農作物を出荷したり、直売所で販売したりする際、どのようなはかりを使っていますか?もし、ホームセンターやネット通販で安価に購入した「キッチンスケール」や「家庭用はかり」を使って価格を決めているなら、今すぐに確認が必要です。実は、重さをはかって商品を販売する行為は、法律上の「取引」にあたります。日本の計量法では、こうした取引や証明に使用する計量器は、国の定めた基準をクリアした「検定付きはかり(特定計量器)」でなければならないと厳格に定められています。
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多くの農家さんが見落としがちなのが、はかり本体に貼られているシールの記載です。「取引証明以外用」や「家庭用」と書かれたはかりを使って農作物の重さを量り、その重さに応じて値段をつけて販売することは違法行為となります。これに違反した場合、最大で50万円以下の罰金が科される可能性があります。道の駅やJAの集荷場などでは、持ち込み時に使用しているはかりが検定付きであるかチェックされることも増えてきましたが、個人の軒先販売やネット直販では、知らずに違反してしまっているケースが少なくありません。
参考)【はかり商店】計量器の定期検査について
検定付きのはかりには、本体の側面に「検定証印」または「基準適合証印」というマークが付いています。これは厳しい精度検査に合格した証であり、法的な取引に使用しても問題ないという証明です。業務用のデジタル計量器を選ぶ際は、スペック表や製品説明に「検定付き」「取引証明用」と明記されているものを必ず選んでください。価格だけで選んで「取引証明以外用」を購入してしまうと、あくまで目安の重さを知るための道具としてしか使えず、販売業務には一切使用できません。
また、検定付きはかりを購入した後も、「定期検査」という重要な義務が待っています。はかりの精度は使用しているうちに徐々に狂いが生じる可能性があるため、2年に1回、都道府県や特定市が実施する定期検査を受けなければなりません。この検査に合格して初めて、継続して取引に使用することが許されます。検査時期が近づくと自治体から広報などで案内がありますが、自ら情報をキャッチして受検する必要があります。業務用として長く安心して使い続けるためにも、法的なルールを正しく理解し、コンプライアンスを守った運営を心がけましょう。
参考)特定計量器(はかり)の定期検査について|群馬県邑楽町
農業の現場は、一般的な屋内作業環境とは全く異なります。土ぼこりが舞い、泥が付着し、時には収穫物を水洗いしながら計量することもあります。このような過酷な環境で、一般的なオフィスや家庭用のデジタルはかりを使用すると、驚くほど短期間で故障してしまうことがあります。その主な原因は、内部の電子基板への水分や粉塵の侵入です。農作業専用、あるいは業務用のデジタル計量器を選ぶ際に、最も優先すべき機能の一つが「防塵・防水性能」です。
参考)デジタル台はかり メーカー19社 注目ランキング&製品価格【…
この性能を表す指標として「IP規格」というものがあります。例えばカタログに「IP65」や「IP68」と記載されているのがそれにあたります。最初の数字は防塵性能(固形物に対する保護等級)を、2番目の数字は防水性能(水に対する保護等級)を表しています。農業用として選ぶなら、最低でも「IP65」以上の等級を持つ機種がおすすめです。
IP65以上のデジタル台はかりであれば、泥だらけのダイコンやニンジンを載せても問題ありませんし、作業が終わった後に計量皿ごと水でジャブジャブと丸洗いすることができます。これは衛生管理の面でも非常に大きなメリットです。計量器についた土や野菜の汁は、放置するとカビや腐食の原因になりますが、防水タイプなら常に清潔な状態を保つことができます。特に、漬物加工や水産加工も兼業している農家さんの場合、塩分を含んだ水気が付着することも多いため、ステンレス製のボディ(SUS304など)を採用した防水はかりを選ぶと、サビにも強く長持ちします。
参考)https://www.monotaro.com/k/store/%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%20%E3%81%AF%E3%81%8B%E3%82%8A%2010kg/
