出穂5日前に散布すると収量が1割減ります。
プロヘキサジオンカルシウム塩は、シクロヘキサトリオン系化合物の一種で、植物ホルモンであるジベレリンの生合成を阻害する矮化剤です。この成分の化学名はcalcium 3-oxido-5-oxo-4-propionylcyclohexa-3-enecarboxylateで、1994年に日本で初めて登録されました。
作用の仕組みは非常に明確です。植物体内でジベレリンが生成される過程において、前駆体ジベレリン(GA20)から活性型ジベレリン(GA1)への変換を強く阻害します。つまり、植物の成長に必要なホルモンの最終段階の生成を止めるわけです。
結果として活性ジベレリンの量が低下し、植物の茎や節間の伸長が抑制されます。トリアゾール系の生育抑制剤とは異なり、ジベレリン生合成経路の最終段階に特異的に作用する点が特徴的です。
つまり後期阻害剤です。
この剤の安全性は高く評価されています。
普通物に分類され、毒劇物には該当しません。
さらに土壌中では速やかに分解されるため、後作物への影響がほとんどないのです。環境への負荷が少ない点は、現代農業において重要な評価ポイントとなっています。
現在では50カ国以上で使用されており、その優れた性能と安全性が世界的に認められています。日本国内でも水稲、果樹、野菜、花卉、芝生など幅広い作物に適用されており、農業現場での信頼性が確立されています。
クミアイ化学工業の公式ページでは、プロヘキサジオンカルシウム塩の詳細な作用機構と生合成阻害のメカニズムが解説されています
水稲栽培での最も重要な用途は、節間短縮による倒伏軽減です。倒伏は収量や品質に直接影響する深刻な問題で、特に台風シーズンには大きな被害をもたらします。
プロヘキサジオンカルシウム塩を散布すると、水稲の上位節間の伸長が抑制されます。上位節間とは穂に近い部分の茎の節と節の間のことで、ここが短くなることで稲の重心が下がり、風雨に対する耐性が向上するのです。節間が10センチメートル短縮されると、稲全体の草丈は約5~10センチメートル程度低くなります。
効果発現が速いのが大きな特徴です。茎葉から直接吸収されるため、散布後数日で節間の伸長抑制効果が現れます。土壌処理タイプの倒伏軽減剤と違って、土壌条件や水管理の影響を受けにくいのです。
使用時期は出穂10日~2日前の間が厳守です。走り穂が見えたら散布適期のサインとなります。早すぎると効果が不十分になったり、収量に悪影響が出たりします。遅すぎると抑制する部分が少なくなるため、やはり効果不十分です。
薬量は10アール当たり通常散布で75~100ミリリットル、無人ヘリコプター散布では100ミリリットルが標準です。過量散布は稲の生育に悪影響を及ぼすおそれがあるので、適正薬量の厳守が必須条件です。
倒伏が予測される水田にのみ処理する部分散布(スポット処理)も可能で、これは経済的かつ省力的な方法として評価されています。多量散布や重複散布を避ければ、安定した倒伏軽減効果が得られます。
クミアイ化学のビビフルフロアブル製品ページには、水稲での具体的な使用方法と注意点が詳しく記載されています
果樹栽培では新梢伸長抑制に効果を発揮します。リンゴやナシなどのバラ科果樹で使用されており、米国をはじめとする複数の国で登録されています。新梢の過剰な伸長を抑えることで、栄養生長から生殖生長への移行が促進され、結果的に花芽形成につながるのです。
ニホンナシ「幸水」では、ジベレリン(GA4)との組み合わせ処理により果実肥大が促進されることが研究で示されています。プロヘキサジオンカルシウムにはGA不活化阻害活性があるため、外部から与えたGA4の効果が持続し、果肉中のGA4含量が増加するのです。
野菜栽培ではイチゴとキャベツの育苗時に使用されます。イチゴの促成栽培では、育苗期の低温暗黒処理7日前から当日、または定植30~50日前に500倍液を散布します。葉柄の過伸長を抑え、苗の徒長を防止できます。生育後期の伸長抑制にも400~600倍液を使用可能です。
キャベツでは子葉から本葉2葉期の育苗期に50~100倍液を散布します。セル成型育苗トレイ1箱またはペーパーポット1冊当たり50~100ミリリットルが標準使用量です。茎の徒長を防ぎ、がっしりとした苗が育ちます。
