素手でジラムを扱うと、皮膚が炎症を起こし作業ができなくなります。
ジラムの正式名称は「ジンク=ビス(ジメチルジチオカルバマート)」といい、分子式はC₆H₁₂N₂S₄Znです。 ジチオカーバメート系に分類される殺菌剤で、作用機構は病原菌の解糖系やTCAサイクルに関わるSH酵素を阻害することで菌の増殖を抑えます。 つまり菌のエネルギー代謝を直接ストップさせる仕組みです。
参考)https://www.env.go.jp/content/900544224.pdf
国内での初回登録は1950年で、70年以上にわたって農業現場で使われてきた実績のある薬剤です。 外観は白色固体粉末、無臭で、融点は252〜254℃という安定した性状を持ちます。 こうした物理的な安定性が、長期間にわたって広く使われてきた理由のひとつです。
製剤としては主に「水和剤」が流通しており、500倍希釈で散布するケースが一般的です。 原体の国内生産量は年度によって異なり、平成24年度(農薬年度)は133.3tに達しています。 需要の変動はありますが、一定の市場規模を維持している農薬です。
炭そ病・黒星病・赤星病など複数の糸状菌病害に有効で、他の薬剤との混合によって耐性菌の発生を遅らせる効果も期待されています。
耐性菌対策が重要なのですね。
参考)https://www.prtr.env.go.jp/factsheet/factsheet/pdf/1-328.pdf
参考:ジラムの環境省評価資料(水産動植物への毒性データ含む)
環境省:ジラム 水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準設定資料
ジラムが有効な適用病害は、炭そ病・黒星病・赤星病といった糸状菌が原因の病気が中心です。 適用農作物等は「果樹・樹木・芝」で、野菜や水稲には現在登録がありません。
野菜に使うのはダメということです。
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果樹農家では特にリンゴやナシの黒星病、炭そ病への防除で利用されるケースが多く見られます。 ジラムは複数の病原菌に同時に効果を発揮する「多作用点阻害剤」の特性を持つため、混用剤の成分としても採用されています。 プラウ水和剤(ジラム・チウラム・メパニピリム水和剤)のような混合剤は、異なる作用機構の成分を組み合わせることで、耐性リスクをさらに下げる設計になっています。kumiai-chem+1
使用時期については、作物ごとに「収穫前○日前まで」という制限があります。 これは収穫物への残留農薬量を安全な範囲に抑えるために設定されているもので、「作物残留試験」のデータをもとに算出されています。
使用時期と回数は必ず守ることが原則です。
参考)【第11回】農薬のラベルを見よう!②<使用時期、総使用回数、…
農薬の適用作物・適用病害については、農林水産省の「農薬登録情報提供システム」でリアルタイムに確認できます。 登録内容は変更されることがあるので、古いラベルだけを頼りにするのは危険です。
参考:農薬登録情報提供システム(農林水産省公式)
農林水産省:農薬登録情報提供システム
ジラムの環境への影響で特に注意が必要なのが、水産生物への高い毒性です。 ブルーギルに対する96時間のLC50(半数致死濃度)は9.6μg/L(マイクログラム/リットル)という非常に低い値が報告されています。 1Lの水にわずか0.0096mgで魚の半数が死亡する濃度と考えると、いかに微量でも危険かがわかります。
コイに対する96時間LC50は330μg/Lと比較的高めですが、ブルーギルへの毒性が基準値設定の根拠となっており、登録保留基準値は0.96μg/Lと設定されています。 水産PEC(被害予測濃度)は0.11μg/Lで基準値を下回っていますが、これは適切な散布方法を守ることが前提です。 基準値ギリギリの安全余裕があるわけではないのですね。
水中での光分解半減期は自然水条件で約3時間と比較的速いものの、pH5・25℃の環境では1年以上安定するというデータもあります。 散布環境のpH条件によって残留性が大きく変わる点は意外な事実です。
養殖池・河川・湖沼が近くにある農場では、ドリフト(飛散)防止が特に重要です。 散布方向・風速・ノズルの調整など、物理的な対策を欠かさないようにしてください。 環境への配慮が結果的に農家自身の法的リスク回避にもつながります。
参考)安全使用上の注意
参考:PRTR制度によるジラム(ビスジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)のファクトシート
環境省PRTR:ビス(N,N′-ジメチルジチオカルバミン酸)亜鉛 ファクトシート
ジラムを扱う際は、農薬用マスク・防護メガネ・不浸透性手袋・不浸透性防除衣の着用が必須です。 皮膚感作性があり、かぶれやすい人は散布作業自体を避ける必要があります。
これは健康面での重要な注意点です。
水和剤は貯蔵中に油分が分離することがあるため、使用前には必ず撹拌して均一な状態にしてから所定量の水で希釈します。 希釈操作を省略したり、適切に混合されていない状態で散布すると、薬害や効果不足につながります。
丁寧な事前準備が基本です。
参考)http://www.hodogaya-agrotech.co.jp/products/pdf/forest_003.pdf
ハウス内や噴霧がこもりやすい場所での使用は避けてください。 密閉空間では吸入による体内への取り込みリスクが急激に上がります。 また、ミツバチへの影響もあるため、周辺での養蜂状況を事前に関係機関に確認することも義務として定められています。 蚕へも長期間毒性があるため、近くに桑園がある場合は使用を控えてください。
意外と周辺環境への配慮事項が多いですね。
作業後は器具類を十分に洗浄し、廃液は河川や水路に流さないよう処理します。 保管は農薬保管庫(箱)に入れ施錠することが求められます。 保管管理の徹底が農薬取締法上の義務でもあります。
参考:農薬の安全使用上の注意(クミアイ化学工業)
クミアイ化学工業:農薬の安全使用上の注意
農業従事者が見落としがちなのが「総使用回数」の管理です。 ジラムを有効成分として含む農薬が複数ある場合、それぞれの使用回数を「別々にカウント」していると、気づかないうちに総使用回数を超過します。 超過した場合、収穫物に残留農薬が基準値を超えて残るリスクが生じます。mbc-g+1
たとえば「モノドクターフロアブル」「ジラム水和剤」「プラウ水和剤」など、ジラムを含む製品を同シーズンに複数使う場合、それぞれのラベルに記載された「ジラムを含む農薬の総使用回数」を合計で管理する必要があります。 これが残留農薬基準値違反を防ぐ唯一の確実な方法です。
参考)https://www.mbc-g.co.jp/cms/wp-content/uploads/2022/07/20250313monodoctor_reg_01.pdf
残留農薬基準値を超えた農産物が流通に乗ると、食品衛生法違反として回収対応が生じる場合があります。 農薬取締法・食品衛生法の両方にまたがる問題になることも珍しくありません。
痛い損害になりますね。
参考)【残留農薬基準】検出があった時の判断を解説 - 一般社団法人…
使用回数の記録には、農薬使用日誌の作成が有効です。 「作物名・農薬名・使用日・使用量・使用回数の累計」を毎回記録する習慣が、法的リスクを防ぐ最もシンプルな対策です。
記録が条件です。
農薬ラベルの読み方や使用時期・回数の解説は、以下のサイトが参考になります。
サカタのタネ:農薬のラベルを見よう!②<使用時期、総使用回数の意味>