クミアイ化学工業は、東京都台東区池之端に本社を置く農薬専業の化学メーカーで、東京証券取引所プライム市場に上場している企業です。事業内容は殺虫剤・殺菌剤・除草剤などの農薬の製造・販売が中核で、有機中間体やアミン硬化剤などの化成品も手掛けており、農業と工業の両面で収益源を持つ構成になっています。
同社はJA系の流れを汲む農薬メーカーとして、水稲用初・中期一発処理除草剤で国内シェアNo.1という実績を持ち、省力化製剤「豆つぶ剤」や海外50カ国以上に展開する「アクシーブ」「エフィーダ」などのブランドで世界の食料生産を支えているとされています。農家の立場から見れば、「普段使っている除草剤や殺菌剤の“中身”を作っている会社」であり、自分の営農と株価・業績がかなり直結しているタイプの銘柄だと理解しやすいでしょう。
参考)クミアイ化学工業株式会社
さらに、創立は1949年と歴史が長く、宮城・静岡・兵庫・広島に工場を持つことで国内供給体制を分散している点も特徴です。輸送距離や災害リスク分散の観点から見ても、農薬供給を安定させるインフラの一部を担っている企業と言えます。
業績面では、2010年頃までは売上が伸び悩んでいたものの、畑作用除草剤「アクシーブ」の成功などを背景に2011年以降は売上・利益ともに急成長してきたと分析されています。具体的には、売上高が2010年10月期の約382億円から2024年10月期には約1,610億円と、約4.2倍に拡大しており、長期的には右肩上がりの成長トレンドを描いていることが確認できます。
直近の決算でも、2024年11月〜2025年1月期の連結決算で売上高が前年同期比10%増の433億円、営業利益が36%増の40億円、純利益が61%増の40億円と、大幅な増益を記録しています。この背景として、主力の農薬関連事業での販売伸長に加え、円安による為替差益、海外向け除草剤の好調や国内の水稲用除草剤の販売が堅調であったことが挙げられています。
参考)決算:クミアイ化学の11〜1月、純利益61%増 農薬関連が好…
もっと長い視点で見ると、農薬及び農業関連事業の売上は直近の期で約1,281億円、営業利益約121億円と公表されており、一時的な減益局面を挟みつつも、全体としては高水準の利益を維持していることが分かります。農家の実感として「去年よりも除草剤・殺菌剤の単価が上がった」という局面があった場合、その一部はこうした売上・利益の押し上げ要因として数字に姿を変えていると考えることができます。
参考)クミアイ化学工業【4996】の事業内容 - キタイシホン
投資指標としては、クミアイ化学工業の株価は2025年6月時点でおよそ794円前後で推移しており、会社予想ベースのPERは8〜9倍台、配当利回りは約4.3%と紹介されています。自己資本比率は約53%、ネットキャッシュ比率(NC比率)は約80%とされており、借金に過度に依存しない比較的堅実な財務体質であることがうかがえます。
別の株式情報サイトでも、時価総額は約918億円、発行済株式数は約1億3,318万株、単元株数100株、売買単位あたりの最低投資金額は7万円弱という水準が示されており、中小規模の個人投資家でも手が届きやすい価格帯であることが分かります。農業従事者が「自分が使っている農薬メーカーに少しずつ投資する」という観点でポートフォリオに組み込むには、現実的な単位と言えるでしょう。
参考)クミアイ化学工業 (4996) : 株価/予想・目標株価 […
配当方針の細かい数値はIR資料で都度確認する必要がありますが、実績配当利回り4%台という水準は、国内配当株の中でもやや高めのゾーンに位置します。一方で、農薬は天候・為替・規制などの影響を受けやすい業種でもあるため、「高配当だから安全」というよりは、「一定の景気後退や天候不順にも耐えられる財務体力があるか」という視点で自己資本比率やキャッシュポジションを合わせて確認するのが実務的です。
参考)https://ir.kumiai-chem.co.jp/ja/library/csr/main/0/teaserItems2/0/linkList/0/link/2025_all.pdf
