トリコデルマ増やし方の培養と自作で土壌改良の菌の効果

トリコデルマ菌を自作で増やす方法をご存知ですか?高価な資材を買わずに、身近な米やもみ殻で培養し、土壌改良や病気予防に活かす具体的な手順とコツを徹底解説します。あなたの畑も菌の力で変わりませんか?

トリコデルマの増やし方

トリコデルマ菌活用の要点
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強力な病害抑制

灰色かび病などの病原菌に直接寄生し、溶解して退治する。

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未利用資材の分解

もみ殻やワラなどのセルロース分解能力が非常に高い。

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温度と水分の管理

20〜30℃の適温維持と、握って崩れる水分量が培養成功の鍵。

農業の現場において、土壌環境の改善や病害対策として微生物資材の活用が進んでいますが、その中でも特に強力な効果を発揮するのが「トリコデルマ菌」です。市販の微生物資材は品質が安定している反面、広い圃場に定期的に投入するにはコストがかさむという課題があります。しかし、トリコデルマ菌は条件さえ整えれば、身近な資材を使って農家自身の手で増やす(拡大培養する)ことが可能です。

 

トリコデルマ菌は自然界のどこにでも存在する糸状菌(カビ)の一種であり、特に分解されにくい植物遺体(セルロース)を好んで栄養源とします。この性質を利用し、米やもみ殻などを培地として菌糸を広げ、爆発的に密度を高めることが「自家培養」の核心となります。成功すれば、数千円分の種菌から数十倍、数百倍の土壌改良資材を生み出すことができ、コストパフォーマンスは劇的に向上します。

 

ここでは、単なる「はんぺん(白カビ)」を集める土着菌採取とは異なり、狙ったトリコデルマ菌を確実に増やし、実際の栽培に役立てるための専門的な培養プロセスと、その土壌への投入方法について深掘りしていきます。菌の特性を理解し、適切な管理を行うことで、誰でも高品質な微生物資材を作ることができるようになります。

 

農文協 ルーラル電子図書館:トリコデルマ菌ボカシの作り方と活用事例

トリコデルマの増やし方で菌を培養する米と温度

 

トリコデルマの増やし方において、最も確実で一般的な培地(エサ)となるのが「米」です。米は炭水化物が豊富で、菌糸が食いつきやすく、初期の増殖スピードを最大化させるのに適しています。以下に、米を使った具体的な培養手順と、最重要パラメータである温度管理について解説します。

 

  • 培地の準備(米の処理)

    まず、古米やクズ米を用意します。これらを通常通り洗米し、炊飯器で少し硬めに炊くか、蒸し器で蒸し上げます。重要なのは、米の表面だけでなく内部まで水分を含ませつつ、ベチャベチャにしないことです。水分過多はバクテリア(細菌)の増殖を招き、腐敗の原因となります。炊き上がった米は、人肌程度(35℃以下)になるまで冷まします。熱いうちに種菌を混ぜると菌が死滅してしまうため、この冷却工程は必須です。

     

  • 種菌の接種と混合

    冷ました米に、市販のトリコデルマ資材(粉末や粒剤)を種菌として混ぜ込みます。米1升(約1.5kg)に対して、種菌を10〜20g程度、まんべんなく振りかけます。この際、米ぬかを全体の1割程度添加することで、菌の活着が良くなり、発酵のスターターとしての役割を果たします。米ぬかに含まれるリン酸やミネラルが、菌糸の伸長を助けるからです。

     

  • 温度管理の徹底(20℃〜30℃)

    培養容器(通気性のあるプラスチックコンテナや木箱)に移し、新聞紙や布で蓋をして直射日光の当たらない場所に置きます。ここで最も重要なのが温度です。トリコデルマ菌は25℃前後で最も活発に活動します。

     

    • 20℃以下: 増殖が遅くなり、他の低温性雑菌に負ける可能性があります。
    • 35℃以上: 菌が弱り始め、逆に納豆菌バチルス菌)などの高温耐性菌や、嫌気性細菌が優勢になり、悪臭(腐敗臭)が発生しやすくなります。

      冬場は保温マットを使用し、夏場は風通しの良い日陰で管理するなど、徹底した温度コントロールが必要です。

       

  • 菌の判定(緑色の胞子)

    順調にいけば、2〜3日で白い菌糸が米全体を覆い始めます(いわゆる「はんぺん状」)。そして、5〜7日経過すると、白い菌糸の上に濃い緑色の胞子が形成されます。これこそがトリコデルマ菌が健全に増殖した証拠です。もし、黒色や赤色(ピンク色)のカビが発生した場合は、雑菌汚染の可能性が高いため、その部分は廃棄してください。特に赤カビ(フザリウム)は病原菌そのものなので、絶対に畑に入れてはいけません。

     

