メロンやいちごは規定濃度を守らないと薬害が出やすい作物です。
トリホリンは、ピペラジン系のDMI殺菌剤(ステロール生合成阻害剤)に分類される有効成分です。菌の細胞膜を構成するエルゴステロールという物質の生合成を阻害することで、病原菌の増殖を抑える仕組みになっています。動物の細胞膜がコレステロールで構成されているのに対し、真菌類はエルゴステロールを使っているため、この違いを利用して選択的に菌だけを攻撃できる設計です。
この作用機構により、トリホリンは予防効果と治療効果の両方を兼ね備えています。病害が発生する前に散布すれば菌の侵入を防ぎ、発病初期であれば植物体内に侵入した菌に対しても効果を発揮します。浸透移行性があるため、散布後速やかに植物体内に浸透し、葉の表面だけでなく内部の菌にも届くのが特徴です。
つまり予防と治療を一度に行えるということですね。
商品名としては「サプロール乳剤」「セーフガード乳剤」などの名称で流通しており、トリホリンの含有量は18.0%が標準です。乳剤タイプのため計量しやすく、水に溶けやすいという利点があります。また散布後の葉の汚れが少ないため、観賞価値を重視するばらやきくなどの花き類にも適しています。
有効成分濃度18.0%という数字は、製品1リットル中にトリホリンが180グラム含まれていることを意味します。これを希釈して使用するわけですが、作物や病害によって800倍から2000倍まで幅広い希釈倍率が設定されています。この範囲内で適切に希釈することで、十分な効果と安全性のバランスが取れる設計になっているわけです。
クミアイ化学工業のサプロール乳剤製品ページでは、トリホリンの詳細な適用表と使用方法が確認できます。
トリホリンが最も高い効果を示すのは、うどんこ病、黒星病、さび病の3つです。これらは糸状菌(カビ)が原因で発生する病害で、多くの作物に深刻な被害をもたらします。うどんこ病は葉の表面に白い粉状のカビが広がる病気で、きゅうり、なす、ピーマン、いちご、ばらなど多様な作物で発生します。光合成が阻害されるため、放置すると収量が大きく減少する厄介な病害です。
黒星病は特にばらで問題となる病害で、葉に黒い斑点が現れ、やがて黄変して落葉します。ばら栽培では最も防除が難しい病害の一つとされており、トリホリンは数少ない有効な薬剤として重宝されています。発病後でも治療効果があるため、初期症状を見つけたらすぐに散布することで被害の拡大を抑えられます。
さび病は葉の裏側に赤褐色や黄褐色の胞子が粉状に現れる病害で、ねぎ、しそ、食用ぎく、芝などで発生します。感染が進むと葉全体が枯れてしまうため、早期の対策が重要です。トリホリンはこれらさび病にも高い効果を示し、発病初期から収穫直前まで使用できる作物もあります。収穫前日まで使用可能な作物が多いのも大きなメリットですね。
その他にもトマトの葉かび病やすすかび病、ももの灰星病、芝のフェアリーリング病など、幅広い病害に登録があります。これほど多様な病害に効果を発揮できるのは、エルゴステロール生合成という真菌類に共通する重要な代謝経路を阻害するためです。ただし効果が高い反面、後述する耐性菌の発生リスクもあるため、適切な使用が求められます。
トリホリンの希釈倍率は作物と病害によって800倍から2000倍まで細かく設定されています。例えばねぎのさび病には800~1000倍、きゅうりのうどんこ病には1000~2000倍、いちごやメロンのうどんこ病には2000倍という具合です。希釈倍率1000倍とは、薬剤1ミリリットルに対して水999ミリリットルを加えて合計1リットルにすることを意味します。
具体的な調製方法を見てみましょう。10アール(1000平方メートル)の畑にきゅうりを栽培していて、1000倍希釈で散布する場合、使用液量は100~300リットルと設定されています。仮に200リットル散布するなら、トリホリン乳剤200ミリリットルを水で薄めて200リットルにするわけです。つまり薬液タンクが20リットルなら、毎回20ミリリットルの原液を投入して10回散布することになりますね。
乳剤タイプのため計量は比較的簡単ですが、正確な計量が重要です。濃すぎると薬害のリスクが高まり、薄すぎると十分な効果が得られません。メジャーカップやシリンジを使って正確に測り、まず少量の水でよく混ぜてから残りの水を加えるとムラなく希釈できます。
散布のタイミングは発病初期が基本ですが、予防効果もあるため病害が出る前から定期的に散布する体系防除も有効です。散布間隔は7~10日程度が目安で、降雨後は薬剤が流れてしまうため再散布が必要になる場合もあります。高温時は朝夕の涼しい時間帯に散布し、風の強い日は避けるのが基本です。これは薬害防止と効果確保の両面から重要なポイントとなります。
