グリコールとはとエチレングリコール毒性

農業の現場で「グリコール」と聞いたとき、エチレングリコールやプロピレングリコールは何が違い、どこに注意して扱えばよいのでしょうか?

グリコールとは

グリコールとは:農業従事者が先に押さえる要点
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「グリコール」は一種ではない

現場で遭遇するのは主にエチレングリコール(EG)とプロピレングリコール(PG)で、用途・毒性・管理が別物です。

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EGはSDS前提で取り扱う

皮膚刺激、強い眼刺激、吸入有害、腎臓など臓器への影響が示され、保護具・換気・廃棄まで手順が重要です。

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農業では「周辺影響」も設計する

薬剤そのものではなくても、液の飛散・漏えい・洗浄排水が周辺や水系に入るとトラブルになりやすいので、作業動線と回収がカギです。

グリコールとは:エチレングリコールと用途

 

農業の周辺領域で「グリコール」と言うと、最も遭遇頻度が高いのは不凍液や熱媒体の主成分としてのエチレングリコール(Ethylene glycol)です。
エチレングリコールは、ポリエステル繊維原料のほか、不凍液、溶剤、耐寒潤滑油、有機合成など幅広い用途が挙げられています。
農業従事者にとっての重要点は「農薬の有効成分」ではなく、施設や機械の周辺で使われる“作業資材の化学物質”として出会う点で、取り扱いの基本はSDS(安全データシート)の指示に従うことです。
また、エチレングリコールは水とよく混ざり、冷却系の循環液に用いると凍結温度を下げられる(凝固点降下)ため、不凍用途に使われます。

 

参考)用語集 - 流体物性、材料、物理量

例えば、エチレングリコール水溶液は濃度60%で凝固点が約−40℃以下という目安が示される一方、低温で粘度が上がるため流動性の観点から実用下限温度の考え方も必要だと説明されています。

ここが意外な落とし穴で、単純に「濃ければ安心」ではなく、ポンプ負荷や配管抵抗、循環不良(結果として凍結や破損)を招く場合があるため、設備側の設計条件とセットで判断したほうが安全です。

グリコールとは:毒性と安全データシート

エチレングリコールは、GHS分類で皮膚刺激(区分2)、眼刺激(区分2B)、吸入(粉じん・ミスト)で有害(区分4)などが示され、注意喚起語は「危険」とされています。
また、単回ばく露の特定標的臓器毒性として中枢神経系・血液系・腎臓が挙げられており、作業者の体調影響が“起き得る前提”で管理する必要があります。
SDS上の注意書きには、粉じん/ミスト/蒸気などの吸入回避、保護手袋・保護眼鏡の着用、屋外または換気のよい場所での使用、環境への放出回避などが具体的に書かれています。
「なぜ腎臓が問題になるのか」を理解すると、現場の注意が長続きします。

 

参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/107-21-1.html

エチレングリコールはヒトで経口摂取後の毒性影響が段階的に進むことが説明され、最終的に腎毒性(シュウ酸カルシウム沈着、血尿、急性尿細管壊死、腎不全など)が起こり得るとまとめられています。

実際に医療系の文献でも、エチレングリコールがアルコール脱水素酵素で代謝され代謝性アシドーシスを引き起こすこと、代謝産物としてシュウ酸カルシウム結晶が生じ腎臓に沈着し得ることが述べられています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/25/3/25_598/_pdf/-char/ja

農業現場の実務としては、「口に入れない」は当然として、冬場の屋内作業でミストを吸い込む、手袋なしで付着させる、目をこする、こぼした液を水で流して終わらせる、といった“うっかり”を潰す設計が有効です。

具体策は、次のように手順化するとブレにくいです。

・🧤 PPE:ニトリル手袋+保護眼鏡を基本セットにする(近くに予備も置く)。

・🌀 換気:屋内で扱う場合は局所排気や換気を優先し、ミストが出る作業(加温・攪拌・噴霧)を避ける。

・🧼 洗浄:皮膚付着は多量の水と石けんで洗う、眼は数分間洗い続けるなど、SDSの応急措置を掲示しておく。

・🗑️ 廃棄:内容物/容器は自治体基準や許可業者に依頼するなど、排水に流さない方針を決める。

グリコールとは:プロピレングリコール違い

「グリコール=全部危ない」と思いがちですが、実務上はエチレングリコール(EG)とプロピレングリコール(PG)を分けて考えるのが合理的です。
グリコール系から派生した化学物質として「グリコールエーテル」が解説される中で、代表例としてEGとPGの毒性差が触れられ、一般にEGの毒性が高いこと、PGは化粧品や食品向けの保湿剤として利用されることが述べられています。
同じ記事内の比較表でも、急性毒性(経口)や皮膚刺激性、眼刺激性、水生環境有害性(短期)でEGのほうが厳しい区分になっていることが示されています。
農業設備の不凍・熱媒体という観点では、EGとPGはいずれも不凍液成分として使われ得ます。

