農業の現場では、トラクターやコンバインなどの農業機械の再塗装や、薬剤タンクの補修、さらには農薬の希釈など、液体の比率計算が必要になる場面が多々あります。特に「硬化剤」を使用する2液型の塗料やFRP樹脂を扱う際、勘や目分量で配合を行うと、硬化不良や強度不足といった取り返しのつかない失敗を招く原因となります。
こうしたリスクを回避するために推奨されるのが、専用の計算サイトやスマートフォンアプリの活用です。これらは、主剤に対する硬化剤の正確な重量を瞬時に算出するだけでなく、希釈シンナーの量や塗装面積に応じた必要量まで割り出してくれるため、材料の無駄を省き、作業品質を均一に保つことができます。本記事では、農業従事者が知っておくべき硬化剤計算のノウハウと、便利なデジタルツールについて深掘りして解説します。
農業機械のメンテナンスで頻繁に行われる「塗装」において、最も頭を悩ませるのが2液型塗料の配合です。2液型塗料は「主剤」と「硬化剤」を特定の比率で混ぜ合わせることで化学反応を起こし、強力な塗膜を形成します。しかし、この比率は塗料の種類によって「10:1」「4:1」「5:1」など様々であり、計算が非常に煩雑です。ここで役立つのが、スマートフォンで手軽に使える計算アプリです。
アプリを使用する前に理解しておかなければならないのが、「重量比」と「容量比」の違いです。多くのプロ用塗料(自動車補修用ウレタン塗料など)は重量比で指定されています。
計算アプリの多くは「重量比」に対応しており、主剤の量(g)を入力するだけで、必要な硬化剤の量(g)を自動計算してくれます。例えば、主剤を300g使う場合、10:1の比率であれば硬化剤は30gですが、4:1の場合は75gとなります。暗算では間違えやすいこれらの数値を、アプリは一瞬で正確に表示します。
現場でスマートフォンを取り出し、アプリに数値を入力するだけで計算が完了するため、作業の手を止める時間が最小限で済みます。
これらのアプリを使用することで、「計算間違いで硬化剤を入れすぎて塗料が瞬時に固まってしまった」あるいは「少なすぎていつまで経っても乾かない」という致命的なミスを防ぐことができます。特に、高価なウレタン塗料を使用する場合、1回のミスが数千円の損失につながるため、アプリによる管理はコスト削減にも直結します。
便利なアプリへのリンク。
塗料の硬化剤計算 - 主剤と硬化剤の比率から各量をかんたん計算できるアプリの詳細はこちら
農業機械の塗装によく使われる「2液型ウレタン塗料」は、耐候性や耐油性に優れていますが、扱いが難しい塗料でもあります。その最大の理由は「可使時間(ポットライフ)」の存在です。主剤と硬化剤を混ぜた瞬間から硬化反応が始まり、一定時間を過ぎるとゲル状に固まって使用できなくなります。計算機を活用した正確な配合は、この可使時間をコントロールするためにも不可欠です。
ウレタン塗料における硬化剤の役割は、単に乾燥させるだけでなく、分子レベルで樹脂を結合(架橋反応)させることです。メーカーが指定する比率(例:10:1)から大きく外れると、以下のような不具合が発生します。
| 硬化剤の量 | 発生する不具合 | 現象の詳細 |
|---|---|---|
| 多すぎる | 脆化(ぜいか)、ひび割れ | 塗膜が硬くなりすぎ、柔軟性が失われて割れやすくなる。乾燥後の縮み(チヂミ)の原因にもなる。 |
| 少なすぎる | 硬化不良、白化 | 表面がいつまでもベタつく、水に濡れると白く濁る、ガソリンがかかると溶けるなどの耐性不足が発生。 |
計算機を使って「主剤100gに対して硬化剤10g」と正確に測ることは、塗膜の性能を100%引き出すための最低条件です。特に農業機械は泥や石、紫外線にさらされる過酷な環境で使用されるため、塗膜強度が不十分だとすぐに錆びてしまいます。
補修塗装では「ちょっとした傷を直したい」というケースも多く、塗料を全量で100g程度しか作らないことがあります。
例えば「50gの塗料を作りたい」場合、10:1の塗料ならどうなるでしょうか?