花卉栽培での用途も多彩です。キクでは白色系品種の花首伸長抑制に200~500倍液を使用します。発蕾期または発蕾期と摘蕾期に散布することで、花首の伸長が抑えられ、品質向上につながります。有色系品種では花色に影響することがあるので注意が必要です。
ストックでは開花促進効果があります。葉数10~14枚時とその7~10日後に1000倍液を散布すると、花芽分化が早まり開花が促進されます。これはジベレリン生合成阻害による独特の効果で、他の矮化剤にはない特性となっています。
花芽分化の促進が必要な場面では、品種や時期に注意しながら使用することで、計画的な開花調節が可能になります。
芝生管理における刈り込み軽減効果は、ゴルフ場や公園などの維持管理コストを大幅に削減できる点で注目されています。プロヘキサジオンカルシウム塩を散布すると、芝草の直立茎の伸長が抑制され、刈り込み回数を減らすことができるのです。
日本芝(コウライシバ)と西洋芝(ベントグラス)の両方に効果があります。土壌条件や水管理に影響されず安定した効果を示すのが強みです。散布後は芝草の密度が向上し、直立茎数が増加する副次的効果も認められています。
使用タイミングは5月下旬以降の生育期が適切です。ただし処理タイミングによる効果差は僅かであることが研究で示されており、ある程度の柔軟性があります。抑草効果も期待でき、雑草の侵入や繁殖を抑制できます。
芝草の伸長抑制効果の持続期間は、散布後約3~6週間程度とされています。この間に刈り込み作業が50~90%軽減されるため、人件費や機械のメンテナンスコストが大幅に削減されます。年間の維持管理費用を考えると、かなりの経済効果が見込めます。
ただし液肥との併用タイミングには注意が必要です。窒素・リン酸・カリ(N-P-K=10-5-8%)の液肥を、プロヘキサジオンカルシウム処理の2週間前か同時に施用した場合は矮化効果が安定していますが、効果が低下し始めた頃の施用は避けるべきです。
芝生管理での使用では、雑草を枯らさずに生育を抑制できる点も評価されています。環境に優しい管理方法として、今後さらに普及が期待されます。
理研グリーンのビオロックフロアブル製品情報には、芝生での詳細な使用方法と効果が記載されています
使用時期の厳守は最も重要なポイントです。水稲では出穂10~2日前という極めて限定的な期間に散布する必要があります。出穂予測は地域の指導機関や農協が発表する情報を参考にすべきです。自己判断で早めたり遅らせたりすると、期待した効果が得られません。
薬量の正確性も欠かせません。過量散布は植物の生育を過度に抑制し、収量や品質に悪影響を及ぼします。特に水稲では、規定量を超えると登熟歩合が低下し、1割程度の減収リスクが報告されています。
計量は正確に行いましょう。
散布の均一性を保つことが効果を最大化します。多量散布や重複散布になった部分では、抑制効果が強く出すぎて生育障害が発生する可能性があります。少量散布の場合は専用ノズルを使用し、葉面に均一に散布してください。
品種による反応の違いにも配慮が必要です。キクでは白色系品種と黄色系品種で使用できますが、黄色系を除く有色系品種では花色に影響することがあります。ストックでは高温期に開花異常が出やすい品種(アイアンチェリーなど)では使用を避けるべきです。
周辺環境への配慮も忘れてはなりません。ドリフト(飛散)による周辺作物への影響は少ないとされていますが、蚕に対しては影響があるため、桑畑の近くでは注意が必要です。水源池や飲料用水への流入も避けなければなりません。
無人ヘリコプターやドローンで散布する場合は、地域の指導機関の指導を受けてから実施してください。散布装置の点検、配管からの薬液漏れ防止、散布後の洗浄など、専門的な注意事項があります。機体の洗浄廃液は安全な場所で処理する必要があります。
貯蔵中に成分が分離することがあるため、使用前には容器をよく振ってください。保管は密栓して直射日光を避け、冷涼な場所で行います。
有効期限は3年です。
初めて使用する場合、新品種や新しい栽培体系で使用する場合は、予備試験を行うか病害虫防除所などの関係機関の指導を受けることを強くお勧めします。
予想外の反応が出ることを避けるためです。
農薬検査所の資料では、プロヘキサジオンカルシウム塩の詳細な試験データと注意事項が公開されています