国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(JIRCAS)は、日本で唯一、熱帯・亜熱帯地域を中心とした開発途上地域の農林水産業の研究を専門に行う国立研究開発法人として位置づけられています。 その中で生物資源・利用領域は、作物や微生物、農産副産物といった生物資源を有効活用し、食料・環境・エネルギーの課題解決につなげることを主なミッションとしています。
JIRCASの組織体制では、「農村開発領域」「社会科学領域」「生産環境・畜産領域」と並ぶ技術系領域の一つとして生物資源・利用領域が位置づけられ、プログラム・プロジェクト制で国際共同研究を推進しています。 理事長経験者や領域長の経歴からもわかるように、育種、植物生理、微生物学、ライフサイクル評価(LCA)など、多様な専門分野を束ねて総合的に技術を組み立てるチーム編成が特徴です。
参考)組織に関する情報
農業者の視点から見ると、生物資源・利用領域は「現場にあるものをどう価値に変えるか」を一貫したテーマとしており、低コスト・低環境負荷で導入しやすい技術開発が重視されています。 特に途上国での農産廃棄物利用や病害防除技術の研究は、日本の中山間地や大規模畜産地域が抱える課題と重なる部分も多く、将来的な技術の逆輸入が期待されます。
参考)https://www.affrc.maff.go.jp/docs/project/pdf/jisseki/2016/seika2016-99.pdf
生物資源・利用領域の研究内容は大きく分けて「生物資源そのものの改良・評価」と、「ポストハーベスト・加工・廃棄物利用」の二本柱で構成されており、英語名称でも「Biological Resources and Post-Harvest Division」と表現されています。 具体的には、病害に強い作物の開発、微生物を利用したバイオマス変換、農産物の貯蔵性向上や品質保持技術など、収量と品質、環境負荷の三つを同時に改善する研究テーマが並びます。
海外プロジェクトの例として、マレーシアでのオイルパーム古木(Oil Palm Trunk, OPT)の高付加価値化技術開発があります。 伐採後に農園内に放置されがちな古木を、微生物糖化技術などを用いてバイオガスや生分解性素材などに変換し、農園現場での再植林を進めやすくすることで、土地利用の持続性と農園収益の両立を目指しています。
参考)オイルパーム農園の持続的土地利用と再生を目指したオイルパーム…
また、SATREPSなどの国際共同研究プログラムでは、「未利用天然ゴム種子の持続的カスケード利用」や「パームオイル搾油廃水(POME)からのエネルギー・資源・水回収システム」など、生物資源を多段階で使い倒す技術開発も推進されています。 これらのプロジェクトでは、現地の大学や研究機関、企業と日本側の研究チームが連携し、農業、エネルギー、環境を一体的に改善するモデルづくりが進められており、同様の発想は日本の畜産廃棄物やバイオガスプラント運営にも応用しやすい視点です。
参考)生物資源 研究課題一覧
生物資源・利用領域のユニークな強みの一つが、微生物を用いてセルロース系バイオマスを糖へと変換する「微生物糖化技術」です。 植物残渣や農産廃棄物に多く含まれるセルロースは、人間や家畜にとってはそのままでは利用しにくい成分ですが、特定の微生物を組み合わせて働かせることで、発酵に適した糖や有機酸へと低温で効率よく変換できます。
実際の研究では、セルロース分解能の高い微生物ゲノムの解析や、異なる微生物を共培養して代謝を連結させる「コカルトチャーシステム」の設計が進められています。 例えば、セルロースを分解する微生物と、有機酸やアルコールを生成する微生物、さらに植物成長促進や病害抑制に関わる微生物を同時に利用し、バイオ燃料や有機酸生産と、作物生育向上や病害抑制効果を両立させるアプローチも検討されています。
参考)女性研究者からのメッセージ : 生物資源・利用領域 鵜家綾香…
農業現場への応用としては、以下のような方向性が考えられます。
途上国の熱帯農業から発生する農産廃棄物を循環利用することで、気候変動緩和に貢献する技術開発も進んでおり、現地で適用可能な簡便装置や運用条件が検討されています。 これらの知見は、日本の果樹産地で増える剪定枝処理や、施設園芸での培地廃棄、畜産地域におけるふん尿・敷料処理など、現場の廃棄物処理の効率化と付加価値化にもつながる示唆を与えてくれます。
参考)資源環境管理
生物資源・利用領域は、生産現場を悩ませる病害対策でも世界的な成果を挙げており、特にダイズさび病研究では、主任研究員が世界の主要著者トップ10に選ばれるなど国際的評価を受けています。 ダイズさび病は世界各地で大きな減収要因となる病害であり、抵抗性品種の育成や病原菌の多様性解明、診断技術の開発など、多面的な研究が続けられています。