一方で、防水性能が高い機種は、電池交換の際にフタの密閉性が重要になります。電池ボックスのパッキンが劣化していたり、フタの締め方が甘かったりすると、そこから水が浸入して故障の原因になります。業務用の防水はかりの中には、乾電池式ではなく、完全密閉型の充電式バッテリーを採用しているものや、ACアダプター使用時でも防水性を維持できる特殊なコネクタを採用しているものもあります。使用環境に合わせて、電源供給の方法も含めて検討するとよいでしょう。現場での「洗いやすさ」は、毎日の作業効率に直結する重要な要素です。
これは意外と知られていない事実ですが、デジタル計量器は「使う場所(緯度)」によって表示される重さが変わってしまいます。これは地球の自転による遠心力や、地球の形状が完全な球体ではないことに起因する「重力加速度」の違いが影響するためです。例えば、北海道の札幌と沖縄の那覇では重力の強さが異なり、札幌で正確に100kgと表示される荷物を、そのまま調整なしで那覇に持っていって量ると、約100g〜150g程度軽く表示されてしまうことがあります。これを「重力誤差」と呼びます。
参考)天びんの誤差要因−緯度 : 分析計測機器(分析装置) 島津製…
一般的な家庭用体重計レベルであれば無視できる誤差かもしれませんが、業務用の、特に精度の高いデジタル台はかりを使用して農作物をグラム単位で量り売りする場合、この誤差は無視できません。計量法でも、精度の高いはかり(精度等級3級以上など)に関しては、使用する地域の重力加速度に合わせて調整(キャリブレーション)することが求められています。これを「地域設定」や「重力補正」と言います。
参考)https://www.aandd.co.jp/pdf_storage/manual/balance/m_em30kdm_60kdm_60kdl_150kdl_150kdh.pdf
ネット通販で業務用のデジタル計量器を購入する場合、ここが大きな落とし穴になります。地元の農機具店や計量器専門店で購入すれば、お店側があらかじめその地域に合わせた設定を行ってから納品してくれますが、全国配送のネットショップで購入した場合、出荷時の設定がメーカーの工場がある地域(例えば東京や大阪)のままになっていることがあります。そのまま使用地(例えば北海道や九州)で使うと、最初から微妙にズレた状態で計量することになってしまいます。
購入時には必ず以下の点を確認してください。
「たかが数グラム」と思うかもしれませんが、信頼が命の直売所ビジネスにおいて、「表示より軽い」というクレームは致命的です。また、高価なブランド野菜や果物を扱う場合、その数グラムが収益に直結します。デジタルの数値を過信せず、物理的な「場所」の影響を受ける精密機器であることを理解して運用することが、プロの農家の嗜みと言えるでしょう。
参考)https://www.rinya.maff.go.jp/j/gyoumu/gijutu/attach/pdf/syuukaku_kourituka-69.pdf
業務用のデジタル計量器を選ぶ際、信頼できるメーカー製を選ぶことは、長期的なコストパフォーマンスを考える上で非常に重要です。安価な海外製ノーブランド品も多く出回っていますが、故障時のサポートや修理部品の供給、そして前述した「検定」の信頼性を考えると、国内の主要メーカーから選ぶのが正解です。ここでは、農業現場で特に支持されている代表的なメーカーと、その特徴、価格帯について比較します。
参考)工業用はかり メーカー30社 注目ランキング&製品価格【20…
| メーカー名 | 特徴・強み | 想定価格帯(30kg台はかり) |
|---|---|---|
| クボタ (Kubota) | 農業機械のトップブランド。防水・防塵性能が極めて高く、過酷な環境でも壊れにくい「強さ」が特徴。操作がシンプルで農家向けに特化したモデルが多い。 | 50,000円 ~ 80,000円 |
| 大和製衡 (Yamato) | 「Yamato」ブランドで知られる老舗はかりメーカー。定量計量機能(設定した重さになると音やランプで知らせる機能)が優秀で、袋詰め作業の効率化に強い。 | 35,000円 ~ 60,000円 |
| エー・アンド・デイ (A&D) | コストパフォーマンスに優れ、ラインナップが非常に豊富。ホームセンターでも入手しやすく、必要十分な機能を備えた検定付きモデルが安価に手に入る。 | 20,000円 ~ 40,000円 |
