同じ系統の農薬を3回連用すると抵抗性が発達します。
オンシツコナジラミは薬剤抵抗性を発達させやすい害虫として知られています。これは、ほかの害虫と比較しても特に顕著な特徴です。同じ系統の農薬を繰り返し使用すると、その農薬に耐性を持った個体が生き残り、次世代に遺伝していきます。その結果、これまで効果的だった農薬が全く効かなくなる状況が発生するのです。
抵抗性の発達は驚くほど早く進行します。同一系統の農薬を1作で3回程度連続使用すると、明らかな効果の低下が見られるケースが報告されています。これは、栽培期間が長い施設園芸では特に深刻な問題となります。トマトやキュウリなどの長期栽培作物では、シーズン中に何度も防除が必要となるため、知らず知らずのうちに同じ系統の薬剤を使い続けてしまうリスクが高いのです。
つまり適切な管理が必要ということですね。
薬剤抵抗性が発達すると、防除コストが大幅に増加します。効果の薄い農薬を何度も散布することになり、労力も時間も無駄になってしまいます。さらに深刻なのは、使える農薬の選択肢が狭まることです。特定の系統が効かなくなると、別の系統に頼らざるを得なくなり、その系統にも抵抗性が発達するという悪循環に陥ります。
抵抗性発達を防ぐには、IRACコード(殺虫剤抵抗性作用機構分類)を活用したローテーション防除が不可欠です。IRACコードとは、殺虫剤の作用機構を数字で分類したもので、異なるコードの農薬は作用点が異なるため、交差抵抗性のリスクが低くなります。例えば、IRACコード4Aのネオニコチノイド系を使用した後は、IRACコード28のジアミド系、さらにIRACコード9Bのピリジンアゾメチン系といった具合に、意図的に異なる系統をローテーションします。
FMC Japanの殺虫剤抵抗性管理(IRM)情報では、IRACコードの詳細な説明と、効果的なローテーション防除の実践方法が解説されています。
オンシツコナジラミの防除が難しい理由の一つは、発育ステージによって薬剤の効果が大きく異なることです。この害虫は卵、1齢幼虫、2~4齢幼虫(固着期)、蛹、成虫という複数のステージを経て成長します。各ステージが同時に存在するため、一度の薬剤散布ではすべての個体を駆除できません。
成虫には多くの殺虫剤が効果を示します。代表的なものとしてネオニコチノイド系のモスピラン水溶剤やアクタラ顆粒水溶剤があります。これらは接触毒性と食毒性を持ち、成虫が葉に触れたり吸汁したりする際に効果を発揮します。しかし、成虫にしか効かない薬剤を使用しても、葉裏にびっしりと産み付けられた卵や幼虫は残ってしまうのです。
卵に効果がある薬剤は限られています。従来の殺虫剤の多くは卵への効果が低く、殺卵効果を期待できる薬剤としては昆虫成長制御剤(IGR)のアプロード水和剤やコルト顆粒水和剤などが挙げられます。これらは卵の孵化を阻害する作用を持ちますが、すでに孵化した幼虫には効果が限定的です。
幼虫期が最も防除のポイントになります。
固着して動かない2~4齢幼虫に対しては、浸透移行性のある薬剤が有効です。ベリマーク®SCは灌注処理により根から吸収され、植物体内を移行して葉裏の幼虫に効果を発揮します。処理後3~4週間という長い残効性があり、初期防除として非常に有効です。トマト・ミニトマトでは育苗期後半から定植当日、さらに定植14日後までの株元灌注処理が可能で、合計2回使用できます。
蛹には多くの薬剤が効きません。蛹は堅い殻に覆われており、薬剤が浸透しにくい構造になっています。そのため、蛹化する前の幼虫期に確実に防除することが重要です。蛹期間は約6日程度と短いため、この期間を見越して次回の散布タイミングを計画する必要があります。
