2回以上散布すると果実の軟化や油あがりが著しく早まります
りんご、なし、柿、柑橘などの果樹では、収穫直前に果実が自然に落下する「生理的落果」という現象が発生します。これは果梗の基部と果台の間に離層という分離組織が形成され、細胞分離と細胞壁の破壊が引き起こされることで生じる自然現象です。
特につがる、きおう、紅玉などの品種では収穫前落果が顕著に現れます。落果防止剤は植物生育調節剤の一種で、オーキシン活性を持つ成分が離層の形成を抑制し、果実と樹体の結合を維持する働きをします。
つまり離層形成を防ぐことですね。
落果防止剤を適切に使用することで、収穫前の落果率を大幅に減少させることができます。青森県の試験では、ストッポール液剤の散布により落果率が無散布区の10分の1以下に抑えられた事例も報告されています。ただし、効果は散布後の気象条件や樹体の栄養状態に左右されるため、基準を守った使用が不可欠です。
使用時期を間違えると効果が得られないばかりか、果実品質の低下を招く恐れがあります。特に早期散布や過剰散布は果肉の軟化を加速させるため、品種ごとに定められた適期に正確に散布することが重要になります。
落果防止剤には主にストッポール液剤、ヒオモン水溶剤、マデックEWの3種類があり、それぞれ成分と特性が異なります。
ストッポール液剤は有効成分ジクロルプロップを含み、りんごとなしに使用できる代表的な落果防止剤です。有袋・無袋いずれの栽培にも安定した効果を示し、収穫開始予定日の25日前から7日前までに散布します。
効果が持続的です。
1回散布で十分な効果が得られますが、落果の多い品種では10日程度間隔をあけて2回散布も可能です。ただし、この2回散布には重大なリスクが伴います。青森県産業技術センターの資料によれば、2回以上散布したり極端な早期散布をすると、果実の軟化や油あがりが著しく早まることが明記されています。
ヒオモン水溶剤は1-ナフタレン酢酸ナトリウムを成分とし、即効性が特徴です。りんごでは収穫開始予定日の21日前から4日前まで、1000倍で1回または2000倍で2回散布します。
果実の成熟促進作用が弱いため、収穫前の「ボケ」の心配が少ないという利点があります。つる割れの発生を減らす効果も確認されており、品質維持の面でも優れた特性を持ちます。
マデックEWはMCPBを有効成分とする柑橘類専用の落果防止剤です。収穫前の後期落果を抑えるとともに、へた落ちを防止して貯蔵病害の発生を抑制します。においが少なく使いやすいEW製剤で、着色前から着色初期の使用には薬害に注意が必要です。
品種により適した薬剤が異なります。
りんごのデリシャス系品種にはストッポール液剤とマデック乳剤が効果的で、つがるやきおうにはストッポール液剤とヒオモン水溶剤の組み合わせが推奨されます。なしではストッポール液剤が広く使用され、特に落果しやすい品種には確実な効果を発揮します。
参考リンクとして、日産化学のストッポール液剤の製品情報ページでは、詳細な使用方法と注意事項が掲載されています。
散布時期は収穫予定日から逆算して決定し、品種ごとの特性に合わせた調整が必要です。
りんごの早生品種では、つがるの場合ストッポール液剤を8月15日から20日頃に散布するのが基本です。これは収穫開始予定日の約15日から25日前にあたります。きおうや未希ライフはさらに5日程度早く、8月10日頃の散布が推奨されます。
散布後7日間は収穫できないため、この期間を考慮した計画が不可欠です。
展着剤は不要で、必ず単用散布とします。
葉から成分が吸収されて効果を発揮するため、葉に十分かかるよう散布することが重要です。
葉摘みは散布4日後からです。
りんごの中生・晩生品種では、秋映の場合、収穫開始予定日の25日前、満開後120日から125日が目安となります。シナノゴールドなど中生種も同様の時期設定で対応します。ふじなど晩生品種は一般的に落果が少ないため、落果防止剤の使用は推奨されていません。
ただし、高温や干ばつなどの異常気象時には、従来散布してこなかった品種でも落果が見られる場合があり、その際は必要に応じた対応が求められます。2024年の異常高温時には、青森県の関係機関が中生種への散布を呼びかけた事例もあります。
なしでは、赤なし品種(王秋を除く)に対してストッポール液剤を収穫開始予定日の14日前から7日前に1000倍で散布します。一部の品種では芽枯れ症状などの薬害が報告されているため、初めて使用する品種では事前に小規模試験を行うことが推奨されます。
品種ごとの感受性が異なります。
柑橘類ではマデックEWを使用し、温州みかんでは収穫前の後期落果期に散布します。着色前から着色初期は薬害発生の恐れがあるため、着色が進んでからの散布が安全です。総使用回数は2回以内と定められており、この基準を超えないよう注意が必要です。
