開花期10個未満なら収量激減です
根粒着生とは、マメ科植物の根に土壌中の根粒菌が感染し、根の表面に小さなこぶ状の器官を形成する現象です。この根粒の内部で、根粒菌は大気中の窒素分子をアンモニアに変換する窒素固定を行います。この仕組みがなければ、ダイズは土壌からの窒素吸収だけに頼らざるを得ず、十分な収量を得ることができません。
根粒菌による窒素固定は、工業的な肥料製造とは全く異なる方法です。化学肥料のアンモニア合成には1000気圧という超高圧と500℃という高温が必要で、莫大なエネルギーを消費します。一方、根粒菌は常温常圧下でニトロゲナーゼという酵素を使い、この反応を実現しているのです。
ダイズの場合、生育に必要な窒素の50~60%、条件が良ければ最大90%を根粒菌からの窒素固定で賄います。ダイズ1トンあたり80kgの窒素吸収が必要とされており、その大半を根粒菌が供給するということです。
つまり根粒着生ですね。
根粒の内部では、根粒菌はバクテロイドという特殊な形態に変化します。この状態で窒素固定活性が最大になり、ダイズに効率的に窒素を供給できるのです。健全に機能している根粒はピンク色から赤色を呈しますが、これはレグヘモグロビンという酸素運搬タンパク質が含まれているためです。
根粒が褐色や灰色になっている場合、窒素固定活性が低下しているか、すでに機能を失っている可能性があります。根粒の色を確認することで、その圃場の根粒菌による窒素供給状況を簡易的に判断できるわけです。根粒の健全性を見極めることが第一歩となります。
秋田県立大学の根粒菌の解説ページでは、根粒菌の窒素固定メカニズムについて分かりやすく図解されており、根粒着生の基礎知識を深めることができます。
水田転換畑での根粒着生不良は、ダイズ栽培における最大の課題の一つです。特に転換初年目の圃場では、土着根粒菌の密度が極端に低いため、根粒がほとんど着生しないケースが頻発します。土壌1gあたりの根粒菌数が102~105個程度しかない圃場では、根粒着生が著しく不良になります。
透水性不良も根粒着生を阻害する大きな要因です。根粒菌は好気性菌であり、根粒内での窒素固定にも大量の酸素を必要とします。土壌中の酸素分圧が20%以下に低下すると窒素固定が阻害され、10%では完全に停止してしまうのです。水田転換畑では、土壌の透水性が悪く過湿状態になりやすいため、根粒菌が酸素不足に陥りやすい環境といえます。
湛水状態になると、根粒菌はダイズ本体よりも先に湿害を受けて脱粒したり枯死したりします。
根粒菌の方が過湿に弱いということですね。
このため、排水対策を徹底せずにダイズを栽培すると、根粒着生が不十分なまま生育が進み、窒素欠乏による収量低下を招きます。
道北転換畑では、開花期に根粒が着生する場合があることが確認されています。根粒形成期に根粒が認められなくても、開花期に根粒が形成されることがあるため、追肥の要否判定は開花期に行うのが妥当とされているのです。
判定時期を誤らないことが重要です。
土壌物理性の改善には、サブソイラによる心土破砕や弾丸暗渠の施工が効果的です。これらの対策により透水性が向上し、根域が拡大することで根粒着生環境が改善されます。転換初年目から排水対策に取り組むことが、根粒着生不良を防ぐ最善策となります。
また、pHが6.0~6.5の範囲を外れると根粒着生に悪影響を及ぼします。酸性土壌では石灰資材の施用により、pHを適正範囲に調整することが根粒着生促進につながるのです。
農研機構の研究成果では、道北転換畑における根粒着生不良要因と窒素追肥技術について詳しく解説されており、転換畑でのダイズ栽培の実践的な知見が得られます。
根粒着生状況の判定は、収量確保のための追肥要否を決める重要な作業です。道央部では根粒形成期の6月下旬~7月上旬、道北部では開花期が判定の適期とされています。地域によって判定時期が異なるので注意が必要です。
判定方法は、圃場から任意に5~10株を掘り取り、根を水で洗浄して根粒の着生状況を確認します。1個体あたりの根粒数を数え、平均値を算出するのです。この際、根粒の色も同時に確認し、ピンク色や赤色の健全な根粒がどれだけあるかをチェックします。
