スポルタック乳剤が効かない原因は耐性菌?ばか苗病の対策

スポルタック乳剤が効かないと感じたら?耐性菌の可能性や正しい使い方、テクリードなどへの代替手段を解説。種籾の浸漬温度や塩水選の盲点とは?あなたの防除は本当に正しく機能していますか?
スポルタック乳剤が効かない時の対策概要
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耐性菌の確認

ばか苗病菌が薬剤耐性を持っている可能性を疑い、地域の防除情報を確認しましょう。

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温度と使い方の見直し

浸漬温度や希釈倍率、種籾の量のバランスが適切か再点検が必要です。

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薬剤ローテーション

テクリードCフロアブルなど系統の異なる薬剤への変更を検討してください。

スポルタック乳剤 効かない

スポルタック乳剤が効かない原因となるばか苗病の耐性菌

 

長年、水稲の種子消毒において絶大な信頼を得てきたスポルタック乳剤ですが、近年「以前のように効かない」「ばか苗病が止まらない」という声が多くの生産現場から上がっています 。その最大の原因として挙げられるのが、病原菌である「ばか苗病菌(Gibberella fujikuroi)」が薬剤に対する抵抗力、いわゆる耐性を獲得してしまったことです。

 

参考)https://www.aomori-itc.or.jp/_files/00234481/R06seika_presen_bakanae.pdf

スポルタック乳剤の有効成分であるプロクロラズは、DMI剤(ステロール生合成阻害剤)と呼ばれるグループ(FRACコード:3)に属します 。この薬剤は、菌の細胞膜に必要な成分を作らせないことで殺菌効果を発揮しますが、作用点が特定の酵素に限られているため、菌がその変異を起こしやすく、比較的耐性菌が出現しやすい傾向にあります。実際に、青森県や長野県、茨城県、福島県など、米どころとして知られる多くの地域で、プロクロラズに対する感受性が低下した耐性菌の発生が報告されています 。

 

参考)https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/243507.pdf

耐性菌が発生している圃場や地域で、従来通りにスポルタック乳剤を使用しても、期待するような防除効果は得られません 。特に、「毎年同じ薬剤を使い続けている」「高濃度短時間処理ではなく、低濃度長時間浸漬(1000倍24時間)を長年繰り返している」といったケースでは、菌が薬剤に慣れてしまい、耐性化が進行しているリスクが非常に高くなります。もし、手順通りに消毒を行っているにもかかわらず、育苗箱の中で徒長する苗が目立つようになった場合は、まずはこの耐性菌の存在を疑う必要があります。

 

参考)https://www.aomori-itc.or.jp/docs/2025090500023/files/R07byouchu1.pdf

重要なのは、自分の地域でどのような耐性菌が確認されているかという情報を得ることです。各都道府県の病害虫防除所が出す予察情報や、JA営農指導員からの情報は、最新の耐性菌分布を反映しています 。自己判断で濃度を濃くしたり時間を延長したりしても、耐性菌に対しては効果が薄いばかりか、薬害のリスクを高めるだけですので、まずは原因が「菌の耐性」にあるのかどうかを冷静に見極めることが先決です。

 

参考)https://hyogo-nourinsuisangc.jp/chuo/bojo/31boujyo7.pdf

参考リンク:青森県産業技術センター - イネばか苗病菌に対するスポルタック乳剤の防除効果の低下について

スポルタック乳剤の防除効果が低下する浸漬温度の盲点

薬剤耐性以外で「スポルタック乳剤が効かない」と感じるケースの多くに、実は「使い方のミス」が隠れています。その中でも特に見落とされがちなのが、種子消毒時の浸漬温度と水温の管理です。

 

スポルタック乳剤の使用基準では、通常「1000倍液に24時間浸漬」などが推奨されていますが、この時の水温が低すぎても高すぎても、十分な防除効果が得られないことがあります 。水温が極端に低い(10℃以下など)環境では、薬剤が種籾の内部、特に籾殻の隙間や内部に潜む菌糸まで十分に浸透しない可能性があります。逆に、水温が高すぎる場合も問題です。例えば、浸種中の水温が15℃を超えて高くなると、ばか苗病菌の増殖が活発になり、薬剤の効果を上回るスピードで病気が広がってしまうリスクがあります 。

 

参考)https://www.midorinet.or.jp/overview/wp-content/uploads/agriculture/gp/2025gp_01.pdf

