単為結果性トマトは「ホルモン処理なしで着果する」品種なのに、摘果をすると収量が2割以上減ることがあります。
植物が果実をつけるためには、通常「受粉→受精→種子形成」という流れが必要です。しかし単為結果性(たんいけっかせい)を持つ植物は、受粉・受精がなくても子房が肥大して果実になる性質を持っています。身近な例ではバナナや温州ミカンが有名ですが、農業の現場ではトマト・ナス・キュウリでもこの性質が積極的に活用されています。
通常のトマトが着果するには、子房内で受精が成立し、種子の成長に伴ってオーキシン(植物ホルモンの一種)の濃度が高まることが条件です。オーキシン濃度が維持されることで落花が防がれ、果実が肥大へ向かいます。受粉がなければオーキシン濃度が下がり、着果しないまま花が落ちてしまいます。
つまり着果の鍵はオーキシンです。
単為結果性品種は、受粉・受精の有無に関係なく子房内のオーキシン濃度を一定に保てる遺伝的な性質を持っています。日本で普及している単為結果性トマト品種の多くは、ロシア原産の品種「Severianin(セベリアニン)」に由来する遺伝子「pat-2」を活用して育成されました。1994年に愛知県農業総合試験場が初の実用品種「ラークナファースト」を育成したのが国内での出発点で、それ以降、サカタのタネや愛三種苗など種苗メーカーによって多様な品種が開発されてきました。
施設栽培では風による自然受粉が期待できないため、着果促進の処理が不可欠でした。単為結果性品種の登場は、その課題を根本から解決する画期的な技術革新です。これが基本です。
🔗 園研コラム「単為結果性—持続可能な農業生産を支えるツール—」(メカニズムと施設栽培への応用についての解説)
現在、国内で利用できる単為結果性トマトの代表的な品種はいくつかあり、それぞれ果実のサイズ・作型・用途が異なります。品種ごとの違いを正確に把握してから導入を判断することが重要です。
🍅 大玉トマト「パルト」(サカタのタネ)
夏秋どり作型向けの代表的な単為結果性大玉トマトです。平均果重は140~160g程度と桃太郎グランデ(約207g)より軽めですが、着果数が多く良果収量は10a当たり10,000kg程度に達することが報告されています。節間が短くコンパクトな草姿のため、誘引・摘心作業も省力化できます。裂果はホルモン処理品種より少ない傾向にありますが、尻腐れ果の発生に注意が必要です。
🍅 大玉トマト「ハウスパルト」(サカタのタネ)
促成・半促成栽培向けの単為結果性大玉品種です。草勢が安定しており、栽培後半までスタミナがある点が特長です。一方、果頂部の褐変が発生しやすい傾向があり、秀品率が他の単為結果性品種に比べて低くなる場合があります。福井市の試験では秀品率が56.3%と、パルト(82.8%)と比べると大きな差がついています。販売先の品質基準を事前に確認してから導入しましょう。
🍅 大玉トマト「サンドパル」(愛知県農業試験場育成)
業務用・カット・スライス用途に特化した単為結果性品種です。空洞果の発生が少なく、断面が美しいため、外食・中食産業向けの加工需要に対応できます。促成栽培で90%以上、半促成栽培で95%以上の着果率を示します。糖度は5〜6°Brix程度と生食用途にはやや物足りませんが、業務加工用としての需要が高い品種です。
🍅 ミニトマト「エコスイート」(愛三種苗)
単為結果性ミニトマトの代表格です。果実糖度が7〜8°Brixと高く、皮の残りにくさから食味評価が高い品種です。果重は約20g程度で、節間が短く茎径が太いため折れにくく、誘引作業が軽減できます。ただし8月中旬以降の開花果房では単為結果性が十分に発現しない場合があり、10月以降は週1回のホルモン処理を補完的に行うことで収量を安定させることができます。
🍅 ミニトマト「べにすずめ」(南都種苗)
単為結果性を持つ複合抵抗性ミニトマトです。濃赤色で艶のある果実が特徴で、着果ホルモン処理・マルハナバチが不要です。着果数が多いため、果数制限(摘果)が品質維持のうえで特に重要になります。
