農業用マルチフィルムの種類と効果、選び方と処分のコツ

農業の現場で欠かせないマルチフィルム。その種類や色ごとの効果、生分解性マルチのメリット、正しい張り方から廃棄のルールまでを網羅的に解説します。あなたの畑に最適な一枚は見つかりましたか?
農業用マルチフィルム活用のポイント
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色と種類の使い分け

黒は雑草抑制、透明は地温上昇、シルバーは害虫忌避など、目的別に選択。

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生分解性の活用

回収不要で省力化。分解タイミングを制御する新技術も登場。

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適正な処分とリサイクル

産廃マニフェストの管理と、土や汚れを落とす徹底した分別がカギ。

農業用マルチフィルムの種類と効果

マルチフィルムの色と種類による効果の比較


農業におけるマルチフィルムの導入は、単に土を覆うだけでなく、作物の生育環境を劇的にコントロールする技術です。最も基本的かつ重要なのが「色」の選択です。フィルムの色は、光の吸収・反射特性を変えることで、地温、雑草、害虫の挙動に直接影響を与えます。


主な色と機能の比較表

種類(色) 地温上昇 雑草抑制 害虫忌避 特徴・用途
透明マルチ ◎(最強) × × 太陽光を透過させ土壌を直接温めるため、厳寒期や早春の栽培に不可欠。ただし雑草も光合成できるため、除草剤との併用が必要な場合が多い。
黒色マルチ 光を遮断し雑草の光合成を止める。最も普及しているタイプ。地温上昇効果は透明より劣るが、夏場の高温抑制にも一定の効果がある。
シルバーマルチ 太陽光(特に紫外線領域)を反射する。アブラムシアザミウマなどは下からの光を嫌う習性があるため、高い防虫効果を発揮する。地温上昇は控えめ。
白黒ダブル ×(抑制) 表面が白で光を反射し、裏面が黒で光を遮断する。地温の上昇を抑えるため、夏場の高温期におけるレタスや大根などの軟弱野菜の栽培に最適。
有孔マルチ - - - あらかじめ株間に合わせた穴が開いているタイプ。穴あけ作業の手間が省け、定植作業を効率化できる。タマネギやニンニクなど密植栽培によく使われる。

深掘り:光と害虫の関係
特にシルバーマルチの効果は、昆虫の視覚特性を利用したものです。アブラムシなどは、太陽光を背に受けて飛翔し、地面(暗い場所)に向かって降下する習性があります。しかし、地面から強い光(紫外線)が反射されると、上下の感覚が狂い、着地できなくなります。この「光乱反射」を利用することで、薬剤に頼らない物理的な防除が可能になります。


【参考リンク】タキイ種苗:ポリマルチの張り方と種類の解説(動画付きで基本から学べます)

生分解性マルチのメリットとデメリット、最新技術

近年の農業現場で急速にシェアを伸ばしているのが「生分解性マルチ」です。これは、土壌中の微生物によって水と二酸化炭素に完全に分解される素材で作られています。


導入の最大のメリット:省力化
通常のポリエチレン製マルチ(ポリマルチ)の場合、収穫後に「剥がし」「土落とし」「結束」「搬出」「廃棄業者への引き渡し」という重労働が発生します。特に大規模圃場では、この撤去作業だけで数日を要することも珍しくありません。生分解性マルチであれば、収穫後はそのままトラクターで土にすき込むだけで済み、撤去作業がゼロになります。これにより、人件費と労力を大幅に削減できます。


デメリットと課題

  • コスト: 一般的なポリマルチの2〜3倍の価格設定であることが多く、導入のハードルとなっています。
  • 分解速度の制御: 天候や土壌の微生物相によって分解のスピードが変わります。収穫前にボロボロになって雑草が生えてしまったり、逆に次に植える時まで残ってしまったりするリスクがあります。
  • 強度: ポリマルチに比べると引っ張り強度が弱いため、マルチャー(展張機)の設定を調整する必要があります。

最新の技術動向:分解酵素による制御
最近の研究では、収穫後に特定の酵素(分解促進剤)を散布することで、任意のタイミングで分解を早める技術が開発されています。これにより、「栽培期間中はしっかり被覆し、収穫後は速やかに分解させる」という理想的なコントロールが現実味を帯びてきています。農研機構や大学の研究により、分解スイッチとなる酵素の散布技術が実証実験段階に入っています。


【参考リンク】農材ドットコム:生分解性マルチのメリット・デメリットとコスト比較の詳細

効率的な張り方と雑草抑制のための下準備

マルチフィルムの効果を最大限に引き出すには、「張り方」が命です。緩んだマルチは風でバタつき、作物を傷めるだけでなく、隙間から熱が逃げて地温上昇効果が半減します。また、隙間から入る光で雑草が繁茂する原因にもなります。


プロが教える展張のステップ

  1. 土壌水分の調整

    マルチを張る前には、適度な湿り気が必要です。乾燥しすぎた土に張ると、その後の雨水が入らず作物が水不足になります。逆に水分過多だと、酸素不足になり根腐れの原因になります。一雨降った後、土が軽く握れる程度の水分状態の時に張るのがベストです。