| イシダ (ISHIDA) | 食品産業や流通業で圧倒的なシェアを持つ。計量ラベルプリンターとの連携など、システム化された計量管理に強い。大規模農家や選果場向け。 | 60,000円 ~ 100,000円 |
クボタの計量器は、トラクターなどの農機と同様に耐久性が抜群です。泥や水がかかることを前提に設計されており、ボタンなどの操作部も大きく、軍手をしたままでも押しやすい工夫がされています。初期投資は高めですが、長く使えるため結果的に安上がりになることが多いです。
大和製衡の「UDSシリーズ」などは、農家にとって非常に便利な「定量計量機能」を搭載しているモデルが人気です。例えば「1kg」に設定しておくと、カゴに入れた野菜が1kgに達した瞬間にLEDランプが青から赤に変わったり、ブザーが鳴ったりします。これにより、いちいち数字を目で確認しなくても感覚的に袋詰め作業ができ、作業スピードが格段に上がります。
A&Dは、初めて検定付きのはかりを導入する農家さんにおすすめです。「SLシリーズ」や「SKシリーズ」など、比較的安価でありながらしっかりと防水機能を備えたモデルが多く、予備機として複数台導入する際にも予算を抑えられます。電池寿命が長いモデルも多く、電源のない畑の真ん中やビニールハウス内での使用にも適しています。
価格を比較する際は、単なる本体価格だけでなく、「ACアダプターが付属しているか(別売りの場合が多い)」「ステンレス皿は標準装備か(プラスチック皿の場合がある)」といった付属品の有無もしっかりチェックしましょう。特にトマトやイチゴなどの柔らかい作物を扱う場合は、汚れを拭き取りやすいステンレス皿への変更はほぼ必須と言えます。
計量器の正しい選び方と地域設定について
地域設定(重力補正)がなぜ必要か、はかりメーカーの田中衡機工業所がわかりやすく解説しています。
業務用のデジタル計量器は頑丈に作られていますが、精密機器であることに変わりはありません。日々のメンテナンスと正しい保管方法を実践するかどうかで、その寿命は数倍も変わります。故障して修理に出すと、修理費用だけで新品が買えるほどの金額になることも珍しくありません。無駄な出費を防ぐためのポイントを抑えておきましょう。
1. 電池の液漏れに注意する
最も多い故障原因の一つが、オフシーズン中の「電池の液漏れ」です。収穫期が終わって長期間はかりを使わないときは、必ず乾電池を抜いて保管してください。入れたままにしておくと、電池から漏れ出したアルカリ液が内部の基板を腐食させ、再起不能なダメージを与えます。ACアダプターを使用している場合も、コードを挿したまま無理に引っ張ったり、ネズミにコードをかじられたりしないよう、適切に束ねて保管しましょう。
2. ゼロ点調整と水平出し
計量器を使う前には、必ず水準器(気泡が入った丸い窓)を見て、気泡が中心に来るように脚の高さを調整してください。傾いた状態で使用すると、重量センサー(ロードセル)に偏った力がかかり、正確な値が出ないだけでなく、センサーの劣化を早めます。また、電源を入れる際は計量皿の上に何も載せない状態にし、表示が「0.00」になってから物を載せる習慣をつけましょう。
参考)計量器 |農業メッシュネット・農業資材の専門店|アグリデポ
3. 計量皿の上に物を置いたままにしない
保管時に、場所がないからといって計量皿の上にカゴや道具を積み上げている農家さんを見かけますが、これは絶対にNGです。デジタルはかりのセンサーは、常に荷重がかかり続けると「クリープ現象」といって、金属の弾性が失われ、元に戻らなくなってしまいます。これにより、何も載せていないのに数字が表示されたり、数値が安定しなくなったりします。保管時は計量皿の上を空にし、側面からの衝撃も避けるような場所に置いてください。
4. センサー部分の清掃
防水タイプであっても、高圧洗浄機で至近距離から水を吹き付けるのは避けてください。パッキンの隙間から浸水する恐れがあります。また、計量皿の下にある十字の金具(スパイダー)や本体の隙間に、泥や野菜クズが挟まったまま乾燥して固まると、それが抵抗となって正しい重さが表示されなくなります。定期的に皿を外し、柔らかいブラシや布で隙間のゴミを取り除くことが、精度維持の秘訣です。
愛用する農機具と同じように、計量器も手入れをすれば長く応えてくれます。出荷のパートナーとして、日頃のケアを大切にしてください。

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