早朝の潅水は裂皮を促進させる
果実が割れる現象には裂皮症と裂果という2つのタイプがあります。この2つは見た目が似ているため混同されがちですが、実は発生メカニズムも対策方法も全く異なる別の障害です。
裂皮症は、果実の表面が浅く裂ける現象で、みずみずしく今割れたばかりのような新鮮な割れ方をします。割れ目は比較的浅く、果肉の深部まで達していないことが特徴です。一方、裂果は果実が深く裂け、コルク状に硬化した古い割れ方をします。割れ目が徐々に拡がって蓄積したような深い亀裂が特徴です。
発生時期も明確に異なります。裂皮症は春先や秋口など季節の変わり目、特に早朝の温度変化が激しい時期に発生しやすい傾向があります。対して裂果は夏の強い日射や高温期に多く発生します。この発生時期の違いが、原因の違いを示す重要な手がかりになります。
原因については、裂皮症は高い根圧、葉面積指数(LAI)の高さ、果実への結露、早朝の急激な温度上昇による果実の膨張が主な要因です。特に早朝に施設内の温度が急上昇すると、果実表面に結露が発生し、その水分を吸収することで急激に膨張して裂けてしまいます。一方、裂果は強い日射による果皮の硬化、果実の急激な肥大、土壌水分の急変などが原因となります。果皮が硬くなった状態で内部が急激に肥大すると、表面が伸びきれずに裂けるのです。
つまり裂皮症は水分吸収による急激な膨張が原因ということですね。
この違いを理解することで、圃場で発生している果実の割れがどちらのタイプなのかを正確に判断でき、適切な対策を講じることができます。割れている時間帯を観察し、割れ方の深さや新鮮さを確認することが、原因追究の第一歩となります。
裂皮症が発生する具体的なメカニズムを理解することは、効果的な対策を立てる上で欠かせません。最も典型的なパターンは、夜間から早朝にかけての環境変化によるものです。
夜間、植物の蒸散活動は低下しますが、根からの吸水は続きます。この時、葉から水分が蒸散されないため、吸い上げられた水分は果実へと集中的に流れ込みます。
この状態を「高い根圧」と呼びます。
さらに早朝、日が昇り始めると施設内の温度が急上昇し、果実表面に結露が発生します。この結露水を果実が吸収することで、内部からの水圧と外部からの吸水が重なり、果皮が耐えきれずに裂けてしまうのです。
特に葉面積が多い状態(LAI が高い状態)では、夜間の蒸散がさらに少なくなり、果実への水分流入がより顕著になります。夏に日射を防ぐために残していた葉が多く残っている状態で秋口を迎えると、過湿気味で蒸散過多となり、裂皮症が発生しやすくなります。
経済的な損失は深刻です。ある生産者の事例では、7月の収穫量257kgのうち裂果(裂皮を含む)が96kgで、実に37.35%もの果実が出荷できない状態でした。仮に1kg あたりの単価を300円とすると、この1日だけで約2万9千円の損失となります。
1ヶ月なら約87万円です。
10月の促成栽培では、裂果が多発して出荷量が例年の半分程度になる生産者もいます。
これは使えそうです。
さらに、裂皮した果実は割れ目から病原菌が侵入しやすく、灰色かびや軟腐病などの二次的な病害発生リスクも高まります。一度病害が発生すると周辺の健全な果実にも影響が広がり、被害が拡大します。商品価値を失った果実は廃棄するしかなく、栽培にかけた時間や資材コストも無駄になってしまいます。
トマトやミニトマトだけでなく、ナシの「新高」における尻あざ症や裂皮、ブドウの裂果、大豆の裂皮粒など、多くの作物で同様の問題が発生しています。大豆では裂皮粒率が61.6%に達した年もあり、外観品質の悪化により商品価値が大幅に低下しました。
裂皮症対策の中で最も即効性があり、コストもかからないのが潅水タイミングの変更です。多くの生産者は早朝に潅水を行っていますが、これが裂皮症を引き起こす大きな要因となっています。
早朝の潅水が問題となる理由は、果実が最も肥大する時間帯が早朝だからです。夜間から早朝にかけて、根からの吸水が活発になり果実への水分流入が増加します。この時間帯に潅水を行うと、土壌水分がさらに増加し、根からの吸水がより活発になります。結果として果実が急激に膨張し、果皮が追いつかずに裂けてしまうのです。