品種によって得意な作型や販売先が異なります。導入前に販売先が求める果実規格と自分の栽培作型を照らし合わせることが原則です。
🔗 施設園芸ドットコム「果菜類の単為結果・品種はどんなものがある?メリット・デメリットをご紹介」(品種一覧と栽培上の注意点についての詳細解説)
単為結果性品種の最大のメリットは、ホルモン処理作業の省略です。通常の施設トマト栽培では、開花のたびにトマトトーン(着果ホルモン剤)を花房にスプレーする必要があります。この作業は非常に手間がかかります。
福井市農林総合事務所の調査によると、1a(約100坪)当たり栽培期間中に約85分の作業時間と、トマトトーン原液約600円分のコストが発生することが確認されています。規模が大きくなれば比例して節約できる時間と経費も増えます。たとえば10a(約1反)で栽培している場合、ホルモン処理だけで年間約850分(14時間以上)の作業時間が発生する計算になります。
これは使えそうです。
また、マルハナバチを放飼している農家にとっても大きなメリットがあります。セイヨウオオマルハナバチは2006年に特定外来生物に指定されており、逃亡防止のためのネット設置や出入り口の二重構造など厳格な管理が義務付けられています。さらに殺虫剤との相性問題も深刻で、農薬の中にはマルハナバチやミツバチへの影響日数が30日以上に及ぶものも少なくありません。防除スケジュールの組み方に常に制約が生じます。単為結果性品種を導入すれば、こうした制約から解放されます。
さらに、高温期・低温期の着果安定も大きな強みです。一般品種では日平均気温が25℃以上になると花粉稔性が低下して着果率が落ちやすくなりますが、単為結果性品種は受粉に頼らないため、夏の高温期でも安定して着果します。北海道農業研究センターの試験でも、単為結果性品種(ルネッサンス・パルト・F1-82CR)はホルモン処理をした対照品種(CF桃太郎ファイト)よりも着果率が高く、着果数は1株当たり33〜40個と非単為結果性品種の26個を大きく上回りました。
着果数が多いということですね。
労働時間の省力効果は数字でも明確に示されており、6段栽培の大玉トマトで10a当たり約45時間の削減が見込まれています。この45時間という数字は、人が1日8時間働いた場合の約6日分に相当します。
🔗 福井市「単為結果性トマトによる省力化と経費削減の調査」(ホルモン処理の作業時間・経費と品種比較の実証データ)
単為結果性品種には省力化というメリットがある一方、適切な管理を怠ると収量・品質の両面で大きな損失が出るリスクもあります。ここが重要な落とし穴です。
📌 慣行の摘果法が通用しない
最も注意が必要なのが摘果の考え方です。一般的な大玉トマト栽培では、1果房あたり4果に摘果するのが慣行とされています。しかし北海道立総合研究機構の試験では、単為結果性品種「パルト」と「F1-82CR」を4果摘果すると、無摘果区と比べて総収量と良果収量がいずれも減少し、M規格以上の収量増加も見られなかったことが明らかになっています。収穫果数は摘果によって1株あたり約10個も減少しました。
| 処理区 | パルト(良果収量) | F1-82CR(良果収量) |
|--------|---------|---------|
| 摘果(4果/房) | 7,990 kg/10a | 7,470 kg/10a |
| 無摘果 | 9,378 kg/10a | 10,530 kg/10a |
この差は無視できません。従来通りに摘果してしまうと、せっかくの着果数の多さという長所を自ら打ち消してしまう結果になります。「単為結果性品種には通常の4果摘果は適さない」という結論が出ています。
📌 平均果重が軽く規格が下がりやすい
