pHが適正でも、EC値を無視したままでは収量が3割近く落ちることがあります。
土壌診断と聞くと、多くの農業者がまず頭に浮かべるのがpHやEC(電気伝導度)の数値確認ではないでしょうか。しかし、土壌診断には大きく分けて3つの種類があり、それぞれが圃場の異なる側面を映し出しています。日本土壌協会の資料によれば、「化学性診断」「物理性診断」「微生物性(生物性)診断」の3種類が存在します。
化学性診断は最も広く普及している方法で、pH・EC・有効態リン酸・交換性カリウム・交換性苦土・交換性石灰などの養分含量を分析します。専門機関に依頼することもできますが、市販の簡易キットを使えば自圃場でもおおよその数値を把握可能です。これが施肥設計に直結する最も実用的な診断と言えます。
物理性診断は、土壌の硬さ・透水性・保水性・土層の厚さなどを調べるものです。作土の深さが15cm未満になると、野菜や普通作物の根が十分に伸びられず、収量が著しく低下することが農林水産省の診断基準でも示されています。排水不良や耕盤層の形成が疑われる圃場では、化学性の数値がよくても生育不良が続くことがあるため、この視点は欠かせません。
生物性(微生物性)診断は現時点では標準的な方法が確立されていないとされていますが(日本土壌協会)、近年は土壌微生物の多様性や菌根菌の活性を指標にした民間サービスも登場しています。まずは化学性診断を基本としながら、物理性診断も組み合わせることが堅実なアプローチです。
つまり診断には3層構造があるということですね。
| 診断の種類 | 主な調査項目 | 実施の優先度 |
|----------|------------|------------|
| 化学性診断 | pH、EC、リン酸、カリ、石灰、苦土 | ⭐⭐⭐ 最優先 |
| 物理性診断 | 土層の厚さ、硬度、三相分布、透水性 | ⭐⭐ 排水不良圃場は必須 |
| 生物性診断 | 微生物相、菌根菌活性 | ⭐ 参考程度 |
農林水産省が示す土壌診断の手順では、「現地聞き取り→現地観察→採土→分析→改善処方」という流れが基本とされています。数値だけに頼らず、実際に圃場を歩いて観察することが、誤診を防ぐ重要なステップです。
参考:土壌診断の種類と化学性診断の各項目の意味が詳しく解説されています。
土壌診断によるバランスのとれた土づくり Vol.2(日本土壌協会)
どれだけ高精度な機器で分析しても、採土の方法が間違っていれば正確な結果は得られません。これは日本土壌協会も強調している重要な前提です。農業者が見落としがちなのが、採土の「場所・時期・深さ」の3点セットです。
まず場所については、圃場を代表する5〜9地点から土を採取する「対角線法(5点採取法)」が基本です。具体的には、圃場の対角線上と中央の計5カ所を選び、それぞれ採取した土を混合します。1カ所だけ掘って調べるのはNGです。同じ圃場でも肥料の偏りや前作の影響でエリアごとに養分状態が大きく違うことがあるため、複数地点を均等に採取することで圃場全体を代表するサンプルを作ることができます。
次に時期です。農林水産省が示す採土指針では、「作物の収穫直後または収穫後1ヶ月以内」が推奨されています。施肥直後や生育の盛んな時期に採土すると、施肥した肥料の影響で数値が本来の土壌状態から乖離してしまいます。水田では刈り取り後1ヶ月以内、畑では収穫後かつ次作の耕起・施肥前が採取の好機です。これは基本中の基本です。
深さについては、作物の吸収根の8割が分布している深さまで採取するのが原則です(ジャパンバイオファーム)。一般的な露地野菜や普通作物では作土層の20cm前後が目安ですが、V字型に斜めに採ってしまうと、肥料が表面に集積した影響を受けやすくなるため、必ず垂直に採取することが重要です。また、地表面から2〜3cmは移植ゴテで削り捨ててから採るのが正式な手順です。
