

              • 有効態リン酸: 日本の黒ボク土はリン酸を吸着しやすいため、数値として表れにくいですが、10〜30mg/100g(トルオーグ法)程度が目安です。施設栽培では100mgを超えているケースも多く、その場合はリン酸肥料は不要(ゼロ)で栽培可能です。
              • 微量要素(マンガン、ホウ素、鉄など): これらはごく微量で十分ですが、欠乏すると致命的な生理障害を起こします。定期的に「微量要素入り資材」や「ミネラル資材」を投入するか、堆肥に含まれるミネラル分で補給します。特にアブラナ科野菜(キャベツ、ブロッコリー)はホウ素要求量が高いので注意が必要です。

              バランス調整のコツは、「足りないものを足す」ことよりも「多すぎるものを入れない」ことにあります。特に堆肥由来のカリやリン酸は計算から漏れがちですが、土壌診断においてはこれらも厳密にカウントし、化学肥料を減らす引き算の施肥設計が重要です。

               

              参考:農研機構 土壌診断評価法の改良と減肥指針 - リン酸・カリの適正値と減肥シミュレーション

              土壌肥沃度の生物性評価:SOFIXと微生物の数値

              これまで解説したpHやCECは「化学性」の指標でしたが、近年注目されているのが、土壌中の微生物の働きを数値化する「生物性」の評価です。これまでは「良い土=フカフカした土」といった感覚的な表現しかできませんでしたが、最新の技術では土の「生きている度合い」を数値化できるようになっています。

               

              SOFIX(土壌肥沃度指標)とは
              にあるように、SOFIXは立命館大学の久保幹教授らが開発した、世界初の土壌肥沃度指標です。従来の化学分析に加え、「土壌中の総細菌数」「窒素循環活性」などを測定・数値化します。

               

              参考)https://shin-garlic.com/assets/pdf/component.pdf

              • 評価の視点: 植物(作物)と微生物の物質循環がスムーズに行われているかを評価します。
              • 主な測定項目:
                • 総細菌数: 土1gあたりどれくらいの細菌がいるか(例:6億個/g以上など)。数値が高いほど、有機物を分解し養分を供給する能力が高いとされます。
                • C/N比(炭素率): 10〜20程度が理想。高すぎると窒素飢餓、低すぎると窒素過多になります。
                • 窒素循環活性: 有機態窒素がアンモニア、硝酸へと変わるスピードやバランス。

                生物性が高い土壌のメリット
                生物性の数値が高い(=微生物が豊富で活性が高い)土壌では、以下のような現象が起きます。

                 

                1. 団粒構造の形成: 微生物が出す粘着物質により、土の粒子が団子状になり、水はけと水持ちが同時に良くなります。
                2. 病害抑制: 多様な微生物が拮抗し合うことで、特定の病原菌(フザリウムなど)の爆発的な増殖を抑えます。「発病抑止土壌」と呼ばれる状態です。
                3. 養分の可給化: 土壌中にある難溶性のリン酸やミネラルを、微生物が分解して植物が吸える形に変えてくれます。これにより、肥料を減らしても作物が育つようになります。

                生物性数値を高めるアプローチ
                SOFIXなどの診断で生物性が低いと判定された場合、化学肥料だけでは改善できません。

                 

                • 良質な有機物の投入: 微生物の餌となる炭素(C)を含む堆肥を入れます。ただし、単に量を入れるのではなく、C/N比を整えた完熟堆肥が重要です。
                • 微生物資材の活用: 有用菌(乳酸菌、酵母、放線菌など)を含む資材を投入し、スターターとして働かせます。
                • 過剰な殺菌・耕起を避ける: 土壌消毒剤の多用は有用菌も殺してしまいます。また、過度なロータリー耕耘は菌糸ネットワークを寸断するため、適度な耕起深度を保つことが推奨されます。

                生物性の数値化は、有機農業や減農薬栽培を目指す生産者にとって強力な武器になります。「なんとなく調子が良い」を「細菌数〇億個だから調子が良い」と言語化できることで、再現性のある土作りが可能になります。

                 

                参考:一般社団法人SOFIX農業推進機構 - SOFIX(土壌肥沃度指標)の判定基準とメカニズム

                土壌肥沃度数値に基づく施肥設計とコスト削減

                最終的に、土壌肥沃度の数値を活用する最大の目的は、「勘と経験の農業」から「データに基づく精密農業」へ転換し、コストを下げつつ収益を上げることです。ここでは具体的な施肥設計への落とし込み方を解説します。

                 

                残肥(ざんぴ)を計算に入れた引き算の施肥
                多くの施肥基準(JAや県の栽培暦)は、標準的な土壌を想定して書かれています。しかし、あなたの畑にリン酸やカリが「過剰」レベルで残っているなら、基準通りの施肥は無駄遣いです。

                 

                • ケーススタディ:リン酸過剰の場合
                  • 土壌診断値:有効態リン酸 80mg/100g(基準値の2〜3倍)
                  • アクション:基肥のリン酸を半減またはゼロにします。
                  • メリット:リン酸肥料は高価なため、大幅なコストダウンになります。また、過剰なリン酸による微量要素欠乏(亜鉛欠乏など)を防げます。
                  • 注意点:初期生育確保のため、ごく少量の「スターター肥料」として局所施用するのは有効です。

                  pH矯正コストの最適化
                  pHが低い場合、資材屋さんに言われるがままに高価な土壌改良資材を使っていませんか?

                  • 苦土石灰 vs 炭カル: マグネシウム(苦土)が十分に足りている(Ca/Mg比が適切)なら、わざわざ高い苦土石灰を使う必要はありません。安価な炭酸カルシウム(炭カル)で十分です。
                  • 資材の種類の選択: pHを上げずにカルシウムだけ補給したい場合は「石膏(硫酸カルシウム)」を選びます。これも数値がなければ判断できない選択です。

                  モニタリングによるPDCAサイクル
                  土壌診断は一度やって終わりではありません。「診断 → 施肥設計 → 栽培 → 結果の検証 → 次回の診断」というサイクルを回すことが重要です。

                   

                  • 毎年同じ時期に診断する: 作付け前など、条件を揃えることで年ごとの変化(トレンド)が見えます。「腐植が年々増えている」「ECが下がってきた」といった変化が見えれば、土作りが正しい方向に進んでいる証拠です。
                  • エリアごとの診断: 畑の枚数が多い場合、全ての畑でやるのはコストがかかりますが、生育が良い場所と悪い場所をピンポイントで比較分析することで、生育不良の原因(排水不良、特定成分の欠乏など)を特定できます。

                  土壌肥沃度の数値を味方につけることは、農業経営の「財務諸表」を見ることと同じです。土の中に眠っている資産(養分)を正確に把握し、必要な投資(肥料)だけを行う。この経営感覚こそが、肥料高騰時代を生き抜くための鍵となります。まずは主要な畑の土を採り、分析機関へ送ることから始めてみましょう。その「数値」が、来作の収量を変える最初の一歩になります。