酸性土壌ではpH調整しても萎凋病が発生します
ケイトウの萎凋病は土壌伝染性の病害で、フザリウム菌(Fusarium属)やピシウム菌(Pythium属)などの糸状菌が病原菌となります。発病初期には植物の一方の側の下葉が日中しおれて夜間に回復する状態を繰り返すのが特徴です。
症状が進行すると、しおれは徐々に上部に広がり、やがて株の全体に及びます。しおれを追うように葉色は黄色に変化し、最終的には株全体が枯死してしまいます。特に高温期に発生しやすく、神奈川県では2019年にケイトウピシウム立枯病として特殊報が発表されるなど、近年注目されている病害です。
被害株の茎を地際部で切断すると、維管束が褐変している様子が確認できます。これは病原菌が根から侵入し、維管束を侵して水分や養分の通路を塞いでしまうためです。この維管束の褐変は萎凋病の典型的な診断ポイントとなります。
根の症状も重要な判断材料です。根が褐変して水浸状に腐敗し、主茎の地際部が黒褐変する様子が観察されます。つまり地下部と地上部の両方に明確な症状が現れるということですね。
発病株を放置すると、枯死した植物体内でも病原菌は生き続けます。そのため土壌中に病原菌が残存し、次作の作物にも伝染する恐れがあるのです。早期発見と適切な処分が被害拡大を防ぐ鍵となります。
ケイトウの萎凋病は酸性土壌で発生しやすいという特徴があります。JA埼玉中央の栽培指針によると、土壌のpHは6.0~6.5の弱酸性を好み、酸性が強いと土壌病害が発生しやすくなるとされています。pH6.0以下の酸性土壌では、病原菌の活動が活発になるためです。
土壌のpH管理は萎凋病予防の基本となります。酸性が強い圃場では、苦土石灰を1a(アール)あたり5~10kg施用してpHを調整する必要があります。ただし、石灰を施用してもすぐに効果が現れるわけではなく、土壌に十分なじませる時間が必要です。
排水不良の圃場でも萎凋病は多発します。過湿状態では病原菌の活動が活発になり、さらに根が酸素不足で弱るため、病原菌の侵入を許しやすくなるのです。特に梅雨期や長雨が続く時期には注意が必要となります。
連作も萎凋病発生の大きな要因です。同じ圃場で毎年ケイトウを栽培すると、土壌中に病原菌が蓄積され、発生リスクが高まります。栽培基準では5年は圃場を空けるように推奨されており、これは病原菌の密度を下げるために必要な期間なのです。
マメ科やナス科植物の栽培跡地でも発生しやすい傾向があります。これらの作物の残渣に病原菌が付着しており、土壌中で長期間生存するためです。つまり輪作計画を立てる際には前作の作物にも注意が必要ということですね。
萎凋病の病原菌は土壌中に長期間生存することができます。フザリウム属菌は厚膜胞子や菌核という休眠器官を形成し、土壌中で10年以上も生き続けることが知られています。このため一度発生した圃場では、適切な対策なしに栽培を続けると被害が繰り返されるのです。
病原菌の主な侵入経路は根の傷口です。定植時や中耕時に根が傷つくと、その部分から病原菌が侵入します。侵入した病原菌は維管束の中で増殖し、道管を塞いで水分の移動を妨げます。結果として地上部がしおれる症状が現れるということですね。
農機具や作業靴による二次感染も見逃せません。発病圃場で使用した農機具や靴には病原菌を含む土壌が付着しており、それが他の圃場に持ち込まれることで感染が拡大します。サツマイモ基腐病などの事例でも、作業機や長靴による病原菌の移動が問題視されています。
水を介した感染もあります。露地栽培では灌水や降雨により、病原菌が水とともに移動して健全株に到達する可能性があるのです。特にピシウム属菌は遊走子という泳ぐ胞子を形成するため、湛水状態では感染が広がりやすくなります。
育苗培土の連続使用も危険です。神奈川県の特殊報では、育苗培土の連続使用を避け、連続使用する場合は土壌消毒を行うよう指導されています。つまり苗の段階から病原菌を持ち込まないことが大切ということですね。
発病株は速やかに抜き取り、必ず圃場の外で焼却処分することが基本です。枯死した植物内でも病原菌は生きており、土壌中に残すと次作への伝染源となります。抜き取った株は圃場内に放置せず、確実に処分しましょう。
土壌消毒は萎凋病防除の最も効果的な方法です。発病した圃場では次作前に必ず土壌消毒を実施します。クロルピクリンやダゾメット微粒剤などの化学的消毒のほか、太陽熱消毒も有効とされています。7月中旬から8月下旬の最も暑い時期に、圃場に水をたっぷり注いだ後、透明フィルムで被覆する方法です。
熱水消毒という方法もあります。農研機構の研究では、95℃の熱水を土壌表面から200L/㎡注入することで、地下30cm地点で50℃以上の土壌温度が8時間持続し、フザリウム菌が死滅することが確認されています。高温に弱い病原菌の性質を利用した防除法ということですね。
抵抗性品種の選択も重要な対策です。JA埼玉中央の栽培指針では、松本系やあずみ系などの萎凋病に強い品種を選ぶことが推奨されています。発病歴のある圃場では、これらの抵抗性品種を優先的に選びましょう。
農機具や靴の消毒も忘れてはなりません。作業後は農機具や靴をしっかり洗浄し、消毒液で処理することで、病原菌の圃場間移動を防ぐことができます。これは低コストで実施できる重要な予防策です。
適切なpH管理は萎凋病予防の基本中の基本です。定植前に土壌診断を実施し、pHが6.0~6.5の範囲になるよう調整します。酸性が強い場合は苦土石灰を施用しますが、施用後は十分に耕起して土壌全体になじませることが大切です。この作業は定植の2~3週間前に行うのが理想的とされています。
排水対策も徹底しましょう。高畝にすることで根域の排水性が改善されます。
畝の高さは15~20cm程度が目安です。
さらに圃場周辺に明渠を設けて、降雨時の水の停滞を防ぐことも効果的な対策となります。
過湿を避けるため、灌水管理にも注意が必要です。ケイトウはやや乾燥した環境を好むため、過度な灌水は避けるべきです。土壌表面が乾いたら灌水する程度で十分で、常に湿った状態は病原菌の活動を助長してしまいます。
定植時の根の扱いにも気を配りましょう。根を傷つけると病原菌の侵入口となるため、定植作業は丁寧に行います。セルトレーで育苗した苗を使用すると、根を傷めずに定植できるため、植え傷みを防ぐことができます。
本葉4~6枚頃が定植適期です。
連作を避けることは最も確実な予防法です。5年程度の輪作期間を設けることで、土壌中の病原菌密度を大幅に減少させることができます。どうしても連作する場合は、必ず土壌消毒を実施し、抵抗性品種を選ぶなど、複数の対策を組み合わせることが重要ですね。
JA埼玉中央「直売向け切花の栽培」
ケイトウやアスターの栽培方法、特に土壌病害対策について詳しい情報が掲載されています。
神奈川県「病害虫発生予察特殊報(第3号)ケイトウピシウム立枯病」
ケイトウの立枯病に関する公式な発生報告と防除対策が記載されています。
YUIME Japan「農作物が萎凋病になってしまった。どう対策すればいいですか?」
萎凋病全般の対策方法について、わかりやすく解説されています。