多くの農家が、作業効率を優先して、まだ寒い時期に冷たい水道水をそのまま使ったり、逆にハウス内で水温が上がりすぎるのを放置したりしがちです。しかし、薬剤の効果を最大限に引き出すためには、適温(一般的には10℃~15℃程度)を維持することが推奨されます 。特に、ばか苗病菌は水中で胞子を放出して他の健全な種籾に感染する二次感染(水中伝染)を起こす性質があるため、薬剤液の中であっても、条件が悪ければ感染拡大のリスクはゼロではありません。

 

参考)https://www.i-nouryoku.com/prod/chirashi/noyaku/%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%E6%B0%B4%E5%92%8C%E5%89%A4%EF%BC%88%E6%B0%B4%E7%A8%B2%E6%8A%80%E8%A1%93%E8%B3%87%E6%96%99%EF%BC%89.pdf

また、薬液の量と種籾の量のバランス(液比)も極めて重要です。一般的には「種籾1:薬液1」の比率が推奨されますが 、種籾を詰め込みすぎて薬液が十分に行き渡っていなければ、当然ながら消毒ムラが発生します。特に網袋(種籾袋)にパンパンに詰めた状態では、中心部の種籾まで薬剤が到達せず、そこが病気の温床となって「消毒したのに効かない」という結果を招きます。浸漬中は時々袋をゆすって空気を抜き、薬液を均一に行き渡らせる手間を惜しまないことが、効果低下を防ぐための確実な一歩となります 。

 

参考)https://hyogo-nourinsuisangc.jp/chuo/bojo/29boujyo2new.pdf

参考リンク:長野県農薬使用基準 - 浸種中の水温管理とばか苗病対策

スポルタック乳剤が効かない時に選ぶべきテクリード等の代替薬

もし、お住まいの地域でスポルタック乳剤への耐性菌が確認されている場合、あるいは正しい使い方をしても効果が見られない場合は、潔く使用する薬剤を変更(スイッチ)する必要があります。この時、重要なのは「名前が違う薬」を選ぶのではなく、「作用機構(FRACコード)が異なる薬」を選ぶことです。

 

最も代表的な代替候補として挙げられるのが、「テクリードCフロアブル」です 。この薬剤の有効成分イプコナゾールもDMI剤(FRACコード:3)に分類されますが、プロクロラズとは化学構造が少し異なり(トリアゾール系)、プロクロラズ耐性菌に対しても高い効果を示すことが多くの試験で確認されています。実際に、スポルタック乳剤が効かなくなった地域での切り替え第一候補として推奨されることが多い信頼性の高い薬剤です。

 

参考)https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/925680_8863001_misc.pdf

また、「モミガードC」などの銅剤や、微生物農薬である「エコホープ」なども有効な選択肢となります 。これらは化学合成殺菌剤とは全く異なるメカニズムで作用するため、従来の薬剤耐性菌の問題をクリアできる可能性が高いです。特に微生物農薬は、環境への負荷が少なく、有機栽培や減農薬栽培を目指す生産者にとっても使いやすいというメリットがあります。ただし、微生物農薬は使用条件(水温や処理時間)が化学農薬よりもシビアな場合があるため、事前の確認が不可欠です。

 

参考)エコホープDJ│水稲・園芸/殺菌剤│農薬製品│クミアイ化学工…

さらに、近年では「ヘルシード」などのペフラゾエート剤も利用されていますが、地域によってはこれらに対しても耐性菌のリスクが報告されている場合があるため、注意が必要です 。どの薬剤を選ぶにしても、「なんとなく」選ぶのではなく、地元のJAや普及センターが推奨する防除暦(防除指針)に従うのが最も確実です。彼らは地域の耐性菌データを常にモニタリングしており、「今年はこの薬を使うべき」という具体的な答えを持っています。自己判断での薬剤選択は、高価な資材を無駄にするだけでなく、さらなる耐性菌の出現を招く恐れがあるため避けましょう。

参考リンク:農林水産省 農薬登録情報 - スポルタック乳剤の適用と詳細

(Unique) スポルタック乳剤の成分を阻害しかねない塩水選後の洗浄不足

検索上位の解説記事ではあまり深く触れられていませんが、実は「種子消毒の前段階」である塩水選(比重選)の処理方法が、スポルタック乳剤の効き目を大きく左右することがあります。特に盲点となりやすいのが、塩水選後の「真水による洗浄(水洗い)」の徹底度合いです。