 

参考)冷却塔の不凍液とは?冷却塔の凍結防止と不凍液の役割について解…

一方で、食品関係の用途に対応するために「毒性のあるエチレングリコールではなくプロピレングリコールを使用した安全性の高い媒体」とする説明もあり、暴露リスクが問題になる用途ではPGが選ばれやすい文脈があります。

 

参考)チラーの循環液とは?主な種類と選び方、冷却水など似ている用語…

農業でも、収穫物や選果場の近く、飲用・手洗い設備と近い場所、学校・住宅地に隣接した施設など、人や動物への誤接触リスクが上がる条件では、代替可能なら「PG側へ寄せる」発想が事故予防になります。

ただし注意点として、PGであっても化学物質であることに変わりはなく、濃度や用途、混合物(添加剤、腐食防止剤など)によって危険性が変わるため、結局は製品ごとのSDS確認が最短ルートです。

現場のラベルで「不凍液」「クーラント」とだけ書かれている場合、成分(EGかPGか)が明記されていないこともあるため、容器のSDS番号やメーカー資料まで辿れる運用を作っておくと強いです。

グリコールとは:農業の廃液と水生生物

農業の化学物質事故は「人の健康」だけでなく、「排水・用水路・ため池」へつながると一気に大ごとになります。
エチレングリコールのGHS分類では水生環境有害性(急性)が区分3とされ、水生生物に有害と記載されています。
さらにSDSの注意書きでも「環境への放出を避けること」「河川等に排出され、環境へ影響を起こさないように注意する」などが明記されています。
ここで“意外に見落としやすい”のが、こぼした不凍液を水で流して片づける行為です。

水で薄めれば安全、ではなく、「環境へ放出してはならない」というルールが先に来るため、吸収材で回収し密閉容器へ入れる、といった封じ込めが基本動作になります。

少量の場合の回収方法としても、乾燥土・砂など不燃材料で吸収し、密閉できる空容器に回収することが示されているので、作業車や倉庫に“吸収材+密閉容器”を常備すると対応が速くなります。

農場は敷地が広く、排水経路が複雑で、気づかないうちに側溝→水路へつながることが珍しくありません。

冬季の設備点検時(凍結防止の循環液、チラー、配管)に漏えいチェックを「見た目」だけで済ませず、下に白い受け皿を置いて数日観察する、継手に紙ウエスを巻いて滲みを検出する、など低コストの工夫で事故確率を下げられます。

また、廃棄は許可業者への依頼など法規・自治体基準に従うことがSDS上で求められているため、年1回でも「廃液が出たときの連絡先・手順」を紙で残しておくと属人化を防げます。

グリコールとは:独自視点の冬期ハウス管理

検索上位の「定義・用途・毒性」だけでは、農業従事者の実務に刺さりにくいので、冬期ハウスの“あるある”を前提に、グリコール管理を作業設計へ落とし込みます。
特にハウス内は、加温機器・循環ポンプ・配管・結露水・足元の泥が同居し、液体の「にじみ」が発見しづらい環境になりがちです。
そこで、グリコールを扱う設備の周辺だけでも、点検の頻度・見る場所・記録方法を固定すると、経験年数に依存しない安全文化が作れます。
おすすめの“簡易チェックリスト”は次の通りです。

・🕒 点検タイミング:寒波前、寒波後、補水・補充後に必ず1回。

・🔍 点検ポイント:継手、ポンプ下、配管の低い位置(滞留しやすい)、タンクの液面計周り。

・🧾 記録:日付・担当・異常なし/あり・写真(スマホ)を残し、異常時はSDSの応急措置と廃棄手順へ分岐。

・🧯 その場対応:漏れは「止める→囲う→吸収→密閉回収」を優先し、流して処理しない。

さらに、見落とされがちですが「甘みがある」といった性状は誤飲事故リスクに直結します。

 

参考)エチレングリコールとは?用途や関連法令、有害性などを解説

エチレングリコールは甘みがあるが、体内で代謝されると有害な代謝産物になり得るという説明があり、家庭動物や野良猫がいる環境では“置きっぱなしをしない”運用が重要になります。

ハウスの外に一時置きしたポリタンク、ドレンを受けたバケツ、ウエスに染みた廃液などが事故の起点になりやすいので、保管は施錠や密閉といったSDSの方針に寄せるのが安全です。

以下は権威性のある日本語の参考リンクです(危険有害性分類、取り扱い、応急措置、廃棄までSDSの要点が網羅されています)。

 

厚生労働省 職場のあんぜんサイト:エチレングリコール(GHS分類・注意書き・応急措置)

 

 


業務用エチレングリコール4L