対策として、潅水時間を午前11時頃に変更することが推奨されます。11時頃は日射量が増え、葉からの蒸散が活発になる時間帯です。この時間帯に潅水すると、吸い上げられた水分は葉からの蒸散に使われ、果実への集中的な流入が緩和されます。裂果は果実が成長する早朝に発生しやすいため、早朝の時間帯を避けて11時頃に潅水することで裂皮を防ぐことができます。
11時からの潅水が基本です。
潅水方法も重要なポイントです。一度に大量の水を与えるのではなく、少量多潅水を基本とします。点滴潅水システムを導入すると、土壌水分の急激な変化を抑えることができます。土壌の乾燥状態と湿潤状態の差が大きいと裂果につながるため、日射比例潅水制御や土壌水分センサーによるAI潅水制御を活用すると、より精密な水分管理が可能になります。
潅水量の目安としては、土壌の種類や天候によって異なりますが、1回あたり1株に200~300ml程度を、日に2~3回に分けて与えるのが理想的です。土壌水分計を使って土壌水分率を常時モニタリングし、乾燥しすぎず過湿にもならない適度な水分状態を維持します。
また、ハウス栽培では施設内の湿度管理も併せて行います。夜間から早朝にかけて換気を適切に行い、施設内の湿度を低く維持することで、果実への結露を防止します。除湿暖房機能を持つ空調システムがあれば、より効果的に湿度をコントロールできます。
カルシウムは植物の細胞壁を強化し、果皮に弾力性を与える重要な栄養素です。カルシウムが不足すると果皮が脆弱になり、わずかな膨張圧でも裂けやすくなります。裂皮症対策としてカルシウム資材を活用することは、果皮体質の強化につながる効果的な方法です。
ナシ「新高」における試験では、ギ酸カルシウム資材を満開20日後と30日後に200倍液で2回散布、または500倍液を満開20日後から10日間隔で5回散布することで、尻あざ症と裂皮の抑制効果が確認されています。ギ酸カルシウムは水溶性が高く、葉面や果面から吸収されやすい特性があります。
トマトやミニトマトでは、果実肥大期にカルシウム資材を葉面散布または土壌潅注します。葉面散布の場合、有機キレート型のカルシウム液肥を500~1000倍に希釈し、果実肥大初期から7~10日間隔で3~5回散布します。特に1次生理落果が終了した頃から開始すると効果的です。散布は曇天の日や夕方に行い、果面への直接付着を心がけます。
結論は定期的な葉面散布です。
土壌施用では、硝酸カルシウムや硫酸カルシウムを基肥として施用するか、追肥として少量ずつ継続的に与えます。硝酸カルシウムは水溶性が高く、点滴潅水システムに混入して施用することも可能です。着果率の向上と定着のために、カルシウムの継続的な供給が重要になります。
カルシウムとホウ素を組み合わせた資材も効果的です。「グリベテン」などの製品は、カルシウムとホウ素の相互作用により植物の細胞組織を強化し、弾力性を与えます。奇形果の発生を減らし、微小なひび割れ、裂果や葉の傷みを軽減して出荷可能な果実の量を増やす効果があります。
カルシウム剤散布時の注意点として、果面への薬液痕に軽微な褐変が認められる場合がありますが、その後の落葉や果実品質への悪影響はほとんどありません。また、過剰施用は他の養分の吸収を阻害する可能性があるため、土壌診断に基づいた適正量の施用を心がけます。
マンゴー品種「リペンス」の黒キズ障害や炭疽病も、ナシの尻あざ症や裂皮と類似しており、カルシウム資材による細胞壁強化が有効とされています。カンキツ類でも果皮体質が脆弱だと、樹上だけでなく貯蔵中の腐敗リスクが高まるため、カルシウム補給は品質保持に不可欠です。
岡山県農林水産総合センターによるナシ「新高」へのカルシウム資材葉面散布効果に関する研究成果
裂皮症の発生を抑えるには、施設内の温度・湿度・光環境を適切にコントロールする環境制御技術が重要です。特に早朝の急激な温度上昇を防ぐことが、裂皮症対策の核心となります。
早朝の換気管理は最も基本的でありながら効果的な対策です。日の出前から側窓や天窓を開け、施設内の温度上昇を緩やかにします。急激な温度上昇は果実表面の結露と内部の膨張を同時に引き起こすため、これを避けることが重要です。温度センサーと連動した自動換気システムを導入すれば、人手をかけずに適切なタイミングで換気を行えます。
