農薬を散布すればするほど、アオムシが翌シーズンにもっと大量発生することがあります。
アオムシサムライコマユバチ(学名:Cotesia glomerata)は、コマユバチ科に分類される内部寄生性の多寄生蜂です。 モンシロチョウの幼虫(アオムシ)の体内に約80個の卵を産みつけ、孵化した幼虫が寄主の体液を吸収しながら成長します。wikipedia+1
産卵から約14日で、80匹の幼虫が一斉にアオムシの表皮を食い破って外部へ出てきます。 そのまま寄主の体の上で繭を形成し、さらに約7日後には成虫が羽化します。 つまり産卵からわずか3週間以内に、1匹のアオムシから最大80頭の成虫が生まれる計算になります。
これはなかなか衝撃的な数字です。
goo+1
産卵の際、メス蜂は毒液・ポリドナウイルス(polydnavirus)・卵巣タンパク質を卵と同時に寄主体内に注入します。 この物質がアオムシの免疫系(血球による細胞性免疫とフェノールオキシダーゼによる液性免疫)を抑制するため、アオムシは寄生蜂の卵を異物と認識できなくなります。 寄生蜂が「生物的ハッキング」で宿主の防御をくぐり抜けるわけです。
キャベツ・ブロッコリー・白菜・大根などアブラナ科野菜は、モンシロチョウの幼虫に最も被害を受けやすい作物です。 アオムシが大発生すると、葉が葉脈だけになるほど食べ尽くされ、出荷できない株が続出します。ikari+1
アオムシサムライコマユバチは、アブラナ科植物がアオムシに食害されたときに放出する揮発性物質(アロモン)を察知して飛来します。 つまり、アオムシが発生すると自動的に天敵が呼び寄せられる仕組みが自然界に備わっています。
結論は「植物が天敵を呼ぶ」です。
ある調査では、アオムシコマユバチの8月における寄生率が78%に達したことが報告されています。 これは農薬を使わなくても、約8割のアオムシが天敵によって自然に制御されることを意味します。農薬コストを削減できる大きな可能性があります。
参考)https://files01.core.ac.uk/download/84409973.pdf
アオムシが活発に発生するのは4〜6月と9〜11月の年2回ピークがあります。 この時期に寄生蜂の定着状況を把握しておくことが、天敵農法を効果的に運用するための基本です。
参考)キャベツの天敵アオムシ(青虫)。生態・発生時期と対策方法につ…
参考:アブラナ科野菜のアオムシ対策について詳しく解説されています。
農薬と天敵の両面から対策を確認できます。
キャベツの天敵アオムシ(青虫)。生態・発生時期と対策方法 | 角一
天敵農法とは、化学農薬に頼らず捕食・寄生関係を活用して害虫を抑制する農業手法です。 アオムシサムライコマユバチは土着天敵として自然界にすでに存在するため、農家はその活動を「邪魔しない環境づくり」から始めることができます。
まず重要なのは、農地周辺に花を咲かせる植物を植えることです。 成虫の寄生蜂は花の蜜や樹液を餌にするため、食料源が豊富な環境だと定着しやすくなります。ナノハナやコリアンダーなどの開花植物を圃場の周囲に配置すると、天敵類が安定して滞在しやすくなります。
これは使えそうです。
maff+1
導入の際は「害虫の初期発生段階」で放飼することが重要です。 アオムシが爆発的に増えてから天敵を投入しても、寄生蜂だけでは追いつきません。圃場をこまめに観察し、モンシロチョウの産卵や若齢幼虫を早期に確認する習慣が必要です。
| 管理項目 | 具体的な行動 | 効果 |
|---|---|---|
| 花資源の確保 | 圃場周囲にナノハナ・コリアンダーを植える |
成虫の餌・越冬場所となり定着率アップ |
| 早期発見 | 週1回以上の葉裏チェック | 初期段階での寄生促進 |
| 農薬の選択 | 寄生蜂に影響の少ない薬剤を選ぶ |
天敵への悪影響を最小化 |
| 記録管理 | 発生数・繭の確認数をメモ | 翌シーズンの放飼計画に活用 |
農薬散布は天敵農法の最大の落とし穴です。殺虫剤をアオムシ食害株に散布すると、コナガサムライコマユバチなどの土着寄生蜂が放出する揮発性物質のシグナルが農薬の匂いでかき消され、寄主探索行動が阻害されることが農研機構の研究で確認されています。 アオムシサムライコマユバチも同様のメカニズムで影響を受けると考えられています。
農薬を散布すればアオムシは一時的に減りますが、同時に天敵も圃場から離れてしまいます。農薬の効果が切れた後、天敵不在の状態でアオムシが再発生するリスクが高まります。 これが「農薬を使うほど翌シーズンに被害が増える」現象の一因です。
農薬を使う場面では、天敵への影響が少ない薬剤カテゴリを選ぶことが大切です。例えば、BT(バチルス・チューリンゲンシス)剤はアオムシに特異的に作用し、寄生蜂などの益虫への影響が少ないとされています。農薬選択の場面では、農協や農業試験場への相談が一つの行動として有効です。
農薬と天敵の使い分けが原則です。
参考:農研機構による、殺虫剤が土着寄生蜂の寄主探索行動に及ぼす影響の研究結果です。
コナガ食害株への殺虫剤散布は天敵寄生蜂の寄主探索行動に影響を及ぼす | 農研機構
アオムシサムライコマユバチ自身にも天敵がいます。これを「高次寄生(二次寄生)」と呼び、アオムシコバチ、ヒメバチ科、ヒメコバチ科、コガネコバチ科、カタビロコバチ科などが当種の蛹に寄生します。 二次寄生蜂が増えすぎると、アオムシ制御の主役であるアオムシサムライコマユバチの個体数が減少してしまいます。
参考)https://blog.goo.ne.jp/1948goodspring/e/230df6488434e2e758b38c9cc7334d27
また、アオムシサムライコマユバチはあくまでもモンシロチョウ幼虫への寄生を主体とするため、コナガやヨトウムシなど他の害虫への効果は限定的です。 天敵農法は「銀の弾丸」ではなく、IPM(総合的病害虫管理)の一部として活用するのが現実的なアプローチです。
天敵農法だけで完結させようとするのは禁物です。農薬・防虫ネット・天敵を組み合わせることで、より安定した害虫管理ができます。 防虫ネット(目合い0.8mm以下)でモンシロチョウの産卵自体を物理的に防ぐ方法は、コストをかけずに実践できる最初の一手として特に有効です。
参考:農研機構が公開している土着天敵を活用した害虫管理技術の最新情報です。
圃場への実践応用に役立ちます。
土着天敵を活用する害虫管理 最新技術集 | 農研機構(PDF)