連作2年目以降の圃場では、ほぼ全株が発病枯死し栽培放棄に追い込まれた事例もあります。
石灰をまいてpHを上げれば病気は出ない、と思い込んでいませんか?実はpH矯正だけでは萎凋病は防げません。
ホウレンソウ萎凋病の原因は、糸状菌(カビの一種)である Fusarium oxysporum f. sp. spinaciae(フザリウム・オキシスポラム・分化型・スピナシアエ)です。
このフザリウム菌はホウレンソウ専用の分化型で、厚壁胞子という硬い殻を持った胞子を形成します。厚壁胞子は土壌中で10年以上生存できるとされており、一度圃場に定着すると根絶がきわめて困難です。つまり「発生してからなんとかする」では遅いということです。
菌は根から侵入し、道管(維管束)内で増殖して水分・養分の移動を阻害します。植物が枯れるのは「菌に食われるから」ではなく、水分の通り道を塞がれるからです。
感染源は土壌が主体です。機械・長靴に付着した土から他の圃場へ菌が持ち込まれる「持ち込み感染」も現場では報告されています。
参考:フザリウム菌の特性と種類についての詳細情報(武蔵種苗 病害データベース)
http://www.musaseed.co.jp/disease/フザリウム属菌/
病気は見えないところから始まります。
地上部の症状が出る前に、根の褐変がすでに進行しているケースが多く、「葉が少し黄色くなってきた」と気づいた時点では根はかなりダメージを受けています。早期発見こそが被害を最小化する唯一の手段です。
圃場診断のポイントは「根を掘って断面を確認する」ことです。地上部だけ見ていると萎凋病と他の病害(株腐病など)を混同しやすいため注意が必要です。
株腐病との違いも覚えておくと診断精度が上がります。
| 病名 | 主な症状の違い |
|---|---|
| 萎凋病 | 下葉から黄化→根全体の黒褐変→道管褐変 |
| 株腐病 | 主根の地際部がくびれて褐変・根腐れが主体 |
参考:ホウレンソウ萎凋病・株腐病の症状と診断(島根県農林技術センター)
https://www.pref.shimane.lg.jp/industry/norin/gijutsu/nougyo_tech/byougaityuu/byougaityuu-index/hourennsou/ho110.html
「水はけのいい圃場は安全」は思い込みです。
発病を助長する条件は複数あります。中でも現場で見落とされがちなのが「土壌水分の乾湿の繰り返し」です。水はけが悪い圃場だけでなく、かん水管理が不安定な圃場でも発病リスクは高まります。
以下の条件が重なるほど発病リスクが上がります。
連作は最大のリスク要因です。
参考:夏どりホウレンソウの萎凋病発生実態と薬剤防除(徳島県農業試験場)
https://www.pref.tokushima.lg.jp/file/attachment/432396.pdf
発病してから農薬を散布しても、道管を詰まらせた菌は除去できません。
萎凋病の防除は「発病前の予防」が原則です。発病後の治療的な防除効果は極めて限定的であることを前提に、以下の手順を圃場管理に組み込むことが重要です。
① 残渣の適切な処理
収穫後の残根はほ場外に持ち出して処分します。残渣を鋤き込むと菌の密度が土壌内で上がるため、分解を期待した鋤き込みは逆効果になります。
絶対に畑に残さないことが原則です。
② 土壌pHの矯正
石灰を施用して土壌pHを中性(pH6.5〜7.0)近くに矯正することで発病を抑制できます。菌は酸性土壌で活性が高まる傾向があるためです。ただしpH矯正だけでは完全な防除にはなりません。
③ 土壌消毒
連作圃場や過去に発生歴のある圃場では、播種前の土壌消毒が有効です。クロルピクリン剤やダゾメット粉粒剤(バスアミド微粒剤)などの土壌くん蒸剤が使用されています。消毒後は水封処理を行い、ガスが十分に抜けてから播種します。
④ 発病株の早期除去
発病株を発見したら、根ごと抜き取ってほ場外へ持ち出して処分します。土中に放置すると周囲への感染源となるため、速やかな対応が大切です。
⑤ 農機具・長靴の洗浄
他の圃場から菌を持ち込まないよう、圃場間移動時には農機具や長靴に付着した土をよく落とします。これは手間に見えますが、菌の拡散防止に直結する重要な作業です。
参考:ホウレンソウ萎凋病の具体的な防除対策(山口県農業技術センター)
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/61956.pdf
「耐病性品種を植えれば防除は不要」は危険な誤解です。
耐病性品種はあくまで「発病リスクを下げる」ものであり、「ゼロにする」ものではありません。土壌の菌密度が非常に高い圃場では、耐病性品種でも発病するケースがあります。耐病性品種+土壌管理の組み合わせが基本です。
現在、国内の種苗メーカー各社から萎凋病耐性(またはレース対応)をうたったホウレンソウ品種が複数リリースされています。品種選定の際に確認すべきポイントは以下の通りです。
タキイ種苗などの主要種苗メーカーは品種ごとの病害抵抗性情報をウェブ上で公開しています。購入前に品種データベースで萎凋病への抵抗性を確認する習慣をつけると、品種選びのミスを大幅に減らせます。
参考:ホウレンソウの病害虫・萎凋病に関する品種情報(タキイ種苗 病害虫データベース)
https://www.takii.co.jp/tsk/bugs/asp/disease/ichou/