 

塩水選は、比重1.13程度の塩水に種籾を入れ、浮いてくる未熟な籾を取り除く極めて重要な工程です。しかし、この塩分が種籾の表面や籾殻の隙間に残留したままスポルタック乳剤の希釈液に浸漬してしまうと、物理的・化学的な阻害要因となる可能性があります。残留した塩分は浸透圧の変化を引き起こし、薬剤の有効成分が種籾内部へスムーズに浸透するのを妨げる恐れがあります。また、種籾がすでに塩水で飽和状態に近いまで濡れていると、その後に薬液に浸しても、乾いたスポルタック希釈液を吸い込む余地(キャパシティ)が減ってしまい、結果として薬剤の吸収量が不十分になることが考えられます 。

多くの指導書には「塩水選後はよく水洗いし、水切りする」と書かれていますが、この「水切り(乾燥)」をおろそかにして、ビショビショのまま薬液に漬け込むのは避けるべきです。理想的には、塩分を完全に洗い流した後、一度種籾の表面をある程度乾かすか、しっかりと水を切ることで、薬液に触れた瞬間に種籾が薬剤を積極的に吸収しようとする状態を作ることが、浸漬処理の効果を高める秘訣です。

 

逆に、一部の農家では「面倒だから」といって塩水選を省略したり、機械選別だけで済ませたりすることもありますが、充実していない(比重の軽い)籾は、そもそも病害に対する抵抗力が弱く、ばか苗病などの感染を受けやすい傾向にあります 。つまり、塩水選をしっかり行わないことは、薬剤の力だけでは抑えきれない「弱い苗」を育苗箱に持ち込むことになり、「薬が効かない」という結果を招く根本原因となり得るのです。薬剤のせいにする前に、この物理的な選別と洗浄の工程が完璧であったかを見直すことは、意外と見落とされている重要なポイントです。

 

参考)https://www.pref.oita.jp/uploaded/life/2220859_4476166_misc.pdf

参考リンク:兵庫県病害虫防除所 - 種子消毒前の塩水選と水洗いの重要性

スポルタック乳剤の効き目を守るための薬剤ローテーション

最後に、スポルタック乳剤、あるいはその代替薬を長く使い続けるために不可欠な「ローテーション防除」について解説します。これは、特定の薬剤だけを連続して使用せず、異なる作用性を持つ薬剤を数年ごとに、あるいは工程ごとに切り替えて使う手法です。

 

耐性菌は、同じ薬剤による攻撃が繰り返される環境下で生き残った「エリート菌」です。もし、あなたが毎年スポルタック乳剤だけを使い続ければ、あなたの圃場はプロクロラズに強い菌だけを選抜して育てているようなものです。これを防ぐためには、菌に「慣れ」させないことが鉄則です。例えば、「今年はスポルタック(DMI剤)を使ったから、来年はテクリード(DMI剤だが系統が異なる)にする」、あるいは「数年に一度は微生物農薬のエコホープを挟む」といった計画的な運用が求められます 。

 

参考)https://www.pref.ehime.jp/uploaded/attachment/146761.pdf

また、種子消毒だけでなく、本田でのいもち病防除などで同じ系統の薬剤を使っていないかを確認することも重要です。育苗期と本田期で同じ系統の薬剤を使いすぎると、一年を通じてその薬剤への選択圧がかかり続け、耐性菌の密度が急激に高まるリスクがあります(総使用回数の制限にも関わります) 。

 

参考)スポルタック乳剤

多くの県では、耐性菌対策として数年サイクルのローテーション防除体系を提案しています。例えば、「A年はスポルタック、B年はヘルシード、C年はテクリード」といった具合です。自分だけで判断がつかない場合は、地域の「防除暦」を確認してください。そこには、地域の耐性菌発生状況を加味した、最もリスクの低い薬剤の組み合わせと順番が記載されています。

 

「効かない」となってから慌てるのではなく、「効かなくなる前」に手を変える。この先回りした対策こそが、安定した米作りを続けるための最大の防御策です。スポルタック乳剤は非常に優れた薬剤ですが、それに頼りきりにならず、賢く使い分ける知識を持つことが、現代の農業従事者には求められています。

 

参考リンク:愛媛県農作物病害虫等防除指針 - ローテーション散布と抵抗性リスク低減

 

 


日産化学 スポルタック乳剤 500ml×10本セット