柿では満開10日後にジベレリン200ppmを散布することで、幼果期の生理的落果を防止します。これは栄養生長が緩慢で、夏まで新梢がだらだらと伸び続けているような樹体に特に効果的です。
気象条件も考慮に入れる必要があります。高温が続く時期の散布は、果実の軟化や油あがりが速まる傾向があるため、可能であれば気温が比較的低い時間帯や、涼しい日を選んで散布するのが望ましいとされています。
参考として、青森県が発行するりんご生産情報では、毎年の気象条件に応じた散布時期の調整が詳しく解説されています。
希釈倍率と散布量は登録内容に厳密に従う必要があり、濃度の誤りは効果不足や薬害の原因となります。
ストッポール液剤は1000倍希釈が基本で、10アールあたり300リットルから600リットルを散布します。水100リットルに対して薬剤100ミリリットル(10分の1リットル)を加える計算です。2回散布する場合も同じ濃度で、10日程度の間隔をあけます。
調製した薬液はその日のうちに使用してください。時間が経つと成分が分解され、効果が低下する可能性があります。
その日のうちに使い切ります。
ヒオモン水溶剤は1000倍または2000倍で使用し、散布量は10アールあたり300リットルから600リットルです。1回散布なら1000倍、2回に分けるなら2000倍で散布するのが一般的です。水100リットルに対して、1000倍なら100グラム、2000倍なら50グラムの薬剤を溶かします。
水溶剤は粉末状のため、まず少量の水でよく練り混ぜてペースト状にし、それから全量の水に加えると均一に溶けやすくなります。直接大量の水に投入すると固まりができ、溶け残りの原因になります。
マデックEWは柑橘類に6000倍で使用し、薬液が果梗部を中心に葉先からしたたり落ちない程度に樹全体にむらなく、ていねいに散布します。着色前から着色初期の使用は薬害のリスクがあるため、着色が進んでから散布するのが安全です。
散布器具の選択も重要で、スピードスプレイヤーなどの動力噴霧機を使用する場合は、ノズルの圧力と散布速度を調整し、葉の表裏に薬液が均一に付着するよう工夫します。
展着剤は加用しないでください。
ストッポール液剤とヒオモン水溶剤は、いずれも展着剤不要の単用散布が原則です。これらの薬剤には既に展着成分が配合されているため、追加で展着剤を加えると過剰付着による薬害や、果実への悪影響が生じる恐れがあります。
他の農薬との混用も避けるべきです。特に着色促進剤との併用は、果実の軟化や油あがりが著しく早まるため、青森県などの指導機関は明確に禁止しています。散布間隔も重要で、銅剤を使用する場合は落果防止剤散布後10日以上あけることが推奨されています。
散布後に降雨があった場合でも、再散布は行わないのが原則です。薬液が一度葉に付着して吸収されれば、雨で流れても効果は維持されます。再散布すると過剰投与となり、軟化などの品質低下を招きます。
散布量が不足すると効果が得られず、過剰だと飛散量が増えて周辺環境への影響も懸念されます。作物の生育量に合わせ、防除効果が十分得られる適正な散布量を守ることが、安全で効果的な使用の基本となります。
収穫前日数の制限を守らないと、農薬使用基準違反となり罰則の対象になります。
ストッポール液剤は散布後7日間は収穫できません。収穫開始予定日の7日前が最終散布期限となるため、収穫計画と照らし合わせた散布スケジュールの設定が必須です。この「7日前まで」という表記は、収穫開始の24時間より前が原則となります。
農薬取締法では使用基準を守らなかった場合、3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。出荷先の残留農薬検査で基準値を超えた場合、出荷停止や回収命令が出るだけでなく、産地全体の信頼を損なう事態にもつながります。
法的リスクが伴います。
使用回数の制限も厳格に守る必要があります。ストッポール液剤の使用回数は作物ごとに定められており、りんごでは2回以内、なしでも2回以内です。同一成分を含む他の農薬との総使用回数にも注意が必要で、有効成分ジクロルプロップの総使用回数を超えないよう記帳管理が不可欠です。
果実の軟化と油あがりの加速は、最も深刻な副作用です。青森県産業技術センターの資料では、2回以上の散布や極端な早期散布により、果実の軟化や油あがりが著しく早まると明記されています。これは商品価値の大幅な低下を意味し、販売価格の下落や廃棄につながります。
油あがりとは、果皮の油胞が破裂して果実表面に油が浮き出る現象で、外観品質を著しく損ないます。特に高温期の散布でこの現象が加速されるため、気象条件を見極めた散布判断が重要です。
