肥料分の少ない圃場でソルガム連作すると減収リスクが高まります
ソルゴレオンは、ソルガム(ソルゴー)の根から分泌される難水溶性の生物的硝化抑制物質です。この物質は、土壌中の硝化細菌、特にアンモニア酸化細菌であるNitrosomonas europaeaの活性を強く阻害する働きを持っています。
国際農林水産業研究センターの研究によれば、土壌1gあたり40μg以上のソルゴレオンを添加すると、土壌中の硝化活性は強力に抑制されます。この濃度を超えると、添加したアンモニウム窒素の多くが硝酸態窒素に変化せず、土壌中に残存するようになるのです。
つまり40μgが基準です。
硝化とは、土壌中のアンモニウム態窒素が硝酸態窒素に変化する過程のことを指します。硝酸態窒素は水に溶けやすく、雨や灌漑水とともに地下へ流出しやすい性質があります。ソルゴレオンがこの硝化を抑制することで、施肥した窒素が土壌に長く留まり、作物が利用できる期間が延びるということですね。
ソルガムの系統によってソルゴレオンの分泌量には大きな差があります。水耕栽培試験では、育種用系統のGDLP 34-5-5-3は、IS41245系統よりも有意に多くのソルゴレオンを分泌することが確認されています。分泌量が多い系統を栽培した圃場では、根圏土壌の硝化活性が顕著に低下しました。
この硝化抑制効果は、温室でのポット栽培だけでなく、実際の圃場栽培でも同様に確認されています。ソルゴレオンの分泌量と根圏土壌の硝化活性の低下には高い相関関係があり、分泌量が多いほど窒素の流亡防止効果が高まるのです。
上記リンクでは、ソルゴレオンの化学構造式や硝化抑制メカニズムの詳細なデータが確認できます。
ソルガムを緑肥として導入することで、土壌からの窒素流亡を大幅に削減できます。愛知県農業総合試験場の研究では、夏季にソルガムを栽培することで年間の窒素溶脱量を9kg/10a削減できることが実証されました。これは余剰窒素量の5~8割に相当する削減効果です。
窒素流亡の削減は、単なる環境保全だけでなく、経済的なメリットも生み出します。10aあたり9kgの窒素削減は、窒素成分が20%の化成肥料に換算すると45kgに相当します。肥料価格を仮に1kgあたり100円とすると、年間4,500円のコスト削減につながる計算です。
千葉県農林総合研究センターの調査によると、ソルガムの窒素吸収量は播種時期によって異なります。7月中旬播種では12~18kg/10a程度の窒素を吸収し、これが地下への溶脱を抑制します。深さ80cm層に硝酸態窒素が残存する場合でも、最大で17kg/10a程度の溶脱抑制効果が期待できるのです。
ソルゴレオンによる硝化抑制効果は、生育とともに下層土に向かって新生される根から分泌されます。このため、栽培期間が長いほど深い土層での効果が高まります。播種後40~50日で草高180~200cmに達した時点が、最も効果的なすき込みタイミングとされています。
ニンジン栽培跡など、土壌中に硝酸態窒素が多く残存する圃場では、ソルガムの窒素吸収効果が特に顕著です。残存窒素をソルガムが吸収することで、次作への影響を最小限に抑えられます。
ソルガムをすき込むことで、次作の化学肥料施用量を大幅に削減できます。特にカリウムとリン酸の削減効果が高く、農家の経営コスト低減に直結します。
カリウムに関しては、ソルガムが順調に生育すれば5t/10a以上の収量が得られ、その時のカリ吸収量は30kg/10a以上となります。愛知県の研究では、この吸収されたカリのうち約70~80%が次作で利用可能になることが示されています。つまり約20~24kg/10aのカリ施肥削減が可能です。
リン酸については、ソルガムの吸収量自体は窒素やカリウムほど多くありませんが、可給態リン酸が4mg/100g以上の圃場では、すき込み後のリン酸施肥を約5kg/10a削減できることが農研機構の研究で明らかになっています。
リン酸の削減が可能になります。
埼玉県の施肥基準によると、一般的な野菜栽培では10aあたりリン酸12~18kg、カリ10~20kgが標準施肥量とされています。ソルガム緑肥の導入により、リン酸で約30~40%、カリで最大100%以上の削減が理論上可能になるのです。
窒素については、ソルガムのすき込み後の肥効が緩やかであることに注意が必要です。C/N比(炭素と窒素の比率)が15~50程度と高いため、分解が遅く、窒素の無機化も段階的に進みます。生育期間が80日以上の場合、窒素施肥削減効果はそれほど期待できません。
ただし、播種時期を8月上旬にすることでC/N比を20以下に抑えられ、後作への肥料的効果を高めることができます。この場合、10kg/10a程度の窒素肥効が期待できるようになります。
ソルガムには連作障害が発生するリスクがあります。特に肥料成分の少ない圃場で栽培すると、播種後2~3週間後頃から葉が赤紫色になり、生育が停滞する症状が現れます。