トリホリンで最も注意が必要なのは、特定の作物に対する薬害リスクです。メロンといちごは薬害を生じやすい代表的な作物で、所定の散布濃度を厳守する必要があります。規定より濃い濃度で散布すると、葉に油浸状の褐斑が現れたり、新葉にネクロシス(壊死)が発生したりする危険があります。いちごの品種「芳玉」については使用そのものが禁止されているほどです。
野菜類全般では、高温時や幼苗、軟弱ぎみの栽培条件下での使用を避けることが推奨されています。気温が30℃を超える真夏日や、定植直後の弱った苗には散布しないのが原則です。高温時は葉の表面から水分が急速に蒸発するため、薬剤が濃縮されて薬害が出やすくなります。どうしても散布が必要な場合は、早朝や夕方の涼しい時間帯を選び、規定濃度の1.5~2倍に薄めるなどの配慮が求められます。
最も深刻なのは、なし(幸水系、晩三吉など)に対する極微量での薬害リスクです。なしにトリホリンが少しでもかかると重大な薬害が発生するため、近隣にある場合は絶対にかからないよう細心の注意が必要です。さらに同一の散布器具をなしに使用することも禁止されています。やむを得ず使用する場合は、薬液タンク、ホース、配管部分を十分に洗浄し、清水を散布して7日程度様子を見てから使用するという厳格な手順が求められます。
混用に関しても注意が必要で、石灰硫黄合剤、ボルドー液などのアルカリ性薬剤および微量要素肥料との混用は避けなければなりません。アルカリ性条件下ではトリホリンが分解してしまい、効果が失われるだけでなく薬害のリスクも高まります。混用する際は必ず混用事例表を確認し、問題ないことを確かめてから行うべきです。
トリホリンはDMI剤に分類される殺菌剤で、FRACコード(殺菌剤作用機構分類)では「3」に該当します。このコードが同じ薬剤を連続して使用すると、病原菌が耐性を獲得して効かなくなるリスクが高まります。耐性菌とは薬剤に対する抵抗性を持った菌のことで、一度発生すると同じ系統の薬剤すべてが効きにくくなる深刻な問題です。
DMI剤は多段階耐性と呼ばれるタイプで、急激に効かなくなるのではなく徐々に感受性が低下していく特徴があります。最初は「少し効きが悪いかな」と感じる程度ですが、使い続けるうちに完全に効果がなくなってしまいます。特にうどんこ病菌は耐性を獲得しやすいため、施設栽培のきゅうりやトマトなどでは注意が必要です。
耐性菌の発生を防ぐには、異なる作用機構の薬剤とのローテーション散布が有効です。例えばトリホリン(FRACコード3)を使った次は、ストロビルリン系(FRACコード11)やSDHI系(FRACコード7)など、別のコードを持つ薬剤を使用します。このようにして年間5~6回散布するうち、トリホリンは2回程度にとどめるのが理想的です。
生産現場でのローテーション散布では、病害の発生予測と組み合わせることが重要になります。発病前の予防段階では残効の長い保護殺菌剤を使い、発病初期にトリホリンのような治療効果のある薬剤を投入し、その後また別の系統に切り替えるという戦略です。こうした体系的な防除により、耐性菌の発生を抑えながら高い防除効果を維持できます。定期的に薬剤のFRACコードをチェックして、同じコードが続かないよう管理することをお勧めします。
トリホリンの使用基準で重要なのが、収穫前日数と総使用回数の制限です。収穫前日数とは、最後に散布してから収穫までに空けなければならない日数のことで、作物によって「収穫前日まで」から「収穫14日前まで」まで幅があります。ねぎ、きゅうり、なす、ピーマン、いちごなどは「収穫前日まで」使用可能ですが、かきやももは「収穫14日前まで」、食用ぎくは「収穫14日前まで」という制限があります。
この収穫前日数は残留農薬基準をクリアするために設定されており、厳守する必要があります。例えば「収穫3日前まで」と表示されている場合、散布日を1日目として数え、4日目以降に収穫しなければなりません。つまり月曜日に散布したら、収穫できるのは木曜日以降です。雨で農薬が流れたからといって、収穫前日数を無視して早く収穫することは農薬取締法違反になります。
総使用回数も重要な制限で、多くの作物では5回以内とされています。これは作付け期間中にトリホリンを含む農薬を何回まで使えるかを示しており、例えば5回以内なら年間で最大5回までしか散布できません。回数をオーバーすると残留基準を超える可能性があるだけでなく、耐性菌の発生リスクも高まります。
使用回数の管理では、同じ有効成分を含む別の商品名の農薬も合算してカウントする必要があります。トリホリンなら「サプロール乳剤」でも「セーフガード乳剤」でも、使えば1回とカウントされるわけです。栽培記録をしっかりつけて、いつ何を何回散布したかを記録しておくと、使用回数の管理がしやすくなります。特に複数の薬剤をローテーションで使っている場合、記録がないと混乱しやすいので注意が必要ですね。
厚生労働省のトリホリン農薬抄録には、残留試験データや使用基準の詳細が記載されています。