昆虫病原性糸状菌製剤のプリファード水和剤は、すべてのステージに感染する特殊な薬剤です。菌が害虫の体表に付着して体内に侵入し、内部から死滅させます。化学農薬に抵抗性を持ったコナジラミにも効果を示すため、抵抗性対策の切り札として位置づけられています。ただし、効果の発現には時間がかかり、散布後3~7日程度で効果が現れ始めます。
薬剤散布のタイミングを誤ると、どんなに良い農薬を使っても効果は半減します。オンシツコナジラミの発生初期、成虫の飛来が確認された時点で速やかに防除を開始することが最も重要です。成虫1匹が100~500個もの卵を産むため、わずかな見逃しが爆発的な増殖につながります。
施設栽培では4~6月と10~12月が特に発生しやすい時期です。この時期は平均気温が20~28℃となり、オンシツコナジラミの生育適温に合致します。
発生適温ということですね。
冬季でも施設内の温度が15℃以上に保たれていれば、周年発生するリスクがあります。したがって、季節にかかわらず定期的な観察が必要です。
散布方法にも大きなポイントがあります。オンシツコナジラミの幼虫は葉裏に固着して生活するため、葉表だけに薬剤を散布しても効果はほとんど期待できません。ノズルを上向きにして、株元から葉裏に向けて丁寧に散布する必要があります。薬液が滴る程度までしっかりと噴霧することで、葉裏に潜む幼虫にも薬剤が到達します。
散布間隔は薬剤の種類と残効性によって調整します。一般的な接触型殺虫剤は残効が7~10日程度なので、この間隔で繰り返し散布します。ただし、同一系統の薬剤を連続使用せず、異なるIRACコードの薬剤をローテーションすることが原則です。浸透移行性のベリマーク®SCのように残効が3~4週間続く薬剤の場合は、その期間を考慮して次回の散布計画を立てます。
育苗期からの予防処理が効果的です。定植前の苗の段階でベリマーク®SCやプリロッソ®粒剤オメガを株元処理しておくと、定植後の初期発生を大幅に抑制できます。特にプリロッソ®粒剤オメガは育苗期後半~定植時の株元散布により、薬剤のかかりにくい葉裏のコナジラミ類にも高い効果を発揮します。
アリスタライフサイエンスのコナジラミ類に対する昆虫寄生菌製剤の利用ポイントでは、散布時の具体的な注意点や、効果を最大化するための実践的なテクニックが紹介されています。
多発生時の対応も重要です。すでにコナジラミが大量発生してしまった場合は、まず成虫を速効性の高い薬剤で叩き、その後に幼虫・卵に効果のある薬剤を組み合わせます。例えば、初回にベネビア®ODで成虫と幼虫を速やかに防除し、1週間後に残った卵から孵化する幼虫に対してアプロード水和剤を散布するといった連続処理が効果的です。
天敵を利用したIPM(総合的病害虫管理)が普及する中、化学農薬との併用には細心の注意が必要です。オンシツコナジラミの天敵として、オンシツツヤコバチやスワルスキーカブリダニが広く利用されていますが、多くの化学農薬はこれらの天敵にも強い影響を与えてしまいます。
天敵利用の最大の失敗原因は、天敵に影響する農薬の使用です。例えば、有機リン系のオルトラン粒剤やピレスロイド系のアディオン乳剤は、コナジラミには効果的ですが、天敵に対しても強い毒性を示します。これらの薬剤を散布すると、せっかく放飼した天敵が一気に死滅してしまい、防除体系が崩壊します。
天敵にやさしい農薬を選ぶことが重要です。ベリマーク®SC、ベネビア®OD、プリロッソ®粒剤オメガは、いずれも天敵への影響が少ない薬剤として推奨されています。これらは選択毒性が高く、害虫には強い効果を示しながら、天敵の活動にはほとんど影響を与えません。天敵導入前にこれらの薬剤で初期密度を下げておき、その後に天敵を放飼する方法が効果的です。
温度管理も天敵利用の成否を分けます。オンシツツヤコバチの活動適温は25℃前後、スワルスキーカブリダニは28℃前後が最適です。冬季に施設内の平均気温が15~18℃以下になると、天敵の活動が著しく低下し、防除効果が期待できなくなります。この時期は化学農薬による防除に切り替える判断も必要です。