品種による薬害の差も無視できません。鳥取県の試験では、なしの品種「夏さやか」にストッポール液剤を散布した結果、芽枯れ症状が確認されました。初めて使用する品種では、小規模な試験散布で安全性を確認してから本格使用することが推奨されます。
品種ごとの感受性が違います。
つる元の腐敗や裂果も報告されている副作用で、特に2回散布や着色促進剤との併用で発生リスクが高まります。つる元から腐敗が進むと、落果は防げても商品として出荷できなくなるため、本末転倒の結果となります。
後期落果の少ない品種への使用も避けるべきです。ストッポール液剤の注意事項には、散布により軟化が起こる場合があるため、後期落果の少ない品種には使用しないよう明記されています。ふじなどの晩生種で落果が少ない年に安易に散布すると、軟化だけが進行する恐れがあります。
散布後の管理作業にも配慮が必要です。徒長枝整理や支柱入れ、枝吊り作業の際は、果実への接触や日焼けを起こさないよう注意します。薬剤散布により果実の抵抗性が変化している可能性があるため、通常以上に慎重な作業が求められます。
周辺環境への影響にも注意が必要です。風の強い時の散布は避け、周辺の他作物や河川、住宅への飛散を防ぐため、風向きを考慮した散布方向の設定が重要です。特に有機栽培圃場が近隣にある場合は、事前に散布計画を周知することが望ましいとされています。
落果防止剤の効果は、散布以外の栽培管理との組み合わせで大きく変わります。
かん水管理が落果防止の成否を左右する重要要因です。陸奥新報の報道によれば、乾燥状態が落果を助長する条件となるため、干ばつ時のかん水が改めて重要視されています。土壌水分が不足すると、薬剤を散布しても落果が止まらないケースが発生します。
果樹の根域に十分な水分を供給することで、樹体のストレスが軽減され、落果防止剤の効果が安定します。特に8月の高温期は蒸散量が多く、土壌の乾燥が進みやすいため、定期的な土壌水分チェックが必要です。
土壌水分を保つことが基本です。
着果管理との連携も効果向上に不可欠です。過度な着果は樹体への負担を増し、生理的落果を促進します。適正な摘果により着果数を調整することで、残った果実への栄養供給が安定し、落果防止剤の効果が発揮されやすくなります。
目安として、つがるでは葉果比30から35枚程度、ふじでは40から50枚程度が適正とされます。着果過多の状態で落果防止剤を散布しても、樹体の栄養不足により効果が限定的になる可能性があります。
施肥バランスの最適化により、樹勢を適正に保つことも重要です。窒素過多の状態では徒長枝が多く発生し、果実への養分転流が阻害されて落果しやすくなります。逆に窒素不足でも樹勢が衰え、果実を維持する力が低下します。
カリウムやカルシウムなどのミネラルバランスも、果実の細胞壁を強化し、離層形成を抑制する上で役立ちます。特にカルシウムの葉面散布は、落果防止剤の散布時期とずらして実施することで、相乗効果が期待できるという報告もあります。
病害虫防除との調整も忘れてはいけません。落果防止剤は単用散布が原則のため、病害虫防除との散布間隔を適切に設定する必要があります。特に銅剤との併用や近接散布は薬害のリスクがあるため、10日以上の間隔をあけることが推奨されています。
病害虫防除計画を立てる際、8月中旬の落果防止剤散布期を考慮し、前後の防除を調整します。病害虫の発生状況により臨機応変な対応が必要な場合もあるため、圃場の定期的な観察が重要です。
散布記録の徹底管理です。
詳細な記帳管理により、年次ごとの効果検証と改善が可能になります。散布日時、気象条件(気温・湿度・風速)、使用薬剤名、希釈倍率、散布量、散布後の落果状況、収穫時の果実品質などを記録します。
この記録を複数年分蓄積することで、自分の圃場に最適な散布タイミングや、気象条件による効果の変動パターンが見えてきます。特に異常気象が頻発する近年では、過去のデータに基づいた柔軟な判断が求められます。
早朝または夕方の散布により、薬害リスクを低減できます。日中の高温時は葉や果実の温度が上昇し、薬剤の吸収速度が速まって薬害が発生しやすくなります。気温が比較的低い時間帯を選ぶことで、安全性が向上します。
散布後の天候予測も重要で、散布後2から3時間は薬液が乾燥する時間を確保できる日を選びます。ただし、降雨後の再散布は行わないという原則は変わりません。
これらの総合的な栽培管理と落果防止剤の適切な使用を組み合わせることで、収穫量の安定化と果実品質の向上を両立できます。薬剤だけに頼るのではなく、樹体管理全体のバランスを整えることが、持続可能な果樹経営の基盤となります。