べと病だと思って殺菌剤を使い続けると、幼虫の被害が拡大して収穫物の価値がゼロになります。
ネギハモグリバエは体長約3mmのハエで、葉の組織内に産卵します。 孵化した幼虫は葉の内部をトンネル状に食い進み、白い筋状の食害痕(潜孔痕)を残します。 この食害痕は「エカキムシ」とも呼ばれ、農作物の商品価値を著しく下げる原因になります。pref.kyoto+1
幼虫のサイズは体長約3〜4mm、黄白色の細長いウジムシ形です。 はがきの短辺(約10cm)のわずか30分の1ほどの大きさですが、葉肉を内側から食べるため、外側からは白い筋としか見えません。
参考)https://www.takii.co.jp/tsk/bugs/ane/bug/negihamoguribae/
発育に適した温度は20〜25℃で、25℃条件下では1世代を約20日で経過します。
年間5〜6回発生し、春と秋に多発します。
被害株率は4〜6月と8〜10月に上昇する傾向があります。boujo+1
成虫は葉の表面を傷つけて汁を吸い、産卵管を差し込みます。その跡は直径1mmの白い点が一列に並んだように見えます。 幼虫期間は非常に短く、孵化後わずか5〜7日で蛹になるため、防除の窓口は狭いです。pref.kyoto+1
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 成虫体長 | 約3mm(ハエの仲間) |
| 老熟幼虫体長 | 約4mm(黄白色・ウジムシ形) |
| 幼虫期間(25℃) | 孵化後5〜7日で蛹化 |
| 年間発生回数 | 5〜6回(春・秋に多発) |
| 食害痕の特徴 | 葉内部の白い筋状(1〜3mm幅) |
2016年頃から、従来とは異なるタイプのネギハモグリバエが全国のネギ圃場で発生しはじめました。 遺伝子解析により、従来型を「バイオタイプA」、新型を「バイオタイプB」と区別しています。見た目はほぼ同じですが、幼虫の食害痕で現場でも識別できます。
参考)ネギの新害虫ネギハモグリバエ(バイオタイプB)の発生と防除|…
A系統は1葉あたり1〜数匹の幼虫が葉の表側と裏側を交互に加害するため、食害痕は不規則な破線状になります。 一方、B系統は1葉あたり10匹以上の幼虫が葉の表側のみを集中的に食害するため、食害痕はひとつながりになり、葉全体が白化します。 「葉が白くなった」と気づいたときには、すでに大量のB系統幼虫が食害を終えている可能性があります。
参考)https://www.pref.kyoto.jp/byogai/documents/negihamoguribae-manual_202502.pdf
| 比較項目 | バイオタイプA | バイオタイプB |
|---|---|---|
| 食害痕の形状 | 不規則な破線状 | ひとつながり、葉全体が白化 |
| 1葉あたりの幼虫数 | 1〜数匹 | 10匹以上 |
| 主な発生時期 | 春(A系統が多め) | 秋(B系統が優占) |
| 発育零点 | 9.1℃ | 10.0℃ |
| 有効積算温度 | 393.6日度 | 333.3日度(より少ない) |
| 高温適応性 | 低め | 高い(35℃では孵化せず) |
B系統はA系統よりも有効積算温度が少なく(333.3日度対393.6日度)、発育が速い特徴があります。 つまり温暖化が進む環境では、B系統がさらに優位になる可能性があります。
また、B系統による葉の白化は、シロイチモジヨトウの食害やべと病と非常に似ています。 間違えて殺菌剤を散布しても幼虫には全く効果がなく、その間も被害が広がり続けます。必ず葉をよく観察し、白い筋状の痕や小さな幼虫がいないか確認してから対処方針を決めることが基本です。iplant-j+1
農薬選びで最も重要なのは、「どちらのバイオタイプか」と「成虫・幼虫どちらを狙うか」で使う薬剤が全く変わる点です。 同じ「ネギハモグリバエ用」と書かれた農薬でも、幼虫にしか効かないものや成虫にしか効かないものがあります。
