目視の葉色チェックに頼って追肥しても、実は圃場の約30〜40%のエリアに必要な量が正確に届いておらず、10a当たり最大9,591円もの収益機会を毎年捨てています。
NDVI(Normalized Difference Vegetation Index)は「正規化植生指数」と訳され、植物の健康状態を−1から+1の数値で表す指標です。仕組みは、植物の葉が持つ光の反射特性を利用しています。
健康な植物の葉は、光合成に必要な赤色光(波長約670nm)を強く吸収し、一方で近赤外線(波長約800nm)を強く反射します。この2つの波長帯の反射率の差を計算式に当てはめると、植物の活力が数値として見えてくる仕組みです。
計算式は次のとおりです。
農地のNDVI値は一般的に0.2〜0.7の範囲に分布します。東京ドーム約1個分(約4.7ha)の圃場でも、このNDVIマップを使えばどのゾーンが生育優良でどこが遅れているかを色分け表示で一目で把握できます。
目視では「なんとなく葉色が薄い気がする」という曖昧な判断しかできない生育ムラも、NDVIなら3cm四方ごとの細かさで数値化できます。
これが基本です。
NDVI値が信頼できる基礎情報として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)や農林水産省のスマート農業推進においても中核技術に位置付けられています。
農林水産省スマート農業オンライン講座「衛星リモートセンシングの実例」(NDVIの原理と計算式を詳しく解説)
NDVIデータの取得手段は大きく3つあります。それぞれ特性が大きく異なるため、使い分けが重要です。
まず衛星データは、広域を低コストでカバーできるのが最大の強みです。ESAのSentinel-2衛星を使った場合、10mメッシュの解像度のNDVIデータが無料で入手できます。30分ごとにデータが更新されるシステムも実用化されており、新潟県の山田錦プロジェクトでは農家がスマートフォンでリアルタイムに圃場の生育状況を確認できる仕組みが作られました。
一方、ドローンセンシングは圃場内の細かいムラを3cm四方ごとに把握できる精度が特長です。1フライトで10分/10a程度の撮影が可能で、センシングから可変施肥データの作成まで、1haの圃場で0.2〜0.3時間ほどで完結します。
大きな差を整理します。
| 取得方法 | 解像度 | コスト | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| 無料衛星(Sentinel-2) | 10mメッシュ | 無料 | 広域の生育概況把握・経年管理 |
| 有料衛星AIサービス | 数mメッシュ | 月額1,100円〜 | 可変施肥マップ作成・収量予測 |
| ドローンセンシング | 3cmメッシュ | 機材費+委託費 | 圃場内精密診断・穂肥可変施肥 |
実用的なアプローチは、衛星で全体を把握してから、生育の遅れが気になる箇所だけドローンで精密確認するという組み合わせです。これにより、ドローンの飛行時間を最小化しながらコストを抑えることができます。
つまり、使い分けが基本です。
スマートアグリ:衛星画像とドローンを組み合わせた山田錦可変施肥プロジェクトの詳細事例
NDVIの計算式はシンプルですが、実際に数値を読み解く力が農業での活用精度を左右します。
計算式を改めて確認します。
NDVI = (NIR − Red) ÷ (NIR + Red)
NIRが近赤外線反射率、Redが赤色光反射率です。値が+1に近いほど植物が旺盛、0に近づくほど土壌や裸地、マイナスになると水面や建物を示します。
農地での実際の読み方を具体的にまとめます。
注意が必要な点があります。NDVI値はすべての圃場で一律に同じ基準にはなりません。地力・品種・気象条件によって変動するため、複数年のデータを蓄積して「自分の圃場の平均値」を把握することが重要です。
また、衛星データには雲の影響という弱点があります。光学センサーを使うSentinel-2やランドサットは、曇天時に地表を観測できません。前年の同時期データや気象データと組み合わせて補完する使い方が現場では一般的です。
NDVI値が0.2未満になっているゾーンを発見した場合、そこに絞って土壌診断やサンプリングを行うことで、従来の「圃場の四隅と中央の5点」という画一的な土壌診断よりはるかに効率的かつ精度の高い診断が可能になります。