単為結果性品種は着果数が多い分、1果あたりの重量が慣行品種より軽くなりやすい特性があります。北海道での試験結果では、CF桃太郎ファイトの平均果重207gに対し、ルネッサンスが153g、パルトが160g、F1-82CRが136gと、いずれも慣行品種を大きく下回りました。S・2S規格の割合が高くなりやすいため、L規格以上が必要な市場に出荷する場合は、この点を事前に販売先と調整しておく必要があります。
📌 品種によって作型適性が異なる
エコスイート(ミニトマト)の場合、9月以降の秋期に単為結果性が弱まり肥大不良果が増える傾向があります。鳥取県農業試験場の調査では、10月以降にホルモン処理(トマトトーン150倍・週1回)を行うことで、無処理と比べてL・M規格の収量割合が55%から73%へ大幅に向上しています。単為結果性品種だからといって、すべての場面でホルモン処理が完全に不要とは限りません。季節・作型によっては補完的な対応が必要です。
📌 草勢管理が一般品種より重要になる
単為結果性品種は咲いた花のほぼすべてが着果・肥大に向かうため、着果負担が大きくなりやすい性質があります。着果数が多くなると株が消耗しやすくなるため、適切な肥培管理・灌水管理・摘葉による樹勢コントロールが一般品種以上に重要です。特に「PC筑陽」などの単為結果性ナスでも同様のことが言われていますが、トマトでも着果過多による草勢低下・小果多発には注意が必要です。
草勢管理が条件です。
🔗 北海道立総合研究機構「単為結果性トマト品種の生育・収量および品質特性評価と摘果の影響」(摘果の影響に関する実証試験データ)
農業における人手不足と高齢化が深刻さを増している今、単為結果性品種の「省力性」という価値は、単純な作業軽減を超えた経営的な意義を持っています。ここを数字で整理してみます。
まず労働時間の削減について改めて見てみましょう。大玉トマトの6段栽培で、10a当たり約45時間のホルモン処理作業が省略できるとされています。農業の雇用労賃の相場(パート・アルバイト)を時給1,000円で計算すると、10a規模で年間約4万5,000円の人件費削減に相当します。1ha(10a×10)規模の経営であれば年間45万円もの節約効果になる計算です。
これは無視できない金額ですね。
さらに、マルハナバチの放飼コストも見逃せません。セイヨウオオマルハナバチの巣箱は1箱1〜2万円程度が相場で、シーズン中に複数箱必要な場合も多く、管理コストや法的な手続きコストまで含めると年間の費用は決して小さくありません。単為結果性品種への切り替えでこのコストを丸ごとゼロにできます。
また、ホルモン処理に伴う農薬障害のリスクも回避できます。トマトトーンが生長点にかかると葉の奇形が発生したり、濃度が高い場合に先とがり果(異常果)が出やすくなります。異常果は規格外となり収入に直結するロスです。単為結果性品種ではこういったリスクがそもそも発生しません。
さらに見落とされがちな視点として、「熟練が不要になる」という点があります。ホルモン処理は花房だけに的確にスプレーする技術が求められ、生長点にかけてしまうと薬害が出ます。新規就農者やパート作業者がこの作業をこなすにはある程度の習熟期間が必要です。単為結果性品種なら着果処理そのものが不要になるため、作業の標準化・分業化がしやすくなります。雇用型農業を展開している経営体ほど、この恩恵は大きくなります。
つまり、単純な「省力」だけでなく、経営の安定・雇用コストの削減・品質リスクの低減という複数の経営メリットがセットでついてくるのが単為結果性品種の本当の価値です。導入を検討する際は、作業時間の削減効果だけでなく、雇用コスト・農薬費・リスク回避コストをまとめて「見える化」してから意思決定することをおすすめします。農業経営改善の計画策定にはJA(農業協同組合)や農業改良普及センターへの相談が有効です。
🔗 鳥取県農業試験場「単為結果性ミニトマト'エコスイート'の特性及び栽培方法」(作型別の収量性と管理方法の詳細データ)
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