DMI剤を毎年4回以上使っていると、翌シーズンは農薬が効かなくなります。
ナシ黒星病は、「幸水」をはじめとする主要品種に発生する難防除病害です。 病原菌は腋花芽基部の病斑や地表面の罹病落葉で冬を越し、開花期〜落花期を中心に胞子を飛散させます。 感染が一度広がると、病斑部に無数の分生子が形成されて二次感染を繰り返します。
参考)https://www.syngenta.co.jp/cp/articles/20030613
防除を怠ると果実への発病が連鎖します。
これは収量に直結します。
春先の葉・幼果への発病が収まりかけた後、梅雨入りとともに再び発病が増加します。 秋には葉に「秋型病斑(薄墨状)」が多数形成され、その罹病落葉が翌年の伝染源になります。 つまり、1シーズンの防除の失敗が翌年の被害を拡大させる構造です。
| 感染ステージ | 伝染源 | 時期 | 農薬対応の優先度 |
|---|---|---|---|
| 越冬〜萌芽期 | 腋花芽基部の病斑・罹病落葉 | 3月中旬〜4月上旬 | ⭐⭐⭐ 高 |
| 開花〜落花期 | 胞子飛散のピーク | 4月上旬〜下旬 | ⭐⭐⭐ 最重要 |
| 果実肥大期 | 分生子による二次感染 | 5〜6月 | ⭐⭐ 中〜高 |
| 梅雨期 | 降雨とともに再拡大 | 6〜7月 | ⭐⭐⭐ 高 |
| 収穫後・秋季 | 秋型病斑→翌年伝染源 | 9〜10月 | ⭐⭐ 中 |
落葉の処理も防除の一部です。 罹病した落葉をそのまま園内に放置すると、翌春の初期感染リスクが大幅に上がります。農薬散布だけでなく、耕種的防除(落葉除去)との組み合わせが重要です。
黒星病防除の「特効薬」とされるのがDMI剤(エルゴステロール生合成阻害剤・EBI剤)です。 防除価が90以上に達する製品もあり、開花始め〜落花期に1〜2回散布するだけで高い防除効果が得られます。ktpps+1
DMI剤は万能ではありません。
使い方を誤ると逆効果です。
最大の注意点は耐性菌リスクです。DMI剤は種類を問わず年間合算で3回以内、できれば2回以内の使用が推奨されています。 リンゴ黒星病ではDMI剤の多数回使用により防除効果が低下した事例が報告されており、ナシにも同様のリスクがあります。
同一薬剤の連用は絶対に避けてください。
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代表的なDMI剤系の製品例は以下のとおりです。
参考)ナシ黒星病の予防薬の防除効果・残効性・耐性菌発生リスク一覧表
DMI剤を使用する際は、必ず予防剤との混用が原則です。 予防剤との組み合わせで耐性菌リスクを低減しながら、高い防除効果を維持できます。
参考)https://www.nippon-soda.co.jp/nougyo/wp-content/uploads/2023/03/Nogyo4_05-aoki.pdf
参考:ナシ黒星病のDMI剤防除効果・耐性菌対策の詳細一覧はこちら
ナシ黒星病のDMI剤の防除効果・残効性・耐性菌対策 – 果樹栽培ナビ
DMI剤だけに頼らない防除体系の構築が、近年の標準的な考え方です。 QoI剤(ストロビルリン系)・SDHI剤(ボスカリドアニリド系)・予防剤をローテーションすることで、耐性菌の発生リスクを分散できます。pref+1
ローテーションが基本です。
各系統の年間使用目安は明確に決まっています。
上記の制限を超えると、いずれの系統も耐性菌が定着するリスクが高まります。 QoI剤であるアミスター10フロアブルやストロビードライフロアブルは防除価83〜84と高い効果を示す一方、耐性菌リスクは「極高」に分類されています。
使用回数を厳守することが欠かせません。
| 農薬系統 | 主な製品例 | 防除価(目安) | 耐性菌リスク | 年間使用回数目安 |
|---|---|---|---|---|
| DMI剤 | スコア顆粒水和剤 | 90以上 | 中 | 3回以内 |
| QoI剤 | アミスター10フロアブル | 83 | 極高 | 2回以内 |
| SDHI剤 | アフェットフロアブル | 77 | 中〜高 | 2回以内 |
| グアニジン系(予防) | ベルクートフロアブル | 77 | 低 | 制限あり |
| 有機硫黄系(予防) | ジマンダイセン水和剤 | 82 | 低 | 新葉に薬害注意 |
新葉への薬害という見落とされがちなリスクもあります。 ジマンダイセン水和剤やオーソサイド水和剤など有機塩素系・有機硫黄系の薬剤は、新葉が展開中の時期に使うと薬害が出る場合があります。散布タイミングと葉の生育段階の確認が必要です。
防除の効果を最大化する鍵は「いつ散布するか」です。茨城県の試験研究では、りん片脱落直前(4月上旬)・落花期(4月下旬)・果実肥大最盛期前(7月中旬)の3時期が最重要防除時期とされています。
参考)ナシ-黒星病/茨城県
この3時期は絶対に外さないことが条件です。
茨城県の研究によると、DMI剤やDHODH阻害剤はこの重要防除時期に必ず使用するよう推奨されています。 散布タイミングに関してはより詳細な研究もあり、催芽期〜発芽期(3月中旬〜3月下旬)の散布が最も高い防除効果を示すことが複数年の試験で確認されています。 出蕾初期以降では十分な防除効果が得られない年も確認されています。jstage.jst+1
梅雨期のみ農薬を多く散布し、春先の散布を省略するパターンは危険です。
残効性の観点では、DMI剤の多くは最終散布後31日後まで安定した防除効果が持続することが報告されています。 防除価90以上の薬剤では散布14〜31日後まで効果が確認されています。 この残効性を活かして防除暦を設計することで、散布回数を無駄に増やさずに済みます。
参考)https://www.ktpps.org/pdf/journal/50(2003)_body_18.pdf
参考:ナシ黒星病の発生状況と農薬の使い方について詳しく解説している農業試験場資料
ナシ-黒星病(Venturia nashicola) – 茨城県農業総合センター
多くの農家が収穫後の防除を軽視しがちですが、ここが翌年の発病量を左右します。 秋に葉が「秋型病斑(薄墨状)」に侵されると、その落葉が翌春の伝染源となり初期発病を引き起こします。
収穫が終わった後こそ防除が重要です。
秋季防除の目的は「翌年の菌密度を下げること」です。
秋季防除には、茨城県の試験研究でDMI剤に依存しない新防除体系の有効性が示されており、殺菌剤散布と耕種的防除の組み合わせで散布回数を現行暦より30%削減できることが確認されています。 これは農薬コスト削減にも直結する重要な知見です。
参考)https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/enken/seika/kajyu/nashi/documents/s1404.pdf
具体的な秋季防除の手順として押さえておきたいポイントは以下のとおりです。kajyu+1
チオノックフロアブル(チオラム剤)は花粉の発芽率を低下させることで着果率が下がる副作用が確認されています。 人工授粉当日・満開日当日の使用は避ける必要があります。これはあまり広く知られていない落とし穴なので注意してください。
秋のうちに防除と落葉処理を徹底することで、翌年の春散布の回数を実質的に減らせます。
農薬費用の節約と収量安定の両立が可能です。
これが知っていると得する視点です。
参考:DMI剤に依存しない新防除体系の詳細はこちら(茨城県の普及成果)
ナシ黒星病に対する防除体系をアップデート!-DMI剤に依存しない新防除体系及び気候変動に対応した秋季防除-(茨城県)