根粒超着生とは何か、ダイズの窒素固定能力を高める特性を解説

根粒超着生は通常の5~10倍の根粒を着生するダイズの特殊な形質で、窒素固定能力を飛躍的に向上させます。

しかし従来の系統は生育不良が問題でした。


農業における活用法と注意点を知っていますか?


根粒超着生とはダイズの窒素固定を活かす特性

根粒数が多いほど良いと思っていませんか。


この記事の3つのポイント
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根粒超着生の基本

通常品種の5~10倍以上の根粒を着生し、窒素固定能力が数倍高い特殊な形質です

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従来系統の課題

根粒超着生系統は生育・収量が劣るのが一般的で、初期生育が4割小さくなります

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実用化への道

作系4号は世界初の実用レベル品種で、窒素増肥と栽培法の工夫で多収が可能です


根粒超着生とは通常の5~10倍の根粒を着生するダイズの形質

根粒超着生とは、通常のダイズ品種と比べて極めて多数の根粒を根に着生させる特殊な遺伝的形質のことを指します。この形質を持つダイズは「根粒超着生系統」または「スーパーノジュレーション系統」と呼ばれ、1980年代から世界各国で研究が進められてきました。


通常のダイズ品種「エンレイ」が個体当たり約470個の根粒を着生するのに対し、根粒超着生系統では3,000~4,000個、つまり5~10倍以上の根粒を形成します。根粒の重さで見ても、通常品種の2~3倍に達することが確認されています。これは長さで例えるなら、通常の鉛筆が一気に5本分の長さになるようなインパクトです。


極めて多数の根粒ということですね。


この形質は主にエチルメタンスルホン酸(EMS)などの薬剤を使った人為的な突然変異によって作出されます。根粒の着生を自動調節する遺伝子機構が欠損することで、土壌中の窒素濃度に関係なく大量の根粒を形成し続けるのが特徴です。根粒超着生系統は根粒着生制御機構の研究材料としての役割とともに、高い窒素固定能力を農業に活かす可能性が期待されてきました。


ダイズは子実中のタンパク質含有率が非常に高い作物であり、多収を得るには多量の窒素を集積させる必要があります。子実100kg当たり約8kgの窒素を必要とし、全体では30kg/10a程度の窒素吸収が求められます。しかも開花期以降に全集積量の7~8割の窒素を集積させなければなりません。


この窒素需要に対応する手段として、マメ科作物の特徴である共生根粒菌の窒素固定機能を最大限に活用することは、窒素肥料を多用せず環境との調和を図りながら生産性を向上させる有用な戦略と考えられます。根粒超着生はその戦略を実現する可能性を秘めた形質なのです。


根粒超着生ダイズの窒素固定能は個体当たりで顕著に高い

根粒超着生系統の最大の特徴は、個体当たりの窒素固定能力が通常品種より顕著に高いことです。窒素固定能はアセチレン還元能という指標で測定されますが、品種「作系4号」の研究では、生育期間を通じて通常品種「エンレイ」を明らかに上回る窒素固定活性を示すことが確認されています。


具体的には、莢伸長期における個体当たりの根粒重は通常品種の約2.4倍、根粒数は約8.4倍に達します。この膨大な根粒群が大気中の窒素を固定し、植物が利用できるアンモニアに変換してダイズに供給し続けるのです。窒素固定は本来、1,000気圧の超高圧と500℃の高温を要する工業プロセスですが、根粒菌は常温常圧でこれを実現する驚異的な能力を持っています。


つまり超高効率ということです。


根粒超着生系統は土壌窒素を利用しにくい条件下で特に有利性を発揮します。通常品種は土壌中の窒素が不足すると生育が抑制されますが、根粒超着生系統は窒素固定への依存度が高いため、痩せた土地でも一定の生育を維持できるのです。これは化学肥料の投入を抑えながら生産性を確保したい有機栽培や減肥栽培において、大きなメリットとなる可能性があります。


ただし注意すべき点として、根粒1個当たりの窒素固定活性は通常品種より低い傾向があります。根粒超着生変異株の根粒は大きさが小さく、レグヘモグロビン濃度が低いなど、個々の根粒の質的な面では劣る特徴を持っています。それでも総数が圧倒的に多いため、個体全体としては高い窒素固定能を実現しているわけです。


