ジカルボン酸一覧と農業利用の特徴

農業や工業で幅広く活用されるジカルボン酸について、種類ごとの特性や用途を詳しく解説します。生分解性資材や土壌改良への応用も気になりませんか?

ジカルボン酸一覧と種類

📋 この記事で分かること
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ジカルボン酸の基本構造

2つのカルボキシ基を持つ有機化合物の化学的特性と分類

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農業分野での応用

生分解性マルチフィルムや土壌改良における実用例

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環境への配慮

持続可能な農業資材としての生分解性プラスチックの役割

ジカルボン酸の化学構造と基本特性

 

ジカルボン酸は、分子内に2つのカルボキシ基(-COOH)を持つ有機化合物です。分子式はHOOC-R-COOHと表記され、Rの部分はアルカン、アルケン、アルキンなどから誘導される2価の置換基となります。これらの化合物は、ナイロンやポリエチレンテレフタラートのような高分子の共重合に広く使用されています。

ジカルボン酸の水溶解度や解離定数は種類によって異なり、アジピン酸の場合pKa1=4.41、pKa2=5.41という値を示します。水溶性については、アジピン酸が15℃で1.48×10⁴ mg/1000gという溶解度を持ち、比較的水に溶けやすい特性があります。一方、2,3-ピリジンジカルボン酸は0.55g/100mLと水に溶けにくい性質を示します。

 

参考)2,3-ピリジンジカルボン酸

ジカルボン酸の主要な種類と用途一覧

脂肪族ジカルボン酸には、炭素数によって多様な種類が存在します。代表的なものとして、シュウ酸(エタン二酸)、マロン酸(プロパン二酸)、コハク酸(ブタン二酸)、グルタル酸(ペンタン二酸)、アジピン酸(ヘキサン二酸)、ピメリン酸(ヘプタン二酸)、スベリン酸(オクタン二酸)、アゼライン酸(ノナン二酸)、セバシン酸(デカン二酸)があります。

ジカルボン酸の詳しい化学構造と物性値についてはこちらの参考資料をご覧ください
コハク酸はクエン酸回路を構成する重要な化合物のひとつで、コハク酸デヒドロゲナーゼによって酸化されフマル酸となります。この反応で使われる補酵素はFADです。芳香族系では、フタル酸(ベンゼン-1,2-ジカルボン酸)、イソフタル酸(ベンゼン-1,3-ジカルボン酸)、テレフタル酸(ベンゼン-1,4-ジカルボン酸)が工業的に重要な役割を果たしています。

 

参考)コハク酸 - Wikipedia

ジカルボン酸を活用した生分解性農業資材

現在、農業分野で注目されている生分解性マルチフィルムには、グリコールとジカルボン酸のポリエステルが主要な原料として使用されています。具体的には、ポリブチレンサクシネート(PBS)やポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)といった樹脂が配合されており、これらは微生物によって水と二酸化炭素まで完全に分解される特性を持っています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/58/8/58_580810/_pdf

野菜生産における生分解性プラスチック製農業資材の詳しい利用方法はこちら
芳香族脂肪族ポリエステル系樹脂としては、アジピン酸およびテレフタル酸からなるジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジオールからなるジオール成分との重縮合物が好ましいとされています。また、コハク酸からなるジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールの重縮合物も脂肪族ポリエステル系樹脂として有効です。その他、セバシン酸やイタコン酸などの脂肪族ジカルボン酸も農業用マルチフィルムの原料として利用されています。

 

参考)https://patents.google.com/patent/JP4318551B2/ja

これらの生分解性資材は、使用後に畑にすき込むことができるため、従来の石油系プラスチックフィルムのように回収・処理する手間が不要となり、農作業の省力化に大きく貢献しています。

 

参考)生分解性プラスチック入門 – 一般社団法人日本バイオプラスチ…

ジカルボン酸と土壌改良・植物生育への影響

土壌中におけるジカルボン酸の役割は、腐植酸の構成成分としても重要です。腐植酸の中には1,2-ジカルボン酸構造が含まれており、土壌の有機成分として機能しています。また、低リン条件下で植物が分泌する有機酸には、リンゴ酸やシュウ酸といったジカルボン酸が含まれ、これらはキレート能を持ち土壌中のリン酸を可溶化する働きがあります。