このように端数が出ます。これを計算機なしで「だいたい45gと5gでいいか」とやってしまうと、誤差の比率が大きくなり、失敗のリスクが高まります。計算機やアプリを使えば、0.1g単位まで正確な数値を把握できるため、少量の配合でも安心して作業を進められます。必ず0.1gまで計量できるデジタルスケールを併用しましょう。
参考になる配合比率表。
各塗料メーカーの標準的な配合比率(5:1, 10:1など)が確認できる一覧表PDF
農業用水のタンク補修や、ビニールハウスの雨樋(FRP製)の修理などで使用されるFRP(繊維強化プラスチック)樹脂。このFRP樹脂の取り扱いは、塗料以上に硬化剤の計算がシビアです。なぜなら、FRP用の硬化剤(通常はパーメックなどの有機過酸化物)の添加量は、気温によって劇的に変化させる必要があるからです。
FRP樹脂の硬化反応は熱を伴う発熱反応です。外気温が高いと反応が急激に進み、低いと反応が鈍くなります。そのため、一定の比率ではなく、その日の気温に合わせて計算し直す必要があります。
この「%計算」が現場では非常に厄介です。「樹脂2kgに対して0.7%」を暗算ですぐに出せる人は少ないでしょう(正解は14g)。ここで役立つのが、FRP専門業者が公開しているWeb上の計算シートです。
FRP素材メーカーや販売店が提供している計算サイトでは、樹脂の量と気温(または季節)を選択するだけで、適正な硬化剤の量を算出してくれます。
特にトマト工業などの専門サイトが提供する計算フォームは、FRP防水やタンク補修を行う農業従事者にとって非常に有用です。樹脂の量だけでなく、施工面積から必要な樹脂量を逆算してくれる機能を持つものもあり、「どのくらいの材料を買えばいいかわからない」という悩みも解決してくれます。
FRPの計算に便利なサイト。
FRP樹脂の使用量と硬化剤の添加量を自動計算できるトマト工業の計算シート
ここまでは「硬化させるための計算」について触れてきましたが、農業現場特有の視点として「希釈の計算」もまた、硬化剤計算と同じくらい重要であり、同じツールで管理すべき項目です。
トラクターや防除機をウレタン塗料で全塗装する場合、塗料(主剤+硬化剤)に対して「希釈シンナー」を40%~60%程度加える必要があります。この希釈率もまた、気温や塗装方法(スプレーガンか刷毛塗りか)によって計算を変えなければなりません。
計算ツールの中には、主剤・硬化剤に加えて「希釈剤(シンナー)」の項目があるものや、任意の%を設定できるものがあります。これらを使えば、「主剤1kg、硬化剤100g、シンナー550g(50%)」といった複雑なレシピも一発で算出可能です。
農業用ローリータンク(黄色やオレンジ色のタンク)の多くはポリエチレン(PE)製です。これらが割れた際、FRPで補修しようとする方が多いですが、通常のFRP樹脂はPEには密着しません。必ずPE専用のプライマーや接着剤を使用する必要があります。
この際も、プライマーが2液型であれば配合計算が必要ですし、FRP補修キットを使う場合も樹脂と硬化剤の計算が必須となります。「タンクの亀裂修理程度だから」と適当に混ぜると、水圧がかかった瞬間に補修箇所が剥離して水漏れが再発します。補修面積が小さくても、0.1g単位で計量し、計算通りの比率で施工することが、農機具を長く使う秘訣です。
また、農薬散布における「希釈計算」もアプリで完結させましょう。「1000倍希釈」「500倍希釈」といった計算は、疲労が蓄積した作業中にはミスが起きやすいものです。「簡単希釈計算機」のようなアプリを入れておけば、塗装の希釈だけでなく、毎日の農作業の安全性向上にも役立ちます。
最後に、あえてアナログな手計算のリスクと、万が一サイトやアプリが使えない場合の計算式の基本について触れておきます。デジタルツールに頼ることは効率的ですが、基本原理を知らずに使うと思わぬ落とし穴にはまることがあります。
現場で電波が入らない、スマホの電池が切れた、といった状況でも作業を止めないために、基本的な計算式は頭に入れておきましょう。
基本の計算式(重量比)
硬化剤の量=比率の数字主剤の量