カクイチ:トリコデルマ菌の効果と培養における米やもみ殻の活用法

トリコデルマの増やし方と自作の堆肥による土壌改良

米で培養した高濃度の「トリコデルマ米」は、そのまま畑に撒くこともできますが、コストと効果の持続性を考えると、さらに「堆肥」や「もみ殻」を使って二次培養(拡大培養)を行い、ボカシ肥として仕上げてから土壌に投入するのがベストです。

 

  • もみ殻・米ぬかでの拡大培養

    培養した米を種菌として、次は大量の「もみ殻」と「米ぬか」の混合物に接種します。もみ殻はリグニンやセルロースの塊であり、トリコデルマ菌にとって絶好の住処かつ食料です。

     

    1. もみ殻:米ぬか = 7:3 程度の割合で混合します。
    2. 水分量を60%程度(手で握ると団子ができるが、指でつつくとパラっと崩れる程度)に調整します。
    3. ここに先ほど作った「トリコデルマ培養米」を崩して混ぜ込みます。
    4. 山積みにしてシートを被せ、再度発酵させます。

      このプロセスを経ることで、わずかな米麹から、軽トラック1台分の土壌改良資材を生み出すことができます。

       

  • 土壌への投入と定着

    完成した「トリコデルマボカシ」は、作付けの2週間〜1ヶ月前に土壌に混和します。重要なのは、有機物(エサ)と一緒に浅くすき込むことです。トリコデルマ菌は好気性(酸素を好む)であるため、深くまで耕しすぎると酸素不足で死滅してしまいます。表層10〜15cm程度の浅い層に混ぜることで、菌が呼吸しやすく、また地表付近に多い病原菌と接触する機会が増えます。

     

  • 土壌改良のメカニズム(団粒化の促進)

    トリコデルマ菌は、有機物を分解する過程で粘着性のある物質を分泌します。これが土の粒子同士を接着させる「糊」の役割を果たし、土壌の団粒構造を形成します。団粒構造が発達した土は、水はけと水持ちが両立し、作物の根がスムーズに伸長できるフカフカの土になります。また、未分解の有機物(前作の残渣など)を急速に分解・堆肥化するため、ガス害の発生を防ぎ、次作の初期生育を安定させる効果も期待できます。

     

ヤンマー アグリプラス:もみ殻を堆肥に変え、微生物と共に土を作る実例

トリコデルマの増やし方の効果と病気への対策

トリコデルマ菌を増やす最大の目的は、多くの農家にとって「土壌病害の抑制」にあります。なぜトリコデルマ菌が病気に効くのか、その具体的なメカニズムと対象となる病気について理解しておくことは、効果的な運用に不可欠です。

 

  • 重寄生(Mycoparasitism)という攻撃特性

    トリコデルマ菌の最もユニークな特徴は、他のカビ(糸状菌)に巻き付き、細胞壁を溶かして栄養を奪い取る「重寄生」という性質です。多くの土壌病害は糸状菌によって引き起こされますが、トリコデルマ菌はこれらを「エサ」として認識します。

     

    • 灰色かび病(ボトリチス菌)
    • 立枯病(リゾクトニア菌)
    • 菌核病

      これらの病原菌を見つけると、トリコデルマ菌の菌糸が絡みつき、キチナーゼやグルカナーゼといった酵素を出して相手の細胞壁を破壊・死滅させます。これが「生きた農薬」と呼ばれる所以です。

       

  • 栄養と場所の競合(Competition)

    土壌中には、利用できる養分や生存できるスペースに限りがあります。トリコデルマ菌は増殖スピードが非常に速いため、病原菌が増える前に土壌中のスペースや栄養を先取りしてしまいます。病原菌が入り込む隙間を物理的に埋めてしまうことで、病気の発症を未然に防ぐ「予防効果」が高いのです。したがって、病気が出てから投入するよりも、発病前の予防投与が鉄則です。

     

  • 植物の免疫活性化(誘導抵抗性)

    近年の研究では、トリコデルマ菌が植物の根に共生することで、植物自身の免疫システムをスイッチオンにする(プライミング効果)ことが分かってきました。これにより、土壌病害だけでなく、地上部の病気や環境ストレス(乾燥や塩害)に対する抵抗力も高まるとされています。

     

  • 注意点:殺菌剤との併用

    トリコデルマ菌自体がカビの一種であるため、広範囲の糸状菌を殺す化学殺菌剤(ベンレートやトップジンなど)と同時に使用すると、せっかく増やしたトリコデルマ菌まで死滅してしまいます。使用する場合は、時期をずらすか、トリコデルマ菌に影響の少ない薬剤を選定する必要があります。

     

日本曹達:植物病害を微生物の力で制御するメカニズムと現状

トリコデルマの増やし方で失敗しない水分と資材

トリコデルマ菌の自家培養に挑戦しても、失敗して「ただの腐った米」を作ってしまうケースが後を絶ちません。失敗の9割は「水分過多」と「資材の選定ミス」に起因します。ここでは、失敗しないための具体的なチェックポイントを解説します。

 