湿度管理では、施設内の湿度を適正範囲(60~80%程度)に保つことを目指します。湿度が高すぎると果実に結露が発生しやすく、低すぎると果実の水分ストレスが高まり逆に吸水時の膨張が大きくなります。除湿機や循環扇を活用し、空気の流れを作ることで、果実周辺の湿度環境を安定させます。
遮光・遮熱管理も裂皮症対策に有効です。裂皮症は裂果とは原因が異なりますが、強い日射は果実温度を上昇させ、果実の膨張を促進します。UVカットフィルムや遮光率15~20%程度の遮光資材を利用することで、果実への強日射を緩和し、果実温度の急上昇を防ぎます。赤外線カット資材を使用すると、可視光線は透過させながら熱線をカットできるため、光合成を阻害せずに果実温度を下げることができます。
遮光は日射調節が基本です。
果房への直接的な遮光も効果的な方法です。果房の直上にアルミ蒸着シートを設置したり、わき芽を2葉残して摘芯することで果房に適度な陰を作ります。こうした工夫により、果実への直射日光を避けながら、株全体の光合成は確保できます。
栽植密度を高めて群落の密度を上げることも、果実への強日射を緩和する方法です。株間や畝間を詰めることで、果実が葉の陰になるような配置を工夫します。ただし、密植しすぎると通風不良や病害発生のリスクが高まるため、バランスが重要です。
自動遮光システムの導入も検討に値します。日射量センサーと連動して遮光カーテンを自動開閉するシステムなら、強い日射時のみ遮光し、それ以外は開放することで、収量低下を最小限に抑えながら裂果・裂皮を軽減できます。手動で開閉する労力も不要になり、労働時間の削減にもつながります。
岐阜県農業技術センターでは、日射に応じた遮光資材の自動開閉により裂果率を低下させる技術開発を進めています。こうした先進技術の活用が、今後の裂皮症対策の鍵となるでしょう。
品種選択は裂皮症対策の根本的なアプローチです。近年、各種苗メーカーから耐裂果性・耐裂皮性に優れた品種が多数育成されており、これらを導入することで裂皮症の発生を大幅に減らすことができます。
トマトでは、大玉トマトの「麗夏」や海外品種など、果肉や果皮が硬く裂果が起こりにくい品種があります。王様トマトシリーズは果実が割れにくく、へたまで真っ赤に熟させてから収穫する"赤熟もぎり"ができる特性があります。ミニトマトでも耐裂果性品種が多数開発されており、試作を通じて自分の栽培環境に適した品種を見極めることが大切です。
品種選びが長期的な解決策です。
大豆では裂皮性の品種間差が大きいことが知られています。「丹波黒」は裂皮しにくい品種とされていましたが、気象条件によっては不定形裂皮が多発することがあります。品種特性を理解し、栽培地域の気候に適した品種を選ぶことが重要です。ダイズの裂皮程度に関するQTL解析も進められており、今後さらに耐裂皮性の高い品種が開発されることが期待されます。
栽培管理では、樹勢の維持が裂皮症軽減に直結します。樹勢が低下すると果実への養分・水分供給のバランスが崩れやすくなり、裂皮が発生しやすくなります。適切な施肥管理、病害虫防除、葉面積の確保などを通じて、健全な樹勢を維持します。
葉かき管理も重要なポイントです。高温期の過度な葉かきは葉面積を減少させ、果実への直射日光を増やし、樹勢低下にもつながります。特に9月は樹勢が低下しやすく、強日射や夜温低下など裂皮の発生要因が重なりやすい時期です。この時期の葉かきは控えめにし、果実を保護する葉を残すように心がけます。
着果負担の調整も効果的です。葉の枚数に比べて果実数が少ないと、1果あたりへの養水分供給が過剰になり裂果しやすくなります。
逆に着果数が多すぎると樹勢低下を招きます。
品種や生育ステージに応じた適正な着果数を維持することで、バランスの取れた養水分供給を実現します。
大豆の裂皮対策では、収穫時期の調整も重要です。成熟期を過ぎて圃場に放置すると、水分変化による裂皮リスクが高まります。適期収穫を心がけ、収穫後は速やかに乾燥させることで、裂皮粒の発生を最小限に抑えます。
トマトの裂果・裂皮に関する詳細な原因と対策についてのゼロアグリによる解説