クミアイ化学工業のビジネスの根幹は、世界の農業が必要とする農薬需要に支えられています。会社の採用情報では、「農薬を使わないと米は約3割、リンゴでは約9割も収穫量が減少する」というデータに触れつつ、農薬事業が食料の安定供給を支える役割を担っていると説明しています。水稲用除草剤の国内シェアNo.1や、一度の処理で初・中期をカバーする一発処理除草剤など、省力・低コスト化に直結する製品群は、労働力不足が進む日本の稲作現場にとっても欠かせないインフラになりつつあります。
海外では、大豆・トウモロコシ・小麦・サトウキビなどの畑作分野で、除草剤抵抗性雑草への対策として同社の除草剤が「切り札」として位置づけられており、低薬量で長期間効果を発揮する製品群が世界50カ国以上に展開されています。これは、日本国内の農薬需要が頭打ちになっても、海外での需要拡大によって全社の売上と利益を押し上げるポテンシャルがあることを意味しており、農家の視点で見れば、「世界の畑作の課題」が自分の持っている株価にも影響を与えうる構造になっています。
参考)クミアイ化学工業【4996】のストーリー・沿革 - キタイシ…
スマート農業との関係では、同社の統合報告書で、農業用ドローンやラジコンボートなどのスマート農業技術の普及を前提に、散布しやすい製剤づくりや、環境負荷低減型の製品ラインアップに力を入れていることが示されています。大型農家や農業法人の増加、「みどりの食料システム戦略」による農薬低減の要求といった環境変化を踏まえて、単に“効く薬”から“省力・低環境負荷で使いやすい薬”へのシフトを進めている点は、現場感覚に近い農家ほど評価しやすいポイントでしょう。
参考)ダイアログ 農薬の社会的意義と、未来を考える/サステナビリテ…
近年の動きとして、クミアイ化学工業は農業関連スタートアップとのM&Aにも積極的です。例えば、ITを活用したイチゴ栽培技術や営農支援で知られる株式会社GRAを買収し、自社の農薬・化学技術とGRAの先進的な栽培技術を組み合わせることで、高付加価値作物の安定生産やデータ駆動型の営農モデルの構築を狙っています。これは、農薬メーカーが単なる薬剤供給にとどまらず、「データと設計図をセットで提供する農業プラットフォーム」に近づこうとしている動きとも解釈できます。
一方で、独自視点として押さえておきたいのが、農薬専業メーカーとしての「規制・環境リスク」です。EUを中心に世界的に農薬の登録・更新基準が厳格化しており、特定成分が急に使用制限・使用禁止となると、主力商品の売上が大きく削られる可能性があります。日本国内でも「みどりの食料システム戦略」により、化学農薬の使用量削減目標が掲げられているため、従来型の多使用前提のビジネスモデルは長期的には見直しを迫られます。
こうした環境の中で、クミアイ化学工業はバイオスティミュラント(植物活性材)や、AI・半導体向けの高機能化成品など、非農薬分野の売上比率を高めることでリスク分散を図っています。農家の立場で言うと、「自分が減農薬にシフトしていっても、それを支える資材メーカーとして付き合い続けられるかどうか」が重要な視点になり、この点で同社は農薬から“広い意味での作物生産支援”へ軸足を広げようとしている段階にあると見ておくと現実的です。
農業従事者がクミアイ化学工業の株をウォッチする際に、現場目線で役立つポイントを挙げると、次のような点が重要になります。
こうした観点からクミアイ化学工業 株を眺めると、「単なる高配当の化学株」ではなく、「自分のほ場での農薬選び・作業負担・環境対応と同じ方向を向いているかどうか」を測る“鏡”のような存在になってきます。自分の経営の10年後をイメージしながら、この銘柄をどう位置づけていくか――そんな視点で一度じっくりIR資料を読み込んでみる価値は大きいのではないでしょうか。
クミアイ化学工業の事業内容・トップメッセージや環境戦略、スマート農業との関わりについて詳しく知りたい場合は、同社の公式サイトや統合報告書が参考になります(本記事全体の背景情報として有用)。
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