トリアゾール系は、一般に「DMI(脱メチル化阻害剤、EBI)」に分類され、糸状菌の細胞膜を作るエルゴステロール生合成の途中(C14位の脱メチル化)を阻害します。
この“膜を作れなくする”効き方は、病原菌の増殖・伸長を止める方向に働くため、病気が広がり始める前〜初期に使うほど安定しやすいのが実務上のポイントです。
同じDMIでも有効成分ごとに得意な病害・作物が違うので、ラベルの適用病害と使用時期を、現場の発生ステージと必ず照らし合わせてください。
また、FRACの整理ではDMIは「ステロール生合成(SBI)のうちC14脱メチル化阻害」に位置づけられ、FRACコード3として扱われます。
参考)プロチオコナゾール 480 g/L SC 殺菌剤 - POM…
つまり「トリアゾール=全部同じ」ではなくても、少なくとも“同じ作用点グループとして耐性管理が必要な枠”に入る、という理解が防除設計の出発点です。
トリアゾール系が効いているときほど、次作・次散布で同じ枠を続けない、という発想が結果的に薬効を長持ちさせます。
FRACは、同系統の偏った使用を避け、異なる系統の輪番使用や、異なる系統を配合した混合剤の活用が耐性対策として有用だと整理しています。
さらに、FRACのガイドラインでは、多回散布が前提の作物で「同系統薬剤の作期内使用回数」を総散布回数の33〜50%以内に抑えるよう推奨するケースが多い、と説明されています。
この考え方を現場に翻訳すると、「トリアゾール(FRAC3)を入れるなら、残りは別FRACで固めて“同じ枠が続く散布”を作らない」ことが基本戦略になります。
注意点として、FRACの分類は“交差耐性の可能性が高いグループ単位で整理”されています。
そのため「別の商品名に替えたから輪番できた」という勘違いが起きやすく、実際には同じFRAC3(DMI)内を回していただけ、という事故が起こります。
散布記録には、商品名だけでなく、可能なら有効成分名(少なくともFRACコード)も残すと、翌年以降の設計が一気に楽になります。
参考:殺菌剤の系統分類(FRACコード)と耐性管理の考え方(輪番・混合・作期内の比率)がまとまっています。
FRAC による農業用殺菌剤の国際分類(日本曹達・農薬時代)
食品中の残留農薬は、基準値を超えて残留する食品の販売・輸入などが食品衛生法で禁止されており、いわゆる「ポジティブリスト制度」の枠組みで運用されています。
基準値自体は、食品安全委員会が「人が摂取しても安全」と評価した範囲で食品ごとに設定される、と説明されています。
そして、基準値を超えないように、農林水産省が残留基準に沿って農薬取締法にもとづく使用基準を設定する、という役割分担が明示されています。
ここでの実務的な落とし穴は、「残留=分析室の話」で終わらせてしまう点です。
参考)https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sinsa/attach/pdf/index-16.pdf
現場では、ラベルに書かれている希釈倍数・使用回数・収穫前日数などの“使用基準を守ること”が、結果として残留基準を守る最短ルートになります。
とくにトリアゾール系は多くの作物・病害で登録がある一方、同じ畑で作物が変わると基準・使用条件が変わるため、作付け切替のタイミングほど再確認が効きます。
参考:残留基準(ポジティブリスト制度)と行政の役割分担、関連法令への導線が整理されています。
トリアゾール系(DMI、FRAC3)は“便利だからこそ偏りやすい”ため、最初から輪番前提で設計したほうが、シーズン後半の失速を減らせます。
FRACは、同系統薬剤を偏って使わないこと、異なる系統の輪番使用、異なる系統を配合した混合剤の使用が有用だとしています。
この方針を、農業従事者が現場で使える形に落とすなら、最低限次の3点を散布前にチェックするのが実装しやすいです。
・散布計画チェックリスト(現場向け)
📝「今回の薬はFRAC3(DMI)か?」→ はいなら次回は別FRACにする。
🔁「作期内でFRAC3が何回目か?」→ 連続・偏りを避け、FRACが変わる並びを作る。
🧴「混合剤なら相方のFRACは何か?」→ “相方も同じ作用点”だと、実質的に偏りが解消しない。
また、FRACは“同系統使用回数の比率”として33〜50%以内を推奨するケースが多いと述べています。
この数字は絶対ルールではありませんが、「トリアゾールを主力にするほど、残りの手札(別FRAC、非化学的手段)を増やさないと破綻しやすい」という警告として読むと判断が速くなります。
散布回数の上限・収穫前日数などは登録ごとに異なるため、最終的には各製品ラベルに合わせて計画を確定してください。
検索上位の記事は「作用機作」「耐性」「残留」の解説が中心になりがちですが、現場で効くのは“散布記録を耐性管理に使える形に整える”という運用面です。
FRACが強調するのは、作用機構と交差耐性にもとづく系統分類を使い、偏りを避けることです。
ならば、紙の防除暦や作業日誌に「商品名」だけを書くのではなく、最低でも「FRACコード(例:3)」を一緒に残すと、翌年の輪番設計が“思い出し作業”から“集計作業”に変わります。
・耐性の予兆として疑うべきサイン(記録で拾う)
📉 同じ病害・同じ条件なのに、FRAC3(DMI)散布後の効きが年々短くなる。
🌧️ 気象要因では説明しづらい効きムラが増え、再散布が常態化する。
🔁 FRAC3が作期内で“気づけば半分以上”になっている。
ここで重要なのは、耐性は「突然ゼロになる」より「効く期間が縮む」「後半に押し負ける」の形で見えることが多く、記録がないと“気のせい”で片付けられてしまう点です。
FRACの枠組み(同系統の偏り回避、輪番、混合)を“実行可能な作業”に落とすには、散布記録をFRAC単位で見える化し、作期内の比率を毎年点検するのが最も費用対効果が高い手段になります。
その上で、残留基準と使用基準の関係(基準超過を防ぐために使用基準がある)も同時に守ることで、薬効と出荷リスクを一緒に下げられます。