降雨直後の測定は全く意味ない
土壌の気相率を求める計算は、実は非常にシンプルな引き算で成り立っています。土壌三相計を使って測定した液相率と固相率の値があれば、すぐに算出できる仕組みです。農林水産省の土壌分析法でも、この基本的な計算方法が採用されており、全国の農業現場で広く活用されています。
気相率の計算式は、$$気相率(%)=100-(液相率+固相率)$$となります。この式が示すように、土壌の全体を100%として、液体と固体が占める割合を引けば、残りが気体(空気)の割合になるという考え方です。例えば、液相率が30%、固相率が40%の土壌であれば、気相率は30%という計算になります。
測定の具体的な手順としては、まず100mLの採土管で土壌を採取します。この時、土壌三相計(ボイルの法則を応用した装置)を使って実容積を測定することが重要です。実容積とは、固相と液相を合わせた体積のことで、これを測定することで気相の容積が分かります。農林水産省の資料によれば、測定時は採土管の刃の口径のずれや、測定対象のぶれが誤差の主要因になるため、慎重な操作が求められます。
つまり基本は引き算です。
試料の全重量を測定した後、105℃で乾燥させて水分重量を測定すれば、液相率が求められます。固相率は、乾燥土の重量を土壌の真比重(一般的に2.65前後)で割ることで算出できます。これらの数値が揃えば、冒頭の計算式に当てはめるだけで気相率が求められるという流れです。
農林水産省の土壌分析法(PDF)には、詳細な測定手順と計算法が記載されており、初めて測定する方にも参考になります。
気相率の測定で最も多い失敗は、サンプリングのタイミングを間違えることです。降雨直後や灌水直後に土壌を採取すると、液相率が異常に高くなり、気相率が実態よりも大幅に低く測定されてしまいます。青森県の技術マニュアルによれば、作物が正常に生育するには降雨直後を除いて気相率が少なくとも20%程度は必要とされていますが、雨の後すぐに測定すると10%以下という数値が出てしまうことがあります。
どういうことでしょうか?
土壌中の水分状態は時間とともに大きく変化するため、液相率と気相率の割合も常に変動しています。降雨後は土壌の孔隙が水で満たされ、本来空気が入るべき空間まで水が占領している状態です。この状態で測定した数値は、通常時の土壌環境を反映していないため、診断の参考にはなりません。適切な測定タイミングは、作物収穫後で後作の耕起前、かつ降雨から2〜3日経過した後が理想的とされています。
二つ目の落とし穴は、採土管の使い方に関する技術的なミスです。土壌三相計は気密性が非常に重要で、試料室の密着部にわずかな隙間があるだけで測定誤差が発生します。特に水分の多い粘質土壌では、土壌孔隙の気相がすべて大気と連続しているという前提が崩れやすく、測定誤差を生じやすいことが兵庫県の土壌診断指針で指摘されています。
採土管を土壌に差し込む際の力加減も重要です。強く押し込みすぎると土壌が締まって固相率が実際より高くなり、逆に気相率は低く出てしまいます。軽く3回たたく程度の力で充填するのが標準的な方法ですが、この感覚を掴むには経験が必要です。また、採土管の刃の口径にずれがあると、それだけで体積測定に誤差が生じるため、定期的な器具の点検も欠かせません。
気密性の確認が基本です。
三つ目は、真比重の値を間違えることです。気相率の計算には固相率が必要で、固相率を求めるには土壌の真比重が必要になります。一般的な土壌の真比重は2.65程度ですが、有機物が多い土壌では2.4程度まで下がることがあります。この値を間違えて計算すると、固相率がずれ、結果として気相率も不正確になります。北海道の土壌物理性測定マニュアルでは、有機物が多い場合は真比重を実測することを推奨しています。
気相率の数値は、作物の根が健康に育つための重要な指標になります。農林水産省の資料によれば、根が伸長して十分な量まで分布するために必要な気相率は13〜17%以上、根の活動を盛んにするために必要な気相率は普通作物や野菜で20%以上とされています。この数値を下回ると、根の呼吸が阻害され、生育不良や湿害が発生するリスクが高まります。