さらに重要な特性として、根粒超着生系統は圃場に窒素を還元する能力が高いことが挙げられます。収穫後に残る地下部残渣には大量の根粒が含まれており、これらに蓄積された窒素が土壌に還元されることで、後作物の生育・収量向上に寄与することが研究で示されています。連作障害を軽減しながら土壌の窒素供給力を高められる点は、持続可能な農業の観点から注目に値します。


根粒超着生の従来系統は生育・収量が劣るのが一般的だった

根粒超着生には期待される利点がある一方で、従来の系統には深刻な欠点がありました。世界各国で作出された根粒数が原品種の数倍以上ある根粒超着生系統は、ほぼ例外なく生育や収量が原品種より劣るという問題を抱えていたのです。この現象は1990年代から2000年代にかけて、複数の研究機関で繰り返し報告されてきました。


生育不良の主な原因は、多量の根粒形成とその維持、そして窒素固定活動に光合成産物が大量に消費されることにあります。根粒の形成と機能維持には相当なエネルギーコストがかかり、本来は茎や葉の成長に使われるはずの炭水化物が根粒に奪われてしまうのです。これは家計に例えるなら、収入の大半を固定費に取られて生活費が不足する状態に似ています。


初期生育が特に問題です。


日本で最初に作出された根粒超着生系統「En6500」の場合、開花期における地上部乾物重は通常品種「エンレイ」より約4割も小さいという測定結果が得られています。初期生育が緩慢だと、雑草との競合に負けたり、最下着莢節位が上がりすぎて収穫ロスが増えたりする問題につながります。


加えて根系が小さいことも生育不良の一因とされています。根粒超着生系統は根粒非着生条件下でも根の総量が少ないという異常な特徴を示すことが報告されており、養分や水の吸収能力が制約されていると考えられます。根が小さければ土壌から窒素やリン酸、カリウムなどの必須養分を十分に吸収できず、生育全体が抑制されてしまうのです。


「En6500」では子実が充実しない「へこみ粒」が多発する問題もありました。栽培条件によっては商品価値を著しく損なうこの障害は、根粒超着生形質以外の不良遺伝子が混入している可能性を示唆しています。収量性については、通常品種の3分の1程度まで低下するケースも報告されており、農業的利用には程遠い状況でした。


このような欠点から、根粒数が原品種の1.5~2倍程度の「中間的根粒超着生系統」が現実的な選択肢として研究されてきました。しかし本格的な根粒超着生形質を維持しながら実用レベルの収量性を実現することは、長年の課題として残されていたのです。


根粒超着生品種「作系4号」は世界初の実用レベル品種

この長年の課題を解決したのが、日本の農業研究センター(現・作物研究所)で育成された「作系4号」(現名称「関東100号」)です。1992年に品種「エンレイ」と根粒超着生系統「En6500」を交配し、後代から根粒超着生の特性を持ちながら生育・収量の優れる個体を選抜・固定して作出されました。2002年に品種登録が出願され、世界で初めて実用レベルに達した根粒超着生品種として注目されています。


「作系4号」の画期的な点は、根粒着生数が「エンレイ」より8.4倍多い根粒超着生系統でありながら、通常の品種と同等の生育・収量性を示すことです。従来の根粒超着生系統が収量で原品種を大きく下回ったのに対し、「作系4号」は育成地での3年間の試験で平均40.8kg/aの収量を記録し、「エンレイ」と同程度を達成しました。


これは使えそうです。


個体当たりの窒素固定能は生育期間を通じて「エンレイ」より顕著に高く、土壌窒素を利用しにくい条件下で多収を得る能力を持っています。成熟期における主茎長は平均63.3cmで「エンレイ」と同程度、百粒重は33.5gとやや大きく、不充実粒が多発した「En6500」の問題も克服されています。


ただし初期生育の緩慢さという根粒超着生系統共通の課題は残っています。開花期の地上部乾物重は「エンレイ」より約4割小さく、この点への対策が必要です。研究では基肥窒素の増量施用による初期生育促進が有効であることが示されています。根粒の窒素固定活性は播種後3~4週間目から本格化するため、それまでの初期生育を確保するには窒素施用が重要なのです。