採土したら各地点の土を等量ずつ混ぜ合わせ、全体で300〜500g程度を分析機関に送付するか、自分で簡易測定に使います。圃場内で生育の良い場所と悪い場所で差がある場合は、それぞれ別々に採土することでより精度の高い情報が得られます。
| 採土のポイント | 正しいやり方 | やってはいけないこと |
|---|---|---|
| 場所 | 対角線上の5〜9地点 | 1カ所だけ採る |
| 時期 | 収穫直後・施肥前 | 施肥直後・生育旺盛期 |
| 深さ | 垂直に作土層まで採取 | 斜め(V字型)に採る |
| 表面処理 | 地表2〜3cmを削り捨て | 地表からそのまま採る |
参考:農林水産省による採土の時期・位置・方法の詳細な指針が記載されています。
土壌診断の結果を受け取った際、多くの農業者がまず注目するのがpHの数値です。しかし、pHだけを見て石灰を入れようとするのは、診断結果の活用として不完全です。重要なのは、pHとECを必ず「セットで読む」ことです。
pHは酸性・アルカリ性の指標で、多くの野菜は5.5〜6.5の弱酸性を好みます。この範囲を外れると、チッソ・リン・カリ・カルシウム・マグネシウムなどほとんどの養分の溶解性が低下し、肥料を入れても作物が吸えない状態になります。一方でブルーベリーや茶など、pH4.5〜5.5の酸性を好む作物もあるため、栽培作物によって基準は変わります。
EC(電気伝導度)は土壌溶液中の塩類濃度を表し、単位はmS/cm(ミリジーメンス)です。一般的に0.1〜1.0mS/cmが作物の生育に適した範囲とされていますが、1.0を超えると根が塩害を受けやすくなります。特にイチゴやキュウリは根が濃度障害を起こしやすい作物で、EC管理の精度が収量に直結します。
ここで見逃してはならないのが、pHとECの「組み合わせパターン」による判断です。兵庫県の土壌診断指針では、以下の4パターンが示されています。
低pH・高ECの圃場にそのまま石灰を施用すると、塩類濃度がさらに高まり逆効果になることがあります。これが「pHだけ見てはいけない」理由です。ECが高い状態での追肥は状況をさらに悪化させるリスクがある、という点は多くの農業専門家が指摘しています。
セットで読む、これが原則です。
参考:pH・ECの適正値と、4つの組み合わせパターンごとの対応方法が整理されています。
自分でできる簡易的な土壌診断法(Think and Grow ricci)
pH・ECの確認ができたら、次に注目すべきは有効態リン酸・交換性カリ・塩基バランスです。近年、日本の農耕地でリン酸とカリウムの過剰蓄積が問題化しており、農林水産省の土壌機能モニタリング調査(1990〜2003年)では、水田の53%でリン酸が過剰蓄積、北海道の普通畑では70%でカリウムが過剰という結果が報告されています。毎作しっかり肥料を入れてきた圃場ほど、土の「肥え過ぎ」が起きています。
有効態リン酸(トルオーグ法)について、農研機構や日本土壌協会の試験結果から次のような目安が導かれています。100mg/100g以上では「明らかな過剰」であり、リン酸肥料をゼロにしても収量に影響しない可能性が高い状態です。30〜100mg/100gが適正範囲で、30mg未満では補給が必要です。リン酸は「多く入れてもすぐ障害が出にくい」とされてきた経緯から、長年蓄積されやすい養分です。
交換性カリウムが30mg/100g以上に達している場合は過剰と判断でき、カリ施肥を半分以下または無施肥にすることがコスト削減に直結します。肥料費を20〜40%削減できるケースもあります。
また、カリウム・苦土(マグネシウム)・石灰(カルシウム)の「塩基バランス」も見落とせないポイントです。これらは互いに拮抗作用があり、カリウムを多く施用するとマグネシウムの吸収が抑制されます。一般に苦土・カリ比は当量比で2以上が適正とされており、このバランスが崩れると葉脈間が黄白化するマグネシウム欠乏症が現れることがあります。診断結果の表に「苦土・カリ比」「石灰・苦土比」といった指標がある場合は、必ず確認してください。