 

参考)2-15 腐植酸の中の1,2-ジカルボン酸構造(2.土壌有機…

腐植酸中のジカルボン酸構造に関する研究報告はこちら
植物の光合成においても、C4植物はC4ジカルボン酸回路を利用してCO₂の初期固定を行います。C4植物の葉肉細胞では、CO₂がまずホスホエノールピルビン酸に取り込まれてC4ジカルボン酸(リンゴ酸やアスパラギン酸)が生成され、これが維管束鞘細胞に輸送されて脱炭酸されます。この独特な代謝経路により、C4植物は高い光合成効率を実現しています。

 

参考)車山高原レア・メモリーが語る『C3・CA・CAM植物』

堆肥施用に関連して、未熟な有機物を投入すると芳香族カルボン酸やフェノールカルボン酸といった生育阻害性物質が生成される可能性があります。そのため、適切に発酵処理された堆肥を使用することが重要です。有機質肥料では、発酵処理によりリン酸やカルシウムの吸収性を高めた製品も開発されており、有機酸カルシウムとしてキレート化されたものは吸収性が良く肥効が長く続く特徴があります。

 

参考)研究成果 ジャンル別(土壌肥料)

ジカルボン酸由来バイオマテリアルの最新動向

近年、持続可能な農業を目指して、植物由来原料を含有する土壌生分解性製品への素材転換が進んでいます。未利用バイオマス資源のリグニンから、プラットフォームケミカルとなる2-ピロン4,6-ジカルボン酸(PDC)を生産する技術が開発されており、これは廃プラスチック処理時に発生するCO₂排出抑制に寄与します。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/index-24.pdf

生分解性プラスチックの入門知識と農業・土木資材への応用についてはこちら
日本触媒と理研の共同研究では、ポリエステル骨格に長鎖ジカルボン酸ユニットを導入したポリマーが海洋で容易に生分解される特性を持つことが確認されています。このような新規海洋生分解性プラスチックは、包装材料だけでなく農業資材への応用も期待されています。

 

参考)NEDO事業で新規海洋生分解性プラスチックを開発~包装・農業…

生分解性素材としてポリ乳酸とレーヨンを混綿した不織布も開発されており、育苗用途など各種農業場面に適合させるための研究が進められています。PHA系バイオプラスチックは他の生分解性プラスチックよりも高い生分解性を有する特徴があり、今後の利用用途拡大が見込まれています。

 

参考)https://www.jora.jp/wp-content/uploads/2022/04/pla2021_pamphlet_P6-18.pdf

表にまとめると、主要なジカルボン酸の特徴は以下の通りです。

 

ジカルボン酸名 IUPAC名 炭素数 主な用途
シュウ酸 エタン二酸 C2 漂白剤、金属洗浄
コハク酸 ブタン二酸 C4 生分解性樹脂原料、食品添加物
アジピン酸 ヘキサン二酸 C6 ナイロン66原料、生分解性樹脂
セバシン酸 デカン二酸 C10 潤滑油、可塑剤、農業用フィルム

🌱 有機栽培における堆肥利用では、発酵過程で生成される有機酸類の影響を理解することが重要です。適切に腐熟させた堆肥は、土壌の化学性・物理性・生物性を改善し地力向上に貢献します。

 

参考)http://www.pref.kagoshima.jp/ag05/documents/81177_20200508092002-1.pdf

♻️ 生分解性プラスチック製の農業資材は、使用後に畑にすき込むだけで微生物によって自然分解されるため、廃棄物削減と作業効率化の両面でメリットがあります。特にマルチフィルムや燻蒸フィルム、獣害対策忌避ネットなどの用途で実用化が進んでいます。

 

参考)https://www.env.go.jp/content/000166043.pdf

🔬 ジカルボン酸を含む有機酸は、植物の根から分泌されることで土壌中の難溶性リン酸を可溶化し、リン酸の吸収効率を高める働きがあります。これは特にリン酸欠乏土壌における植物の適応戦略として注目されています。

 

参考)低リン条件で房状の根を形成する植物の機能と分布

 

 


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