この連作障害の原因は、ソルガム自身の窒素吸収量が非常に多い(10~30kg/10a)ことにあります。養分過多な土壌の改良には最適ですが、逆に養分が不足している圃場では、土壌から過剰に養分を奪ってしまうのです。赤紫色の葉はリン酸欠乏の典型的な症状といえます。
農研機構の研究では、ソルガムを1~2年間休閑すると生育が改善されることが確認されています。
つまり毎年連続で栽培するのはNG。
休閑期間を設けることで、土壌中の養分バランスが回復し、次回の栽培時には正常な生育が期待できるようになります。
代替策として、ギニアグラスなど他のイネ科緑肥を輪作に組み込む方法があります。ギニアグラスはソルガムより窒素吸収量が少なく、土壌への負担が軽いため、連作障害発生圃場でも良好に生育します。線虫抑制効果も併せ持つため、土壌改善の選択肢として有効です。
肥料成分が少ない圃場でどうしてもソルガムを栽培したい場合は、基肥として堆肥や化成肥料を施用する必要があります。10aあたり窒素10~15kg、リン酸12~18kg程度を目安に施肥することで、連作障害のリスクを低減できます。
土壌診断を事前に実施し、可給態窒素や可給態リン酸の含有量を把握しておくことが重要です。診断結果に基づいて、ソルガム栽培の適否や必要な施肥量を判断しましょう。
ソルガムのすき込みタイミングは、緑肥効果を最大化する上で極めて重要です。最適なタイミングは、穂が出る直前から出始めの頃とされており、播種後40~50日、草高180~200cmが目安となります。
この時期を逃して遅すぎるすき込みを行うと、茎が硬くなってトラクターでのすき込み作業が困難になります。さらに、C/N比が高くなりすぎて分解に時間がかかり、次作の定植時期に間に合わない可能性も出てきます。
早めが鉄則です。
逆に早すぎるすき込みもデメリットがあります。有機物生産量が十分でなく、土壌改良効果や養分吸収効果が薄れてしまうのです。徳島県の栽培マニュアルでは、適切なタイミングでのすき込みにより、メリットを最大化しデメリットを回避できると指摘しています。
すき込み作業の具体的な手順は、まずソルガムを押し倒すことから始めます。ロータリーを回転させずに、トラクターで圃場を走行してソルガムを倒します。その後、反対方向(葉先側)からロータリーをかけてすき込むと、作業効率が格段に上がります。
草丈が150cmを超える場合は、フレールモアなどで細断してからすき込むのがおすすめです。細断することで分解が早まり、次作までの腐熟期間を短縮できます。細断せずにすき込むと、大きな茎葉が塊となって残り、分解に2~3ヶ月以上かかることもあります。
すき込み後は、石灰チッソを10aあたり40~60kg散布すると、茎葉の分解が促進されます。タキイ種苗の栽培マニュアルでは、この追加処理により腐熟期間を1週間程度短縮できるとされています。後作の定植または播種の約1ヶ月前(露地)、ハウス内では15日前までにすき込みを完了させましょう。
ソルガムの緑肥利用は、窒素流亡削減や肥料コスト削減だけでなく、複数の付加価値を同時に生み出します。これらの複合効果を理解することで、導入判断がより明確になります。
土壌物理性の改善効果は見逃せません。ソルガムの根は深さ1m以上に達し、硬盤を破砕する効果があります。東京ドーム5個分の面積を持つ圃場で試算すると、機械による深耕作業には数十万円のコストがかかりますが、ソルガムの根耕作用はほぼ無料で実現できるのです。
有機物の土壌還元量も圧倒的です。草丈220cm、生体重5t/10aのソルガムをすき込むと、稲わらの2~3倍に相当する有機物を供給できます。これにより、土壌中の有機物含有量が増加し、保水性や透水性が向上します。結果として、干ばつ時の作物ストレスが軽減されます。
連作障害の軽減効果も報告されています。同じ作物を繰り返し栽培すると、特定の病原菌やセンチュウが増加しますが、間にソルガムを栽培することで土壌バランスが整います。特に野菜類の連作地では、1作をソルガムに置き換えるだけで次作の収量が10~20%向上する事例もあります。
炭素貯留効果による環境貢献も重要です。農研機構の研究では、ソルガムはマメ科緑肥に比べて炭素貯留効果が高く、気候変動対策に寄与することが示されています。1haあたり年間150tのCO2を吸収するという試算もあり、カーボンクレジット制度の対象になる可能性も指摘されています。
防風・防塵効果も見逃せません。草丈3m近くに成長するソルガムは、圃場の周辺に植えることで強風から作物を守り、土壌の飛散を防ぎます。果菜類の障壁栽培に利用すれば、農薬散布回数の削減にもつながります。
圃場の生物多様性向上にも寄与します。ソルガムの花には益虫が集まりやすく、天敵昆虫の生息場所として機能します。これにより、化学農薬に頼らない総合的病害虫管理(IPM)の実践が容易になります。