  • 水分の黄金比率は「握って団子、突いてパラリ」

    培養における最大の敵は「酸欠」です。水分が多すぎると資材の隙間が水で埋まり、好気性菌であるトリコデルマ菌が呼吸できずに死滅します。代わりに嫌気性の腐敗菌が増殖し、ドブのような臭いを発します。

     

    • 理想的な状態: 手でギュッと握ると形が残るが、水は染み出してこない(水分率50〜60%)。指で軽く突くとホロホロと崩れる状態。
    • 修正方法: 水分が多すぎる場合は、乾燥したもみ殻や米ぬかを追加して水分を吸わせてください。逆に乾燥しすぎると菌が休眠してしまうので、霧吹きで表面を湿らせる程度の加水を行います。
  • 資材のC/N比(炭素率)を意識する

    トリコデルマ菌を効率よく増やすには、炭素(C)と窒素(N)のバランスが重要です。

     

    • 米ぬか(N源): 菌の「体」を作るためのタンパク源。多すぎると発熱しすぎて70℃近くになり、トリコデルマ菌が焼け死にます。また、虫(ウジなど)が湧く原因にもなります。
    • もみ殻(C源): 菌の「エネルギー」となる炭素源であり、通気性を確保する骨格材。分解には時間がかかりますが、トリコデルマ菌の住処として最適です。

      失敗しない配合は、もみ殻主体(体積比で7〜8割)にし、米ぬかはあくまで添加剤(2〜3割)として使うことです。初心者がやりがちな「米ぬかだけで培養」は、温度制御が難しく失敗の元です。

       

  • コンタミネーション(雑菌混入)の見極め

    培養中に以下のような兆候が見られたら、直ちに対処が必要です。

     

    • 納豆のような臭い: バチルス菌(納豆菌)が優占しています。温度が高すぎるか、水分が多すぎます。切り返し(撹拌)を行い、温度を下げて乾燥させてください。
    • 甘酸っぱいアルコール臭: 酵母が発酵しています。酸素不足のサインです。よく混ぜて空気を含ませてください。
    • 不快な腐敗臭: 腐敗しています。残念ながら失敗ですので、廃棄(堆肥置き場の奥へ)してください。

      健全な培養では、森の土のような香りや、キノコのような芳醇な香りがします。

       

    中鎌戸農園:トリコデルマ発生と管理基準のアップデート(失敗からの学び)

    トリコデルマの増やし方におけるコーヒー粕と竹パウダーの活用

    基本の「米・もみ殻」に加え、独自の視点として提案したいのが、産業廃棄物として処理されがちな「コーヒー粕」と、放置竹林対策で注目される「竹パウダー」の活用です。これらはトリコデルマ菌と非常に相性が良く、組み合わせることで相乗効果を生み出します。

     

    • コーヒー粕の静菌作用を逆手に取る

      コーヒー粕は通常、カフェインやポリフェノールを含み、植物の生育を阻害するためそのままでは肥料にできません。しかし、トリコデルマ菌はこれらの成分に強く、コーヒー粕を優れた炭素源として分解・利用できます。

       

      • 手順: コーヒー粕を乾燥させ、米ぬかと同量程度混ぜます。そこにトリコデルマ種菌を接種すると、他の雑菌(特に細菌類)がコーヒーの成分で抑制されている間に、トリコデルマ菌だけが独占的に増殖できる場合があります。
      • メリット: コーヒー粕の多孔質構造が菌の住処となり、土壌投入後も長く生存できます。また、コーヒー粕由来の堆肥はフカフカで、物理性の改善効果が高いのが特徴です。
    • 竹パウダーと乳酸菌の連携プレー

      竹パウダーは、糖分と強固な繊維(セルロース・リグニン)を含んでいます。これをいきなりトリコデルマ菌で分解するのは時間がかかりますが、「乳酸発酵」を前段階に挟むことで爆発的な効果が得られます。

       

      1. 第一段階: 竹パウダーに水を加え、嫌気状態で「乳酸発酵」させます(サイレージ化)。これにより、竹の繊維が軟化し、pHが低下して雑菌が殺菌されます。
      2. 第二段階: 発酵した竹パウダーを土壌に混ぜ、そこに「トリコデルマ菌」を投入します。
      3. 効果: トリコデルマ菌は、乳酸菌が処理した竹の繊維を猛烈な勢いで分解し始めます。この時、トリコデルマ菌の密度が急上昇し、結果として土壌中の病原菌を一掃します。竹パウダーに含まれる豊富なケイ酸も作に吸収され、作物を丈夫にします。

    この「竹パウダー×乳酸菌×トリコデルマ」のリレー栽培は、土壌消毒剤を使わずに連作障害を克服する秘策として、一部の有機農家の間で密かに実践されている高度な技術です。地域の未利用資源を活用できるため、SDGsの観点からも非常に推奨される手法です。

     

    YabuLoveWalker:竹パウダーによる土壌改良と菌の増殖効果について

     

     


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