判定基準は明確です。開花期の根粒数が1個体あたり10個未満の場合、開花期に窒素量10kg/10aの追肥が必要とされています。10個以上であれば追肥は不要という判断になります。
この基準が収量確保の分岐点です。
根粒重による判定も有効です。開花期の根粒重が0.2g/株未満の圃場では、窒素追肥により収量が大きく向上することが試験で確認されています。一方、0.2g/株以上の圃場では追肥による増収効果は低いため、追肥を省略できます。
コスト削減につながりますね。
追肥量は5kg/10aと10kg/10aで検討されていますが、10kg/10aの方が安定した増収効果を示します。ただし、過剰な窒素追肥は徒長や過繁茂を引き起こし、倒伏リスクを高めるため、判定基準に従った適切な追肥量を守ることが重要です。
根粒着生不良と判定された圃場では、次作以降の対策として根粒菌接種を検討する必要があります。根粒菌密度が低い圃場で継続的に接種を行うことで、土着根粒菌の密度を高め、将来的には接種が不要になる可能性もあるのです。
判定作業は手間がかかりますが、無駄な追肥を避け、必要な圃場にのみ適切な追肥を行うことで、肥料コストの削減と収量の安定化を両立できます。圃場ごとの根粒着生状況を把握することが、効率的なダイズ栽培の鍵となります。
根粒菌接種は、土着根粒菌密度が低い圃場で根粒着生を促進し、収量を向上させる有効な技術です。特に水田転換初年目やダイズ栽培歴のない圃場では、接種効果が顕著に現れます。接種により窒素固定量が増加し、ダイズの生育が大幅に改善されるのです。
接種方法には、種子粉衣法、播種時土壌混和法、育苗培土混和法などがあります。最も一般的なのは種子粉衣法で、播種直前に根粒菌資材を種子にまぶす方法です。簡便で作業効率が良いため、大規模栽培でも実施しやすいという利点があります。
接種菌株の選択も重要です。USDA110株やA1017株など、窒素固定能力が高く、広範な土壌条件に適応できる菌株が推奨されています。これらの有効菌株を接種することで、土着菌よりも高い窒素固定能力を発揮し、ダイズの生育量と収量が向上します。
接種効果は土着根粒菌密度に大きく左右されます。土着菌密度が低い圃場ほど接種効果が高く、密度が高い圃場では接種菌が土着菌との競合に負けて効果が出にくくなります。土着菌密度が乾土1gあたり102~103個程度の圃場では、接種により根粒重が大幅に増加し、子実収量も20~30%向上するケースが報告されています。
数字で効果が明確ですね。
一方、土着菌密度が105個以上ある圃場では、接種菌由来の根粒形成率が50%以下になることもあり、接種効果は限定的です。このため、接種を実施する前に土着根粒菌密度を把握しておくことが、費用対効果を高めるポイントとなります。
根粒菌資材には液体タイプと粉末タイプがあり、それぞれ保存方法や使用期限が異なります。資材の品質管理を適切に行い、有効期限内に使用することで、接種効果を最大限に引き出せます。保管は冷暗所で行い、高温多湿を避けることが鉄則です。
接種後、根粒菌が土着化すれば、次作以降は接種を省略できる可能性もあります。ダイズ栽培を継続することで土着根粒菌密度が維持され、10年以上経過しても根粒着生に問題がないという報告もあるのです。長期的な視点で根粒菌管理を行うことが、持続可能なダイズ栽培につながります。
根粒超着生系統は、通常のダイズに比べて根粒数が5~10倍以上に達する特殊な系統です。窒素固定能力が高いため多収が期待されましたが、実際には根量が少なく生育量が劣るという問題が明らかになっています。
根粒が多ければ良いわけではないのです。
根粒超着生系統では、根粒形成に光合成産物が過剰に消費され、茎葉の成長や根の発達に回る資源が不足します。このため、地上部の生育が抑制され、結果的に収量が低下してしまうという矛盾が生じるのです。
バランスが重要ということですね。
