農薬散布回数が増えるほど、マイコタールの効果は下がります。
マイコタールは、アリスタライフサイエンス株式会社が製造・販売する微生物農薬(殺虫殺菌剤)です。農林水産省登録番号23691を取得しており、有効成分は昆虫病原性糸状菌「バーティシリウム レカニ(Verticillium lecanii)」です。
この菌はコナジラミ類・アザミウマ類の体表に付着すると発芽・侵入し、体内で増殖して害虫を死に至らせます。つまり「生きた菌が農薬になっている」という仕組みです。
化学農薬と根本的に作用機序が異なるため、薬剤抵抗性コナジラミにも効果を発揮します。
これは大きなポイントです。
施設内でのコナジラミ発生量を最大90%抑制した試験事例も報告されており、化学農薬だけに頼っていた農家にとって重要な選択肢になっています。
また、感染して死んだコナジラミの体外で菌が胞子を形成し、周囲の害虫に二次感染が広がる「自己増殖効果」も持っています。
これは使えそうです。
一度散布すれば、菌が環境内で増え続けて防除効果を持続させるという、化学農薬にはない特長です。
参考:マイコタール製品詳細ページ(アリスタライフサイエンス株式会社公式)
https://www.arystalifescience.jp/catalog/p_mycotal.php
マイコタールを使う際にもっとも重要なのが、希釈倍率と散布タイミングです。一般的な希釈倍率は500〜1,000倍が推奨されています。
散布タイミングは、害虫密度がまだ低い「発生初期」が原則です。コナジラミが大量発生してからでは効果が出にくく、防除が後手に回ります。マイコタールは「予防的・早期防除」として使うのが基本です。
菌が害虫に感染して効果が出るまでに、通常3〜7日程度かかります。
化学農薬のように即効性はありません。
この点を理解しておかないと、「効かない」と誤った判断につながります。
散布する際は高湿度条件(相対湿度85%以上)が望ましいとされています。ビニールハウス内の夜間や早朝に散布すると湿度が確保しやすく、菌の発芽・感染率が上がります。逆に乾燥した日中の散布は効果が低下するため、避けることを強くおすすめします。
初めて使用する場合は、病害虫防除所や地域の農業団体など関連機関の指導を受けることが望ましいとされています。
指導機関への相談が条件です。
「農薬なのに、農薬散布回数にカウントされない」というのは意外に思う方も多いはずです。
これがマイコタール最大の特長の一つです。
日本の農薬取締法および特別栽培農産物に係る表示ガイドラインでは、「節減対象農薬」と「節減対象外農薬」が区別されています。マイコタールは微生物由来の製剤として「節減対象農薬以外の農薬」に分類されるため、散布回数の節減カウントから除外されます。
つまり、特別栽培で「化学合成農薬を慣行の50%以下に削減」という基準を満たしながら、別枠でマイコタールを何回でも使用できるということです。
これは農家にとって大きなメリットです。
有機JAS規格にも適合しているため、有機栽培農産物の生産でも使用可能です。化学農薬に頼らざるを得なかった害虫防除の場面で、有機農家の強い味方になります。コストの観点でも、化学農薬を削減しながら防除効果を維持できるため、資材コストの最適化につながります。
参考:沖縄県「節減対象農薬以外の農薬の活用」資料
https://www.pref.okinawa.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/010/680/tokusai_piman_33-46.pdf
マイコタールの特長として、オンシツツヤコバチやタイリクヒメハナカメムシなどの天敵昆虫への影響が実用上ほとんどない点が挙げられます。
ただし注意点があります。
通常使用濃度より高濃度で散布した場合、タイリクヒメハナカメムシに影響を与えるおそれがあるという報告があります。
希釈倍率の遵守が条件です。
指定の希釈倍率を厳守することが、天敵との安全な併用の大前提になります。
ミツバチについては「受粉促進を目的としてミツバチ等を放飼中の施設や果樹園等では使用を避けること」という注意書きがあります。
厳しいところですね。
放飼中でなければ使用可能ですが、事前に周辺の養蜂状況を関係機関に確認する義務があります。
IPM(Integrated Pest Management:総合的病害虫管理)の観点では、マイコタールをリモニカ(コナジラミ天敵)と組み合わせた防除体系が普及しています。リモニカ放飼後にマイコタールを使用しても天敵への影響がほとんどないとされており、施設野菜での組み合わせ事例が増えています。
参考:リモニカ放飼後の注意点(アリスタライフサイエンス公式PDF)
https://arystalifescience.jp/catalog/pdf/limonica_202001.pdf
マイコタールは「生きた菌」を使った農薬であるため、保管方法が通常の化学農薬とは大きく異なります。
これが見落とされやすいポイントです。
製造からの有効期限が非常に短い製品であり、冷蔵保管が必要とされています。通常の農薬棚に常温保管しておくと、知らないうちに菌が死滅して効果がゼロになります。「散布したのに全然効かない」という失敗の多くは、保管ミスが原因です。
購入時には有効期限を必ず確認することが重要です。販売店に発注してからメーカー取り寄せになるケースが多く、納期に時間がかかります。さらに注文後のキャンセル・返品不可という条件になっているため、使用計画を立ててから発注する必要があります。
500g入りで販売されており、一度開封したら速やかに使い切ることが推奨されます。使いかけを常温・長期間放置するのはNGです。
開封後は速やかな使用が原則です。
| 項目 | マイコタール(微生物農薬) | 一般化学農薬 |
|---|---|---|
| 保管方法 | 冷蔵保管が必要 | 常温保管可能 |
| 有効期限 | 製造から短期間 | 比較的長期 |
| 即効性 | 3〜7日かかる | 散布後すぐに効果 |
| 抵抗性リスク | ほぼなし | 連続使用で抵抗性発達 |
| 散布回数カウント | カウントされない | カウントされる |
| 有機JAS適合 | ✅ 適合 | ❌ 不適合(多くの場合) |
冷蔵保管の徹底と使用計画の事前立案が、マイコタールを失敗なく使いこなすための最大のポイントです。農薬保管庫の温度管理が気になる場合は、冷蔵対応の農薬専用保管ボックスの導入も選択肢に入れておくと安心です。