宙畑:NDVI計算式の実装方法・注意点・農業モデリングのパターンを実例コード付きで解説
多くの農家が長年行ってきた「圃場全体を同じ量で施肥する」一律施肥は、NDVIマップで見ると大きなリスクを抱えています。
その理由は明快です。
圃場内には必ず地力のムラがあります。大区画ほ場整備を行った圃場では特に、土の切り盛りによって切土側と盛土側で地力差が生じます。
この差は目で見ただけでは判断できません。
生育の良い箇所と悪い箇所が混在する状態で一律施肥を続けると、何が起きるのかというと次のことが起きます。
農林水産省のスマート農業教材でも「生育状況が異なるのに一律施肥が行われたり、生育の悪い作物に追肥する機会が失われる」ことが課題として明示されています。
新潟県の実証事例(令和5年度・新潟市)では、前年に一律施肥管理を続けた圃場の収量は445kg/10aに低迷していました。翌年、NDVIデータに基づく可変施肥を導入したところ、収量が目標値を96kg/10aも上回り、10a当たり対前年比で47,840円の増益が実現しています。
痛いですね。一律施肥は一見コスト管理が楽に見えますが、実際には大きな損失を積み上げています。
全国農業システム化研究会:センシングデータ可変施肥の水稲収量・品質への効果実証(新潟県令和5年度)
NDVI値を可変施肥に活用するプロセスを整理します。理解してしまえば、導入のハードルは意外と低いのが現実です。
① センシング:ドローンや衛星でNDVI画像を取得する。
② マップ作成:NDVIのばらつき(変動係数)に基づいて処方マップを作成する。生育の悪いゾーンには多く、良いゾーンには少なく施肥する計画を立てる。
③ 農機への取り込み:作成したマップデータをUSBメモリ等で可変施肥機(田植機・散布ドローン等)に読み込ませる。
④ 自動散布:農機がGPSと連動して、ゾーンごとに自動で施肥量を調整しながら作業する。
可変施肥の精度は非常に高く、計画比99.3〜101.1%という実証結果も出ています。これは条件が揃えば、ほぼ設計どおりの施肥が実現できることを意味します。
この情報を得た上で確認したいのが、衛星AIサービス「xarvio(ザルビオ)フィールドマネージャー(BASFデジタルファーミング社)」です。衛星データとAI解析を組み合わせてNDVIベースの可変施肥マップを自動生成するサービスで、埼玉県の農業法人など国内多数の事例で収量約15%アップの成果が報告されています。年額13,200円(月額1,100円)から始められるため、大規模農家でなくても導入しやすい価格帯です。
みのるすBASF:ザルビオ可変施肥活用事例・収量15%向上の詳細(埼玉県ヤマザキライス事例)
NDVIの農業的価値は、施肥管理だけにとどまりません。特に注目すべきは、症状が目に見える前の段階で異常を検知できる点です。
植物が病害虫の被害を受けたり、水ストレス(干ばつや過湿)にさらされたりすると、葉内のクロロフィル量が低下します。これは目視で葉の変色が確認できるよりも前に近赤外線反射率の低下として現れます。つまりNDVIは、人の目より先にサインをキャッチできます。
病害・水ストレスの早期検知に使う際のポイントは次の通りです。
農薬や農業用水は適正量を超えれば、コストが増加するだけでなく環境負荷にもなります。NDVIで病害や水ストレスの発生ゾーンを事前に特定できれば、農薬散布を全面散布から局所散布に切り替えることができ、農薬コストと作業時間を同時に削減できます。
いいことですね。
時間と費用、両方を守れる技術です。
CHANCCTV:NDVIの農業応用・栄養欠乏・病害・水ストレスの早期発見への活用方法
NDVIは生育中期だけでなく、収穫前の管理にも強力な武器になります。
意外と知られていない活用シーンです。
水稲の場合、出穂期前後のNDVI値と収量の間に強い相関があることが実証されています。農研機構の研究では、減数分裂期〜出穂期のNDVIを使った追肥診断で91%の精度で穂肥要否が判定できるとされています。
収穫適期の判断にも同様の原理が使えます。NDVIの時系列変化を見ると、作物が登熟・成熟するにつれて値が緩やかに低下していきます。この低下トレンドを追うことで、ほ場ごとの収穫開始タイミングを最適化できます。
