ハーベストオイルは、農薬登録上「マシン油97.0%+界面活性剤3.0%」の乳剤で、用途は殺虫剤として扱われます。淡黄色澄明の可乳化油状液体、いわゆる“マシン油乳剤”のカテゴリです。登録情報を見ておくと、同じ製品名でも「いつ・何に・何倍で使うか」が細かく指定されており、ここを外すと効果も安全性も崩れます(まずはここが出発点です)。
代表例として、かんきつ(ミカンハダニ/カイガラムシ類)は冬期(12~3月)で60~80倍、春~初夏(3~6月中旬)にミカンハダニへ400倍で「連続散布」という枠もあります。さらに生育期散布として、4~5月に100~150倍、夏期(6~7月中旬)に150~200倍(ミカンハダニ)および150~200倍(カイガラムシ類)、秋期(10~11月、着色後など)に200倍といったように、時期と対象で濃度が変わります。使用液量も、かんきつで200~700L/10aという指定があり、“濃度だけ正しい”では足りず“液量で樹冠を濡らす”ことが条件に含まれています。
果樹以外でも登録は広く、例えばりんごはカイガラムシ類に50倍(発芽前)などが明記されています。なしも発芽前にハダニ類・カイガラムシ類へ50~200倍、ニセナシサビダニへ50~100倍、収穫後にハダニ類へ150~200倍などがあり、「同じ樹種でもフェーズで濃度が動く」設計です。茶はクワシロカイガラムシで100~150倍(5~9月)または50~100倍(10~3月)など、害虫と季節の一致が濃度に反映されています。
ここで現場的に大事なのは、「濃いほど効く」ではなく「濃すぎると作物側がしんどい」点です。マシン油乳剤は害虫を覆うのと同じ理屈で、作物表面も油膜で覆われます。登録上の希釈倍数レンジは、効き目だけでなく薬害回避も込みで作られているので、まず“登録の範囲内”で、気温・樹勢・葉齢・日射・散布水量を見て下側(薄め)から当てていく考え方が安全です。
希釈の作業でミスが多いのが、「倍率」の読み違いです。例えば100倍は「原液1:水99」相当、200倍は「原液1:水199」で、同じタンクでも原液量が倍違います。とくに冬期の60~80倍は原液量が大きく、計量カップの目盛りズレや、途中給水での“追い原液”があると濃度が暴れます。小さなコツですが、①タンクに半量の水→②原液を計量投入→③撹拌→④残りの水で規定量まで、の順に固定しておくと、乳化が安定して濃度ブレが減ります(乳剤は“最初に原液だけ入れる”と乳化しにくいことがあるためです)。
なお、登録情報には特例的な使い方も混ざっています。例として、なしに対して「本剤でベノミル剤を20倍に希釈し、塗布する」という記載があり、散布ではなく塗布用途が併記されています。こうした例外は自己流で広げると事故が起きやすいので、「その記載が自分の作物・用途に当てはまるか」をラベルで確認し、疑問があれば普及指導員やJAの防除指導へ寄せるのが安全です。
ハーベストオイルの使い方を“散布時期”から組み立てると、理解が一気に楽になります。理由は単純で、マシン油乳剤が狙う相手(越冬害虫、若齢幼虫、発生初期の個体群)が季節で変わるからです。とくに果樹は「休眠期~発芽前」「萌芽直後」「展葉期」「収穫後」など、葉の状態そのものが変わり、油剤の安全域も変わります。
かんきつの登録を見ると、冬期(12~3月)の60~80倍は、越冬中のカイガラムシ類やミカンハダニ密度を落として、翌シーズンの立ち上がりを軽くする狙いが読み取れます。一方、3~6月中旬にミカンハダニへ400倍で「連続散布」という枠があり、休眠期の強い濃度とは違う“薄い濃度で継続的に当てる”設計です。ここが、ハーベストオイルが「冬だけの薬」という誤解を生みやすいポイントで、登録上は生育期にも使い道が残されています。
ただし生育期散布を現場で採用する場合は、気温・日射・樹勢に加えて、果実の状態も見る必要があります。登録上、かんきつの秋期(10~11月)散布は「着色後又は秋期」とされ、逆に販売サイトの注意書きでは「着色前および着色中の果実には散布しない」といった薬害回避の注意が強調されています。果皮の状態は油剤の影響を受けやすく、外観品質に直結するので、同じ“秋”でも「いつ当てるか」は地域の収穫体系で変わります。
りんごでは、発芽前にカイガラムシ類へ50倍、芽出し直前直後にハダニ類へ50~100倍、展葉期は発芽後2週間まで100倍、発芽後3週間まで200倍というように、芽の展開に合わせて薄める方向で設計されています。これは「柔らかい新葉ほど薬害リスクが上がる」現場感覚と一致しやすく、散布日を決めるときに“暦”より“樹のステージ”を優先する理由になります。特に「芽出し直後は遅れて散布すると葉の周囲が褐変することがある」という注意も別ソースで示されており、タイミング遅れが薬害を呼びやすい系統だと理解できます。