その背景には、病原菌の病原性の違いを識別する「病原性差異系統(パソタイプ)評価システム」や、ウイルスフリー苗の生産技術、抵抗性遺伝資源の探索など、基盤的な技術開発があります。 これらの成果は、ダイズだけでなく、他作物の病害抵抗性育種や種苗生産にも応用可能であり、苗品質の向上や農薬使用量の低減といった形で農家の経営に直接恩恵をもたらします。
参考)生物資源・利用領域の山中主任研究員が世界のダイズさび病研究の…
また、研究資金情報からは、生物資源・利用領域の主任研究員がイネの穎花(えいか)形成などをテーマにした生命科学・農学系の大型プロジェクトを率いていることが読み取れます。 穎花構造や開花性の改良は、倒伏リスクや登熟性、収量の安定化といった形で現場の課題に直結するため、品種改良の成果が普及すれば、天候不順が続く中でも安定した収量・品質を狙いやすくなります。
参考)https://research-er.jp/ranking/researcher/budget?institution_id=2471
農家にとってのメリットは、単に新しい品種や資材が「降ってくる」のを待つだけでなく、実証圃場や共同試験、現地調査などに協力することで、地域条件に合った技術の作り込みに関われる点にもあります。 生物資源・利用領域の研究者は、開発途上国の農村に入り込んで農家と対話しながら研究を進めるスタイルをとっており、その経験は日本の地域農業との連携にも生かしやすいと考えられます。
参考)UKE Ayaka (Biological Resource…
生物資源・利用領域では、女性研究者も活発に活躍しており、気候変動リスクの要因となる熱帯農業由来の農産廃棄物を、微生物を活用して循環利用へつなぐ研究に取り組むメンバーのメッセージが公開されています。 セルロース系バイオマスを微生物糖化し、その副産物を植物の成長促進や病害抑制に役立てるという発想は、「捨てるものを資源に変える」という現場感覚とも相性が良いアイデアです。
ある女性研究者は、大学時代から開発途上地域の農業と環境問題に関心を持ち、現地農家の暮らしや気候リスクを肌で感じながら研究テーマを深めてきたと語っています。 こうしたバックグラウンドを持つ研究者は、技術の優劣だけでなく、「農家が実際に使えるか」「現地の文化や労働慣行と合うか」といった視点を重視する傾向が強く、日本の農業現場との対話でも、作業負担や後継者不足、地域コミュニティの事情を踏まえた提案につながりやすいと考えられます。
参考)https://www.ajass.jp/Sympo/2024/8.koyama.pdf
農業者側から見た具体的な連携のヒントとしては、次のようなアクションが考えられます。
研究者側にとっても、実際の圃場や畜舎での制約条件や、現場ならではの工夫を共有してもらうことは、技術を「使える形」に仕上げるうえで大きなヒントになります。 生物資源・利用領域のように国際的なプロジェクトを多く抱える組織とつながることで、自分の農場の課題が世界の研究テーマとつながっていることを実感できる点も、モチベーションの面で意外と大きな効果があります。
国立研究開発法人国際農林水産業研究センター 生物資源・利用領域に関する情報は、JIRCAS公式サイトの組織情報や研究トピック紹介ページ、活動報告「JIRCASの動き」などから入手できます。 そこでは、研究者の受賞・論文業績、各国での実証試験の様子、国際会議での発表内容などが定期的に更新されており、世界の農業研究の潮流をつかむ手がかりになります。
さらに、研究者個人の経歴や研究テーマはresearchmapなどの外部データベースにも登録されており、「国際農林水産業研究センター 生物資源・利用領域」で検索すると、どのような分野の専門家が在籍しているかを一覧的に把握することができます。 代表研究費ランキングの情報からは、どの研究テーマに大きな予算がついているかを読み取れるため、中長期的に有望視されている分野を知るヒントにもなります。
参考)丸井 淳一朗 (Junichiro Marui) - 国際農…
農家がこうした情報を活用する際のポイントとしては、次のような視点が役立ちます。
こうした地道な情報収集と対話の積み重ねが、将来的に生物資源・利用領域との共同実証や、新しい品種・資材の早期導入につながる可能性があります。 自分の農場から出る副産物や廃棄物、生産環境の制約を「研究テーマの種」として捉え直すことで、国立研究開発法人国際農林水産業研究センター 生物資源・利用領域との距離はぐっと縮まっていくはずです。
JIRCASの組織や研究プログラムの概要、生物資源・利用領域を含む体制図について詳しく知りたい方への参考リンクです。
組織に関する情報
熱帯・亜熱帯地域の資源環境管理や国際共同研究の位置づけを理解する際に役立つ解説ページです。
資源環境管理
生物資源・利用領域の研究者のメッセージから、微生物糖化技術や農産廃棄物循環利用の具体的イメージをつかみたい場合の参考になります。
女性研究者からのメッセージ : 生物資源・利用領域 鵜家綾香…