栽培法の工夫も収量向上の鍵となります。「作系4号」は慣行の耕起栽培法では多収になりにくい傾向がありますが、省力的技術である不耕起狭畦栽培法との適性が高いことが確認されています。この栽培法と窒素増肥を組み合わせることで、通常品種を上回る多収が実現可能です。密植条件では単位面積当たりの根粒形成数が増加し、窒素固定量の増加が期待できます。


成熟期は「エンレイ」より11~20日遅い晩生タイプで、生態型は中間型です。開花期は4~5日遅く、主茎節数は約2節多いという形態的特徴があります。粒の大きさは「中の大」ないし「大の小」に属し、種皮色は黄、臍色も黄の標準的な外観を持っています。


根粒超着生ダイズの栽培で注意すべき窒素管理のポイント

根粒超着生ダイズを栽培する際には、通常のダイズとは異なる窒素管理の考え方が必要になります。最も重要なのは、初期生育を確保するための基肥窒素施用と、根粒の窒素固定活性を維持するための窒素管理のバランスです。この両立が収量性を左右する決定的な要因となります。


基肥窒素の増量施用は初期生育促進に有効な手段です。根粒菌による窒素固定が本格化するまでの播種後3~4週間は、種子子葉中の貯蔵タンパク質と土壌・肥料からの窒素に依存します。根粒超着生系統は初期生育が緩慢なため、この期間の窒素供給を十分に確保することが雑草との競合や最下着莢節位の確保につながります。


ただし窒素施用には注意が必要です。


一般的に基肥窒素の多施用は根粒の着生や窒素固定を阻害する効果があります。特に硝酸態窒素は阻害効果が強く、地表部近傍に多く着生する根粒と直接接触すると窒素固定活性を抑制してしまいます。根粒超着生系統でも、土壌窒素濃度が高すぎると本来の高い窒素固定能力を発揮できなくなる可能性があるのです。


この問題を回避する方法として、深層施肥技術が注目されています。サブソイラなどを使って窒素肥料を地下深くに施用することで、開花以降に根が肥料に到達して効率的に吸収される一方、地表付近の根粒には直接接触せず窒素固定を阻害しないという効果が期待できます。深層施肥と根粒の窒素固定を組み合わせることで、生育全体を通じた窒素供給を最適化できるわけです。


土壌診断に基づいた施肥設計も重要になります。地力窒素供給力が高いほ場では基肥窒素を控えめにし、根粒の窒素固定を優先させる戦略が適切です。逆に地力が低いほ場では、初期生育確保のため基肥窒素を十分に施用する必要があります。ほ場の窒素供給力は前作の履歴や有機物施用状況によって大きく変動するため、個別の診断が欠かせません。


窒素追肥については慎重な判断が求められます。水稲や麦類では生育期の窒素追肥により収量や品質の制御が可能ですが、ダイズの場合は根粒の存在により窒素追肥の効果があまり効果的ではありません。根粒の窒素固定活性が高い時期に窒素を追肥すると、根粒の活性が低下してしまうリスクがあるからです。生育状況を見ながら、真に窒素不足が生じている場合に限定して追肥を検討するのが基本です。


堆肥や有機質資材の施用も窒素管理に影響します。過度な有機物施用は土壌窒素を過剰にし、根粒着生を阻害する可能性があります。一方で適切な量の有機物は土壌物理性を改善し、根系の発達を促進するため、根粒超着生系統の弱点である根量の少なさを補う効果が期待できます。施用量の目安としては、北海道の指針では土壌中の窒素量が過剰なほ場で蔓化などの問題が報告されていることから、施肥ガイドを参考に適正量を守ることが重要です。


現在2026年の時点では、地力窒素供給力の低下が各地で問題となっています。大豆の連作や有機物投入の減少により、根粒菌が十分に機能しても収量が上がらないケースが増えています。このような状況では、根粒超着生品種の高い窒素固定能力が有利に働く可能性があり、今後の普及が期待されています。ただし品種特性を理解した上で、ほ場条件に応じた窒素管理を行うことが成功の鍵となります。