天敵導入のタイミングが遅れると失敗します。
コナジラミがすでに高密度で発生している状態で天敵を導入しても、天敵の増殖速度が害虫の増殖に追いつかず、効果が得られません。天敵は予防的に使用するものであり、発生初期の低密度時に導入することが原則です。もし発生が進んでいる場合は、まず天敵に影響の少ない農薬で密度を下げてから天敵を放飼します。
施設の環境整備も忘れてはいけません。施設の出入り口や換気窓に0.4mm目合いの防虫ネットを設置することで、外部からの成虫の侵入を物理的に防ぐことができます。この物理的防除と天敵利用、必要最小限の化学農薬を組み合わせることで、持続可能な防除体系が構築できます。黄色粘着板を施設内に設置すると、成虫の早期発見とモニタリングに役立ちます。
実際の栽培現場で効果を上げているローテーション防除の具体例を紹介します。トマトの長期栽培を想定した場合、育苗期から収穫終了まで一貫した防除計画が必要です。まず育苗期後半にベリマーク®SC(IRACコード28)を灌注処理します。これにより定植後3~4週間は初期発生を抑制できます。
定植1ヶ月後、ベリマーク®SCの残効が切れる頃に、異なる系統の薬剤に切り替えます。この時点でベネビア®OD(IRACコード28)またはアクタラ顆粒水溶剤(IRACコード4A)を散布します。ベネビア®ODは同じIRACコード28ですが、ベリマークとは異なるダイアミド系の成分を含み、浸達性が高いため葉裏の害虫にも効果的です。
さらに2週間後、モスピラン水溶剤(IRACコード4A)またはトランスフォームフロアブル(IRACコード4D)でローテーションします。ネオニコチノイド系は速効性があり、成虫の抑制に優れています。ただし、同じIRACコード4Aの薬剤を連続使用すると抵抗性が発達しやすいため、次回は必ず別の系統に切り替えます。
抵抗性発達のリスクが高まったら、気門封鎖剤やIGR剤を組み込みます。サフオイル乳剤やエコピタ液剤などの気門封鎖剤は、物理的に害虫を窒息させるため抵抗性が発達しません。IRACコードの分類では「UN(作用機構不明)」に該当し、ローテーションのリセット剤として機能します。これらを1~2回挟むことで、化学合成農薬への依存度を下げられます。
昆虫病原性糸状菌製剤も戦略的に活用します。プリファード水和剤やボタニガードESは、化学農薬に抵抗性を持った個体にも効果を示すため、抵抗性対策の切り札です。効果発現まで3~7日かかるため、速効性の化学農薬と組み合わせて使用します。例えば、化学農薬で成虫を叩いた後、プリファード水和剤で残った幼虫・卵を処理するという使い方が効果的です。
季節による調整も重要です。夏季の高温期はタバココナジラミの発生も増えるため、両種に効果的な薬剤を選択します。冬季は施設内の温度が下がり、オンシツコナジラミの活動も鈍化しますが、完全には死滅しないため、低温でも効果を発揮する薬剤を選びます。アプロード水和剤は低温条件下でも比較的安定した効果を示すため、冬季の防除に適しています。
記録をつけることで防除の精度が上がります。使用した薬剤のIRACコード、散布日、効果の程度を記録しておくと、どの系統の薬剤が効果的だったか、抵抗性の兆候がないかを判断できます。効果が落ちてきたと感じたら、その系統の使用を一時的に中止し、別の系統に切り替えることで、抵抗性の進行を遅らせることができます。
農研機構の薬剤抵抗性農業害虫管理のためのガイドラインには、科学的根拠に基づいた抵抗性管理の詳細な方法と、各種害虫に対する推奨ローテーション例が掲載されており、実践的な防除計画の立案に役立ちます。
Please continue.