通常のダイズでも、根粒着生には最適な水準があります。根粒数が多すぎると、植物全体の炭水化物バランスが崩れ、収量にマイナスの影響を与える可能性があります。根粒数と収量の間に明確な正の相関が認められないという研究結果もあり、根粒着生量の適正化が重要だと分かります。
窒素肥料の過剰施用は、根粒着生と窒素固定活性を強く抑制します。多量の窒素肥料を施肥すると、根粒の着生そのものが減少するだけでなく、徒長や過繁茂、青立ちを引き起こし、収量増につながらないという問題が発生するのです。
窒素肥料は諸刃の剣です。
ダイズは開花期以降に全窒素の約8割を吸収するため、初期生育期にスターター窒素として少量施用し、その後は根粒菌による窒素固定に依存するのが理想的な栽培方法です。元肥窒素が過剰になると、根粒菌の着生が阻害され、かえって窒素供給が不安定になります。
無機態窒素が土壌中に多く存在すると、根粒形成の初期段階から抑制されます。これは植物が「すでに窒素が十分にある」と判断し、根粒菌との共生を積極的に進めないためです。
メカニズムが分かりますね。
このため、有機栽培や減肥栽培では、窒素供給を根粒菌に大きく依存する栽培体系が構築されています。化学肥料の窒素投入を最小限に抑え、根粒菌の窒素固定能力を最大限に活用することで、環境負荷の低減と収量の確保を両立させる取り組みが進んでいるのです。
根粒着生を阻害しないためには、窒素施用量を慎重に検討し、土壌診断に基づいた適切な施肥設計を行うことが不可欠です。過剰な窒素投入を避け、根粒菌との共生を優先する栽培管理が、ダイズの安定多収への近道となります。
根粒着生を促進するには、まず排水対策が最優先事項です。前述のとおり、根粒菌は好気性菌であり、酸素不足に極めて弱い特性を持っています。サブソイラによる心土破砕、弾丸暗渠、明渠の設置など、圃場の透水性を改善する物理的対策を播種前に実施することが基本です。
土壌pHの調整も重要な要素です。ダイズの最適pHは6.0~6.5で、根粒菌も同様の範囲で活性が高まります。酸性土壌では炭酸カルシウムや苦土石灰を施用し、pHを適正範囲に矯正することで、根粒着生が大幅に改善されます。
pH測定は簡単にできます。
リン酸の適切な施用も根粒形成を助けます。根粒菌の増殖と窒素固定にはリン酸が必要であり、リン酸欠乏土壌では根粒着生が不良になります。ただし、過剰施用はコストがかさむだけでなく、環境負荷も増大するため、土壌診断に基づいた適量施用を心がけます。
播種時期の選定も根粒着生に影響します。地温が15℃以上になってから播種することで、根粒菌の活動が活発になり、根粒形成が早まります。早播きしすぎると地温が低く、根粒菌の感染が遅れるため注意が必要です。
適期播種が基本ですね。
アーバスキュラー菌根菌との共生も、根粒着生を間接的に促進する可能性があります。菌根菌はリン酸吸収を助けるため、ダイズの栄養状態が改善され、根粒菌との共生もスムーズに進むという相乗効果が期待できるのです。両方の微生物を活用することで、より健全な根系が形成されます。
緑肥作物の利用も有効な手段です。マメ科緑肥を前作に栽培することで、土壌中の根粒菌密度が高まり、後作のダイズでも根粒着生が良好になります。ヘアリーベッチやクリムゾンクローバーなどのマメ科緑肥をすき込むことで、土壌の物理性改善と根粒菌密度向上の両方が実現できます。
種子消毒剤の選択にも配慮が必要です。一部の殺菌剤は根粒菌に対して悪影響を及ぼすため、根粒菌との共生を妨げない薬剤を選定することが重要です。種子粉衣接種を行う場合は、接種後に殺菌剤処理を行うなど、処理順序にも注意を払います。
根粒着生を最大限に活用するには、これらの個別技術を組み合わせた総合的な栽培管理が求められます。土づくりから播種、生育管理まで、一貫して根粒菌との共生を意識した栽培体系を構築することで、化学肥料への依存を減らしながら高収量を実現できるのです。
全国農業協同組合連合会のダイズ栽培Q&A(PDF)では、根粒着生に関する実践的な質問と回答がまとめられており、現場での疑問解決に役立つ情報が豊富に掲載されています。