特に転換畑では、気相率不足が作物の湿害の主要原因になっています。水田として使われていた土壌は固相率が高く、排水性が悪いため、畑作物に転換しても気相率が20%に達しないケースが多く見られます。このような場合、暗渠排水や深耕などの物理的改良を行わないと、作物の根が十分に伸長できず、収量が大幅に低下してしまいます。
20%が重要な基準ですね。
理想的な土壌三相分布は、固相率が40%前後、液相率と気相率がそれぞれ30%程度とされています。しかし、火山灰土では固相率が16〜30%と低く、非火山灰土では40〜45%が一般的な値です。つまり、土質によって理想的な三相分布は異なるため、一概に「この数値が正解」とは言えません。自分の圃場の土質を把握した上で、その土質に応じた目標値を設定することが重要です。
気相率が10%以下になると、作物の生育に深刻な影響が現れます。桑園土壌の研究では、気相率が10%以下になると桑の生育に影響が表れ、3.8%以下になると地上部・地下部ともに伸長が著しく阻害されることが報告されています。この数値は他の作物にも当てはまる可能性が高く、気相率の低下が作物生育に与える影響の大きさを示しています。
気相率が低い土壌を改善するには、まず固相率を下げることが基本的なアプローチになります。固相率が高いということは、土壌が締まって孔隙が少ない状態を意味します。この状態を改善するために有効なのが、堆肥や土壌改良材の施用です。特に有機物を含む資材は、土壌粒子同士を結合させて団粒構造を形成し、団粒間に空気の通り道を作る効果があります。
堆肥の施用による効果は、複数の研究で実証されています。北海道の研究によれば、牛ふん堆肥を連用すると、気相率や間隙率が向上し、通気係数や飽和透水係数が大きくなることが確認されています。ただし、堆肥の種類や施用量によって効果は異なるため、自分の圃場の状態に合わせた資材選びが重要です。例えば、保水性を高めたい場合はバーク堆肥、通気性を高めたい場合は腐葉土が適しています。
継続的な施用が効果を生みます。
市販の土壌改良材の中には、気相率の向上に特化した製品もあります。汚泥発酵肥料などは、土壌に空気を入れる能力が非常に高く、継続して施用することで物理性の改善効果が期待できます。施用のタイミングとしては、気相率の改善後に堆肥や肥料を入れることで、湿害の悪化を防ぐことができるという点も覚えておくべきです。
物理的な改良手段としては、深耕や暗渠排水の設置も効果的です。耕盤層が形成されている圃場では、深耕によって硬い層を破砕し、根が伸長できる範囲を広げることができます。暗渠排水は、過剰な水分を速やかに排出することで液相率を下げ、相対的に気相率を高める効果があります。ただし、これらの作業は土壌の水分状態によって効果が変わるため、適切なタイミングで行うことが重要です。
気相率の測定データを農業経営に活かすには、定期的なモニタリングと記録が欠かせません。同じ圃場でも、季節や栽培履歴によって気相率は変動するため、年に2〜3回程度測定して変化を追跡することが理想的です。測定のタイミングとしては、春の作付け前、生育期の中間、収穫後の3回が基本パターンになります。
測定データは、作物の生育状況と照らし合わせて分析することで、より実践的な情報になります。例えば、気相率が15%前後の圃場で根の張りが悪かった場合、次作では堆肥の増量や深耕を行うという判断ができます。逆に、気相率が25%以上あっても生育が思わしくない場合は、化学性(pHや養分バランス)に問題がある可能性が高いため、総合的な土壌診断を行う必要があります。
データと現場の観察を組み合わせる。
近年は、土壌診断サービスを利用する農家も増えています。JA系統や民間の分析機関に土壌サンプルを送れば、気相率を含む三相分布、仮比重、化学性などを総合的に分析してもらえます。費用は5,000〜10,000円程度が相場で、詳細な改善提案も付いてくるため、自分で測定する時間がない場合や、より精密なデータが必要な場合には有効な選択肢です。
大起理化工業の土壌三相に関する解説ページでは、測定原理や各種計算式が詳しく紹介されており、自分で測定する際の参考になります。
気相率のデータを圃場管理システムやスマートフォンのアプリで記録しておくと、長期的な変化が可視化されて便利です。測定地点をGPS座標で記録しておけば、圃場内のばらつきも把握でき、局所的な問題箇所の早期発見につながります。このようなデータの蓄積が、収量向上や品質改善の土台になっていくのです。