  2. 施肥と耕うん

    元肥を施し、土を細かく耕します。土の塊が大きいと、マルチとの間に空間ができ、熱伝導が悪くなります。表面をレーキなどで平らにならすことが、密着度を高めるコツです。


  3. 端の処理と土寄せ

    手作業で張る場合、まず片端をしっかりと土に埋めて固定します。その後、フィルムを引っ張りながら(テンションをかけながら)展開します。重要なのは「足で踏みながら土をかける」こと。フィルムの裾を溝に入れ、土をかけ、その上から足で踏み固めることで、強風でも剥がれない強度が生まれます。


  4. バタつき防止

    長い畝の場合、途中に「マルチ押さえ」や土を載せて、風の通り道を遮断します。フィルムが風で煽られると、植え穴から熱風が出て苗を枯らす「熱風障害」のリスクが高まります。


雑草抑制のポイント
黒マルチを使用していても、植え穴(定植用の穴)から雑草が生えてくることがあります。これを防ぐには、定植直前まで穴を開けない、または植え穴の隙間を土で塞ぐといった細かな管理が有効です。また、マルチを張る前に土壌処理型の除草剤を散布し、そのガス効果をマルチで閉じ込めて効果を高める「マルチ処理」という手法もあります。


【参考リンク】JA営農指導員直伝:一人でもできる失敗しないマルチの張り方とコツ

使用済みフィルムの廃棄とリサイクル、処分のルール

農業用マルチフィルムは、使用後は「産業廃棄物」として扱われます。家庭ごみとして出すことは法律で禁止されており、適切な処理を行わないと「不法投棄」として罰則の対象になります(廃棄物処理法)。


処分の流れと分別

  1. 土や異物の除去

    回収業者やリサイクル工場にとって、最大の敵は「土」です。土が付着していると焼却炉を傷めたり、リサイクル原料の純度を下げたりします。圃場で剥がす際に、できる限り土を払い落とし、乾燥させることが重要です。


  2. 種類の分別

    塩化ビニル(農ビ)とポリエチレン(農ポリ)は、焼却時の温度や発生ガスが異なるため、厳格に分別する必要があります。混ざっていると引き取りを拒否される場合があります。


  3. マニフェスト(産業廃棄物管理票)の交付

    処分を業者に委託する際は、必ずマニフェストを交付し、最終処分が完了したことを確認する義務が排出者(農家)にあります。これは不法投棄を防ぐためのトレーサビリティシステムです。


リサイクルの現状
回収された比較的きれいなポリエチレン製マルチは、洗浄・粉砕され、再びプラスチック製品(擬木、パレット、再生フィルムなど)に生まれ変わる「マテリアルリサイクル」が行われます。汚れがひどいものは、固形燃料(RPF)などに加工され、熱エネルギーとして回収される「サーマルリサイクル」に回されます。近年では、JAや自治体が主導して「廃プラスチック回収日」を設け、集団回収を行うことでコストを抑える取り組みが一般的です。


【参考リンク】安曇野市:農業生産由来のプラスチック適正処理とリサイクルの詳細ルール

農業における残留プラスチック問題と土壌への影響

最後に、検索上位の記事ではあまり深く触れられていない視点として、「残留プラスチック(マイクロプラスチック)」の問題を取り上げます。


見えないリスク:土壌中の破片
「生分解性ではない」通常のマルチフィルムを使用している場合、撤去時に破れてしまった小さな断片が土の中に残ってしまうことがあります。これを「ま、いいか」と放置し続けると、長期的には深刻な問題を引き起こします。


  1. 通水性と通気性の悪化

    プラスチック片が土壌の団粒構造の間に挟まると、水の通り道を塞いだり、逆に不自然な空洞を作ったりします。これが蓄積すると、作物の根張りが悪くなり、肥料の効きムラ(肥効の不均一)につながります。


  2. 土壌微生物への影響

    土壌中のマイクロプラスチックは、有用な土壌微生物の住処を奪い、その活動を阻害する可能性が指摘されています。健全な土づくりには微生物の多様性が不可欠ですが、異物が混入することで生態系のバランスが崩れる恐れがあります。


  3. 河川への流出

    大雨などで土壌が流亡した際、混入していたプラスチック片も一緒に河川へ流れ出します。これが海洋プラスチックごみの一因となり、巡り巡って環境汚染の加害者となってしまうリスクがあります。


持続可能な農業のために
完全に撤去することが難しい場合は、生分解性マルチへの切り替えを検討する、あるいは通常のマルチよりも厚手(0.03mm以上など)のものを使用して、撤去時に破れにくくするといった対策が有効です。目先のコストだけでなく、10年後、20年後の畑の健康状態(地力)を守るために、フィルムの「残留ゼロ」を目指す意識が、これからの農業経営者には求められています。


【参考リンク】農林水産省:農業由来廃プラスチックのリサイクル事例と環境負荷低減への取り組み




日栄産業 黒マルチ 0.02×95×200m