さらに倒伏リスクの予測にも有効です。倒伏は主に、肥沃度が高いゾーンへの過剰施肥が引き金になります。JRC(日本電子計算株式会社)の研究によれば、小麦のNDVIマップから倒伏発生地点(過剰施肥ゾーン)を特定し、翌年の施肥設計に反映させることができます。倒伏が起きると収穫作業が著しく困難になる上、減収に直結します。
NDVI値の蓄積が条件です。1年目より2年目、2年目より3年目というように、複数シーズンのデータが積み重なるほど予測精度が上がります。前年度のNDVIパターンを基肥の可変施肥設計に使えるようになるのが理想的な使い方です。
NDVIを農業に活用するには、その限界を正しく理解しておくことが重要です。
これが原則です。
最も大きな弱点は、光学衛星の場合に曇天・雨天時の観測ができないことです。Sentinel-2衛星は16日に1回のペースで同一エリアを観測しますが、日本の梅雨期・台風期は雲に覆われる日が連続します。この時期に雲なしのクリーンなデータを取得するには、複数衛星の合成データ(7〜10日合成)を使うか、生育ステージの前後のデータで補完する必要があります。
また、水田では田植え直後など水面が見えている時期はNDVI値が低くなり、健康な水稲が育っていても低値が出ることがあります。NDVI値だけで判断すると誤った施肥設計につながる場合があるため注意が必要です。
もう一つ見落とされがちなのが、施肥量の最終設定は機械任せにできないという点です。実証報告でも「最も重要な施肥量の設定は人間の知識・経験に頼る部分」と明示されています。NDVIは現状を正確に把握するツールですが、品種の特性・その年の気象・土壌の状態を総合して施肥量を決定するのは、最終的に農業者の判断です。
これは使えそうです。つまりNDVIはあくまで「意思決定を支援するデータ」であり、経験や知識を代替するものではないと位置づけておくことが、現場での正しい使い方です。
「興味はあるが、どこから始めればいいかわからない」という農家向けに、実際に取り組みやすい順序を示します。
ステップ1:無料衛星データで自分の圃場のNDVIを確認する
ESAのEOブラウザ(apps.sentinel-hub.com/eo-browser)では、Sentinel-2衛星のNDVI画像を無料で閲覧できます。圃場の座標を入力するだけで過去のNDVI変化を視覚的に確認できます。まず自分の圃場にNDVIの濃淡があるかどうかを確認する、このステップにはお金はかかりません。
ステップ2:スマート農業サービスで可変施肥マップを作成する
ザルビオ(xarvio)のようなサービスを利用すれば、衛星データとAI解析で可変施肥マップを自動生成できます。月額1,100円からという低コストでスタートできるため、まず2ha程度の圃場で試してみることをおすすめします。
ステップ3:データを蓄積して精度を上げていく
初年度は生育マップの「読み方」を覚える段階として、翌年以降の施肥設計に活かす情報を蓄積します。複数年のNDVIデータが揃うと、ほ場の特性(地力の高い場所・水はけの悪い場所など)が見えてきます。
この3ステップが基本です。最初から高額な機材投資をする必要はありません。低コストのサービスを活用しながら段階的に導入することが、農業経営を圧迫せずにスマート農業を実践する現実的な方法です。
越路地計:農家向けNDVIマップ普及の取り組みとリモートセンシングによるスマート農業入門
NDVIの活用タイミングは作物によって異なります。それぞれの生育ステージに合わせた計測が効果を最大化するカギです。
🌾 水稲(稲作)
分げつ期(6月下旬〜7月上旬)のNDVI計測が最初のポイントです。この時期のばらつきを把握して穂肥(追肥)の可変施肥マップを準備します。次に幼穂形成期前(7月中旬)の計測で穂肥の投入量を確定し、出穂期前後の計測で収量予測を行います。農研機構の研究では、出穂期前後のNDVIと収量の間に強い相関が確認されており、収量予測の精度向上に活用されています。
🌿 小麦・大豆
小麦では起生期(3月〜4月)のNDVI計測が追肥タイミングの判断に有効です。また倒伏予測に使えるため、NDVIが高い(過繁茂気味の)ゾーンでは追肥量を絞る判断ができます。北海道の実証では、収量785kg/10aの慣行区に対し、NDVIベースの可変施肥区で同等以上の品質・収量を維持しながら肥料費を削減した事例が報告されています。