みかん産地の実務的な言い回しとして「冬マシン・春マシン・夏マシン」という整理もあります。ある栽培者の解説では、冬(1~2月)60倍、春(3~4月)60倍、夏(6~7月)200倍という区分を置き、冬は厳寒期を避けて10℃以上の日を目安にする、といった運用上の注意も示されています。これは登録表の“冬期60~80倍”“夏期150~200倍”と矛盾せず、むしろ登録レンジの中で「いつ・どれくらいの濃度に寄せるか」を現場語に落とした例として参考になります。
時期の設計でもう一つ重要なのは、ハーベストオイルが「単体で完結」ではなく、防除体系の部品として使われやすい点です。長崎県の技術資料では、温州ミカンの減農薬体系の中で、マンゼブ水和剤にマシン油乳剤(ハーベストオイル)を混用し、散布間隔の目安を慣行より延ばす(20~25日→30日、降雨量の目安も延伸)という考え方が示されています。ここは意外性があって、油剤を“殺虫だけ”でなく“体系の持続性(結果として散布回数の削減)”に使う発想です。
つまり、散布時期を決めるときは、①害虫の発生期(越冬・初期・多発期)②作物のステージ(休眠・萌芽・展葉・着色)③防除体系の他剤配置(混用や近接散布の可否)を同時に見ます。どれか一つだけで決めると、効かないか、薬害か、労力増のどれかが起きやすいので、「暦+圃場観察+登録表」の三点セットで運用するのが、結局いちばん安定します。
ハーベストオイルで失敗が起きる場面は、だいたい薬害か、効きムラ(=残虫)です。油剤は“効き方が分かりやすい”反面、“当て方がシビア”でもあります。ここでは、農業従事者が実際にトラブルを避けるための注意点を、原因別に整理します。
まず温度です。販売ページなどの注意事項では「高温時の散布は薬害を生じやすいので、日中を避け朝夕の涼しい時に所定濃度範囲の低濃度で行う」と明記されています。油膜が葉や果実表面に残る時間が長いほど、蒸散やガス交換の邪魔になりやすいので、気温だけでなく「散布後に乾きにくい条件(無風・高湿)」もリスク要因になります。逆に冬期は、厳寒期に散布すると落葉の原因になるという現場情報があり、寒すぎても良くない点がやや意外です(油膜で一時的に呼吸が阻害され、低温ストレスと合わさるとダメージが出やすい、という説明がされています)。
次に雨です。散布直後の降雨は効果低下につながるため、特に冬期散布は好天が続くタイミングで使う、という注意が同じく示されています。マシン油乳剤は“付着して油膜を作る”ことが仕事なので、乾く前に洗い流されると効率が落ちます。ここは「殺虫効果が弱い」ではなく「そもそも油膜が作れていない」という失敗なので、散布後の天気は薬効の一部だと割り切る必要があります。
混用・近接散布は、薬害事故の大きな要因です。注意事項として、石灰硫黄合剤、ボルドー液などのアルカリ性薬剤、ジチアノン剤、TPN剤などの水和剤、銅剤との混用は避けること、さらにかんきつではジチアノン剤との近接散布も果実薬害の危険があるため避けることが記載されています。ここで大切なのは「混用しない」だけでなく、「散布順と間隔」も含めて管理することです。現場では、前のタンク残液が実質的な混用になることがあるため、油剤を使う前後は噴霧器・ホース・ノズルを丁寧に洗浄し、できれば“油剤専用の洗い手順”を決めておくと事故が減ります。
作物別の注意も押さえておきます。販売ページでは、りんごは芽出し直後に遅れて散布すると葉の周囲が褐変することがあるため濃度に注意、とされています。きゅうり・いちごは幼苗期の使用が薬害のおそれとして挙げられ、収穫間際の散布は果実にオイル光(油焼けのような外観影響)を生じることがあるため避ける、とも示されています。びわ(葉)でも収穫間際はオイル光の懸念が書かれており、葉もの・果実ものは外観品質に直撃しやすいのが共通点です。
効きムラ対策は、薬害対策と表裏一体です。油剤は害虫に“直接かけて覆う”必要があるため、葉裏や枝の分岐部、樹冠内部の吹き込みが甘いと残虫します。一方で、同じ場所に過剰付着させると薬害に寄りやすいので、「広く薄く、しかし害虫のいる面は確実に濡らす」という矛盾した要求を満たす必要があります。具体策としては、①ノズルの角度を固定しない(葉裏に入る角度を作る)②歩行速度を一定にする③樹の外周だけで満足せず“内側へ一歩入るライン”を作る、など、作業設計でムラを減らします。
最後に、散布回数の考え方です。かんきつでミカンハダニに400倍で使う場合、2週間~1ヶ月間隔で2回目散布を行う、という注意が示されています。油剤は残効が長いタイプではない(洗い流しや表面条件で切れる)一方、発生が続くときは間隔を詰めて追いかける必要があります。ただし“過度の連用は避ける”という注意も別の作物(きゅうり・いちご)で明記されているので、同じ圃場・同じ作型での連発は、防除体系全体の中で位置づけて判断するのが安全です。
