イチゴの9月定植は花芽分化と活着促進が鍵!高温対策と灌水のコツ

イチゴの9月定植は、収穫時期や収量を左右する重要な工程です。花芽分化の正確な判断から、高温期特有の活着促進の裏技、病害虫対策まで、プロが実践する栽培管理のポイントを網羅しました。定植後の水管理で失敗していませんか?
イチゴの9月定植:成功のロードマップ
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花芽分化の確認

未分化での定植は収穫遅れの致命的ミスに!検鏡と窒素中断で確実な分化誘導を。

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活着促進の極意

ただ水をやるだけではNG。「葉水」の確認とメリハリ灌水で根を爆発的に伸ばす。

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高温対策と遮光

9月の残暑は苗の敵。適切な遮光率と炭疽病予防で、健全な初期生育を守り抜く。

イチゴの9月定植を成功させる重要ポイント

農業において、イチゴの促成栽培は「苗半作」とも言われるほど、育苗から定植までの管理が最終的な収益を決定づけます。特に9月の定植作業は、気温が高い中でのデリケートな作業となり、判断を誤ると「頂花房の遅れ」や「炭疽病の蔓延」といった取り返しのつかない事態を招きます。本記事では、プロの農家が実践している、理論に基づいた定植管理の技術を深掘りします。

 

花芽分化の確認と窒素中断のタイミング

 

9月定植において最も恐れなければならないのは、花芽分化(かがぶんか)していない苗を定植してしまうことです。これをやってしまうと、ハウス内の高温や土壌の肥料分によって栄養成長が過剰に促進され、花芽の形成がリセットされてしまう「ボケ」が発生します。結果として、第一果房(頂花房)の収穫が12月以降、最悪の場合は年明けまで遅れることになり、クリスマス需要という最大の商機を逃すことになります。

 

確実な花芽分化誘導のためのステップ:

  • 検鏡(けんきょう)の徹底
    • 肉眼での判断は不可能です。必ず顕微鏡を用いて生長点を観察し、肥厚してドーム状になっているか、ガク片形成期に入っているかを確認します。
    • 地域やJAの指導会で実施される検鏡検査を受けるか、自身で機材を揃えてチェックする習慣をつけましょう。未分化の苗が混ざっている場合は、定植を数日遅らせる判断も必要です。
  • 窒素中断(ちっそちゅうだん)の実践
    • イチゴは体内の窒素レベルが低下することで、生殖成長(花を作ること)へとスイッチが切り替わります。
    • 定植予定日の約3週間~1ヶ月前から施肥を止め、苗を「窒素飢餓」の状態にします。葉色が濃い緑色から、やや淡い黄緑色に抜けてきた頃が目安です。
    • 逆に、窒素が切れすぎると苗の体力が落ち、定植後の活着が悪くなるため、葉色を見ながらの微調整がプロの腕の見せ所です。
  • 夜冷育苗短日処理の活用
    • 近年は9月でも夜温が下がらないことが多いため、自然条件だけでは花芽分化が遅れる傾向にあります。
    • 夜冷庫を利用した「夜冷育苗」や、遮光資材を用いた「短日処理」を組み合わせることで、物理的に花芽分化を促進させることが安定生産への近道です。

    参考:イチゴの促成栽培で9月にやるべきこと5選(花芽分化のための窒素中断や検鏡の具体的な手順について詳しく解説されています)

    活着促進のための葉水確認とメリハリ灌水

    定植後の最優先事項は、苗が新しい土壌に根を張る「活着(かっちゃく)」です。多くのマニュアルには「活着するまでたっぷりと水をやる」と書かれていますが、思考停止で水をやり続けると失敗します。特に9月の高温期に過湿状態が続くと、地温上昇と相まって根腐れや疫病の原因になります。

     

    検索上位にはない独自視点:
    ここでは、単なる多量灌水ではない、「葉水(はみず)」を指標にしたプロの水分コントロールを紹介します。

     

    • 活着のサイン「葉水(Guttation)」を見逃すな
      • 早朝、イチゴの葉の縁に水滴がついている現象を「葉水(溢液現象)」と呼びます。
      • これは、根が土壌から水分をしっかりと吸い上げ、体内の水圧が高まっている証拠です。つまり、葉水が確認できれば、活着は順調に進んでいると判断できます。
      • 逆に、何日経っても葉水が出ない場合は、根が動いていません。土壌水分不足か、あるいは根痛みによる吸水不良を疑う必要があります。
    • 「メリハリ灌水」で根を伸長させる
      • 定植直後(当日~3日目)は、土と根鉢の隙間を埋めるために、飽和状態になるまでたっぷりと灌水(ドブ漬け)します。これは物理的に土を密着させるためです。
      • しかし、4日目以降も同じように水を与え続けると、根は「水を探す必要がない」と判断し、伸びる努力を止めます。
      • 活着の初期段階を過ぎたら、表面の土が乾く程度まであえて灌水を控える(中休み)時間を作ります。土壌中に酸素を供給し、根が水を求めて伸長する生理作用を刺激するのです。
      • この「あえて乾かす」勇気が、後半の強い株作りにつながります。

      参考:PsEco イチゴ栽培管理ポイント(定植時から開花期までの活着管理と、初期の手灌水の重要性が写真付きで紹介されています)