🥬 野菜・露地栽培
UAV(農業用ドローン)を用いたNDVI計測は、ばれいしょ(じゃがいも)の生育ステージ推定や葉緑素含量の推定に有効であることが農畜産業振興機構の研究でも確認されています。生育の均一化を図ることで規格外品の発生を減らし、出荷ロスの削減につながります。
農畜産業振興機構:UAVによるばれいしょの生育診断とNDVI活用に関する研究報告
長年の経験と目視に頼った圃場管理は、農業者の「職人的技術」として尊重されるべきものです。しかし、NDVIというデータと比較したとき、見えてくる現実があります。
農林水産省の調査でも指摘されている通り、従来の葉色等による追肥診断には「精度や労力面の課題」があります。葉色は光の条件・観察者の目の慣れ・時間帯によって見え方が変わります。同じ圃場を2人の農家が診断すると、施肥量の判断が異なることも珍しくありません。
過剰施肥が続くと何が起きるのかというと、コスト増加だけでなく、窒素が地下水に溶け出す硝酸態窒素汚染につながります。さらに食味低下・倒伏といった直接的な収量損失にも直結します。一方で過少施肥は収量の低迷を招き、特にコシヒカリや新之助などのブランド米では1等米基準を下回るリスクが高まります。
意外ですね。目視管理が「丁寧な農業」に見えても、実はデータが示す管理と比べて年間数万円単位の損失を生んでいる可能性があります。
NDVIを「既存の経験値を否定するもの」ではなく、「経験値をより正確に活かすための補完ツール」として位置づけることが、現場での受け入れをスムーズにするコツです。目視でわかること、NDVIでわかること、両方を組み合わせれば、農業者の判断精度はさらに高まります。
近年の農業現場で深刻化しているのが、異常気象による生育予測の外れです。「最近は気象の変化が激しいので予測が外れることが多い」と、宇宙利用を専門とするJAMSS(有人宇宙システム株式会社)の担当者も指摘しています。
ここで注目すべき独自の活用アイデアが、NDVIのリアルタイム観測データと気象予測データの組み合わせです。従来の生育モデルは「過去の気象パターン」に基づく予測が前提でした。しかし異常高温・異常降雨の年には、そのモデルが外れやすくなります。
NDVIの強みは、気象モデルではなく「圃場の現在の状態」を直接観測できることです。たとえば、高温障害で予想以上に登熟が進んでいる圃場は、NDVIの時系列変化から例年より早く収穫適期に入ることを事前に検知できます。逆に、冷夏で生育が遅れているゾーンは、NDVIの上昇カーブが平年より緩くなるため、施肥の追加投入か収穫延期の判断が早くできます。
気候変動への対応として、NDVI観測データを毎年継続的に積み上げていくことが、今後10年の農業経営の競争力に直結する可能性があります。
NDVIを農業に取り入れる際、どのツールやサービスを選ぶかは農家の規模・予算・目的によって変わります。現実的なコスト感をつかんでおくことが重要です。
📱 スマートフォン・タブレットで始めるサービス(低コスト型)
ザルビオ(xarvio)フィールドマネージャーは月額1,100円〜使えるサービスで、衛星データ+AIで地力マップ・生育マップ・可変施肥マップを自動生成します。クボタKSASとの連携で可変施肥田植機への直接データ連携もできます。
初期費用がかからないのが特徴です。
🚁 ドローン委託センシングサービス(中コスト型)
自前でドローンを持たない場合でも、農業支援企業への委託でNDVIマップを取得できます。新潟の越路地計のような測量会社が農家向けのNDVIマップ作成サービスを提供しており、スポット利用も可能です。
🛰️ 農研機構・JAのデータ連携システム(産地レベル型)
産地全体で取り組む場合は、農研機構のKSAS(クボタスマートアグリシステム)や地方JA・農業支援機関のデータ共有プラットフォームを活用する方法があります。
導入にあたっての注意点として、スマート農業機器の購入が目的化して経営を圧迫しないよう、まずサービスから入り、効果を確認してから機材投資を判断するというアプローチが現実的です。経費削減と収量アップの両方を達成してから、次のステップへ進む段階的な導入が原則です。
xarvio(ザルビオ)公式サイト:衛星データ×AI可変施肥サービスの機能・料金・導入事例