参考リンク(登録内容の根拠:希釈倍数・使用時期・適用作物が一覧で確認できます)
農薬登録情報提供システム(MAFF)|ハーベストオイル 登録内容
ハーベストオイルの混用は、結論から言うと「できるケースはあるが、安易にやると事故が増える」領域です。油剤は補助剤的に見られることもありますが、登録上は殺虫剤であり、混用は“コスト削減の小技”ではなく“体系設計の一部”として扱うほうが安全です。混用で得たいもの(殺菌の持続、殺虫の同時処理、散布回数の削減)を、言語化してから判断します。
混用の実例として、長崎県の成果情報では、温州ミカン露地栽培でマンゼブ水和剤にマシン油乳剤(ハーベストオイル)を混用することにより、薬剤散布間隔の目安を延伸できる、とされています。そこでは、散布間隔が慣行の20~25日から30日間隔へ、降雨量の目安も200~250mmから300mmへ延伸する、といった説明があり、単なる“同時散布”ではなく“防除体系の間隔を伸ばす”目的が明確です。また、この混用散布によって、温州ミカン生育初期のミカンハダニ、ミカンサビダニ、カイガラムシ類の密度を抑制する、という記述もあり、殺菌+殺虫の同時達成を狙った設計だと分かります。
一方で、混用・近接散布の禁止事項も明確です。販売ページの注意では、石灰硫黄合剤、ボルドー液などのアルカリ性薬剤、銅剤、水和剤の一部、ジチアノン剤やTPN剤などとの混用は避ける、とされています。さらに、かんきつではジチアノン剤との近接散布も果実薬害の危険があるため避ける、と書かれており、「混用しない」だけではなく「前後に撒かない」まで含めてNGが設定されています。つまり“混ぜたい”と思った時点で、まず「混ぜてはいけない相手」が多いことを前提にするべきです。
混用を検討する際の、現場でのチェック項目を挙げます。入れ子にせず、判断が速くなる形にします。
混用の“意外な落とし穴”として、油剤はノズルやストレーナーに汚れを残しやすく、次回散布で吐出ムラを作ることがあります。吐出ムラは、そのまま防除ムラ(残虫)にも薬害ムラ(局所的な油焼け)にもつながるので、混用そのものより「混用後の機械状態」が事故原因になるケースがあります。現場のベテランほど、薬剤の話より先に「散布機の段取り」を詰めるのは、このためです。
参考リンク(減農薬体系での混用事例:マンゼブ+マシン油乳剤の考え方がまとまっています)
長崎県|温州ミカン 化学合成農薬を半減した病害虫管理技術マニュアル(成果情報)
検索上位の解説は「倍率」「時期」「注意点」になりがちですが、現場で効き目を分けるのは、実は“散布ムラ”です。ハーベストオイルは接触型・被覆型の色が強く、害虫に油膜が乗って初めて効きます。逆に言えば、希釈倍数が正しくても、当たりが薄い面(葉裏、枝の付け根、樹冠の奥)には普通に残ります。
散布ムラが起きる原因は、大きく「機械」「歩き方(走り方)」「樹の形」の3つです。機械面では、ノズルの摩耗、ストレーナー詰まり、ホースの折れ、ポンプ圧の変動が吐出ムラを作ります。油剤は界面活性剤入りで乳化しますが、撹拌が弱いとタンク内濃度が場所で変わり、前半と後半で効き方が変わることもあります(“後半だけ濃い/薄い”は、意外とよくある事故です)。
歩き方(走行)面は、作業者のクセがそのままムラになります。例えばSSで速度が変わる、旋回部だけ散布が重なる、外周だけを強く当てて内部が薄い、というのは典型です。油剤は“重なり散布”が薬害につながるので、重なりやすいコース取りをそのままにしておくと、外周の葉や果実だけ傷んで「効きはするが商品価値が落ちる」最悪の形になります。ムラを直す第一歩は、散布コースを固定し、圧力・速度・ノズル角度を「毎回同じ」にすることです。
樹の形もムラに直結します。徒長枝が多い、樹冠が詰まっている、下枝が混んでいる、こうした樹は“外側だけ濡れて中が乾く”状態になりやすいです。油剤で外側を濡らすと、それだけでも葉のガス交換に影響するので、内部が濡れていないのに外側だけ負担が増えます。結果として、害虫は残るのに木は疲れる、という損な形になります。散布の前に軽い整枝で風通しと薬液の通り道を作るのは、薬剤コスト以上に“効き目のコスパ”を上げます。
散布ムラを減らすための実務チェックリストを、入れ子にせず挙げます(現場で印刷して使える形を意識します)。
この“ムラ対策”は、検索上位の一般論よりも圃場差が出る部分なので、あなたの圃場で一度だけでも「散布後にルーペで葉裏と枝の付け根を見て、油膜が乗っているか」を点検してみてください。害虫が残る場所は、だいたい油膜が薄い場所です。逆に油膜が厚すぎる場所は薬害の起点になりやすいので、次回はノズル角度や速度で調整できます。こうした“散布を観察して改善する”運用にすると、ハーベストオイルは単なる古い薬ではなく、毎年の防除を安定させる強い道具になります。