      高温対策としての遮光と炭疽病予防

      近年の温暖化により、9月は「秋」ではなく「夏」の延長と考えるべきです。ハウス内温度が35℃を超えるような環境では、イチゴの光合成能力は著しく低下し、呼吸による消耗が激しくなります。また、高温多湿はイチゴ農家の最大の敵である「炭疽病(たんそびょう)」の温床となります。

       

      効果的な高温対策と病害防除:

      • 遮光ネットの適切な運用
        • 定植直後は、根が水を吸えないため、蒸散を抑える目的で強めの遮光(50%〜60%)を行います。
        • しかし、活着後は速やかに光を当てる必要があります。いつまでも遮光ネットを張りっぱなしにすると、徒長(とちょう)してひょろひょろの弱い苗になります。
        • 曇天日や、気温が下がる夕方以降は必ず遮光を開放し、少しでも多くの光合成を促すことが重要です。自動開閉装置がある場合は、照度センサーの設定をこまめに見直してください。
      • 気化熱を利用した冷却
        • 細霧冷房(ミスト)や、通路への散水による気化熱冷却は有効です。ただし、過度なミストは湿度を上げすぎ、病気を誘発します。
        • 循環扇サーキュレーター)を併用し、空気を動かしながら湿度溜まりを作らない工夫が必要です。
      • 炭疽病への厳重警戒
        • 炭疽病は「雨」や「水跳ね」で伝染します。頭上灌水(スプリンクラー)は楽ですが、病気のリスクを高めます。可能であれば点滴チューブ(ドリップ灌水)を使用し、株元へ直接水を与えるのが理想です。
        • 定植前後の予防防除(殺菌剤のドブ漬け処理や灌注処理)は必須です。特に高温期は菌の増殖スピードが速いため、発病株を見つけたら即座に抜き取り、周囲の土ごと除去して伝染源を絶つ決断力が求められます。

        参考:イチゴ育苗のカギは遮光にあり(遮光率40~60%の目安や、遮光しすぎによる花芽分化抑制のリスクについて解説されています)

        深植え厳禁!クラウンの位置と定植深さ

        定植作業はスピードが求められますが、雑な植え付けは後の生育に致命的な影響を与えます。特に注意すべきは「植え付け深さ」です。イチゴの心臓部である「クラウン(生長点)」の位置関係を正しく理解する必要があります。

         

        浅植え vs 深植えの真実:

        • 深植えのリスク(絶対にNG)
          • クラウンが土に埋まってしまう「深植え」は、最も避けるべき失敗です。
          • クラウンが埋まると、そこから発生する新芽が土の抵抗を受けて出てこられなくなったり、土壌病原菌(特に萎黄病や疫病)が成長点に直接侵入しやすくなります。
          • 「芽枯れ」の原因の多くは、この深植えによるものです。
        • 浅植えのリスク(乾燥に注意)
          • 逆に、根鉢が地表から大きく飛び出している「極端な浅植え」も問題です。
          • 根鉢が露出していると、そこから急激に乾燥し、活着に必要な水分が確保できません。また、株がぐらつきやすく、風の影響で根が切れることがあります。
        • 理想の「適正植え」とは
          • 根鉢の肩が、畝(うね)の表面とぴったり同じ高さ、あるいは数ミリだけ出る程度がベストです。
          • 定植後にたっぷりと灌水すると、土が落ち着いて少し沈みます。それを計算に入れ、植え付け時は「気持ち浅め」を意識すると、水締め後にちょうど良い高さになります。
          • ランナーの切り口(へその緒)とは反対側に花房が出やすい性質があります。収穫や管理作業を効率化するため、ランナーの向きを通路側(または内側)に揃えて植えることも、プロの基本技術です。

          参考:イチゴ編・生理障害の原因と予防(深植えによる活着不良や、窒素過多による生理障害について詳しく解説されています)

          定植後の液肥開始時期と初期管理

          無事に活着したと判断できたら、次は株を大きく育てる段階に入りますが、肥料を与えるタイミングには注意が必要です。

           

          • 液肥開始のタイミング
            • 定植直後の根は傷ついており、高濃度の肥料を与えると「肥料焼け」を起こします。
            • 前述した「葉水」が安定して確認でき、新葉(展開葉)が定植時よりもひと回り大きく展開し始めた頃が、液肥開始のGOサインです。
            • おおよその目安は定植後1週間〜10日後です。
          • 初期肥料の種類と濃度
            • 初期は根の伸長を助けるため、発根促進効果のある資材や、リン酸・カリ成分を含む薄めの液肥からスタートします。
            • いきなり窒素成分の強い肥料を与えすぎると、せっかく分化した花芽が栄養成長に戻ってしまう(花芽が飛ぶ)リスクがあります。
            • 「薄い濃度を回数多く」与えるのが基本です。
          • 下葉かき(葉の整理)
            • 定植時に付いていた古い葉は、光合成能力が落ちているだけでなく、病害虫(ハダニうどんこ病)の巣窟になりやすいです。
            • 新葉が2〜3枚展開したら、枯れた下葉や地面に接地している古い葉を早めに取り除き、株元の風通しを良くします。これが病気予防に直結します。

            参考:サンビオティック イチゴ栽培マニュアル(定植後の活着促進から、ランナー発生時の管理まで具体的な希釈倍率とともに紹介されています)

             


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