AおよびB両系統の幼虫に対して高い殺虫効果が確認されているのは、シアントラニリプロール水和剤(商品名:ベネビアOD・ベリマークSC) のみです。 B系統の幼虫にはシペルメトリン乳剤(商品名:アグロスリン乳剤)とチオシクラム水和剤(商品名:リーフガード顆粒水和剤)も有効です。 成虫に対しては、両系統ともシペルメトリン乳剤が有効とされています。iplant-j+1
散布タイミングが命です。幼虫は孵化後5〜7日で蛹になり、葉から地表や土中に脱出します。 蛹になってしまうと葉面散布の殺虫剤は効きません。食害痕を発見したら即座に、幼虫がまだ葉の中にいるうちに散布する必要があります。
殺虫効果の高い薬剤を繰り返し使用すると、抵抗性が発達して効き目が低下するリスクがあります。 圃場ごとにどちらのバイオタイプが発生しているか、専門機関や植物医師に診断してもらうことで、薬剤の選択肢を広げることができます。
農薬だけに頼らない管理が、長期的な被害軽減につながります。
まず残渣の処分は徹底してください。ネギの残渣はネギハモグリバエの発生源そのものになります。 収穫後の残渣は放置せず、土中に埋めるかビニールで被覆して処分します。成熟した幼虫は葉から脱出して土中で蛹になるため、マルチ栽培が羽化抑制に有効です。
物理的防除としては、網目0.8mm以下の防虫ネットが有効です。 ハモグリバエは体が非常に小さいため、大きめの網目では簡単に侵入されてしまいます。
定植直後から設置することが効果的です。
また、黄色粘着テープで成虫を誘引・捕獲する方法も補助的に使えます。meetsmore+1
空梅雨の年は発生量が多くなる傾向があります。 天候状況に合わせて早めのモニタリングを行うことが、大きな被害を防ぐ第一歩です。
これが基本です。
| 防除方法 | ポイント |
|---|---|
| 防虫ネット | 網目0.8mm以下を定植直後から設置 |
| 残渣処分 | 収穫後すぐに土中へ埋める or ビニール被覆 |
| マルチ栽培 | 地表落下した幼虫の蛹化・羽化を抑制 |
| 黄色粘着テープ | 成虫の誘引・捕獲に活用 |
| 土壌消毒 | 作付前にクロルピクリンなどで蛹を死滅 |
参考:京都府農林水産技術センターによる防除マニュアル(令和7年2月発行)。農薬の種類、バイオタイプ別の発生状況、散布タイミングの詳細が掲載されています。
ネギハモグリバエ防除マニュアル(京都府農林水産技術センター)
農薬をできるだけ減らしたい農業従事者に知ってほしいのが、土着寄生バチの存在です。
ネギ圃場では、ネギハモグリバエの幼虫に卵を産み付ける土着寄生バチが自然に発生しています。 京都府の調査(令和2〜3年)では、バイオタイプBが多発するネギ圃場から合計460匹の寄生バチが確認されました。 その種構成は2科9種で、最も多かったのはハモグリコガネコバチ(種構成比75.2%)、次いでカトウヒメコバチ(20.0%)でした。
寄生バチを活かした防除試験では、天敵に影響の少ない忌避剤を散布した「天敵保護区」でも、無処理区(被害度14.3)と比べて被害度9.0と明確な防除効果が確認されました。 慣行防除区(被害度4.3)には及ばないものの、農薬の使用量を減らしながら一定の防除効果を維持できるということです。
この結果は農薬に頼りすぎない持続的農業を目指す上で重要です。 寄生バチを温存するには、天敵に影響の少ない薬剤(忌避剤など)を選ぶことが条件です。 殺虫スペクトルの広い農薬を頻繁に使用すると、せっかくの天敵も一緒に死滅させてしまいます。
寄生された幼虫は黒色に変色するため、葉を開いて幼虫の色を確認することで、圃場内での寄生バチの働きを目視で把握できます。 寄生バチが多く働いている圃場では、農薬散布の頻度を下げる判断材料になります。
参考:ネギハモグリバエのバイオタイプBに対する土着寄生バチの発生実態と防除体系について、専門的な知見が掲載されています。
ネギの新害虫ネギハモグリバエ(バイオタイプB)の発生と防除(植物医科学ジャーナル)