結論は、診断結果は数値単体でなく比率で判断することです。
参考:リン酸の過剰蓄積データと、施肥量削減の具体的な基準値が掲載されています。
土壌診断を受けても、結果票を「確認して終わり」にしてしまっている農業者は少なくありません。診断の本来の価値は、数値に基づいて「いつもの肥料を削る判断」ができることにあります。精密農業の観点からは、これを「引き算の施肥」と呼びます。
具体的な進め方は次の通りです。まず診断結果でリン酸が100mg/100g以上の場合は、その作期のリン酸施肥を大胆にゼロにします。カリウムが過剰であれば、カリ施肥を半量以下に抑えます。複合肥料(配合肥料)をやめて尿素・過石・塩加などの単肥を個別に調合することで、資材単価を20〜40%削減できます。すでに養分が豊富な土に対し「念のため多めに入れる」という習慣が、かえってコストと障害のリスクを高めていることがあります。
また、ECの数値を活用した施肥量補正も有効です。日本土壌協会の資料では、施肥前のEC値が0.8〜1.2mS/cmの場合は窒素・カリの基肥を基準量の1/2〜1/3に、1.6以上なら無施用という補正の目安が示されています。土の中にすでに「貯金」がある状態に追加施肥をしても、濃度障害を引き起こすだけです。
急に大幅減肥をすることに不安がある場合は、1枚の圃場の一部だけを「試験区」として診断通りの施肥量で管理し、慣行区と生育を比較する方法がリスクを最小化できます。元肥を3〜4割減らし、生育を見ながら追肥で調整する「後出し管理」への移行も選択肢の一つです。
これは使えそうです。
なお、施肥設計の変更にあたっては、地域の普及指導センターやJAの技術担当者への相談が欠かせません。土壌が枯渇している圃場での安易な減肥は減収につながるリスクがあるため、地力状態の確認を最初に行うことが前提となります。
参考:診断結果を施肥設計に落とし込む具体的な手順と削減効果の試算が解説されています。
肥料コスト最適化の指針:土壌診断に基づく「引き算の施肥」(精密農業ラボ)
化学性診断の数値が問題ないのに作物がうまく育たないとき、原因は「土壌の物理性」にある可能性があります。排水不良・耕盤の形成・三相分布の崩れは、化学分析のデータには現れません。物理性診断は、特別な機器がなくてもスコップ1本あれば始められます。
最も簡単にできるのが、スコップで30〜40cm掘り下げて断面を観察する方法です。根の伸び方を確認し、ある深さから突然根の量が減っている場合は、その層に耕盤(農機械の踏圧で締まった硬い層)が形成されている可能性があります。指の腹で断面を押してみて、弾力がなくガチガチに固い箇所があれば、透水性の低下を疑えます。水が滞留しやすい層の存在は、過湿による根腐れや嫌気性病害の温床になります。
三相分布(固相・液相・気相の割合)を簡易測定したい場合は、内径5cmの缶を高さ5cmに切って土採取器を作り、フライパンで土を炒って水分を飛ばすことで計算できます。黒ボク土以外の畑土壌では、水分率(液相率)と空気率(気相率)がそれぞれ20%以上あれば作物生育に適した状態とされています。空気率が16%を下回るような圃場では、もみ殻などの有機物を混入して土と土の間に隙間を作ることが改善の第一歩です。
意外ですね。管理機で細かく砕土するほど改善できるわけではなく、むしろ大雨後に粘土が隙間を塞いでさらに固まるというケースも実際に報告されています(マイナビ農業)。物理性の改善は一朝一夕にはいきませんが、まず現状把握をすることで、堆肥投入・深耕・暗きょ設置など対策の方向性が見えてきます。
参考:スコップで行う物理性の簡易診断方法と三相分布の計算式が実例付きで解説されています。
自分でできる簡易土壌診断 スコップ1杯分の穴からわかること(マイナビ農業)

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